このお話は、平家物語のパロディーです。つまり戦国パラレルです。しかも微妙な死ネタだったり。 苦手な方はお気をつけください。 (ちなみに、木曾殿がアスラン、今井四郎がキラという設定です。) 「ついに俺達だけとなったか・・・。」 かさかさになった唇を小さく動かし、アスランは呟くように言った。 キラはイザークの屍をゆっくりと木の幹に横たえてから、小さく肯定する。 強張った顔でされた肯定に、アスランは目を瞑って先ほどの戦いに思いを馳せた。 覚悟自軍の何十倍にもなる軍勢を突破しつづけた結果、女ながらも刀を振りつづけたラクスもあわせ、主従5騎のみが生き残った。 そのラクスも何とか説得した結果、東国に逃げさせたので4人となり、ディアッカが矢で射殺され、イザークもまた、二名の敵将を道連れにたった今息を引き取ったのだ。 よって今ではアスランと、その乳兄弟であるキラのみしか残っていない。 彼の顔が恐怖で強張っているのか、それとも悲しみをこらえているせいでそう見えるのかは判断しかねるが、それを見てアスランは思わず己の不甲斐なさを責めそうになった。 もう少し己に力があれば、彼にこのような表情をさせずにすんだのに、と。 その内心を見越したのか、騎乗して馬を進めだしたキラが、横に並んでアスランをじっと見つめる。 そんな考えを持った事を責めるように、それでいて優しい眼差しで。 アスランはこの緊迫した現状の中でも変わらない乳兄弟に苦笑し、それからふと思ったことを口に出した。 「何でだろうな、普段は気にもとめないのに、今はやけに鎧が重く感じる。」 確かに鎧は重いものではあるが、慣れと鍛錬のお陰で重いと感じたことはあまりない。 けれども今はずっしりと肩や腰に重みがかかり、少々息苦しいくらいだった。 そんなアスランをじっと見て、キラは静かな様子で口を開いた。 「まだ、君は疲れていない。君の馬も、まだ疲れていないよ。なのに何で鎧なんかを重く感じるの?」 「・・・・キラ・・・・?」 そんなことはない、本当に疲れていた。 三百の兵で六千の軍勢を打ち破って来たのだから、むしろ疲れていない方がおかしい。 キラだってそんなことわかっているはずなのに、彼は微笑さえ浮かべて続けた。元より返答を期待してはいなかったようだ。 「それは味方の軍勢がいないから、弱気になってそんな風に思っちゃってるんだよ。・・・・僕一人で千人分の力になるから、怖がらないで。」 「・・・・・・あぁ、わかってるさ。大丈夫だ。」 慰めの言葉だった。それは、この状態で出されるなら確かに相応しくはあるが、何だか余計不安を感じさせた。 手綱を無意識に強く握り、頷いて見せたけれども、アスランの胸中はざわざわと波打っている。 「キラ、何を考えている?」 それには、穏やかな微笑を返された。 「・・・・・・あそこに松原が見えるでしょう。その中で御自害なさってください。」 ある意味酷い内容ではあるが、アスランは驚かない。どの道この先に待つのは、死のみだ。落ち延びるなどという無様な道は、はじめから切り捨ててある。 キラもそれをちゃんとわかっていた。だからこそ武士としてせめて立派な死を、と主君に勧めているのだ。 「お前はどうするんだ。ラクスと同じく生き延びろと言いたいが、聞く耳など持っていないだろう。」 「そうだね。よくわかってらっしゃる。」 くすり、と笑っておどけたように肩を竦めた彼を、アスランは不安を感じつつ見ていた。 「・・・都で討ち死にするはずだったが、ここまで逃げてこれたのはお前と同じ場所で死のうと思っていたからだ。俺は、別々の場所で討たれるよりも、同じ場所で討ち死にしたい。」 「・・・・すごく、光栄だよ。だけど、駄目だ。」 そう言ってふわりと重力を感じさせない動作で馬を下り、キラはスピードを上げようとしていたアスランの愛馬の口に取り付いた。 「キラ!!」 危険を伴うその動きに咎めの声をあげたが、アスランはキラのまっすぐな瞳を受け、思わずそれ以上の言葉を飲み込んでしまった。 キラは言葉に詰まった主君をじっと見、笑みを消し去った真剣な顔で言い募る。 「君が今までにどれほど高い評価を受けていても、武士であるからには最期を失敗すれば、末代までの恥になる。・・・・・・・ねぇ、やっぱさっきの訂正するよ。君は今、すごく疲れてる。続く味方の軍勢も無い。もし僕らが離れ離れになった挙句、取るに足らない者に討たれてしまったとしたらどうするの。幾らこの世に名を轟かせた君でも、結局笑いものになってしまう。そんなの、僕が嫌なんだ。」 一言一言が、重くアスランの肩にのしかかる。彼がキラの言う通り笑いものになってしまえば、今まで彼に従い朽ちていった部下達にも、申し訳ない。 逡巡の時間は短かった。アスランは断腸の思いでキラを見返し、しっかりと頷く。 「とにかくあの松原へ。