あれから数日たった。 議長はプラントへ帰ったし、キラの武勇伝とシンに聞かせた内容はすぐさま艦内全体に伝わり、キラに敵意を持つものは、ほとんどいなくなっていた。 それはやはりキラの穏やかな性格と柔和な笑みが警戒心をことごとく打ち砕くせいだろうが、元・敵軍のパイロットと知ったのにどんどん慣れ親しんで行くのをみて、シンは少し自軍の未来を心配した。 もっとも、シンもまた、キラに感化されている者の一人ではあるのだが。 拘束されし自由9それは偶然のことだった。パイロット専用の擬似MS戦室で、黒山の人だかりを発見したのだ。 この艦にはMSをもっているものは少ないので、この部屋に多くの人がいるのはあまりないことなのだ。 それを疑問に思って近づいて見たところ、今している対戦を巨大スクリーンで上映していた。 が、すでに擬似戦は終わっているらしく、皆が注目していたらしい対決を見ることができなかった。 シンが残念そうにしていると、横からルナマリアが声をかけた。 「シン?どうしたのよあんた。」 どうやら肩を落としてうなだれているシンをいぶかしく思ったらしい。 「ああ、ルナマリアか。今やってたらしい対戦みてた?」 その質問だけでシンのこの状態の理由がわかってしまったルナマリアは、少し呆れて心の中だけで「この戦闘バカが」と言ってから質問に答えてやった。 「見たわよ。凄かったわ。あんたとレイの対戦もなかなか凄いもんだと思ってたけど、上には上がいるものね。」 その言いかたにかちんと来たが、シンは何も言わずに言葉の続きを促す。しかしルナマリアはすでにこちらの方など見向きもしないで、擬似コックピットから出てきた人物に視線をむけていた。 シンもそちらに視線をむけると、そこにはここ数日で不思議なほど憎さが薄らいだフリーダムのパイロット、キラ・ヤマトがいた。 そして反対側からはアスラン・ザラが。 その二人を視界に収めたときのシンの感想はこの一言に限る。 「ちょーショック……」 それを聞いたルナマリアが呆れた顔で自分を見たことに、シンは気付かなかった。 片や連合の白い悪魔と呼ばれた当時最強のストライクの元・パイロット、キラ・ヤマト。 片やその悪魔を倒しネビュラ勲章を渡されたザフトの若き英雄、アスラン・ザラ。 彼らの死闘のすさまじさは軍内では語り継がれているほどだ。 しかもどちらもヤキン・ドゥーエ戦で輝かしい功績を残し、無敵とされたMSのパイロットである。 その二人の戦い、例え模擬だろうが非常に高レベルな戦いだったろうに。そんな対戦を見逃してしまったことに、シンはとてつもなく衝撃を得た。 ルナマリアといえば、へこんだシンをほっといて、キラ達におくびれも無く近づいていき、その二人の表情がなんとなく晴れないのに気がついた。 一瞬、昔の記憶…殺し合いをしたときの記憶が蘇って気まずいのかと思ったが、どうやらちがうようだ。どちらかというと、不満げな、そんな表情をしていた。 「どうかしたんですか?」 ルナマリアが声をかけると、二人の視線がルナマリアに同時に集まり、ルナマリアは心拍数が上昇するのを抑えられなかった。 やはり誰だって美形ぞろいのコーディネイターのなかでも更に突出して綺麗な人にみつめられたら、平常心ではいられないものである。それが二人もそろったら、なおさら。 ルナマリアはそんな心境を悟られないように必死になりながらも、表面上はクールに彼らの答えを待つ。 するとキラが困ったように笑いながら、アスランをちらりと見た後、ルナマリアに答えた。 「うん。あの、さ。この擬似MS戦装置、すっごくリアルで良く出来てるんだけど。…所詮はザク仕様なんだよね。」 と。ようやく落ち着いたシンも近づいて来て、キラの言葉に眉をよせる。 「どういう意味ですか?」 それにはキラではなくアスランが答えた。 「そうだな…、今さっきの俺達の対戦みたか?」 「はい。シンは見てなかったですけど。」 その言葉にアスランは頷いて、シンにもわかるように説明した。 「あの対戦では俺達はOSをいじってあの擬似装置の出せる最大限の速さをひきだしてたんだ。」 「ああ、道理で速いと思いました。」 ルナマリアの関心したような声に苦笑して、キラが言葉を繋ぐ。 「だけど僕らの使ってる機体はもっと速く動くよ。