「青き清浄なる世界のために!!」
「死ねぇ!コーディネイターめ!!」

その怒号を聞いた瞬間、紫の瞳をもつ美しい青年の腕に、小さな痛みが走った。



背中合わせ





 シンは、ミネルバから降りてひとり街を探索していた。
そしてそこで、奇妙な青年に会った。

大きな紫の瞳にさらさらの茶色い髪をもつ、たいそう美しい青年だった。

 ただすれ違っただけならばシンだって気にしない。目に留めたとしても「ああ、綺麗な人だな」と思った数秒後にはすっぱり忘れているはずだ。

 だが青年は、人気の無い路地裏にうずくまり、うめき声を殺しながら何か黙々と作業をしていた。

 その様子があまりに不自然すぎて、シンはしばらくぼぉっと青年を見ていた。

するとその視線に気付いたのか、青年はちらりとシンの方を見て、それから何事も無かったように作業を続けたが、ようやくそこでシンは青年が何をやっているのかに気付がいた。

そして慌てたように、引きつった声を出す。

「おいっ!あ、あんた、何やってんだよ・・・!?」

シンは顔をゆがめてそう言いながら青年の方へ近づき、尚も作業をしつづける青年の腕をとり、作業を強制的に止めさせた。
 その拍子に青年の手から何かが音を立てて落ちる。

青年の手から落ちたもの・・・それは小型のナイフだった。

先程から青年は、自らの腕にそれを深々と突き刺し、なおかつそのまま探るように動かすという、一種発狂しているのかと疑いたくなる行動をとっていたのだ。

 シンは青年の腕から流れ出る血の多さに顔を青くし、彼・・・キラを詰問した。

「あ、あんた・・・なんでこんな・・・」
詰問と言うより、質問、または狼狽しているような響きだった。

キラは苦笑し、シンをしっかり見て言った。

「驚かせてごめんね。でも、これを取り出さなきゃ・・・!」

そう言うやいなや、キラは自分でつけた腕の穴に指を刺しこみ、何かをすっと取り出した。

そして血でぬれたそれを確かめるように見て、彼はホッと息を吐いた。

「よかった。綺麗にとれた・・・」

キラの一部始終の動作を言葉をなくして呆然と見ていたシンは、彼の言葉にはっとした。

「あんた、それどうしたんだよ・・・!?」

 キラが腕から取り出したものは、針のようなものの先端に沢山の刺のようなものと、光る1ミリ四方の機器が取り付いている物体だった。

 シンはかつて、それと同じ形をしたものを一度だけ見た事がある。
確か、アカデミーの最後の授業の時、医務科の教諭に教えてもらったのだ。
前置きは、

「これは人間の使うものじゃない。」だった。

だからと言って動物が使うものでもない。「人的道徳として、使って良いものではない」と言う意味の言葉だった。

そして、そのとき教諭はこの針のような物体について、こう言っていた。

「こいつは、主に連合・・・いや、ブルーコスモスが使うもんだ。一度これが肉体に刺さったらこの先端の複数の突起のせいで二度と抜けなくなる。元から小さいからな、気付かない奴は見つけるのも大変だ。
 そして、この小さい機器だが・・・こいつが食わせもんでな、こんなかに入っているデータが、これを差し込まれた人物の体を侵食していく・・・神経性の毒のデータが入っていれば心臓麻痺を起こさせるし、弛緩剤のデータが入っていたら体を動かせなくなるようにする。もちろん、猛毒のデータが入っていることもある。その使い道は多種多様だが、使う人間はほとんどいない。刺が細かすぎて完全にとるのは不可能とされているし、自動的に肉をえぐって奥深くに進入しようとするからな、あまり気持ちのいいもんじゃないんだ。だから使いたがらない・・・コーディネイターを人とも思っていないブルーコスモスの連中を除いて、な。」

そう言う教諭の顔は常になく険しかった。それほど、嫌なものなのだったのだろう。

 シンが回想に浸っている間、キラはその針のようなものを手頃な石でこなごなに砕いた。
 そして、言う。

「ごめんね、驚かせちゃって。でもあれ、ほっといたらどうなるかわかんなかったし・・・」
どんどん食い込んできてたしね。そう言って苦笑いする彼の顔には、脂汗がにじみ血の気も無かったが、眼は正気な、しっかりと意思のあるものだった。
 シンは青年のその様子に安堵して、その場に座り込んだ。そして訊く。

