その日、俺は初めてあの人の「闇」を見た。







「シン君、そこ。間違ってるよ。」

シンがインパルスのOSを開き、調整をしていると、頭上から声をかけられた。

目の前には指が。
 指は、OSの「ある場所」を指していた。
シンもそこに目をやり、数秒考えてから呆然と「ほんとだ・・・」とつぶやいた。

 本人でさえ指摘されなくては気付かないような間違いだ。なのに、このほっそりとした綺麗な指を持つ人物は、画面に広がる膨大な量の中からそこの間違いをしっかり読み取っていたらしい。

 シンはそのOSに詳しいらしい人物の顔を見ようとしたが、指の持ち主は指を引っ込めると同時に、間違いの対処を説明し始めた。
 それに慌ててシンは目線を画面に戻し、キーボードを打つ事に努めた。

指の持ち主の説明は的確なのだが独特で、シンはそれを理解するのとプログラムするので必死だった。よって、今すぐその人の容姿を見る事を諦めることとなった。

数分後、インパルスのOSは今まで以上の性能を持つようになっていた。

それにシンは感激し、指の持ち主に礼を言う。

「うわぁ、すげぇ!!ありがとうございます!!で、あんただれ?」

シンはそう言ってすでに見えなくなった指の持ち主の顔を見上げた。
そしてそのまま動きを止める。

 なぜならばそこには、茶色の髪に紫の目を持つ中性的な青年がいたから。
そしてその人物を、シンは知っていた。

「フリーダムのパイロット・・・!」

フリーダムのパイロット、キラ・ヤマトはシンのそんな様子に苦笑して、「どういたしまして。それじゃ。」と言ってコアスプレンダーからはなれた。

しかしシンがそれを止めた。
「待てよ・・・。あんた、ここに何しに来たんだ・・・!」
キラはシンの抑えたような低い声にため息をつきたいのを我慢して、振り返りにこやかに答えた。

「議長閣下に頼まれたんだ。インパルスの調整を手伝ってやってくれないかって。」
でも必要ないでしょ・・・?そう言ってまた歩き出す。

 それをまたシンが止めた。
今度はシンもインパルスから出て、キラの肩をつかみ強制的にシンの方へと向けさせた。
 キラはそれに軽く眉をしかめながら、シンのされるがままにした。

キラは振り返りながらも、ミネルバにきた当初のアスランとの会話を思い出していた。


『キラ、シンにはしばらく近づくな。』
アスランが眉根を寄せながら言った。
 キラはそれに苦笑し、アスランに「わかった」とだけ言った。

アスランがそう言ったのはキラを心配してのことだ。先程のシンとキラのやり取りを見て、キラがこれ以上傷つくことのないように、と。

 キラはそれがわかり、ため息をつきながら目を伏せた。

そして言う。
『・・・彼には何を言っても無駄だろうからね。極力近づかないようにするよ。』


しかしキラはシンと接触してしまった。議長がそう仕向けたからだ。

仲直りさせようとしているのか、それともただ単に面白がっているのか・・・どちらにしろいらぬ世話だ。
 キラはため息を一つつくと、目の前にいるシンに意識を向けた。
彼は先程から、キラの肩をつかんだままキラを敵を見るような眼で睨んでいた。
 なるべく刺激しないように努めてはいるが、出るため息を止めることが出来なかった。

シンはそのため息の数に比例するようにキラの肩をつかむ力を強くする。

 キラはそれを気にはせずに、ただ頭の片隅で「最近ため息多いよなぁ。ああ、幸せがどんどん逃げてく・・・」とか思っていた。

 しかしいいかげんこの体勢でいるのがつらくなり、キラから声をかける事にする。

「ごめん、放して」

するとそれを待っていたかのように、シンが話し始めた。

「俺は、あんたが憎い。マユを・・・家族を殺したあんたが・・・。」

それは誤解だ。キラはオーブ戦の際、地表に向けては一度も銃を放っていない。
だが、避けた。地表に向かっていた銃弾も、全て避けたのだ。
それがシンの家族が死んだことに繋がったのだから、キラは全く言い返さなかった。
だから、事実だけを言った。

「知ってる」

 アークエンジェルがプラントと同盟を組んだすぐ後、ミネルバとアークエンジェルの主要メンバーの紹介が互いにされた。
 そのとき、シンはキラを睨みつけ、多くの者が見ている中で握手を拒み言ったのだ。

「あんたが、俺の家族を殺したんだ・・・!」
と。キラはその言葉に驚いたが、何も言わず顔をそらした。
それから、シンも部屋から出て行き、そのすぐ後にルナマリアが寄ってきて説明した。

シンは、オノゴロで家族を失ったのだと。

その言葉だけで、キラは全てを悟った。だが、やはりシンに向けて弁解も何もしなかった。

 そのキラの静かな様子になぜかシンは激昂したようで、キラに体重をかけ、バランスを崩したところで彼に覆いかぶさり、キラを組み伏せた。
 そしてそのままの体勢でキラの首を締め付ける。

キラにまたがり、首をしめながら、シンは叫ぶように言った。

「あんたにわかるのか!!家族の引きちぎられた体を見た時の俺の気持ちが!!
妹はまだ11だった!そんな子供の腕が引きちぎられてたんだ!体は変な方向に曲がっていた!!
 なのに・・・俺だけが生き残ってしまったんだ・・・!あんたの・・・あんたのせいで!!」

