「キラは、センスがよろしいですわね。」 「・・・ぇ?」 ある日の午後INアークエンジェル。 午後のお茶を楽しみながら急に振られた話に、キラは呆然と返してしまったのだった。 切り札「・・・ありがとう・・・?」 なんと言ったら良いのかよくわからなかったので、とりあえず誉めてもらったのだと認識し、キラは礼を返す。 その際、ちょっと顔が引きつってしまったのはご愛嬌だ。 「あら、何の話?」 そこに、ミリアリアも割ってはいってくる。 それにラクスがにこやかに反応し、隣の席とお茶を勧める姿を見て、キラは何だか嫌な予感がした。 ひとまず持っていたティーカップを受け皿に戻し、この場から逃げ出す算段を立て始める。 どうしよう、「フリーダムの整備に行って来るね・・・」だめだ、さっき「終わりましたの?」というラクスの質問に「うん」って返しちゃっていたんだ。 じゃぁ、「マードックさんに艦のOSの整備を頼まれてたんだ・・・」だめだ、それもさっきラクスの前で「何か問題はありますか?」って質問して、「いんや、おかげさんでどれも正常だ。お前は姫さんとお茶を楽しんで来い」って奨励の言葉と共に返されたんだった。 「・・・トリィを探してくるね・・・」だめだ、今僕の肩の上でのんきにくつろいでるし。 ・・・だめだ、逃げ場がない・・・!! その結論に到るまでのべ十数秒。・・・・・・結構ねばってみたようだ。 そんなキラの凛とした表情の下の苦悩に気づくわけも無く、女子達の会話は続く。 「うわぁ、おいしい。ラクスはお茶を入れるのがうまいのね!」 「そんなことありませんわ。バルトフェルト隊長のコーヒーには敵いませんもの。」 「あの人のコーヒーと比べちゃ駄目よ〜。もう異次元の物体だから、あれ!」 ・・・もしかして、話脱線してくれてる? ミリアリアの言葉に内心頷きながらも、二人の会話が先程の良くわからない話題から遠ざかっているのを感じ、内心ほっと息をついたその時。 「で、キラの話よね?」 「えぇ、そうですわ。キラってセンスが良いと思いませんか?」 母さん、泣いていいですか・・・?話が戻っちゃいました・・・。(ホロリ ラクスの言葉と共に、彼女たちはなめまわすような視線をキラに向けてきたが、キラは反射的に“困ったような笑い”を浮かべ、内心の馬鹿馬鹿しいともいえる苦悩を押し隠した。 が、やっぱりそんなキラの内心は気付かず、というか多分気付いているだろうが無視してくる乙女ら二人は、尚も会話を続ける。 「そうね・・・。私もへリオポリスにいたときそう思ったわ。この間久々に会った時も。」 と。何故か軍服のポケットをあさりながら、ミリアリアが言う。 そして、その言葉に目を輝かせたラクスは、視線をミリアリアに戻して問うた。 「あら、へリオポリスではどのような格好をしていたのですか?」 と。そこでミリアリアが一旦ポケットをあさる手を止め、キラを見て、にっこり笑って手を上げた。 その笑いに何故か冷や汗が湧き出るのを感じながら、ミリアリアの手に収まっている物を見る。 と、そこには、携帯用の小型の端末が。 なんだ?と思いつつも、それを立ち上げていくミリアリアを見守り・・・というか呆然と見、より一層華やかな笑みを浮かべて手を止めた彼女を見止め、キラは今度こそ顔が引きつるのを止める事が出来なかった。 ミリアリアは手元の端末をラクスの前に持っていき、カタカタとキーボードを叩きながら説明を開始する。 「これが、キラが初めてカトウゼミに来た時のヤツ。これが、その年の夏の。 で、冬のね。・・・あ、これはカレッジの持久走大会の時の写真ね。このジャージいいわよねぇ、男性用だけど欲しくなった覚えがあるもの。で〜・・・・・・あった、これがへリアポリス倒壊直前に撮ったヤツ。」 ・・・・・・・・・は? 「まぁ!やっぱりセンスがよろしいですわ!とても良く似合ってらっしゃいます!!」 え、ちょ、待・・・ 「ね〜。何気にカレッジの女子の間では、結構有名だったのよ?コーディネイトが上手いし、流行にとらわれず自分に似合う服を選んでくるキラ!言わばファッションリーダーみたな感じで!!」 な、なんでそんな熱弁してるの?ってか、そんな話聞いた事ないよ・・・・・・!? 「本当に似合ってますわ〜。キラは黒がお好きですの?多いですわね。」 いや、その・・・ 「ベルトが着いてるのも好きよね〜。」 「細身のパンツが似合いますわね!」 「結構ゆとりのある上着も似合うわよね〜。なんか、可愛さを引き立てるかんじ〜!」 「そういえば、アクセサリも結構持っていらしたですよね?」 「あぁ、見て見て!これと、これと、これとか・・・!確かに結構アクセサリとかつけて・・・・・・改めて見てみると、アクセ一つで結構雰囲気変わるのね・・・。こっちはワイルド、こっちは可愛い系、これはクールな感じで・・・」 「まぁ、本当ですわ・・・!これは、結構資料としても使えますわね・・・!」 「そうでしょ?カレッジの女の子たち、こうしてキラの服装データ集めて研究してたの!」 「・・・・・・・・・・・・って何それ!!!!?」 彼女達の会話を粗方聞き終え、漸く呆然とした状況から抜け出せたキラは、なんかまだ続きそうな自分についての会話に終止符をつけるため、大きめの声で疑問の声を上げた。 