紫鬼小話(「女神の国」その後)紫鬼小話(カガキラ)紫鬼小話(「普通って素晴らしい。」その後)学園&吸血鬼パラレル(キラ+アス)種無印28話その後捏造(アスキラ)種運命開始直前捏造(イザ+ティア+キラ)奪われる翼没話ある騎士と姫の恋物語小話(9話付近)










紫鬼小話(「女神の国」その後)

「・・・・・・・女王陛下。」
「あら、言ったでしょうキラ君? 私のことは“マリューさんv”って読んでちょうだい? 最後のハートマーク忘れずにvv」
まるで聞き分けの無い子供に言い聞かせるような口調が、やけに似合うこの女性。
彼女は薄い絹を重ねた衣をまとい、扇片手に悠然と微笑んでいた。まさに女王然としたその様子に逆らう気力を奪われながらも、キラは唇の端をピクピク痙攣させてもう一度「女王陛下」と言う。
マリューは困ったような微笑を浮かべながら、しょうがないわね、と前置きし、「なぁに?」と先を促した。
「これはいったい・・・・・・・・・・・・・・・・・どういった任務なのでしょう。」
「あら、紫鬼と名高いあなたがまだわからないのかしら? あぁミリアリアさん、やっぱ髪飾りはその蝶を模した物がいいわ。」
「まぁ、そうですわね。では、帯止めも此方でそろえてみますか?」 「いいわね。それにしてちょうだい。」
そんな会話を耳にし、半分飛びかけている意識の元でキラは内心で呟く。
―――ふふふふふふふふふ、血だな、これは血筋だな? いや血は繋がっていないから類友? あはは、どっちでもいいよもう。ってかムウさんは何処にいった。この兄に似た嫁さんをどうにかしろよ!!!
・・・とまぁ、叫びにも似た呟きを。
無責任にも自分を置き去りにして去っていた人物に恨みを抱きながら、キラは自分の頭に装着された鬘の髪を結わう手を、引きつった顔で見ていたのだった。
と、その時。
「陛下」
「何かしら」
不意に部屋の外から声が掛けられたかと思うと、マリューは先ほどの柔らかな表情を消し去り、変わりに女王の名に正に相応しいと言える表情と声ですぐに返したのだった。
威厳の漂う、それでいて女性らしさを忘れないそれは、キラにマリューの王としての手腕を垣間見せた。それに内心で感嘆しながら、「ちょっと外すわね」と先ほどの柔らかな声で掛けられた言葉に頷き、キラは背後にいた人物に気付き口を開く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・覗きですか?」
隣にいたミリアリアと名乗った少女が怪訝そうにキラを見たが、彼は彼女に背後を指差して、「後ろ」と言う。それに促されて背後を見れば、そこには―――――・・・
「王殿下!!?」
そう、女王であるマリューの伴侶、ムウ・ラ・ラミアス(笑)が気配もなく立っていたのである。ミリアリアは驚愕で声を上げた格好のまましばし固まったあと、ムウがその場から足を動かしたことによって我を取り戻し、頭を下げて去っていく。
それを見送って、姿が完全に見えなくなると、キラはボソリと呟いた。
「王殿下・・・・・・・。違和感ありまくりですね」
「・・・・・・・・・・・・・・ほっとけ。」
睨むように此方を見るキラに内心たじろぎながら、ムウはキラの格好を舐めるように見ている。そして、今度はキラの眼光が更に鋭くなったことにも気付かず、呟くように言ったのだった。
「逆にお前は違和感ないな。常々思ってたけど、ホント女顔だよな、お前。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
キラはその言葉に顔を引きつらせ、ムウを尚も睨みつける。自分も常々思っていたことをはっきりと言われてしまったので、少々その目が潤んでしまったのはご愛嬌。
ムウはそんなキラに心から狼狽し、「いや、でも似合うし・・・」とかフォローにならないフォローを入れていたりした。キラはその様子に毛細血管が切れた幻覚を見、顔を恐ろしい、それこそ般若のような笑いで歪め、一音ずつ区切るように言ったのだった。
「それより、この格好の意味をご存知ですか? ム・ウ・さ・ん。」
特に名前を強調された物言いに、ムウは顔を引きつらせて返答をする。
「あ、あぁ。女官に扮しての視察護衛だろ? なんだ、聞いてなかったのかよ」
女官に扮しての・・・・。そう、多分皆様すでにお察しのこととは思うが、キラはまたもや、異国の国主に女装を強いられていたのだ。前回は仮面国主、今回はその弟嫁にあたる女王陛下によって。
何も女官に扮さずとも忍なのだから隠れて護衛できる・・・・とは言わない。すでにこれがただの彼女の道楽なのだと気付いてしまっているからだ。そんなことを容易に悟ってしまう己を褒めればいいのか、哀れめばいいのか・・・・・微妙なところである。
キラは内心で涙を拭う仕草をし、気を取り直して更に続けたのだった。
「それでム・ウ・さ・んはどうしてここに?」
「・・・・・・・・・・特に意味はないが・・・。というかお前、根に持ってるな?」
ムウの疲れたような顔を見ても溜飲は下がらず、キラは尚も笑顔のままに返す。
「何にですか? 僕に屈辱的な褒め言葉を送ったことですか? あなたが名前を偽ってたことにですか? それとも僕の名前を女王陛下に暴露したこと? ははははは、ぶっちゃけむしろ全部です。」
疑問の形を取っていながらもしっかりちゃっかり質問に答え、襲いくる圧力に顔を仰け反らし、プルプル震えて耐えるムウを鼻で笑い、キラは続けて言ったのだった。
「別に、あなたが身分と名前を隠していたことはしょうがないですし、いいですよ。それよりも問題は僕の名前です。あなた僕がブルーコスモスに入る前はどのような立場にいたかご存知でしょう?」
そう、“キラ・ヤマト”はザラ君国国主の小姓という立場にあったのだ。かつ王城でも兼任した地位をいくつか持っていた為、調べようと思えば簡単に素性を知られてしまう立場にある。
だから名をひた隠しにしてきたと言うのにこの男、あろうことか再会したその場―――ちなみに王執務室だ―――で“紫鬼”の正体を口にしやがった。
その場にキラとムウの二人だけしかいなかったならばそれもいいだろう。だがそこには当然キラの目的の人物であるアーク公国国主がいて、しっかり聞き取られた上に自分の境遇まで話されてしまったのだ。
いくら何でもそれはあんまりだろう、と恨み言の一つも言いたくなる。
ムウは背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、マリューが戻ってくるまでずっと、キラの殺気漂う視線を浴びていたのだった。