それにあの装置の中には無い武器や機能もついてるからね。 どうしても満足できる対戦ができないんだ」 その言葉にシンは納得したが、ルナマリアと周りで聞き耳を立てていた、先ほどの対戦を実際にめにしたものたちは、言葉を失った。 シンは周りから音が消えたことに気がついて、辺りを見回してからルナマリアをこづいた。 「おい、ルナマリア?どうしたんだよ」 それによって硬直の解けたルナマリアは、やっとの思いで言葉をつむぐ。 二人が言いたいことはつまり。 「あれだけできて、まだ、物足りないってゆうんですか……。」 ふたりの戦いは熾烈を極めるものだった。いくら擬似、バーチャルの戦いでも、その迫力といったら誰もが目をみはるものだったのだ。 なのに。まだ足りない、と。 シンがわけのわからない、とゆう顔をしていたが、キラはそれを気にせず何かを決意した様子だ。 そしてアスランに視線をむけ、無邪気に微笑む。 「アスラン、タリア艦長に頼んでみない?」 何をだ、とは訊かない。アスランもそれを考えていたから。 「そうだな。駄目元で言ってみるか。」 そう言うやいなや、二人はタリア艦長の元へだろう、さっさと歩いていってしまった。 それを呆然と見送っていたルナマリア達は、静まり返った室内でぽつりとつぶやいた。 「なんて規格外の人達なの…。」 目で会話してるし…今度はなにしようとしてんのよ…と言うルナマリアの言葉に、その場の誰も(状況をわかってないシン以外)が無言で頷いた。 「もう切りたい…」 艦長の言葉は二人のテンポのいい会話によって誰にも聞こえなかった。 拘束されし自由10擬似MS戦室からでた二人はすぐさまブリッジにいる艦長の元へ行き、許可を求めた。 そう、実際に自分の専用機を使っての模擬戦をする、という無謀ともいえることへの許可を。 しかしタリア艦長は意外なほどあっさりそれを許可した。ただしどちらかの機体のどこかのパーツ、それが例え指であろうとソードであろうと、欠けた時点で勝負は終了、という条件つきで。 それに一も二も無く了承した二名は、早速愛機へと向かっていった。 後にアーサーがその真意をきいたところによると、タリアは「私もあの二人の戦いを見てみたいのよ」とさわやかに言っていたらしい。 その数十分後、後悔するとも知らないで。 そして十分後、アスランののるセイバーとキラののるフリーダムは空中で対峙していた。下には美しい海が広がっている。その光景を、タリアの計らいで艦内中のスクリーンに映された映像を介して、艦内中の者が見守っていた。 ちなみにミネルバブリッジでは、ザフトレッド三人もそろい、アスランとキラのオープンにされている通話を聞いていた。 『ナイフ戦の時といいさっきの対戦といい、なんかお前やけに好戦的になってないか?』 『そうかな?だって最近雑魚ばっかだったし。』 「その雑魚の中に私達も入ってるのかしら…」 ルナマリアのつぶやきにレイがやけに冷静に返してきた。 「だろうな」 その言葉にブリッジの空気が固まったのは、言うまでもないだろう。 「始まる」 唐突にシンが真剣な顔で告げた。それと同時に、両機が動き出す。 両者ともまずビームサーベルを取りだし切りかかった。力が拮抗し動きが一瞬止まった後、両者同時に飛びのき、距離をとってビームサーベルをしまい銃機を連射する。 両機とも流れるように銃弾を避け相手を狙って撃ちつける。しかし当たらないので銃弾の無駄だと思ったのか先にセイバーが銃を収めフリーダムに接近しようとする。 するとフリーダムが5つの銃口をセイバーに向け近づけまいと発砲した。しかしそれをすんでの所で交わしセイバーは接近戦に持ちこむ為フリーダムに近づく。 フリーダムも接近戦を覚悟したのかビームサーベルを取りだし、しかし何を思ったのか5つの砲口を海に向けて発砲した。 すると水しぶきが高く上がりセイバーの視界と動きを一瞬だけさえぎった。その瞬間を見逃さずにフリーダムはセイバーの上にまわりビームサーベルを突き刺そうとする。が、すぐさまそれを察知したセイバーがMA型に変形し、高速移動して危機を乗りきった。 セイバーはそのままの形で向き直り、フリーダムに高威力砲を放ったが、よけられてしまう。が、そのよけた一瞬に戦闘に不利なMA型からMS型へと戻った。 