「どこか、体に変調はありますか」

するとすぐに青年の声が返ってきた。

「うん。なんか手足が痺れてる。」

シンはそれを聞いて眉をしかめ、それから青年の腕の傷と出血量を見て、決意した。

「俺、ザフトのシン・アスカっていいます。近くに俺の搭乗艦があるんで、そちらで治療を受けてください。」

 彼がブルーコスモスから狙われていたとするのなら、彼は同胞であり、保護すべき存在である。ならば艦長も許可を出すだろう、そうシンは判断し、キラを誘ったが、キラは困ったように笑いながら否定した。
 それからゆっくりと立ち上がり、シンに向けて告げる。その様子は、先ほどまでの穏やかな雰囲気を消し去って、凛とした戦士の顔をしていた。
 シンはそれに見とれると同時に、キラの放った言葉に驚いた。

「ここに長くいすぎたみたいだ。ここら一帯、囲まれてる。僕が注意をひくから、その隙に君は・・・」

 確かに、注意深く耳をすませば、複数の男の者と思われる足音が輪状に広がり、どんどんこちらに近づいてきている事に気付く。
 しかしみなまで言わせず、シンはキラの言葉を遮った。

「んなことできるか!俺が行く。軍人だって言ったろ?絶対あんたを守り抜いてみせるから!!」

シンはそう言って後先考えず路地裏を飛び出した。

キラはシンのその様子に舌打ちをし、思うように動かない手足を動かし、シンのフォローに行く準備をした。

 さすが自称軍人というのか、シンはバランスよく立ち回り、シンの姿に銃を向けた男達をなぎ倒していっていた。
 だが甘い。まだ実践に慣れていないのだろう、シンは状況判断力に欠けていた。彼の後ろからも何人もの男達が出てきて、シンはあっという間に囲まれてしまったのだ。

キラはそれを冷静に解析し、シンに遅れて路地裏を出、一直線に一番ガタイのいい男にちかづいて足払いをかけ、即座にみぞおちをついて気絶させた。
 それだけで包囲網は崩れ、キラはすぐにシンの背後へたどりつく事が出来た。

シンはキラの気配を敵と間違え後ろを見ないままキラに向けてこぶしを繰り出した。
が、キラはそれをたやすく受け止める。まさか止められるとは思っていなかったのか、シンは驚いた顔で振り返り、受け止めたのがキラだと知り、更に驚き、呆然と言った。

「あ、あんた手足が痺れてんじゃ・・・それにその怪我でどうやって俺の・・・」
俺の、なんなのかシンが最後まで言う事は無かった。

キラが動いたからだ。

 シンが後ろを振り向いたことで、またシンの背は隙だらけになってしまった。
キラはそれに苦笑し、シンの肩に手を置きそれを軸に宙で一回転し、シンの隙を突こうと突進してきた男に地面に落ちる前にかかと落としを決め、昏倒させた。

 その一瞬の出来事に頭がついてこず、シンは呆然と立ち尽くしていた。

 そしてキラはそのままの体勢で、今度はシンが振り向かないように背中同士をつけて話し掛ける。

「自分のことだけに集中して。ここを拠点に、君の前方の奴らは頼むよ。僕はこっちをやるから。」

そう言ってキラは視線だけを彼自身の前方へ向けた。

囲まれたとき、背中を合わせての戦闘ほど有利なものは無い。
 そうする事によって、死角がなくなるから。

シンも漸くその考えにいたって、キラの動きのすごさに彼の腕の傷のことも忘れて一も二も無く頷いた。そしてそれが開始の合図だったかのように、両者同時に動き出す。



数分後、見事に路地に伸びた男達以外は、大量の出血の後しかその場には残っていなかった。



(あとがき)
この話はここで終わりです。
え?微妙だって?
いいんです、これで。だってこのまま続けちゃうと確実に長編
行きになっちゃいますから。
 だから勘弁してください。後も思いつきませんし・・・。



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