紫鬼小話(カガキラ)

「じゃぁ僕、そろそろ行くね?」
時は夕刻。夕日に照らされた頬が、少しだけ熱く感じる。
カガリは今自分の目の前にいる従姉弟を、じっと見て答えた。
「そう、だな。遅くなるとアスラン達が心配するからな。」
「うん。」
困ったように、でも少し嬉しそうにそう頷くキラに、カガリはちょっとだけ寂しくなった。
アスランとキラとラクス、この三人の仲の良さは承知している。何も言わずにキラが消えてから、彼らはキラがまた居なくなるのではないかと、遠出するたびに以前よりも更に心配し、短い期間で帰ってくるように要求することも。
キラが失踪したことすら知らされてなかった身としては、もう少し自分だって彼との時間が欲しいと思うし、お前達は自分よりよっぽど頻繁にキラと会えるのだからいいじゃないか、とも思ってしまう。
しかしその状態をキラが甘受しているので、カガリとしても何も言えないのだ。
だから、どうしても口調はすこし拗ねたようなものになってしまう。
「・・・また来いよ。」
簡単に国から出ることも、出たとしてもこの従姉弟には容易に会うことの出来ないだろう自分が歯がゆい。
―――だがそんな思いを、いつまでも抱えているつもりはないのだ。
だから今は自分への気休めに、懐に入れていた布を取り出す。それは、彼の瞳の色にそろえた、数本の細長い布。随分と分厚いそれは、自分が訓練でたまに使う物だから、キラも使えるだろうと思って作った物。
それを無言で差し出し、受け取ってから首を傾げ、これは何かと問うキラに、カガリは笑って答えたのだった。
「私がたまに使う目隠しだ。光は全く通さないからな、お前も訓練かなんかで使えよ。」
と。そしてカガリは、この先キラが言う言葉が、大体予想できている。
「・・・そうだね。それにこれなら、夜に使えるかも・・・。」
キラの瞳の不思議な性質を知るカガリは、本当はそちらの方を狙っていたのだ。
キラの目は、どのような構造なのかは知らないが、普通の透けて見えるような布では、闇の中その光を隠し切れない。
武士だった頃は夜出歩く必要もなかったから不要だったろうが、今の彼は忍なのだ。その活動は夜の、光の無い時間帯の方が多いだろう。
そうなるとやはり、彼の光る瞳は邪魔になるのだ。敵に格好の目印を与えてやるような物なのだから。
それを思い、カガリはその布をキラに与えた。夜の仕事中はいつもつけてくれるように。・・・それを見るたび、自分を思い出してくれるように。
「ありがとうカガリ。いっぱい使わせてもらうね?」
「そうしろそうしろ。それでくたびれたらまた私のところに来い。すぐに新しいやつを作ってやる。」
それもまた、カガリの狙い。こうして訪ねる理由を与えないと、キラが滅多に自分を訪ねてくるようなことはしないだろうから。
結局は、カガリもキラを引き止めることで必死なのだ。そこはアスランやラクスと大差なくて、なんだか自分でも笑えてくる。
「カガリが作ったの? これ。」
「そうだ、結構上手いだろ〜?」
何でない会話をしながら、刻々と迫る別れを惜しむ。次はいつ会えるのか。・・・・・・・・果たして次があるのか。
以前より更に命の危険に晒される身となったキラに、カガリは自分の心配を押し隠し、笑顔で彼を見送ったのだった。