それからはしばらく接近戦が続くことになる。切りかかっては離れ力を衝突させよけては発砲し、たまに蹴り等の体術も織り交ぜ、宙を回り、体を翻しての猛攻を繰返す。 初めて見るレベルの戦いに、誰もが言葉をなくし、瞬きすらせずにみていた。手や背中に汗をかき、息をつめて。 そして、二人の信じられないほど速く滑らかで効率的な動きに、誰もがみほれ、畏怖した。 彼らが味方であってよかった、と。 ブリッジにいた者達も例外なく今行われている対決に魅入っていた。しかし、呆れてもいた。 なぜなら、 〜数十分前〜 「始まる」 シンの声がブリッジに響いた。すると、 『…とゆうかキラ、それつい最近戦ったシンたちに失礼だと思うぞ』 『あ』 『自覚なしか…まぁ、強くなったしなぁ、お前』 『ああ、MSの基本操縦の仕方を教えてもらったんだ。あと、体力作りもしたし』 『…いまさら気付いたが、基本操縦の仕方、戦時中に教わらなかったのか?』 『うん?知らなくても乗れたし、まぁいいかなって。誰も気にしてなかったしさ。それいったらバルトフェルトさんが教えてくれたんだ』 『へぇ。あの人が。っておい。知らなかったぁ?お前、それまでMSどうやって操縦してたんだ!』 『…こうやって?』 『変に揚げ足とるな!』 『いいじゃん。周りにほかにMS操縦できる人いなかったんだし。だいたい、僕がパイロットになってからMS乗れるコーディネイターの仲間って、君がはじめてだったんだよ?ディアッカ捕虜だったし。』 『…確かに…しかし気付かなかった。で、基本操縦の仕方教わって、それで?』 『それだけ』 『それだけって…』 『うん。基礎ってホントに大切なんだなってつくづく思ったよ。』 『……そうか…』 『あと、銃やナイフの使い方、体術とかも。あ、読唇術と爆弾処理の仕方も教わった。』 『なんで白兵戦の方にばっか力いれてんだよ、あの人…』 『さぁ?でも早速役にたったよね。よかったよ、教わっといて。』 『…そうだな…おまえならアカデミー行ってれば絶対赤着れたと思うのに。今から行く気ないか?』 『行ってどうするのさ。もう教わる事なんてないよ。えい!必殺!水の有効活用攻撃!』 『げ!汚いぞ!ってかどこが有効活用だ!』 『何いってんのさ。使えるもんは使う。戦争の常套手段でしょ?』 『…確かにもう教わることはないみたいだな…』 「バルトフェルトって…あの砂漠の虎のことよね…」 「ディアッカって…ディアッカ・エルスマン?あの人捕虜になってたことがあるんだ…」 「てゆうかこの子達…回線開いてる事に気付いてるんでしょうか…?」 上からタリア・ルナマリア・アーサーの言葉である。アーサーの言葉はブリッジにいるもの達共通の疑問である。心なしか二人とも口調が幼い…というか年相応な感じになっている。普段が大人びているだけに、微笑ましくも思えたのだが… 「なんてゆーかもぉ、あの子達どうゆう神経してるんでしょう…」 アーサーの声はもはや涙声だ。 そう、今は模擬とはいえ激戦中なのだ。それなのに会話は途切れることを知らず、今もなおテンポ良く続いている。 しかし動きはかつて見たこともないほど。彼らはこれでも本気で戦ってはいないのだ。ブリッジ以外で戦いを見ているものは、このような会話がなされていると思いもしないだろう。 そう思うと、なんだか薄ら恐ろしいとも思うが、それを通りこして呆れもしてくる。 ブリッジにいた者たちはいっせいにため息をついた。しかし何気に皆楽しんでたりする。 意外な情報とかも結構得れるのであるし、常と異なる二人の言動が新鮮でもあったからだ。 そう思いつつも会話は続く。 『そういえばさ、ザフトって結構イージスとストライクに固執してるとおもわない?』 『そうか?』 『そうだよ。まず一世代めを…地球軍作だけどイージスとストライクとするでしょ。二世代目はジャスティスとフリーダム。で、三世代目がセイバーとインパルス。ってかすごいね、なんか君。因縁感じない?』 『因縁って…。まぁ確かに、似がよってるな。全部ボディは赤だし変形機能はあるし?』 『うん。ストライクとインパルスなんて見た目だけはほぼかわんないでしょ。ってかあれストライクのOS微妙に使ってるし。』 『そうなのか!?…………いや待てキラ、なんでそんなこと知ってんだ…?』 