いつのまにかデュランダルとタリアもトレーニングルームにいたことに、気付いたものはキラしかいなかった。拘束されし自由8「君も知っているだろう。かつてヘリオポリスで何があったか。」 軍関係者ならば誰でも知っている話だ。今は無きヘリオポリスであった出来事を。 「ヘリオポリスで作られた「G」の奪取に、僕と僕の友達は巻き込まれ、成り行きで当時地球連合軍所属艦、アークエンジェルに搭乗することとなった。一機のみ死守した「G」とともに。」 アスランがうつむいたのが見えたが、この際無視する。 「偶然か運命のいたずらか…僕はその際、ザフト軍所属のかつての親友に会った。お互い名も知らぬMSの前で。親友の名はアスラン・ザラ。知っての通り、彼はそのままその場にあった二機のMSのうちの片方、「GAT-X303イージスガンダム」のパイロットとなった。」 アスラン・ザラの名が出てきたとき、周囲の視線がいっせいにアスランに向いたが、うつむいていたアスランは気がつかなかった。そしてすぐに視線はキラにもどる。 「そして残りのもう一機には、僕と、僕を爆風から救う為にコックピットに押し入れた地球連合の将校が乗った。さらにすぐにザフトのジンが奪取しそこねた最後のMSを奪いにやってきたけど、OSが不完全な上に…その将校はナチュラルだったから、MSの操縦ができなくて、変わりに僕が操縦することとなった。その後成り行きで、僕はそれからしばらくその最後の「G」…「GAT-X105ストライクガンダム」のパイロットとなり、アークエンジェルに搭乗した。ヘリオポリスの崩壊に逃げ遅れた僕の友達とともに。」 キラがストライクのパイロットと聞いてほとんどのものが目を見開いて驚きを露にした。そしてふと気付く。それからすぐに愕然とした。 なぜならば、当時最強とされた「連合の白い悪魔」ストライクは…、 「その後何度かイージスを搭載するヴェザリウスとの戦闘が行われた。その度にアスランに言われたよ。ザフトに来いってね。だけど僕はいかなかった。…艦にはMSとMAが一機ずつしかなかったからね。ストライクが無くなればAAが落ちるのは目にみえていたから。それからしばらくたち、地球降下して、僕達は相変わらずヴェザリウスとの戦闘をくり返してた。もちろん僕のストライクとアスランのイージスも何度も剣を交えていたけど、どちらも本気でやったことはなかった。敵対していても、友達だったから。 けど、ある日、僕はブリッツの搭乗者、二コル・アルマフィを殺した。それからアスランは少し前にスカイグラスハ゜ーのパイロットに志願した、ヘリオポリスからの僕の友達、トール・ケ−ニヒを殺した。 彼らは、互いに僕らの最も親しい友達で、仲間だった。だけど殺した。そして、殺された。 僕らは怒り狂ったよ。今までにないほど、本気で。そして戦った。かつての親友と。兄弟のような存在と。本気で、殺し会った。」 そう、ストライクは、イージスによって倒された。 親友の手によって、葬られたのだ。 誰もが声を失っていた。親友同士で死闘など、例え訓練された軍人だろうと、苦痛なものだということはだれにだってわかった。それを、目の前の、当時は少年だっただろう青年たちが、やってのけたのだという。 そこで、いままでうつむいたままだまって聞いていたアスランが,口を開いた。 「ザフトではストライクを撃ったとしてネビュラ勲章を与えられ、英雄として祭り上げられたが…俺は嬉しくともなんとも無かった!あるのはただ虚しさだけだった…。 ある人に言われたよ。「殺したから殺されて、殺されたから殺して。それで最後は平和になるのか」って。」 続けて、キラが言う。 「憎しみの連鎖は止まることなどない。何処かで誰かが切らなくちゃ、いけないんだ。僕は運良く死なずにすんだけど。憎しみで人を殺した後には、虚しさしか残らないものだよ。ねえ、アスラン」 「ああ…。」 アスランの返事をきいて、キラはまだ寝転んだままのシンに向けていった。 「君は、何処で憎しみの連鎖を切るつもり?…もっとも、君が僕を殺しても、僕の仇を撃とうとする人は皆、憎しみの連鎖を知っているから、君は殺されずにそこで切れるだろうけど。」 と。儚げに微笑むキラを指の隙間から見たシンは、何も言えずに、ただ黙って聞いていたが、しばらくしてから口をひらいた。 「正直言ってあんたを許すことも、憎むことを止めるのもまだ無理だ。けど、殺そうと思うことは、もう…ないと思うから、安心してくれ。」 その言葉に、キラは泣きそうに微笑んだ。 周りで聞き入っていた兵士達も、心の中で誓った。 決して憎しみで人を殺すことだけは、するまい、と。 しばらくしんみりとした空気が流れたが、途中から話を聞いていたタリアが時計を見て大声をだした。 「ああ、もうこんな時間。みんな、もうとっくに昼休みは終わってるわよ。即急に勤務にもどりなさい。」 その声に止まっていた時間が動き出す。皆がいっせいにトレーニングルームから出て行く。失われた喧騒がもどってきた。 その後すぐ軍籍に身をおいている者は仕事に入っていった。 |
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