紫鬼小話(「普通って素晴らしい。」その後)

「え? 僕の中のイザークの位置?」
「はい、どうなんですか、そこのところ!」
行き成り何を言い出すのかと思えば。ニコルは鼻息を荒くしてキラにそう詰め寄ってきた。
「って言ってもね〜・・・・。」
困惑している風のキラに、ニコルはちょっと自分の行動を後悔しながら、キラのカップにお茶を足してから穏やかに言う。
「僕はいざという時頼れる弟、ディアッカは近所の人のいいお兄ちゃん。僕から見て僕らの位置付けはそんな感じだと思うんですけど。」
「まぁ、否定はしないかな。」
冷静に客観的立場から物事を見るのは双方得意な方だ。
確かにキラと彼らの関係は友人ではあるけれど、その中でも更に分別するならばそんな感じなのだろう。
苦笑して優雅にティーカップを傾けるキラに少々見とれながら、ニコルは更に続けて言った。
「でも、イザークの位置がわからないんです。友人だとかそんなことは分かるんですけど・・・・でもなんか違和感あるんですよね。」
するとキラはクスリと笑い、「なかなか鋭いね」と返してきたのだ。
「じゃぁ、いったいイザークはどんな関係なんですか?」
更に問えば、彼はちょうどこの薔薇園から見える、イザークの執務室にあたる窓を見ながら穏やかに微笑んで答えたのである。
「同士とか、仲間。すでに主従関係も、紫鬼ではない“キラ”と国主ではない“イザーク”の間には無いし。友人でもあるけど・・・それ以前に、僕らは“同士”なんだよ。」
初めっから友人として接しようとしていた君たちと違うのは、ソコかな。
そう穏やかに言うキラからは、彼の自分達に対する信頼を感じさせる。
最近交友を持つようになったアスラン曰く、キラは自分の味方なのだとわかった相手だけに、その穏やかな笑顔を向けてくるらしい。
そうでない相手は、作ったような美しい微笑で対応するそうだ。
そしてその中でも、自分を甘やかしてくれると判断した人物には、時折子供のような反応を返すのだとか。
ニコルは何度か、キラのその子供のように無邪気な顔を見たことがある。
だがそれは、決まってイザークかディアッカのいる所で。
どうやらその「甘やかしてくれる人物」の最低条件に、“年上であること”という条件があるらしいことを今更ながら悟り、ニコルは最初の論点からかなりずれた事を考えながら、「そうなんですか・・・・」と相槌を打って紅茶に口をつけた。
やけにその紅茶が苦く感じたのは、きっとそれ(年齢)だけはどうしようもない事だからと、半ば自分があの顔を作ることを諦めかけていたためだろう。















学園&吸血鬼パラレル(キラ+アス)