『……いやぁ、ほら。実はマザーって蓋を開けてみると便利なものでね、綺麗にMSの情報が整頓されてしまわれてるわけ。おかげですみからすみまで見れて…。しかもあれ僕の構築したトコなんだよね。一目みて気付いてびっくり…みたいな?』 『みたいな?じゃない!お前まさか常習犯なのか?そうなんだな!?というかなんでザフトがストライクのOSを持ってる!?』 『さぁ。そっちは興味ないから調べてないけど。結構粗が目立ったよ。僕のOS無理やり活用しようとするから』 『ああ、キラのむちゃくちゃな組み方の。』 『独特な組み方って言って。あれ直させてくんないかなぁ。』 『後で訊いてみたらどうだ?』 『…(はぁ…)・・僕嫌われてるし。まぁ一度言ってみるけど。フォローヨロシク。』 『まかせとけ』 『ところでこないだからやけにAAのこと訊いてこないよね。真っ先に聞かれると思ってたから拍子抜けしたんだけど』 『(うっ…)それは…。』 『…なに、アス、君もしかして………プ。あっはっはっはっはっはっは』 「シン、死にたくなければ今のうちになおしてもらっとけ」 「…わかってるよ」 「…キラさんが大笑いしてる……」 今度は上からレイ、シン、メイリンの順である。ちなみにもう皆キラの異常性は気にしないことにしている。彼の才能は底しれない、と、この数日(主に今日一日で)悟ってしまったのだ。 ちなみにセイバーとフリーダムは接近戦をやめて距離をとり、互いに相手の隙をうかがっている状態だ。 そう、はたからみたら。実際はキラの笑いが収まらずに続行不可能な状態になってるだけだったが。 『キラ!笑うな!!』 『…ゥ……くっ…うううう…もうだめ……』 『き〜〜ら〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』 『うわあゴメン…笑っちゃった御礼に良い事教えてあげるよ、アスラン』 『僕の姉さんならAAで君からもらった指輪はめて元気にやってるよ。君からもらった指輪だけを、ね』 その言葉にアスラン…セイバーは動きを止めた。その瞬間を見逃さずフリーダムは踏み込み、 『やった〜!セイバーの角ゲット!』 角(?)を切り取ったのだった。今まで以上の速さで切りかかったので、外野から見れば速すぎて流石のセイバーも動けなかったのだろう、と見えるだろう。 それに気付いたアスランは、 『き〜〜〜〜〜〜〜〜ら〜〜〜〜〜〜〜〜〜』 地を這うような声で反撃してきた。 『なに?アスラン。安心したでしょ?ききたくても聞くのが怖くてAAの話をさけてたんだから。ったくホント愛し合っちゃってるよね。姉さんも君に会いたがってるよ』 『わざわざ口にださんでいい!…そーゆーお前こそどうなんだよ!!ラクスとは?!』 『なっ…もちろん仲良くやってます!君のせいで引き離されたけど!!』 『俺のせいって、あ・おい!何処行くんだよ!』 『ミネルバに帰還するのに決まってんでしょ!君も早く行くよ!』 「……………なんか、聞いてはいけない事をきいてしまった気がするわ。」 と。ブリッジでタリアが顔を引きつらせてつぶやいたのが聞こえた。 他の面々もひきつった顔をほのかに赤くして目線をずらし笑っていた。 その後、ブリッジに戻ってきたキラとアスランがそこにいた面々から生温かい視線を受けて、顔をひきつらせたのは言うまでもないだろう。 (この、へたれ・・・!) キラは半ば八つ当たりでアスランをにらんだ。 アスランは相変わらず何が何だかわからない様子で乾いた笑いを浮かべている。 ちなみに言うとブリッジクルー達はまだ生温かい目でキラとアスランを見ていたりした。 拘束されし自由11今回、戦闘中の通信がブリッジにつながっていたのは決して事故や故障、ましてや・・・ちょっとどっか間違えてなんか押しちゃいました。なんてミスでもない。 キラが意図的につなげていたのだ。 もちろん、アスランには内緒で。 先ほどの模擬戦で、キラにはいくつかの目論見があった。 一つ目は二度目の力の誇示。この間のナイフ戦は見てないものも沢山いた。しかし今回、キラとアスランの戦闘の観戦を、艦長が奨励したと聞いたので意識して動いた。 