アークでの一週間の滞在の後、ムウから鋼糸を受け取ったキラは、彼から彼の双子の兄でもあるプロヴィデンス帝国国主当ての親書を携え、かの国へととんぼ返りしてきた。 そして、どうやらそれに鋼糸の手ほどきの旨と、キラの名前をちゃっかりと明記してくれやがったらしく、キラは「そうか、キラ君と言うのかね。」と言うクルーゼになんだか泣きたくなった。 それから、クルーゼによる鋼糸の手ほどきは、キラの予想を遥かに上回る早さで実行を遂げたのだった。 「では、行こうか。」 「へ?」 そう言って、とっとと歩き出した仮面国主を追えば、行き着いた先は深い森の中。 半ば放心しながら、キラは思わずクルーゼを凝視するのだった。 仮面の国2「ふむ」 ・・・なにが「ふむ」、だよ。 「なるほど」 ・・・・・・だから、何が。 漸く我に返り内心で一々返しながらも、キラは直接口には出さない。 何だか言っては面倒なことになりそうだと、直感が告げているのだ。 彼の視線の先には、分厚い皮の手袋を嵌め、顎に手を当て考え込む仮面をつけた金髪ロン毛の男がいる。 ―――――――怪しすぎだろ・・・・・!! 内心激しく「こんな人物とは街を歩きたくない」と思いつつ、今自分のいる場所が人の来ないような森の中であることに安堵し、キラは密かに息を吐いた。 ・・・というか、ムウといい、この仮面の国主といい、何故こんな簡単に外に出られて、しかも明らかに忍具と分かるものの使い方なんぞ知っているのだろうか。 などと、今更疑問に思えて来た物も多数。 ちなみに、キラが自分の思考に埋まっている間、クルーゼもまた何か考え込んでいるようなのだが、仮面に加え手で口元を隠しているため、彼が何を考えているのかは全くわからない。 その様子に段々魂が口から抜けていく事を自覚したが(ぇ)、キラは不意に体を強張らせ、素早く後方に跳んだである。 「・・・・・・・・・何ですか、いきなり。」 ふと先ほど自分が居た場所を見れば、茂っていたはずの草木が見事に剥げてしまっている。 なるほど、これが鋼糸の威力か・・・と感心しつつ見ていると、またもや第二撃と思われる空気の振動を感じ、キラは素早く上方に跳んで木の枝の上に避難した。 そこからちらりとクルーゼを見れば、彼はクツクツと愉快そうに笑っているではないか。 しかも更に第三撃と思われる空気の振動を感じ、キラは急いでその木から飛びのいた。 すると、今度はその木が真っ二つに裂かれてしまったのだった。 (・・・・・すごい威力・・・。それと、糸の軌道が全く見えない。) なるほど、ムウが『回避不可能の最終兵器』と言うだけのことはある。キラは冷や汗を流しながらも感心し、無言で攻撃を開始しやがった仮面に向けて、再び言った。 「何ですか、いきなり。」 「いや、鋼糸の威力と利点を知ってもらおうと思ってな。何かわかったことは?」 ・・・アレは、いかにもキラが避けきれず死んでも別にいいんだよ、とでも言いたげな攻撃だった。 だからよくもぬけぬけと、と内心で罵り、しかしキラはそれを押し隠して答える。 「すごい威力ですね。でも攻撃がやや直線的です。やっぱり糸と言ってもそこまで自由が利かないらしいですね。後は、利点として糸の軌道が見えない上、糸と言う形状のせいで、対象が攻撃を避ける事も防ぐことも難しい、と。」 「・・・・・・・・・・・ほう。」 たった三撃でそこまで見破る事の出来る者は、そうは居ないだろう。 しかも自分を殺そうと迫る見えない糸を避けながら、だ。 予想以上に優秀なキラに、クルーゼは思わず笑みを深めたのだった。 「・・・・・・・・・・・・・・あの。」 笑顔が怪しすぎます。 ・・・・・・・・・そう言いたくて仕方がなかった。ホントに言いたい。声を大にして山の上から叫びたい。やまびこが聞こえる位に大声で言ってしまいたい。(ぇ しかしそんな切実な思いとは裏腹に、キラの口からそれ以上の言葉が出る事はなく、「どうかしたかね?」