こんにちは、僕の名前はキラ・ヤマト。とある高校に通うごく普通の少年です。
しかし、僕には誰にも言えない秘密があったりします。
何と僕は、吸血鬼だったのです・・・・・・・!
「・・・・・・・・・・・・何を言ってるんだ、今更・・・・。」
「あれ、アスラン。居たんなら声掛けてよ。」
「・・・・今かけた。」
「・・・・いや、僕がちょっとなんだかおかしな文章読む前に・・・・・。」
呆れた顔で言うアスランに、キラは微妙に先ほどの自分の奇行が恥ずかしくなり、頬を染めて目を伏せた。
その様子を見、アスランは幼い頃からの耐性でなんとか頬が赤くなることは防げたが、内心で先ほどのキラの言葉に激しいツッコミを入れていた。
(・・・・・・・・・コレの何処が“ごく普通の少年”!? こんなのが普通にそこら辺にゴロゴロいたら、俺の身が持たない!!!)
・・・・・・・・ところで皆様、“バンパイア・フェロモン”と言う物をご存知だろうか。
それは、人の生き血を簡単かつお手軽に吸う為に、吸血鬼一族が手に入れた魅了の力。
そして先ほども本人が言ったとおり、キラは紛れもなく吸血鬼である。
今まで見たどの吸血鬼よりも美しく強い彼は、当然その“バンパイア・フェロモン”なる物もそこら辺の吸血鬼よりも強い。
しかもフェロモンは体質と言ってもいい物なので、彼らが気を抜けばすぐさまそれが人間に作用してしまうのである。
一度興味本位で、そのフェロモンを抑えているキラに「抑えずに、全開にしてみてよ」と頼んだことがある。
その時ニヤニヤ笑って快諾したキラを、もっと訝しく思えばよかったのかもしれない・・・・。
幼いアスランは、言う通り全開にされたキラのフェロモンに、数秒と耐えることが出来ずに鼻血を噴いて気絶してしまったのである。
あれは、耐え難い屈辱だった・・・・・と遠い目をしてたそがれているアスランをどう思ったのか、キラは小首を傾げて「どうしたの?」と聞いてきた。
それは無意識なのか意識してのことか(たぶん後者)、可憐でそれでいて妖艶で、フェロモンを出しているわけでもないのにアスランはまた鼻血ブッとしそうになったが、なんとか気力で抑えて平静に振舞った。
「別に。それよりも、行くぞ。隣町でまた“出た”らしい。」
アスランの一族は数百年ほど前から、人と交わって吸血鬼界にいられなくなった吸血鬼と契約をして彼らと力を合わせ、人間界に害を成す“人外のモノ”を退治するという役目を持つ。
そしてアスランのパートナーはキラで、例に漏れず彼らも当然“人外のモノ”退治に明け暮れる生活を送っているのだ。
「ちょい待ち。僕まだ制服のままだし。着替えてくから部屋の外で待っててよ。」
「わかった。」
学業と魔物退治の両立で疲れることこの上ないが、彼らは幼い頃よりそんな事を繰り返していたので、今では大した苦にならない、というのが現状である。
しかし最近、阿呆で外面だけはいいアスランのせいで、厄介な役職につけられてしまった。
面倒だからと一度は断ったのに、あの阿呆。「ご主人様は誰だっけ?」とか教室で堂々と言いやがって、渋々キラはその役職を受け継ぐ羽目になったのだ。
そう、パートナーと言っておきながら、人間と、人間と交わった吸血鬼の関係は決して対等ではない。
吸血鬼は人間に服従する。それがこの一族の形なのだ。
しかし・・・・・。
「僕には、誰にも言えない秘密があったりします・・・・・・・。」
先ほども言った言葉をもう一度呟き、キラは備え付けの鏡の前に立った。
そこには、血のように赤い瞳に褐色の髪を持つ少年が、ぽつんと立っている。
人と交わった吸血鬼は、純血の吸血鬼のように鏡に映らない、なんてことは無い。普通の人と同じように映るし、日光だって十字架だって平気だ。
しかし、純血の吸血鬼はそうではない。どんな高等な吸血鬼で、どんな高等な術を使おうが、彼らはどうしても鏡に映ることは出来ないし、日光や十字架に当たれば途端に重度の火傷を負ってしまう。
そこだけが、唯一純血種に対抗できる、人間と交わった吸血鬼の利点なのかもしれない。
そんなことを思いながら、キラはゆっくりと鏡に手を触れた。指を滑らせていき、それを自分の瞳のところで止めると、キラはふ、と笑った。
そこには、かけらでも吸血鬼の血を持てば必ず現れる、吸血鬼特有の赤い瞳が。
「・・・・・・・・・僕には」
・・・誰にも言えない秘密があったりします。
再びそう言うと同時に、キラの体は魔法のように鏡の中から消えたのだった。
しかし、キラは未だ鏡の前に立ったままだ。なのに、キラの姿は鏡のどこにも映っていないのだ。
そして。
彼自身は見ることが出来ないが、キラの瞳は、決して吸血鬼一族に表れることの無いはずの、純度の高いアメジストのような紫色をしているのだった。
「おい、キラ?」
自分の名を呼ぶ主人の声が聞こえる。キラは一瞬自嘲気味に笑い、一瞬後には鏡に自分の姿を映しながら、着替えをし始めたのだった。
「ごめん、なんかぼーっとしてた。」
「・・・・・・・なんだ、悩み事か?」
「別に? ただ、最近魔物退治の仕事、多いなとは思った。」
何気ない会話をふすま越しにして、キラは着替えを終えた。
そして、ふと鏡に視線を戻す。
そこには、赤い瞳をしている自分が、ちゃんと映っているのだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、時間がない・・・・」
キラはふすまの向こう側にいるアスランに聞こえないように小さく呟き、瞬きをしてから勢いよくふすまを開いた。
途端に部屋を満たす、太陽の強い日差し。夏の終わりであるこの季節、学校帰りだろうとなんだろうと未だ日はさんさんと照っているのだ。
キラは心地よいその日差しに目を細め、アスランと共に歩き出したのだった。