二つ目は、上記に伴い、観戦していた者全てに「絶対に敵わない」という意識を、キラとアスラン、両名に対して持たせることだ。 通信をブリッジとつなげていたのは、実際に戦闘をする彼らに更なる脅威を与えるため。 あれほどの動きをしてもまだ余裕はあるのだ、と頭に叩き込むためだった。 それらの感情は、これからキラがすることを考えれば物事を有利に進めることを容易にし、役に立つ。 しかし誤算があった。というかぬかりがあった。 アスランのへたれ具合を甘く見ていたのだ。 (まさかあそこで反論してくるとは・・・) 思い出すのは先程の会話だ。 『…そーゆーお前こそどうなんだよ!!ラクスとは?!』 『なっ…もちろん仲良くやってます!君のせいで引き離されたけど!!』 なんであそこでラクスの名前を出すんだよ・・・。と思いながらも実はキラは後悔していた。 アークエンジェルに未練があることを悟らせるのには十分なことを口にしてしまったのだ。 見た限り気付いている者はいないようだが、失態に変わりはない。 完全に油断させることも大事なのだ。キラはすでにザフトの味方なのだと、アークエンジェルに未練はないのだと、そう思わせて。 アスランは気付かなかったのだろうか、普段からキラはカガリの事を「姉さん」だなんて言わない。 意図的に名前を伏せていたのだ。アスランとカガリが付き合っていることを周囲に知らせないために。 そこまで回想して、キラは更に後悔した。どの道アスランにカガリの話を振ったのはキラ自身だ。いくらアスランの隙を作るためとはいえ、他の話題がないかもっと考えるべきだった。 それに。 さっきからアスランがちらちらと自分に視線を送っていることにキラは気付いていた。 何を言いたいのか。そんなことウザイほどわかっている。 先程の会話がアスランの歯止めを壊してしまったらしい。 カガリの事、ラクスの事、アークエンジェルの事、聞きたい事は山ほどあるはずだ。 訊きたくてうずうずしている、そんな事だろう。 (でもまだ駄目だよ。) キラはため息をついて、それから一変してタリア艦長に笑顔をむけた。 タリアは一瞬キラの急な笑顔にたじろいだようだが、すぐに立て直して言った。 「あ・・・と、どうかしたかしら?」 キラはそんなタリア様子を(あくまでも心の中だけで)鼻で笑って、もう彼の専売特許といっていい、儚げな笑顔をうかべて言った。 「はい。さっきは無理なお願いを聞いていただき、ありがとうございました。じゃぁ、僕は機体の整備をしてきますので。」 そういってさっさとブリッジからでて行こうとする。 それを見たアスランがキラを引き止めるより前に、シンが動いた。 「あの、待ってください!」 キラはことさらゆっくり振り返り、「何?」と言った。先程の会話を聞いていた者なら、この先シンが何をいうかわかるだろう。 しかしアスランは訝しげに眉をしかめた。彼は先程の会話が筒抜けだったことを知らないのだ。 そんなアスランを尻目に、キラとシンは話を続ける。 「ええと、その。ちょっと俺の機体の整備に付き合ってくれると嬉しいかなぁなんて・・・」 シンのそんな歯切れの悪い言葉に、アスランが「えぇ!?」とすっとんきょんな声を出し、キラも目を見開いた。今までのシンなら自分から進んでこんな事いわない。そう思って。 ・・・・・・もちろんキラは確信犯だが。 そんな彼らの様子にブリッジにいたものは半ば確信する。彼らはやはり通信がつながっていた事を知らないのだ、と。 しかしキラはすぐに立ち直り、小春日のような笑顔で「うん。」とだけ言った。 後で自分から言おうと思っていただけに、シンから声をかけてくれたことが純粋に嬉しかった。どうやら自分はそれほどまで嫌われてはいないらしい。 そう思っての心からの笑顔だった。 シンはその笑顔を真正面からみてしまって顔を赤くさせた。 それからこころなしか声を裏返して「行きましょう!」と言ってさっさとブリッジをでた。 キラもそれに続き、その場にはアスランの「どーなってんだ・・・」という呟きだけが残った。 その後、ルナマリアからことの顛末をきいて、アスランが顔を青くしたり赤くしたりと、なんともなさけない顔を披露したとかしないとか。 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||