不意に吐き気を感じて、アウルは目を開けた。

すると同時に、身の切れるような寒気が襲ってくる。そして、自分が固い地面に横たわっていたことにも気付いた。

自分は何故このような場所で寝ていたのか。アウルは霞がかかったような頭で思い出そうとしたが、それも途中で放棄した。

何故ならば、考えながらも吐瀉しようと体を捻ろうとしたら、途端に脳天に激痛が走ったからだ。

自分は痛みというものに慣れているはずなのに何故、こんなにも痛い思いをしているのか。またもアウルの頭に疑問が浮かんだが、もはや答えを見つけるまで考え続ける気力も無い。

激痛に耐えながらも何とか胃からせり上がってくる物を吐き出すと、彼の視界が真っ赤に染まった。

それを見て、不意に気付く。


あぁこの赤は、自分が吐き出したモノなのだ、と。



死地





その出血量と色から言って、どうやらアウルの内蔵は激しく損傷しているらしい。徐に右手で腹を触ろうとしたら、その腕が動かないことに気が付いた。

そちらに視線をやれば、右腕がなんとも悲惨な目にあっていた。とりあえず、骨と腱はいかれているようだ。

そんな事を培ってきた経験で冷静に判断して、アウルはもう一方の腕を動かした。

あぁ、此方は動く。とそのことに僅かに安堵し、彼は当初の予定通り腹に手をやる。

すると、その腹からなにやら金属が生えていることに気付いた。それを強く握ってみると手のひらが切れたので、剣か刀が腹に突き立てられていうのだろう。

それを力任せに抜いて、アウルは身を起こした。

痛みはもう麻痺している。意図してそうすることも出来るように訓練されているので、彼は動けたのだ。


それから体中に刺さっていた苦無を抜いて、霞の取れない頭のまま、周囲に目をやる。


そこにあったのは、地面が見えないほどに折り重なる、死体、死体、死体――――・・・・・。


彼にとっては見慣れた光景だ。何度も仲間と共にこんな状況を作ったことがあるのだから。


だがなぜ、自分はここにいるのだろう。そう言えば、自分の仲間は何処にいるのだろうか。


そう思うと同時に、彼の頭に漂っていた霞が一気に晴れた。


そうだ、自分達はまた起こった反乱を鎮圧するために赴いたのだった。自分を含めて4人、確かに少ないが、あのメンバーならどんなことでも出来ると思っていた。

だが、現実は厳しかった。そんな風に軽く見ていたことが祟ったのかもしれない。不意を突かれ、皆バラバラになって、気が付いたら体中から金属を生やして気を失っていた。

漸く現状が把握できてきて、アウルは中々言うことを聞いてくれない足を叱咤して、立ち上がる。


すると当然視線が高くなり、視界も広がった。

そしてやはり見渡す限りに広がる、死体の数々。不意を付かれたときに見た人数とそう変わっていないように見えるから、多分自分達は勝ちを収めたのだろう。

これもまた経験からくる直感でそう思って、アウルはフラフラと歩き出す。

途中、川に程近いところで多くの焼死体を見た。自分達は使い道の無い爆薬の類を持ち歩かないから、きっと敵が使ったのだろう。・・・・・・・・・・・・・・だが、何のために?