種無印28話その後捏造(アスキラ)

オレンジ色の作業着を着て。
人口のものではない星空を見上げながら、ナチュラルにはそう簡単に上れないような高さにあるフェンスに腰掛け。
指先には緑の機械鳥を宿らせ、その鳥の製作者を思う。
―――――星の光に紫の瞳がきらりと光った。
緑色の作業着を着て。
ナチュラルには決して表れない色合いの髪を隠すため、深く被った帽子を脱ぎ捨て。
昼間起こった、刹那の僥倖を思い出し、言い知れぬ衝動と予感を感じ、再びココへと足を運んだ。
知らず歩みは走りへと変わり、漸くたどり着いたそこに、しかし望んでいた姿はない。 ―――――緑の瞳が切なげに細められた。
「・・・・・・・・・来たんだね・・・・・。」
不意に掛けられた言葉に、アスランは勢いよく顔を上げた。正面しか見ていなかったせいで、気付かなかった。頑丈なつくりをしているフェンスの一番上に腰掛け、此方を見下ろしている存在に。
「キ、ラ・・・・・・!」
信じられない、でも嬉しい、なのに悲しい・・・他にも、色々と複雑な感情が、その短い呼びかけに込められているのを感じ、キラは静かに目を伏せた。
「なんとなく、来ると思ったんだ、君・・・・・。」
幼馴染の勘、とでも言うのだろうか。今や敵対関係にあり、昼間とて漸く顔を合わせられたと言うのに、周囲を思うと名を呼び合うことさえも出来なくなった・・・・そんな間柄なのに。
しかしこうして勘が当たってしまったとは、なんと皮肉なことか。どうやら自分達は切っても切れない間柄であるらしい、とお互いに内心で自嘲して。
キラはアスランから視線を外し、指先に止まるトリィに視線を戻す。
アスランはそんなキラを見上げ、目の前のフェンスをぐっと掴んだ。
お互い、何も言わない。
ただ、決して届かぬ位置にいる自分達が、どうしようもなく悲しかった。
―――――君とは、戦いたくないよ。
―――――何故お前と戦わなくてはならない。
お互い思うところは同じだとは分かっているのに、それでもこれ以上口に出すことも出来なかった。
「アスラン」
数分か、それとも数十分か。無言のまま時間が過ぎて行き。ここに来て初めてその名を呼んだ。
キラは自分を一身に見つめてくる視線を感じながら、しかし視線をそちらに向けることなく、淡々とした口調で続けて言う。
「僕らはもう、引き返せないんだよ。」
予感が、するのだ。
“嫌な予感”としかとれないその感覚は、何故かキラの心を静めてくれた。
「僕は、死ぬつもりなんてないけど・・・・・・・」
“けど”。そこで言葉を切り、キラはアスランにちらりと視線をやることもなくフェンスから飛び降りた。
「・・・・・・・・・キラ。」
そんなの、無理だ。
口に出されることのなかった、幼馴染の言葉の続きを察して。アスランは歯を食いしばって彼の名を呼んだ。
すると、キラはそんなアスランの内心を見通して、クスリと笑い。振り返って、言う。
「バイバイ、アスラン。」
――――またね、と言うことのない自分達が悲しい。
アスランは、泣きそうに歪められた笑いを残して、去っていった幼馴染の残像を見ながら、己の無力さに歯噛みし、しばらくそこに立ち尽くしていた。
『僕は、死ぬつもりなんてないけど・・・・・・・』
けれど、もし殺してくれるならその時はどうか、君の手にかかって死にたい。















