「     」
by Tinker*



<設定>
○ 一話完結型。各話に関連無し。
○ フレキラ
○ 死にネタ上等
○ シリアス又はダーク。ギャグ皆無。
○ 独白多し。一部意味不明かも。





右手に銃を、左手には護るべき君を。別れの言葉すらなしに、君は目の前でいなくなって、こんな血にまみれた両腕で、あなたを抱き締めるなんて出来ないけれど出逢ってはいけなかったのだと、立ちこめる硝煙が教えてくれた。始まりなんて、くだらなすぎて、きっともう誰も覚えてなんかいなくて












右手に銃を、左手には護るべき君を。



右手に銃を、左手には護るべき君を。

両方にそれを持ち続けるのは、苦痛以外の何物でもない。

けれど僕は、その状態を維持しつづけなければいけなかった。


右手でMSを動かし、同朋をただひたすらに屠る。

軍に属していようが、訓練も何も受けていないこの身で、多くの“敵”を殺すのだ。


その苦痛をわかってくれる者が、果たして幾人居るのだろうか。


誰もが自分のことでいっぱいいっぱいで、僕の事まで気にすることはない。


それでも、別にいい。僕には一人でも、「護る」と言ってくれた人がいるから。

例えそれが偽りで塗り固められた言葉だろうと、確かにそう言ってくれた。

それだけで、十分だったんだ。



今日も今日とて、銃を片手に人を殺す。

殺して帰って来て、大人達に褒め称えられて。それによって自分の罪を再度自覚して。

そうして、また君の元へ向かう。


そこでまた褒められて、けれど君の瞳に浮かぶのは、畏怖と狂気で。

その感情を浮かべたまま、君は僕を抱きしめる。きっと僕も同じような瞳をしているのだろうけど、それに気づかなかった振りをして、抱きしめ返す。


抱きしめあって、壊れあう。


鎖で僕の左手と繋がっている君と、僕はいつ離れるのだろうか。

きっと離れるその時には、僕はこの世にいないのだろう。


右手に銃を、左手には護るべき君を。


君を抱きしめ続けることが、僕の戦う理由になる。

銃を握り締めつづけることが、君と僕を繋ぐ理由になる。


いったい、僕らはいつになったら開放されるんだろうね。

お互いを雁字搦めにした、この悲しい鎖から。




それでもきっと、いつまでもこのまま



















別れの言葉すらなしに、君は目の前でいなくなって、



無神論者だ、僕は。

けれど思わず信じていない神を罵りたくなる。




戦後、丘の上で花畑を見つけた。

勿論オーブ本土で、だ。三隻同盟に所属していた者の多くが、ここで身を寄せ合って生活をしている。


果てのない、負の感情だけを生み出す戦場から、僕たちは帰ってきた。

各艦を降りたもの達は、戦争が終わったことを喜ぶよりも、失った者達を悼んだ。


そして、僕もその一人。


あの、最後の戦いで。僕は大事な人を失った。

光の無い宇宙で、その人は炎に包まれて逝ってしまった。記憶に残る姿と、全く変わらない有様で。

“彼女”を直接見たのは、もう一年近く前になるのだろうか。


まさかそのまま永遠の別れを迎えるとは思わなかったから、随分と冷たく接してしまった気がする。

色々なしがらみから抜け出せたと思って、その時は僅かにでも喜んでしまったけれど。



何故あんな別れ方をする必要があったのかと、信じても居ない神を罵りたくなる。


“彼女”が目の前で炎に包まれて、宇宙を漂う塵と化す過程を、なぜ見なければ成らなかったのだとか。

人を恨む虚しさを知ったはずなのに、思わず怒りと恨みのまま仇を討ってしまったではないか、とか。


