エドワード・エルリック准将19歳。 彼はつい先日その地位に昇格した、史上最年少の将軍閣下である。 正式な軍人となって早3年。ちなみに軍部に足を突っ込んでからを考えると、すでに7年も経っていた。 バレンタインデー彼は12歳の時に国家錬金術師という地位につくと同時に、年齢に相応しくない少佐相当の権限という物を与えられた。 しかもその後戦果で功績を立て、3年で異例の三階級昇進してしまったという、エリート中のエリートなのだ。 国民に賢者とまで呼ばれ親しまれている彼は、しかし噂ほど厳格な人間ではない。 未成年だが酒は飲むし、無意識に女の子を誑かしちゃったりしている。 もっと言うと、女の子どころがおっさん連中までからラブコールを受けているが、それはまぁ本人の名誉の為に黙っておいてやろう。 そんなモテモテな彼は、残念なことにバレンタインデーが好きではない。 いや、確かに去年まではかなり好きな方だった。手作りのお菓子や、普段自分では買わないような高級なお菓子を寄付されるのは、なんとも嬉しい事なのだ。 表面上は渋っていたが、実際は甘いもの好きの彼は毎年その日になるとホクホクした顔で出勤し、公務の途中で朝貰ったお菓子を間食する。 しかし貰うのは大抵一日でしかも一人で食べきれる量ではないので、家に帰って息子と一緒に食べるのも、また楽しくて好きだった。 ちなみに彼の同居人は甘いものが嫌いなので、貰った大量のお菓子は孤児院に寄付している。 何だかお菓子をくれた人に失礼とも言える行動だが、同居人曰く「彼女達はちゃんとわかっている上で私に渡しているのだよ」との事。 しかもちゃんとホワイトデーにはお返しをしているので、同意ならまぁいいか、とエドもカイルもそれについて口出しするような事はない。 話が脱線したが、それなのにエドワードは去年の一件以来バレンタインデーという物が怖くなってしまった。 ・・・・いや、むしろ怖いのはホワイトデーなのか・・・・。 去年、上司のせいでホワイトデーにお返しが買えなかった彼は、お菓子の代わりに己の体を差し出した。 ・・・・・・・・・言い方はとっても悪い上紛らわしいが、紛れも無い事実である。 詳しく言うならば、ホークアイ女史の口車にまんまと乗せられてしまい、自分の写真を好きなだけ取らせる許可を与えたという所か。 しかし一日中大勢の妙齢な女性達に観察されている挙句、一々行動を指示され、彼の精神は磨耗せずにいられなかった。 言い方は大げさではあるが、とにかく女性達の迫力に逆らえずに要望のまま応えら結果、心身ともに疲れ果ててしまったのだ。 なんと最後には自分の特殊能力を使って逃亡してしまうほどだった。 それほど彼女達は恐ろしかったのである。 だからこそ今年は、ちゃんとお返しを前もって買っておこうと心に決めていた。 しかし気づいてしまったのだ。今年も彼にバレンタインのお菓子を上げようとしている女性達の思惑に・・・。 どうやら去年のアレに味をしめてしまったのか、今年はあの手この手を使ってエドを去年と同じ状態に追い込もうと画策しているらしい。 集団と化した女性達ほど恐ろしいものは無い。だからこそエドは、甘美なお菓子の誘惑を断ち切って、早々に切り札を取り出したのだ。 それは、最高権力者によって守られた命令という名のジョーカー。 都合のいいことに、凶悪なテロリスト集団殲滅のため、ノースシティからセントラルに応援要請がきていた。 しかしセントラルにもテロリスト集団潜伏中との報があるため、そちらに人員を裂く訳にもいかない。 よって上層部は「アメストリスの双璧」とまであだ名されたニ強の二人を使うことを決意した。 念のためロイをセントラルに残し、エドがノースへ向かうように命令をだしたのだ。 ・・・・・・というか、出させたのだ。 エドの一計は成功した。 向かった先は女性の極端に少ない戦地。男の癖にチョコを渡してきた野郎はぶっ飛ばしておいたから大丈夫。 バレンタインデーを挟んでそこに3日滞在したエドは、見事その日を乗り切ったのである。 ・・・・・・・・かのように見えたが、女性達はとっても強かだった。 バレンタインデーが過ぎていようが気にしない。彼女達はちゃんとエドにお菓子を渡すことに成功した。 エドの実力上、3日以上ノースに滞在することが出来なかったのが敗因となった。 いや、しかし本当は1日で終わるところを3日に延ばしただけでも褒めてもらいたい。 だがやはり最低でも一ヶ月は離れていない限り、彼女達の執念は燃(萌)え尽きなかったのである。 憐れ、エドワード・エルリック。 負けるな、エドワード・エルリック。 どうせ今年も来年も、そのまた次も同じ運命が待っている。 その上残念ながら老いることも無いから、君は永遠に軍部のアイドルのままだ。 同情はするが、見ている分には楽しい。精々あがいて見たまえ。 「っざけんなロイ! 人事みたいに解説してないでちょっと助けろよ!!」 「はっはっはっは、言っただろう。見ている分には楽しいのだ。私の楽しみを邪魔する気か?」 今日も今日とて、お菓子屋さんがとっくに閉店した時間に帰された彼は、深夜同居人相手に怒鳴り散らしているのだった。 (あとがき) 「ホワイトデー」の続きのようなもの。去年約束していたので、とりあえず書いてみました。 こうして彼は総受けな人生をまっとうしていくのでありました・・・・。(ホロリそしてニヤリ) |
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