運命開始直前捏造(イザ+ティア+キラ)

「キラ、明日っから部下を持つんだって?」
何故かイザークの執務室でパソコンをいじる、ヤマト隊隊長ことキラ・ヤマト。 ディアッカは後ろからそのパソコンを覗きながらそう聞いてみた。
「うん。」
作業に集中している様で短く答えたキラ。
ディアッカは目まぐるしく展開するディスプレイに「地球軍第三独立部隊」だの「デストロイガンダム」だの「ファントム・ペイン」だのという文字を見たが、さり気なく見なかったことにして続けて聞いた。
「へえ、どんな奴らだ?」
キラは一瞬手を止めて、思い出すように宙を睨むと、唸りながら答えたのだった。
「えっと・・・・・触覚の生えたウサギと、何気に誰かさんと似ているその歳でロン毛はどうよな少年と、いかにもミーハーそうな赤い髪の少女。」
今明らかに人間ではないモノも含まれたが、そんなモノを気にしていたらキラの友人はやっていけない。
これまたナチュラルに都合の悪いことはスルーして、ディアッカは意地悪そうに言った。
「名前覚えてないのか? そんなんだとナメられるぞ〜?」
そう言うと、キラはパソコンの電源を切りながら、にっこりとディアッカに微笑みかけて言うのである。
「大丈夫、力ずくで言うこと聞かせるから。」 その微笑のなんと禍々しいことか。
しかしこれも見なかったことにして、ディアッカはのんきに「そうか〜」と相槌を打ったのだった。
それを傍から見ていたイザーク。
「お前ら絶対何かがオカシイ。」
と無表情で呟いたそうな。















奪われる翼没話

私の名前はカリダ・ヤマト。
ただ今息子とその嫁候補、それから孤児の子供達と一緒に、マルキオ導師のお宅にお世話になっています。
え、私の夫は何処ですって? さぁ、そう言えば見てないわね・・・・。きっとアレよ、出稼ぎ。<
あの人も人がいいから、きっと何か世間の役に立てないかとか、考えてるのよ。そう、きっと(推測)。
決して私の本性に怯え、何気に性格が黒くなった(遺伝ね・・・ふふふ)キラに怯え、その嫁候補の笑顔で毒を吐くラクスちゃんに怯え、今にも死にそうに青白い顔の、ぶっちゃけ幽霊みたいなマルキオ導師に怯えて逃げ出したとか、そんなのじゃないのよ?
だってあの人、“私”の夫を二十年近くやっているのよ? 今更よ、今更。・・・・・・たぶん(推測)。
・・・まぁ、ハルマの話なんてどうだっていいのよ。
それよりも今日、私は一大決心したの。
そろそろ後継者が欲しいと思っていた所だし。ラクスちゃんに打診してみることにするわ。
そしてお昼時、昼食の用意をしながら。
丁度良いことにただ今ラクスちゃんとキッチンで二人っきり。子供達は外で遊んでて、キラはソファーに座って何やらアスラン君と端末を覗き込んでいるし、導師は所用で出かけているの。
でもね、私なんだか心配なのよ・・・。あの二人、あ、キラとアスラン君ね。
あの子達、昔っから一緒に遊ぶとお互いしか見れなくなるみたいで・・・・。
5回中4回はアスラン君が自制してくれるんだけど、残りの5回中1回はキラと一緒になって、暴走するの・・・。
子供の頃はまだ良かったわ。近所の公共物を破壊するだけに止めていたから。
しかもしっかり証拠隠滅しているところが、我が子とその幼馴染ながら抜かりが無いわよね。
でもね、戦後になってまた一緒にいられるようになってから、その暴走の方向性が変わってね・・・。
昔は「気に入らない教師に天誅を(結果:その教師、次の日には始終何かに怯えていたらしいわ)」「つまらないから全★力で遊んでみよう(結果:遊具の破損、コンクリートにひび割れ、倒木etc・・・)」とか、どちらかと言うと体を使って、って言うのが多かったのだけど。
今はコレね。
「アスラン。今度は何処に潜ろう?」
「そうだな・・・。いっそ新しい議長の私生活とか・・・・。」
「いいね。でも誰だっけ?」
「まだ発表はされていないな、でも、ほら。」
「うん。」
カタカタカタカタ・・・・・・
「あ、イザーク今軍にいる。」
「へぇ? ついでだから繋げてみれば?」
「そうだね。あ、もっとついでにアレ、試してみよう?」
「あぁ、いいな。」
はぁ、コレなのよ。
でもあの二人はこの会話で十分通じちゃってるみたいだけど、他の人が聞いたら解らないでしょう? だから私が解説してみるわ。
つまり、さっきの会話の意味は。
「アスラン。次は何をハッキングしようか? 目ぼしい軍機関はもう全部目を通しちゃったよね?」
「そうだな・・・。いっそ新議長の私生活でも覗いておくか? 何か弱みを握れるかもしれないぞ?」
「いいね、それ。面白そうだ。でもその新議長って誰だっけ?」
「まだ発表はされてないな、でも、ハッキングしてそれも調べちゃえばいいだろ?」
「うん、そうだね。」
カタカタカタカタ・・・・(キーボード早打ち=ハッキング開始)・・・
「あ、何となく先に軍にハッキング掛けてみたら、イザークが出勤してるみたい。ついでに都合のいいことに、現在ディアッカと事務処理中。」
「へぇ? 事務処理ってことは端末を使用してるよな? ついでだから端末乗っ取っちゃえば?」
「そうだね、あ、もっとついでにこの間作ったウィルス、試してみよう?」
「あぁ、保存してあるのデータ全部消えるけど、まぁ、そんな事どうでもいいな。」
憐れね〜・・・イザーク君。・・・・と、ディアッカ君(おまけ)。
まぁ、こういう事なのよ。頭を使っての何気ないいたずらが多くなっちゃって。
やっぱりここは母親として諌めるべきよね? あぁでも、このいたずらを止めさせたらキラがキラじゃなくなってしまうわ。数年前からすでにハッキングはキラの習慣と化しているのだし・・・。
むしろ食事の時に何気なく聞かされる世間に公表されていない話は、私の密かな楽しみでもあるのよ。
だってそれを聞いておけば、後々何かがあっても困らないでしょ? ふふ、ふふふふふふふふ・・・・・!!