わからない。・・・・・・・否、わかりたくない。


そう判断し、アウルは当ても無く、フラフラと彷徨いつづけた。


しばらくすると、見慣れた金髪の少女の姿を発見した。彼女もアウルと同じように満身創痍で、おぼつかない足取りをしていたが、ちゃんと生きているようだ。


「ステ、ラ・・・・。」

「あ、う、る・・・・・・・・」


歩き方同様、フラフラとした声でそう答えたステラに、アウルは安堵のため息を吐いた。

死んでるとは思わなかったが、こうしてちゃんと姿を見るまではやはり少々不安を感じていたのだ。


アウルはもう一度小さく息を吐き、出来るだけ早く、だが亀並みのスピードでステラへ近づいていき、呟くように尋ねたのだった。


「スティング、見、た・・・・?」

「見た・・・・。生き・・・て、る・・・けど、血を、出しすぎ、て・・・・、動けない・・・・・・・・。」


普段以上に途切れ途切れに返された言葉は、彼女の限界が近いことを物語っていた。

そしてそれは、アウルとて同じ。血を失いすぎたことで、貧血を起こしているのだ。

だからと言って休む訳にもいかない。このままでは満足な止血が出来ず、そのまま死んでしまう恐れもあるし、スティングは彼ら以上に重症のようだ。時は一刻を争うのだろう。

アウルはともすれば失いそうになる意識を何とか保ちながら、一番聞きたかった事を聞いた。


「じゃ・・・ぁ、キラ、は・・・・・・・・?」


そう言うと、途端にステラの瞳から涙が溢れ出した。

そして力尽きたように膝を付き、ただでさえ苦しそうだった息を更に苦しそうに吐き出し、呟くように答えたのである。


「いな、い・・・・・。キラ、いない・・・・。もうずっと、探、し、てたの、に・・・・・・。いない、の・・・・・、どうしよ・・・・、アウ、ル・・・・・・」


それは、一番聞きたくなかった―――とてもではないが信じられない言葉。

アウルも呆然と膝を地面につけ、のろのろと動く方の腕を動かし、ステラの肩を揺さぶる。


「嘘、だろ・・・・? おま、え・・・抜けてるか、ら、見逃してるん、じゃ・・・・?」


最後は、血痰混じりのセキを吐きながらの言葉になってしまったが、ステラにはちゃんと伝わっていた。しかし彼女は首をふるふると振るだけで、もう何も言わない。


アウルは泣きつづけるステラを見ながら、先ほど見た光景を思い出していた。ぽっかり空いた焼け野原と、多くの焼死体。アレはいったい何を意味していたのだろうか。



・・・・・・・・・・・何故、敵はあんな大規模な爆発を起こしたのだろうか。


・・・・・何を、標的にして・・・・・?



スティングは出血が多いのだと、ステラは言っていた。なら彼は、あの爆発には巻き込めれていない。万が一巻き込めれていたならば、傷口が焼かれて出血など起きないはずなのだから。

そして、アウル自身も、ステラも火傷は負っていなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・なら、誰が標的になった・・・・・・?



いつの間にか、アウルの目からも涙がこぼれていた。

信じたくない、そんなはずはないのだと・・・そう叫び主張する自分がいる一方、彼は死んだのだと、跡形も無く焼けて死んでしまったのだと、そう諦めている自分もいた。


だがアウルは一縷の望みをかけ、ステラに言う。


「もし、かした、ら・・・・、先に、戻ってる、の、かも・・・・・。スティングの、所まで・・・、案、内しろよ。僕、運んでくから・・・・・。」


ステラを安心させるようにわずかに微笑みながらそう言ったが、彼の目からは止めどなく涙が零れているせいで、あまり意味をなしていない。

ステラはやはり泣きながら、ゆっくりと立ち上がってスティングの元へと向かう。

アウルは彼女の背を追いながらも、やはり涙を止めることは出来ずにいた。







「戻ってきてはいない・・・・・。まさか、あの化け物が死んだ!?」


重症の体でこれまた重症のスティングを背負い、半日かけて戻ってきたアウル達を出迎えたのは、そんな言葉だった。

エクステンデットと呼ばれる自分達専用のメディカルスタッフに、キラが戻ってきていないか聞いたところ、彼らはそう返したのだ。

一人がそう呟くと、他の者達も同じ言葉を繰り返す。「化け物が死んだ」「死んだ」「死んだ」、と・・・・。


その言葉を連呼される度、アウルの中で何かが壊れていった。多分それは、彼の背にいるスティングと、力尽きてうずくまっているステラも同じ。

担架で3人別々に運ばれながら、アウル達は無表情で涙を流しつづけていた。

そしてそれを、珍しい物でも見るかのように見ていたメディカルスタッフの内一人が、ぽつりとこう呟いた。


「あぁ、これじゃぁ記憶を消した方がいいな。」


と。アウルはその言葉の意味を、瞬時に察知した。今こうして落ち込み、無気力に涙を流している自分達は、“道具”として使い物にならない。だから、不要なモノは消して、使えるようにしようと言っているのだ。

その“不要なモノ”が人だろうが、記憶だろうが、彼らは構いなどしない。

その言葉は絶対に実行されるだろう事を察し、アウルは震える手で近くにいた者の白衣を掴み、必死に言ったのだった。


「消さない、で・・・・。お願い、だ、から、あいつの記憶は、・・・・消さ、ないでく、れ・・・・!」


忘れちゃいけないんだ。忘れたくないんだ。唯一残った、大事な大事な思い出なんだ・・・・!


だがその切実な言葉を、無慈悲な大人たちは聞こうともしなかった。





(あとがき)
暗い・・・・(滝汗)
アウル視点で、12話の戦いからどうやって生き延びたのか漸く判明。

お互い、死んだのだと勘違いしていたのですね。悲しいな・・・・Uu  



 
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