己の無力を棚に上げ、神を罵りたい。


けれど所詮、そんな事もできず、一人でその不満と怒りを消化するしか出来ないのだ。


「キラ?」


遠くでプラントの歌姫が己の名を呼んでいる。

彼女の存在はとても優しくて、ただ傍に居るだけでも、傷ついた心を癒してくれる。

けれども“彼女”を思い出しているとき、ラクスの存在は僕を戒める鎖と化す。

似ているわけではないのに、何故か酷く罪悪感を刺激されるのだ。



名を呼ぶ声がどんどんと近づいてきている。そのことに気づいて、思わず立ち上がった。

そしてそのまま声のする方向に足を進める。


その行動は、彼女にここにつくまでの無駄な労力を使ってほしくないからとか、そんな理由からではなく。

ただ背後に広がる花畑を、一緒に見たくはなかっただけ。



艶やかな真紅の花が一面に広がっている、その光景を。




あなたは―――痛みだけを、残して逝った



















こんな血にまみれた両腕で、あなたを抱き締めるなんて出来ないけれど



戦争が、終わった。

その実感もないまま、アスランに支えられるように立って、ストライクルージュから下りる。


着艦したのは一番近くにあったAA。カナーバ女史の演説を聞きつつ、キラは慣れ親しんだその空気に段々と体から力が抜けてきた。

度重なる戦闘と、先程泣いたせいだろう、体が重くてすごく眠い。


「キラ、まだ寝ないでくれ」


俺だって眠いんだ、という声をが耳元で聞こえ、寸でのところで意識を取り戻す。

そしてその言葉に、数年前アスランが言った言葉を思い出した。


泣くのって結構体力使うんだな、と妙に大人びいていた彼が言っていたのだ。

あれから彼の泣く姿を見たのは、先程の一回だけ。離れていた間に・・・そうだ、レノアが亡くなった時に、ちゃんと泣くことができたのだろうか。

そして今後、彼は自分の前で泣けるのだろうか。

わからない。しかし以前みたいに、弱音を吐けるのはお互いだけという関係ではなくなった気がする。

そんな子どもじみた小さな世界にいた自分達は、人々の住まう本当の世界という物の厳しさを知ってしまったから。


そして何より。

お互いを殺そうとした、その事実は何時になっても消えぬまま、お互いの間に薄い壁を作りつづけるのだろう。


戦争は終わった。

けれど何故そうなる。そんなひび割れた関係に、共闘し戦いが終わっても尚。


・・・・それが人を殺し、自分を殺し、友を殺そうとした罪なのかもしれない。


寝ないまでも、ぼーっとしながらも自嘲していると、徐に体を支えてくれていたアスランが僅かに身じろぎした。

不思議に思って彼の方に視線を向けてみると、アスランは、いや、隣にいたカガリも、ただ一点を見て固まっていたのだ。


「・・・・・・あいつ・・・・・。」


カガリが戸惑ったように呟く。その視線は格納庫の出入り口にあった。

自然と、キラもそちらへと視線を向けた。

そして、言葉も無く瞠目する。


「・・・・・・・・・キラ!!!」


あぁそうだ、彼女を戦闘中AAに連れて来たのは自分ではないか。


「・・・・・フレイ・・・・・・・。」


赤い髪を振り乱し、涙を流しながら突進してくる少女。以前と何かが違う、そんな気がした。

どうやら泣いている少女の存在に戸惑っているだけらしいアスランから離れ、一歩踏み出す。

するとそれを押し戻すように、胸に少女が飛び込んできた。


「キラ・・・・・! 私、私・・・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・フレイ・・・君が無事で、よかっ・・・・」


