空の棺 =plus=

 だいじょうぶ 




いつの間にか自分の手に戻ってきていたトリィに、自分を元気付けるように声をかける。

「さ、トリィ帰るぞって、ぅわっ!!」

・・・・ざぁ・・・・っ

突風で吹き上げられた花びらが視界を奪う。
視界が薄紅色で埋め尽くされる。

「あすらん」

「え・・・?」

突然響いた声。
風がうるさい筈なのに、不思議とその声はよく響いた。
気が付くと目の前に、青いパイロットスーツを着たキラがいた。

「ありがとう」

すいと差し出された手に、呆然とする俺の手からトリィがちょんと乗り移る。
まるで4年前のように
でもその時泣きじゃくっていたキラは穏やかに微笑んでいる。

「あすらんは、もうだいじょうぶだね」

受け取ったトリィを肩に乗せ、柔らかに微笑むキラにぎこちなく返す。

「まだ、自分じゃ駄目な気がするけど・・・」

そう、自分はまだちゃんと笑えない。

そんな俺にキラはゆるゆるとかぶりを振り、また笑いかけてくる。

「だいじょうぶだよ」

にこにこと屈託のない笑み。本当はずっと一緒にあるはずだった。
ずっとずっと一緒だったのに、今はこんなにも離れてしまった。

「・・・キラ。」

悔しかった。もう手が届かないなんて、嫌だった。
でも・・・辛いけど、悲しいけど、自分の気持ちを伝えなければ。

「俺はキラに出会えて、幸せ、だよ」

こみ上げる涙を堪えたら、変な声になってしまった。
キラがはじけるように明るい笑みをこぼした。





「っ・・・!!」

気が付くともとの桜並木にいた。
いつのまにか風も収まって、逆に静寂が痛いくらいだ。

「・・・キラ?」

あたりを見回しても人影などない。ただもとの穏やかな公園がひろがるだけ。

「夢、だったのか?」

それにしてははっきりしていた。
夢というには生々しい感覚がぬけない。
呆然としていたら後ろから頭を思い切り叩かれた。

「ぅげ・・・」

「貴様!何をしている!!案内が先頭に立たねば案内できなかろう」

追いついてきたニコルも口を尖らしている。ディアッカも似たり寄ったりだ。
やっぱり夢だったのか
そう結論付けたとき

「アスラン、泣いてたんですか?」

ニコルの声に頬に手をやると、確かに涙で濡れていた。

じゃあやっぱりさっきのは・・・

疑問が再び頭をもたげる。

「なんかさっきからその機械鳥動いてないぜ」

泣いてると知ってさすがに気まずいのか、ディアッカの声がやや渋い。
視線を自分の手にやると、完全に停止したトリィがいた。
4年の間に細かい疵がつき、ざらつくボディをそっと撫でる。

「・・・トリィ」

さっきのは夢なんかじゃない。
キラはトリィをつれていった。

「キラがきて、連れて行ったんだ・・・。」

言葉にしたら涙があふれた。
キラはトリィを迎えに来て、そしてお別れも言いにきたと感じるのは思い上がりじゃないと思う。

「・・・そうか。よっぽど、大切だったんだな」

イザークが穏やかに応じた。
非現実的なことだけど、キラのことを実際にみているだけに受け入れやすいのだろう。

「よし!!アスランの友達をこれ以上心配させないためにも、行くぞ!!」

突如ディアッカが空に向かって叫んで、強引に腕を肩に回して引っ張った。

「・・・もう少し手加減してくれ」

4人の中でも大柄で腕力のあるディアッカに突如引っ張られて首筋が痛い。
やっぱりこいつらと一緒にいるとこうなるのか。
俺はすでにあきらめの境地に達しようとしていた。

「そうですね。アスランが辛気臭い顔をする暇がないほど、連れまわしてあげましょう」

「辛気臭いって・・・」

嬉々としたニコルの発言。さすがにそれは酷いのではないだろうか。

「お前が辛気臭い顔をしてたら、気が休まる間がないだろうが!さ、行くぞ」

誰が?と思う間もなく、今度は背中を思いっきり突き飛ばされる。

「イザークまで・・・」

やっぱりこいつらと一緒に来るんじゃなかった。
俺は次の機会は1人でくることを心中で堅く誓う。
空を見上げて、頬の涙を拭う。

「キラ、また来るよ」

小さく呟いて、はやく案内しろという声を背中に受けながらゆっくりとあるき始める。
とりあえず何処かで食事らしい。
ニコルはパスタと言っていたけど、何処がいいだろうか。

藍色の髪がゆっくり遠ざかる中、3人はそっと桜並木を振り返る。

「僕らがキリキリ管理しますから、ゆっくり眠ってくださいね」

「お前の願い、アスランもよく分かってる。きっと、叶う」

「なんだかんだいってもアスランは友達、だからな。心配するなって」

遠ざかる背中に届かないようにそれぞれ誰にともなくささやく。
AA収容後、イザークからあらかたの話を聞いて、それまでのような憎しみにも似た感情はもはや抱けなかった。
あるのはただ運命の通り道に迷い出てしまったばかりに、哀しい末路を辿った優しい少年を悼む気持ちだ。
それは今も変わらない。

戦争さえなかったら、と思う。
けどもう取り返しがつかない。
だから、今ある幸せを守ろう。
アスランは自分たちが支えていこう。

「まぁ、僕たちも素直じゃないですからね。多少、手荒になってしまうのは目をつぶってください」

アスランは自分たちが着いてきていないことに気付かずに、どんどん遠ざかりつつある。
まったく目が離せない。
ニコルは苦笑した。

「違いない」

イザークも同意し、ディアッカも笑っていって踵を返す。
ニコルも2人に倣って踵を返す。
視線をアスランがいる方向に動かした瞬間だった。

「ありがとう」

3人の視界の端で緑色の機械鳥を肩に乗せ、青いパイロットスーツを着込んだ少年が笑った。
慌てて振り返っても誰もいない。
見間違いというには、生々しく耳に残る声。

「キラ・ヤマト・・・」

イザークが声を上げたが、自身も驚いているらしい。
声にいつもの覇気がない。

「・・・キラさん?」

そういえば何度か見せてもらって写真に面影が似ていた。
パイロットスーツを着ていたこと、写真よりも成長していたためにすぐには気がつけなかったのだ。

「キラってアスランの友達っていう?」

信じられないことが自分たちにもおこった。
自分たちにも会いに来てくれたのだろうか。
たとえもう会えないと分かっていても、そう思うと嬉しかった。

「彼の声が僕たちにも届いたなら、僕たちの声も届いてたんでしょうか?」

「・・・かもな」

答えはもう分からない。
ならそう思っててもいいと思う。

「また来ますね」

そう言って今度こそ1人で悶々と考えている友に追いつくため、それぞれ改めて歩を踏み出す。




「待ってるよ」

4人の姿が小さくなった頃、桜並木でブラウンの髪の少年が紫の瞳を優しく細めた。
トリィ
機械鳥の声を残して、その姿は桜吹雪に溶けるように消えた。






リンク記念に APFEL REISEのアゲハ様からいただいて参りました。

長編「空の棺」の続きにあたるそうです。「空の棺」本編もすごく感動でき、私のお気に入りの一つです。

キラの純粋で、それ故に強い想いが起こした奇跡。一度読んだら中々忘れられません。





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