と聞いてくる声にただ「いいえ」と返したのだった。 「では次。今度は刃の向きを見極めたまえ。」 「はい。」 ちなみに、ムウにキラ用の鋼糸を手渡された時、彼から一通りその構造の説明は受けていた。 彼曰く、鋼糸は、どうやら恐ろしく細長いノコギリとそう変わらない形状なのらしい。 刃があれば、 だが、はっきり言ってそれを肉眼で見極めることなど不可能だ、とムウは遠い目をして言っていた。 ・・・ならどうやって貴方は作ったんですか・・・とは聞かなかない。聞いたってどうせ分からないだろうから。(というか管理人が説明できないから) ―――話を戻して。 だがそれを見極めろとクルーゼは言うのだ。こんな所で仮面の国主の意地悪さを体感しながら、キラは一つ息をこぼし、集中するために目を閉じた。 すると、途端に自分に向かってくる糸の気配がする。 鋼糸が自分に迫る一歩前で目を開き、キラは体を後方へと飛び退かせながら、かすかに見えた糸をじっと見つめたのだった。 「・・・・刃は、上を向いてました。」 ・・・・・・・アレ? 意外と簡単。 少々拍子抜けしながらそう告げると、何故かクルーゼの表情が仮面越しでも分かる位に固まった。 「・・・・・・・・・陛下?」 どうしたんだ、と思いつつ号を呼んでみると、クルーゼは数秒不自然に体を動かした後、「・・・・・・次。」と言って再び腕を振り上げたのである。 それも慣れてきたおかげで易々と避け、キラは再び見えた糸の方向を言った。 「今度は、僕の方を向いてましたね。」 すると、今度は仮面に唯一隠れていない口元が、僅かに引きつったのを確認できた。 ・・・・・・・・・僕もしかして今、すごく珍しい物を見てる? 食えない国主の性格は、どうやら幼い頃からのモノのようだと、ムウとの会話で悟っていた。 なのに、そんな人物がなんだか不自然に固まっている。見ようによっては、呆然としているようにも見えるのだ。 それが何による物かはよく分からないが、なんとなく愉悦を刺激され、キラは笑いを抑えるので必死であった。 「・・・・・次。」 再び襲いくる攻撃を余裕でかわし、漸く慣れて完璧に軌道を読みながら、キラは微笑さえも浮かべて言う。 「意地悪ですね。今の、ねじれてました。」 その時の仮面の顔が忘れられない。 いや、実際に見えたのは口元だけだったが、引きつった笑いを浮かべている仮面国主などそうそう見れるものではなかっただろう。 キラは抑えきれない笑いを口元に手を添えることで隠しながら、「どうかしましたか?」と穏やかに言った。 その際、「あぁ僕、なんだか随分したたかになったよなぁ」とキラが内心でしみじみと呟いた事は、仮面の知らぬトコロ。 クルーゼはそれに「・・・・・いや・・・。」と力なく答えてから、静かに肩を落とした。 彼自身でさえも刃を見切るのに半年を要し、双子の弟にいたっては未だ勘に頼って判断しているその技術。 まさかそれを、僅か数分で身に付けられるとは、夢にも思わなかった、と言うのがクルーゼの正直な心境なのである。 この時ばかりは自分が仮面をつけていることを信じてもいない神に感謝しながら、クルーゼは徐に言ったのだった。 「君は、いったいどう言う目をしているのだね・・・・・・」 と。キラはその突拍子のない質問に僅かに目を瞠った後、しばらく考えてから口を開いたのだった。 「・・・・闇夜に光る紫色の目です。」 結構真面目に言ったつもりなのだが、クルーゼは更に顔を引きつらせて笑っただけであった。 (あとがき) ・・・あそんでみました。 多分、キラのあの黒い性格の半分は、クルーゼとの会話による物だと思います。(ぇ ちなみにコレ、小話で出すといっておきながら、意外と長くなったので普通にUPすることに決めましたUu |
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