僕の為に、僕と親しくなってみませんか?
いつかある日。 晴れて国王となったイザークから、いきなり忍としての任務を言い渡された。 別にいきなり、というのもいつものことだったので、驚きはしませんでしたけど。 彼の後ろに佇む美しい少年を見て、少し複雑な気分にはなりましたよ。 彼の名は「紫鬼」。 本名は知りません。ただ、元ブルーコスモスであることはイザークから聞きました。 ブルーコスモスとはジブリール帝国の、忍軍団の名称です。・・・あまり知られてはいませんけど、知っている者はそう呼びます。 そして、ジブリールの軍隊をブルーコスモスが兼任できるくらいには、その規模は大きいのだそうです。 ちなみにそれが推測の域を出ないのは、かの国が十数年前からどの国とも国交を閉ざしてしまったせいで、情報が入ってこないから。 その兼任の話だって、紫鬼伝いに知った話ですし。 ・・・ジブリールに密偵を送っても帰ってくることは稀なので、こういった情報はなんとも役に立ちます。 更に、忍一族に産まれた者だけが、幼い頃から訓練を受けて国家付の忍となる他国と違い、ブルーコスモスは一般人が成人してからでも忍になれるという訓練があると、紫鬼は言っていたそうです。 また、たまにあるようなんですよね。 紫鬼自身もそうらしいのですが、他国から連れ去られて忍になる、っていう人が。 そうやってブルーコスモスはどんどん拡大していったそうです。 それが、他国よりも圧倒的な人数にいたるくらいに。 一般人が短期間で忍になれる訓練とはどういうものなのだ、とイザークに聞いたら、紫鬼はただ「本気で死にたくなる訓練」と答えたと言う。 ちなみに、訓練の期間は人それぞれらしいです。その人の一日の限界ぎりぎりまで訓練しつづけ、それを毎日繰り返す。 ぎりぎり、というのがなんとも言えませんね。 そうすることによって訓練で死ぬことはありませんし、力も早くつきます。 でも、想像を絶するものだったことは確かでしょう。 産まれてから少しずつ訓練を重ねていく僕らには、まったく想像できませんよ。 ちなみに、僕はまだ、一度も紫鬼本人と会話したことがなかったりします。 今の話だって、イザーク伝いに知ったんですから。 そんなことを考えているうちに、イザークが漸く口を開いた。 「密書だ。これをプロヴィデンスまで運んで欲しい。」 紫鬼と一緒にな。 そう言うと同時に渡された書物。 ニコルはそれを受け取りながらも思案する。 帝国プロヴィデンス・・・・・・ラウ・ル・クルーゼ国王が統治する大国。 そしてその国は、ジブリールを挟んだ、ジュールの反対側に位置するのだ。 ・・・・・・なるほど、随分大変な任務になりそうだ。 ニコルは、紫鬼が城から脱走したとき、イザークの後についていた。 だから見た。 だから聞こえた。 ―――――――――――あの、痛々しい声を、姿を。 大事な人だったのだろう。 血のにじむ体で、水にぬれた少女を力いっぱい抱きしめていた。 それが、場違いなほど美しくて・・・・・・・・・悲痛で。 気づいたら自分も涙を流し、登っていた木から落ちていた。 あの後すぐにディアッカがやってきて、紫鬼の状態に驚きながらも、イザークを正気付けて城へ戻っていった。 その際、紫鬼を拘束し、少女を一緒についてきた衛兵に任せて。 ニコルはただそれを、呆然と見ていることしかできなかったのだ。 その時すでに気づいていた。 あの少年が流れてきた方向と、彼が監視役を倒したということから、少年の正体に。 彼は内乱に巻き込まれた子供ではない、たぶん「ジブリールの鬼」本人だ、と。 そして、あの国が何かにつけて人質をとることも知っていた。 だからあの少女が、彼の人質であったからこそ殺されたという事にも、すぐに気づけたのだった。 それからすぐ、紫鬼は釈放された。イザークが無害だと判断したからだ。 そして同時に、彼はイザークにどこかへ連れて行かれたのだった。 特に何も言われていないニコルは、通常どおりイザークの護衛として影からその様子を見ていた。 彼らが向かった先は共同墓地。 ―――――――――あの少女が埋葬された地だった。 僕はそのとき見た光景を絶対に忘れることはないだろう。 墓石の前で泣きながら謝り続けるその姿は、美しかったけれどそれ以上に、悲しかった。 見ているのが辛くなって視線を背けると、イザークが近づいてきたのに気づいた。 それから、ニコルの横に立ち、紫鬼の方向を見ながら、彼はこう言ったのだ。 「・・・・・・・・死は、何よりもの呪縛だ。あの娘の死はあいつをジブリールから解放したが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、なんでもない。」 イザークは途中で言うのを止めてしまったけれど、ニコルにはその先が大体予想ができていた。 ―――――死は、何よりもの呪縛。彼女の死は紫鬼の体の解放と同時に、精神を彼女自身に縛りつけた。 あの微笑みながら死んだ少女は、そのことに気づいていたのだろうか。 未だ墓石の前で泣きつづける少年を、ニコルはまたも、ただ見ていることしかできなかった。 自分の無力さを感じ、少年に同情した。 だけどいつまでも、そんな感情を感じていたくなどない。 だからニコルは微笑んで、隣を歩く紫鬼に声をかけたのだった。 「いつか・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・?」 「いつか、あなたの本当の名前を教えてください。」 仲良くなりたいので。 そう言うと、紫鬼は一瞬目を見開いてから、静かに笑った。 まずは、親しくなって同情という感情から消してしまいたいんです。 そんな感情、君に対しても、彼女に対しても失礼だと思いますし。 その為に親しくなって、あなたの事をよく知りたいんです。 よく知って、力になりたいんです。 そうすればきっと、無力さに歯噛みする必要もなくなるだろうから。 (あとがき) シリアス・・・・・・・・・・(滝汗 「死は、何よりもの呪縛」 拍手で送られた一言から、この言葉を書きたくなってこの話を書いたのです。 フレイの死は〜って送ってくれた方、ありがとうございました。そしてパクってごめんなさい(滝汗 今回はニコちゃん(白)視点で。12話補足? 微妙ー。暗ー。 わ、笑いたい・・・・・・・・!! |
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