最後は、言葉にならなかった。彼女に抱きついて泣く癖でもついてしまったのだろうか。

いったいどっちがしがみ付いているのかわからない状態になりながら、二人してしばらく泣いた。

すると斜め後ろでアスランが間抜けな声を上げたのだ。彼は自分と彼女の関係も、彼女が誰なのかすらわからないのだから仕方ないのかもしれない。


そんな事を頭の片隅で思いながらも、キラは泣き、そして後悔し続けた。


そしてある、決意をする。


自分は沢山の人を殺した。もう両手は真っ赤っかだ。

だからきっと、コレで最後。

貴方を泣かしたくなくて、汚したくないからこそ、次は無い。


けれど、けれど。


最後にするから、抱きしめさせて欲しい。

その存在が嘘ではないと、今だけは、どうか確かめさせて。




夢でも幻でもなく、ここにいる



















出逢ってはいけなかったのだと、立ちこめる硝煙が教えてくれた。



撃たれた。


戦闘を終え、与えられた自室に戻った途端の出来事だった。

頬を伝うぬらりとした液体を拭って、キラは己のこめかみを傷つけた凶器を見やる。

硝煙を僅かに上げているそれは、軍支給の本物の拳銃。

それを無感動に確認して、ゆっくりと視線を上げていく。そして漸く、凶器を持っている者の顔を視界に入れた。

目が合った途端、彼女はあからさまに怯えたような表情を浮かべたのが、少しだけ悲しい。


悲しいのに思わず微笑むと、それをどうとったのか。彼女は下ろし気味だった腕を再度目線の高さまで挙げ、キラを睨んだ。


「何やってるのよ、あんた・・・・・・!」


灰青の瞳は負の感情で歪められていた。

ヘリオポリスに居た頃の彼女は、もういない。

蝶よ花よと育てられ、溌剌と動き回っていた明るい彼女は、もう何処にもいなかった。


そしてその頃のキラも、もう何処にも存在しないのだ。


「今すぐMSに戻りなさいよ・・・。行って、ザフトなんかをこの艦に入れさせないで!!」


先ほど敵軍に投降したこの艦は、あと少しすれば敵兵に押し入られる運命にある。

無論地球軍の軍服を纏っている彼らも、彼らに連行される未来が待っていた。

ザフト・・・否、コーディネイターを毛嫌いしている彼女には、それは耐えがたい苦痛であろう。

だからこそ、彼女の言い分も理解できる。キラを最後まで武器としか思わなかった彼女の言葉でも。


こうした対応を取られるとわかっていながらも、彼は限られた自由な時間を彼女に会うために使った。


・・・おそらくこの後、キラは他の少年兵達とは別離され、下される対応もまた違ったものになるだろう。

それは、必然にも似た予感。

つまり、こうしてフレイと会話をできるのも、この機を逃してはないものだと思ったのだ。

彼には、彼女にどうしても伝えたい言葉があった。だからこそ今、こうしてここに居る。


「ごめんね、フレイ。」


こめかみから伝った血が、目に入って痛かった。

けれど微笑を引っ込めることは出来ず、キラは怒りと苛立ちが宿りだした瞳を見て、続ける。


「ごめんね、ありがとう。」


再度の謝罪の言葉に続けられたのは、感謝の言葉。

銃を突きつけられているこの状態で言われたそれは、余りにもフレイの予想を裏切っていた。


だからこそ、彼女は目を見開いて動きを止めた。

その隙を見て、キラは銃を奪い取る。熱伝導の良い銃筒は、まだすこし熱い。

けれど気にせず、彼は未だ呆然としているフレイをじっと見て、やはり微笑んで再度言う。


「ごめんね。」


微笑んでいる彼の頬に、再度血が伝う。そしてそれは、まるで血の涙を流しているかのようにも見えた。

そう思うと同時に、フレイの体に悪寒が走る。


「やめ・・・っ」
「・・・・・・ごめん。もう、これ以上は耐えられない。」


捕虜として捕まった後、死刑を言い渡されるにしろ、地球軍に戻されるにしろ、ザフトで使われるにしろ。

どの道ありすぎる力を持つ彼に残されたのは、戦う道か死のみ。


先ほどまで戦っていた相手はガモフとヴェザリウス。当然この後制圧に来るのは、その艦員だ。

その中には絶対に、親友の姿があるはずだけど。あわせる顔など持っている訳が無い。


だからこそ、彼が選んだのは、「逃れる」ということ。





その日、二度目の銃声が、その部屋に響き渡った。

カラカラと音を立てて転がっていく銃は、まだ硝煙を立てている。

それを無意識に目で追いながら、フレイは目を見開いたまま涙を流すしか出来なかった。




何故、こうなってしまったのか



















始まりなんて、くだらなすぎて、きっともう誰も覚えてなんかいなくて



一つずつ、あるいは複数一気に。

敵の、コーディネイターが乗るMSが破壊されていく。

どれもこれも、壊していくのはトリコロールのMS。

支援機なんて必要としないとでも言いたげに、たった一機で敵を滅ぼしていった。

悪魔。敵味方問わず、この戦いを見た者からそう呼ばれているのを知っている。

体術も使うそれは、すでにMSの戦い方ではないと誰かが言っていた。


むしろあれは、獣だと。


そう、あれは寂しくて、けれど生きたくて、自ら鎖につながれた憐れな獣。

ただ本能で敵を屠り、鎖を持つ飼い主のご機嫌を伺う。

哀れ、憐れ、その飼い主の偽善にも気付かない。


「馬鹿じゃないの」


それは、誰かに対して言った言葉ではない。


「ホント、馬鹿」


けれど誰を指して言っているかなんて、決まってる。

紫色の目をした、ただの可愛い男の子と思っていたあいつ。

憎い、憎いコーディネイターの。


可哀想な同朋殺し。


でも同情なんてしてやらない。だってコーディネイターなどあっては成らない物だから。

むしろ滅びるのが当然で、あいつは当然のことをしているだけ。


憎い、憎いコーディネイター。

けれど何故、私はあの子にその役目を与えたのだろうか。

あんな、弱い子どもに。

何が切っ掛けだったか。


・・・・・まぁいい、そんな事。


あいつがコーディネイターだから。その理由だけで十分だ。




もうすでに、何かが狂ってしまったから







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