それを聞き、ミリアリアは一応ラクスに確認をとった後、端末をキラに向けた。 「はい、見て。キラの写真。ちなみに全部カレッジで出回ってたやつだから。あ、最後のは違うわよ?それは私が撮ったの。」 ふふん。とでも言いたげに、自慢げに言ってくる内容の信じられない事実に、キラは今度こそ言葉を失った。 まさか、まさか・・・こんなことがあっただなんて・・・。 怒りが湧くよりもとにかく力が抜けていくようなその事実に、キラは静かにミリアリアの端末の電源を切り、ぬるくなり始めている紅茶をすすりながら、気持ちの整理をつけようとした。 と、それを察したのかどうかは知らないが、ラクスが困った風に笑いながらそんなキラに話を振った。 「申し訳ありません。キラのその軍服を見て、運悪くアスランの私服姿を思い出してしまい、何故幼馴染の間でこんなにも差があるのかと・・・。そう、つくづく思ってしまいましたのが、口に出てしまったのですわ。」 と・・・なんだか強調された言葉に疑問を持たなかったわけではないが、それについてはキラも少なからず思っていた事なので、何も言わずにただ頷いた。 だが、それに疑問を持ったのはミリアリアだ。 「キラの軍服?ってか、アスラン・ザラってそんなに服の趣味悪かったっけ?」 と、キラのオーブ仕様の軍服を見、先日のアスランの姿を思い出し、ミリアリアはラクスに視線を戻した。 「キラの襟巻きですわ。先日AAに来た軍人さんたちも、AAの男性クルーたちも皆、襟巻きは青でしょう?聞いたところによると、皆さん「男だから」という理由で青をつけていらっしゃるそうですの。選択性らしいのですが・・・。」 そこで、視線をキラに戻せば、確かにキラだけが赤い襟巻きをつけていた事に気づく。 ついでに、キラが青の襟巻きをつけているのを想像し・・・。 「別に似合わないってわけじゃないけど・・・。確かに赤の方が格段にいいわね」 色彩的にも。メリハリがでるし。とか呟いてみたり。 それにキラが疲れたように笑いながら、「あ、ありがとう・・・」と言って返したのは、にっこり笑って容認する。 「アスランの服でしたわよね・・・。先日見たというのは、もしや黒の上着に緑のインナーで、黒のパンツだったのではありませんか?」 キラの軍服について語った後、それにミリアリアが納得したのを見届けたラクスは、次の疑問に取り掛かった。 その、なんだかやけに詳しい疑問に、正直に頷くと、キラとラクス、両方から同時にため息がこぼされた。 「・・・それ、僕がコーディネイトしたから・・・。」 と。 聞けば、オーブ代表がプラントに行く際、カガリとアスランでその日の服装の話になり、「ドレスを着ていけ」というアスランに、「ならばお前はどんな服装で行く気だ!」とカガリが返すと、平然とその日のコーディネイトを発表してくれたのだ。 曰く、「茶のロングコート、赤のインナー、白のパンツ」・・・。 「・・・それは、一緒に歩きたくないわ・・・」 ついつい想像してしまい、ミリアリアが視線を虚空にとばしてそう呟くと、キラがやや笑いながら言った。 「アスランの髪と目の色も考慮して想像してみて。・・・絶望的でしょ?」 と。確かに、もう、最悪としか言いようの無い・・・。 そんな事を内心考えていると、キラが急に眉根を寄せ、言った。 「アスラン、髪が青で目が緑の癖に、赤とか黄色とか、ちかちかするほどの原色が大好きなんだ・・・!補色を一緒に身に付けるなんて、僕も絶えられなくて・・・。」 「泣き付いてきたカガリの言にのり、アスランの服を探しに町に繰り出し、問答無用でそれを着せさせたのですわね。なんだか懐かしいですわ・・・。」 と、途中で切れたキラの言葉をつなぐように続けたラクスの目は、どこか遠くを見るような、うつろな、なんだか見ていて悔し涙を流したくなってくるような光が浮かんでいる。 そのままおとなしく話を聞いていると、なんとアスランは、「赤のロングコート、黄色のインナー、白のパンツ」という・・・なんだか想像するのも嫌になってくる色彩で、婚約者の家に来ていたらしい。 ・・・・・・苦労が偲ばれる・・・・・・。 そう思い、3人して、昔を思い出すような、死んだ魚のような生ぬるい瞳をしていると、ふと「トリィ・・・!」「ハロハロ。ラ〜ク〜ス〜」という機械音が聞こえてきた。 それにふと我に返った3人であったが、すぐにまたふっと笑って死んだ魚と化す。 「キラ・・・、もしかして、トリィの名付け親って・・・」 「そのとおり、アスランだよ。」 「ちなみにハロもアスランがつけましたわ。」 ・・・しばしの沈黙・・・。 アスラン・ザラが、かなりのセンスナッシングな野郎なのだと、再確認させられた3人なのでした・・・。(今日のワンコ風) (あとがき) ば、馬鹿っぽい・・・。話が馬鹿っぽいよ!! でもなんかつくづく思っていたことなので、書いちゃいました。 呆れられること必須。皆さん、見限らないでぇっ(笑泣 そして、言い訳。 ガレッジの女の子達の(コーディネイトの)切り札が、キラ。 カガリがアスランのファッションについて、最後に助けを求めるのも、キラ つまり、お題「切り札」はキラを指していたのです・・・。 |
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