ある騎士と姫の恋物語小話(9話付近)

初めて見たとき、俺はあのお方を失礼にも愚弄した。言葉に直接だした訳ではない。ただ態度と視線で、隠そうともせず彼を見下していたのだ。
平民出のくせに貴族達の上司となった、その事実だけでもう俺を苛立たせるには十分で。けれど彼はそんな俺に微笑んで、穏やかな表情で口を開く。
「あなたが僕の副官になってくれる方ですね? 僕はキラ・ヤマト。よろしくお願い致します」
立場は上のくせに、腰が低い。これだけこっちは態度が悪いのに、何で何事も無いかのようにスルーするんだ軟弱者め、とかもう彼のやる事なす事全てが気に食わず。無性に腹立って無言で(不敬だと罰せられても仕方がないと分かっていながら)通したのだが、彼はやはりただ微笑んで、颯爽と馬に騎乗するだけだった。
怒るでも不満がるでもなく、ただ全てを寛容するように浮かべられた微笑。なのにお前には無駄ないざこざをしている余裕があるのか、と叱咤されたような気がして、思わず息を呑んでしまった。
そんな俺を彼は何を思っているのか一切読み取らせない微笑のまま流し見て、小さく「行きましょう」と告げる。まだ朝早いからと民を起こさぬよう静かに城下を通り抜けねばならないのだが、それ抜きにしても俺は何も言葉を発する事ができなかった。圧倒、されてしまったのだろうか。会話とも言えない、先ほどの短いやりとりで。
今俺の前を暴れ馬と名高いかの馬、フリーダムを見事に操って前を行く彼は、酷く神々しく、そして雄々しく見えた。手の届かない所にいるような、意味も分からずひれ伏したくなる様な感覚が侵食するように体を襲ったが、眩しい物でも見るかのように目を細めるだけに止めておく。彼から目を離すことまでは、できなかったけれど。
しかしその彼が突如城下を振り返って、驚いたように目を見開いたのだ。何事か、とその視線を追いそのまま目も離せずにいたら、・・・・・・見てしまった、本当は見てはいけなかったのかもしれないのに。その、凛々しく美しい瞳に涙を浮かべ、桃色の髪を隠してまでやって来たかの人を。
国の宝とまで言われ国民から敬愛されているはずの彼女は、今涙を浮かべ彼に縋り付いていた。普段遠目で見る彼女とは違い、それは本当にただの“少女”でしかなく。
彼に隊を進めるように言われていたが、誰もがそちらの光景に気を取られて足をとめてしまっているから、どうしようもないではないか。そう自分に言い訳して、固唾を呑んでその光景を見守った。・・・否、見守っているのではない。先ほど以上に圧倒され(そう、その光景を脳裏に刻み付けねばならない、という強迫観念に駆られるほど)、魅入っていたのだ。
まるで美しくも切ない劇の一場面、しかし何かの儀式のように神聖ささえ感じさせるその光景に、ただただ目も言葉も奪われ。朝日が彼らを祝福しているようだ、と丁度雲の隙間から指した光に、俺はぼんやりと(無礼とか平民のくせにとか、そんな事を考える余裕もなく)そう思った。
その数十分後。ラクス姫と別れて進行を再開し、もう既に城下町を出て草原を横断している頃になって、俺は漸く詰めていた息を吐き出す事ができたのだ。そんな状態になっていたのは何も俺だけではない。隊の誰もが自発的に口を噤み、ただ息を詰めて自分達の隊長を見ていた。