アスラン・・・・。」 「あぁ、キラ。でも、もう少しだけ時間をくれ。」 そう言って、怪訝そうな顔をしたキラに構わず馬を下りる。 それから未だ馬の口に引っ付いている彼を馬から優しくはがし、己の腕の中に閉じ込めたのだ。 「アスラ・・・ッ」 「覚悟しなければいけない。お前を殺す覚悟と、俺が死ぬ覚悟を。」 驚くキラを強く抱きしめ、そう言う。 本当は、自分が死ぬ事なんて怖く無かった。 ただキラが死ぬことは、ありえないほど恐ろしかったのだ。 彼が戦場に出るときは必ずアスランも共にいたから、戦場で自分よりも早くキラが死ぬことはないと思っていた。 例え彼に死の刃が迫ろうが、何が何でも己が彼を守り抜くと決めていたのだ。 けれども今、アスランはキラを自分の潔い死の為に犠牲にしようとしている。それは、彼がキラを殺すと言っても過言ではないだろう。 それがとても、恐ろしかった。 「・・・・・・・なら僕も、君を殺す覚悟と、僕が死ぬ覚悟をしなくてはいけないね。」 硬直していたキラが、しばらくしてから声を発した。 それはアスラン以外の者が聞いたならば仰天してしまうほど、弱々しい声で。 ゆっくりとアスランの背に回された腕も、僅かに震えていた。 もしかしたら、泣いているのかもしれない。アスランの肩に顔をうずめているせいで、真偽の程はわからなかったが。 何分ほどそうしていたのだろうか。遠くから決して少なくない蹄の音が聞こえてきた。 「急いで、アスラン。」 すでに震えなど感じさせない声で、キラは叫んだ。 アスランは名残惜しげに彼を解放し、最後に一瞬だけ唇をあわせる。 「なっ!?」 「・・・・・・・・・あの世で会おう。今のはそのための 戯言だ。しかし余りにも綺麗に笑いながらそう言うから、キラも思わず言葉を失ってしまった。 すでに馬上の人となっていたアスランは、そんな彼を目に焼き付けるかのようにじっと見てから、今度こそ何も言わずに馬を翻していったのだった。 それを思わず呆然と見守ってから、キラはかなり近くまで接近してきた足音に我に返り、慌てて馬に乗る。 そして目視できるようになった敵兵を睨むように見て、大きく息を吸い込んだのだった。 「あんの、阿呆ーーーーーーーーーーーーー!!!!!」 顔を真っ赤にして行き成りそう叫んだ彼に、流石に敵もたじろいでしまったらしい。 訳もわからず視線をあちら此方に彷徨わせている彼らを尻目に、先ほどまでの突飛な行動がまるで嘘であったかのように、威風堂々とキラは叫びなおした。 「噂に聞いていただろう。今おまえたちの目の前にいるのは、アスラン・ザラの乳母子たるキラ・ヤマトである! 私のことはデュランダル殿もご存知のはず。私を討ってご覧に入れよ!!」 律儀に足を止めて啖呵を聞いてくれた敵軍に苦笑して、キラは足を踏み出した。 敵は千近い。生きて帰るのは不可能だが、せめて主君の自害の時間だけは稼いでやる、と心に決めて。 とて、射残したる八筋のの矢を、差しつめ引きつめ、さんざんに射る。死生は知らず、やにはに敵八騎射落とす。 その後、打ち物抜いて、あれに馳せ合ひ、これに馳せ合ひ、切つて回るに、面を合はする者ぞなき。分捕りあましたりけり。ただ、「射取れや。」とて、中に取りこめ、雨の降るやうに射けれども、鎧よければ裏かかず、あき間を射ねば手も負はず。 木曽殿はただ、一騎、粟津の松原へ駆けたまふが、正月二十一日、入相ばかりのことなるに、薄氷は張つたりけり、深田ありとも知らずして、馬をざつと打ち入れたれば、馬の頭もみえざりけり。 あふれどもあふれども、打てども打てども働かず。今井がゆくへのおぼつかなさに、振り仰ぎたまへる内甲を、三浦の石田次郎為久おつかかつて、よつ引いてふやうふつと射る。 痛手なれば、真向をを馬の頭に当ててうつぶしたまへるところに、石田が郎等二人落ち合うて、つひに木曾殿の首をば取つてんげり。太刀の先に貫き、高くさし上げ、大音声をあげて、 「この日ごろ日本国に聞こえさせたまひつる木曾殿をば、三浦の石田次郎為久が討ち奉つたるぞや。」 と名のりければ、今井四郎いくさしけるが、これを聞き、 「今は誰をかばはんとてか、いくさをもすべき。これを見たまへ、東国の殿ばら。日本一の剛の者の自害する手本。」 とて、太刀の先を口に含み、馬より逆さまに飛び落ち、貫かつてぞ失せにける。されこそ粟津のいくさなかりけれ。 (あとがき) どうしても書きたくなった平家物語パロディー。木曽殿と今井四郎の主従愛に感激(笑 最後の方は痛々しいのであえて書きませんでした。 その代わり原文をそのまま白で書き写してみたので、興味のある方は反転プリーズ。 最後に確認ですが、木曽殿がアスランで、今井四郎がキラです。 |
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