もはやそれは八つ当たりでしかなかった。
キラは朦朧とする意識の中で、シンの言葉を聞いていた。
そして、いつまでたっても力の緩まない腕に、指を食い込ませた。

それからそのままシンの腹を膝蹴りし、その反動で腕の力が緩んだところで、巴投げの要領で、シンの腹に足を入れて後方へ投げた。

 シンは突然のことに対処できず、無様に投げ飛ばされてしまった。

その隙にキラは立ち上がり、シンから距離をとった。

そして一通りむせて、酸素を十分摂取した後、まだ呆然と寝ているシンを見下ろして言った。

「何を、自分は世界一不幸な人間のようなことを言っている・・・!」

シンはその言葉に我に返り、すばやく立ち上がりキラを殴ろうとした。
が、途中でその動きが止まる。キラの目を見てしまったのだ。

 彼の目は、酷くよどみ、口には暗い笑みが浮かんでいる。

それを見た途端、シンの体は固まり、背中に冷たい汗が伝った。

先程とは全く違うキラに、シンは恐怖した。

そんなシンをつまらなそうに見て、キラは言った。口は弧を描いたままだ。

「不幸自慢は楽しい?なら僕もしてあげる。
僕は人間の女の腹から生まれたわけじゃない、化け物なんだよ。
十何年も本当の親と信じていたものは叔母夫婦で、自分は人間じゃなかったんだ。
 それから親友と殺し合い、友を目の前で何度も殺されて、守りたいものは守る事が出来なかった!!
 君は、僕のことをずいぶんと恨んでいるようだけど、君は恨まれたことがあるかい?殺されかけたことは?

 自分のことだけを見ているんじゃない!世界には君よりももっと幼くてもっと不幸な子供だって、山ほどいる!!」

 シンは、キラの殺気さえ漂わせる視線に、ただ目を見開いて言葉を聞くしかなかった。

そしてその内容にも驚いていた。
人間の女の腹から生まれたわけじゃない・・・?どうゆうことだ?
シンは困惑しながらも、キラの一挙一動に集中していた。

 キラは、もう通常の穏やかな、けれど寂しそうな瞳に戻っていた。

 そして目線を伏せて言う。
「ごめんね、八つ当たりだね。でも、知っていて欲しいんだ。
・・・・憎しみの連鎖は何も生まない。
君ももうこれ以上、何かを恨むことなんて止めたほうがいい。君自身の為にも、ね。」

そう言うと今度こそインパルスのある部屋か出て行った。
 シンも今度は止めなかった。

そして、思う。今のは、キラの「闇」の部分だったのだと。それが、シンの「闇」に触れ、かいま出てしまったのだと、そう気付く。

 シンは、彼のもう見えなくなった背中を追うように、格納庫のドアを見た。

そして、だれもいない部屋で、思う存分泣いた。

そのとき、シンが何を思っていたのかは、誰も知らない。



 数日後、キラのもとにシンが訪ねてきた。

「あんたに持っていて欲しい」

そう言ってシンが差し出すのは、ピンク色の携帯電話だ。

それを見てキラは驚いた。

シンが自分からキラに再度接触した事にも驚いたし、何よりも、その携帯電話は妹の形見である、とルナマリアが言っていたのを覚えていたからだ。
 そしてそれを、片時も放したがらない、とも言っていた。

だから、問わずにはいられなかった。シンの真意を。

「なぜ?」

そう言うとシンはキラを見据えて、はっきりと言った。

「けじめ、だ。そろそろマユの死を受け入れなくちゃ、って思って。
で、踏ん切りをつけるために、これをあんたに渡す
 捨てるのも、あんたの自由だ・・・ただ、受け取って欲しい。」

そう、言った。だが彼の目にうっすら涙が浮かんでいるのが見え、キラはシンの肩に手をあて、優しく言った。
「君の決意はわかったよ。けど、それを手放さなくても良いと思うよ。大切な、思い出なんだから・・・。」

 キラは言いながら差し出された携帯ごとシンの手を握り締め、それをシンの胸に持っていった。
 シンはすぐに抗議しようとしたが、キラのが優しく、目に慈しむような光をたたえて微笑んでいたので、何も言わずに俯いた。

本当は、手放したくなんて無い。でも、けじめはつけなくてはならないのだ。
シンの葛藤が手にとってわかるようで、キラは苦笑した後、急に「わかった」と言った。
そして、シンの手から携帯電話をうけとり、続けて言う。

「でも、預かるだけだよ。君の心の整理がついたら、必ず取りにおいで。」

そう言って去っていってしまった。

シンは去っていく後ろ姿を見ながら、キラに聞こえるか聞こえないかという声量で、「ありがとう」と言った。
 キラはそれに答えるように、振り向かずに片手をあげる動作をした。

その場に残ったのは、うっすらと笑みを浮かべた、若きザフトのエースパイロットだけだった。 




(あとがき)
いやにシリアスちっくな話しになってしまいましたね。
この話し、元は携帯を海に捨ててはい終わり、だったんですけど、
あんまり受けがよろしくなくて私自身どうかと思ったので、
こうゆう結末に変えました。

今度はどうでしょ?

感想等 お待ちしております。

てかこれってキラシン?ぅを!!  



<<BACK
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送