『信じられねぇ・・・・・』
「あぁ?」
『柄わりぃし』
「お前だって人の事言えねぇよ!! そんなこといい! とっととアルの身体返せ!!」
『・・・・・その上態度でかいしよぉ』
真っ白な空間。世にセフィロトの門と呼ばれる物を孕むそこで、“彼”は金色の子どもと対峙していた。
子どもと会うのはいったい何度目のだろうか。一度や二度なんかじゃない。
三度? いや、四、五、六・・・・・・・・・・?
『俺は、お前の何千倍もの時間存在してたけどよ』
「・・・・・・・あ?」
今までなかった経験。“彼”がその存在を持ってから初めて、本当に初めて混乱していた。
原因は目の前の子どもだ。普通の人間は全く縁の無い空間、普通の錬金術師ならば来る事は出来るが、帰れる可能性は限りなくゼロに近い空間。
例え運良く生きて戻れたとしても、普通は一度で懲りる。二度来る奴なんて一世紀に一人いるかいないか・・・・ここは本来、そんな空間のはずだった。
なのに目の前にいる子どもは。
『六度・・・・? 信じられねぇ、ホント馬鹿だ・・・・。』
一度目は母親の練成、二度目は弟の魂の練成、三度目はグラトニーという人造人間の腹から出る方法、自分自身の練成。四度目はリンという少年と賢者の石の分離、五度目は人の命を使わない賢者の石の練成。そしてこの六度目。
『阿呆だ・・・・・、ありえないほどの阿呆だ・・・・・』
おそらくこの錬金術という物ができてから考えても、六度もこの空間に足を踏み入れた馬鹿などいないだろう。
それゆえ“彼”は混乱の極みにいた。四、五度目の時の十分驚きつつ子どもに脅威を感じていたが、よもや六度目。この調子なら自分の手足の練成の為に七度目も必ずやあるだろう。
「・・・・・・・・さっきから聞いてれば阿呆だ馬鹿だ
チビ
だ五月蝿ぇんだよ!!! 何なんだよいったい!!?」
「いや、チビは言ってない。」
「どわぁれがミジンコが見れる倍率で見ても見れないマイクロドチビだってぇぇえええ!!???」
ありえない。なんだこの理不尽な対応は。
今までこの空間に来た者は、必ず“彼”を恐れ、または挑むように見上げていた。そのときも必ずやその瞳に恐れや緊張が入り混じっていた物だ。
確か子どもも当初はそうだった。けれどおそらく子どもはこの空間と“彼”の存在に慣れてしまったのだろう。
恐れなんてすでに無いに等しいし、構えることも緊張するこもない。むしろなんだかこちらが理不尽に思えてくるような事まで言ってくる。
ここは決して漫才をできるような場所ではない。何なんだこの子どもの図太さと一種の才能は。
ぐるぐる考えていると、不意に子どもが目の前に立っていたことに気付いた。
『・・・・・・・・お前・・・、何だ?』
恐れすら、抱いてしまう。子どもはただの錬金術師で、人間で、子どものはずなのに。そんなちっぽけな存在が、何故か恐ろしい。
「あぁ? 俺はエドワード・エルリック。それ以上でもそれ以下でもねぇ!!」
自信たっぷりに啖呵切る子どもは、何故か輝いているように見える。色彩的な問題ではない、それは、見る者の目を焼かんとするばかりの、強すぎる魂の輝き。
(なんてモンに手をだしちまったんだ俺は・・・・・。)
人間に恐れられるべき存在が、恐れる人間。そんなもの、有っていいはずが無い。けれど“彼”は、子どもを消す方法を持っていなかった。
しかし、そうならばいっそ。
『・・・・・・・・弟の身体は返してやる』
「あぁ、当然だ!」
『だが当然、その代価は貰うぞ』
その言葉に、目を瞠る金色。何故、とその唇が呟いた気がした。
『二回目以降とは違う。すでに無くなった物から肉体を生み出すんだ、賢者の石だけでは代価にならない。』
屁理屈だった。けれどここでは、“彼”が法律。なんだってまかり通る。
『お前を、お前の時間をくれ。』
消せないのなら、いっそ。
存在を縛ってしまえ。
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