しかし注目の的に居る本人はそれに気付いているのかいないのか、ラクス姫から受け取ったペンダントを手のひらで遊ばせながら、それを無表情に近い顔でじっと見ていて。それはやがてそれは切なげな物に変わり、そして愛おしげな物に変わり。そのゆったりとした変化に、誰もがつられて切なげに目を伏せる。
皆、彼と同じように大切な者と別れを告げてきていた。けれど彼と先ほど泣きながら送りに来た姫との仲は、不思議と自分達以上の強い何かを感じてしまって。それ故に彼らの別れには、痛ましいほどの衝撃を受けたのだ。思わず今まで以上に強く、こんな戦争なかったらいいのにと思ってしまうほど。
先程までは自分の身の心配ばかりしていたのに、何故か今は誰もが平民上がりの騎士を案じていた。本当に理由なんてわからないし、会ったばかりの人物のはずなのに。当然俺も同じ。不思議な魅力のある少年だ、と感嘆に近い気持ちでため息を零す。
「・・・・・・・・・・・・・あなたは、」
しかし一つだけ聞いておきたい事があった(義務感に近い)ので、俺は彼の隣に馬を並べながら聞いたのだ。
「・・・・・・・・あなたは、ラクス様を・・・」
愛しているのですかと、そう聞くはずだった。けれどその途中で向けられた笑みに、気づけば言葉を飲み込んでいて。何せ彼は言葉で表しきれないほどの愛しさと何らかの決意を、一心に手元にあるペンダントへと向けていたのだから。多分この瞬間から、俺はこの人に対して忠誠を抱き始めていたのだろう。
***
その始まりの日から、いったい何日が経過したのか。遅れて合流した彼は見る間に敗戦色の強かった我軍を建て直し、最前線に立ってその美しい手と顔を血で濡らし続けていた。当初は聞く耳を持たなかった将軍たちも、今ではまず彼の意見を聞くようにしている。確実に、何かが彼の手によって(きっと良い方向に)変わっているのだ。
そもそも常に微笑みを浮かべている穏やかな気性の彼(戦場では一変するが)に、いつまでも悪感情を抱くのは難しい事。荒立った心を静める不思議な微笑は強い影響力を見る者に与え、しかし覇者の瞳だけは笑わぬまま自信に溢れ、兵士達に活力と希望を与える。自然と彼は、俺達兵士にとって無くてはならない存在へと変わっていた。
そして今日も、彼は戦場に立って兵士達に希望を与えているのだ。ラクス姫に下賜されたと言うレイピアを太陽に向けて掲げ、表情を引き締めて敵軍隊を見据えて。鋼が光を反射し、彼を光が包み込む様は、戦場に似合わないほど神々しく美しかった。そんな場合ではないのに見とれてしまい、警戒を解いてしまう程である。
しかしそれは敵軍隊も同じだったらしく、遠距離攻撃すら来ない。
自分の成した事による影響をわかっているのかいないのか、彼はそれを特に不思議がる様子も見せず、ひゅっ、と勢い良くレイピアを振り下ろし、剣先を敵軍隊の鼻先に突き付けた。
そして、声高々に叫ぶいつもの宣言。
「仲間達よ、必ずや生きて返ろう!・・・・・・無事を祈ってくれる愛しい人の元へ!」
その言葉を言う際、毎度彼は誰を思うのか。考えるまでも無いのかもしれないが、俺にはそれが何よりも重い言葉に感じたのだった。


 





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