「     」
by Tinker*



<設定>
○ 一話完結型。各話に関連無し。
○ フレキラ
○ 死にネタ上等
○ シリアス又はダーク。ギャグ皆無。
○ 独白多し。一部意味不明かも。





晴れすぎた空の下で、僕らは一体何をしているのだろう?英雄と人殺しの関係此の手で殺したのは誰かの大切なひとだったもう止めることも出来ない侭、機械のように引き金を引き続ける薄れゆく意識の中でひたすらに想うのは、穏やかなあなたの笑顔












晴れすぎた空の下で、僕らは一体何をしているのだろう?



アークエンジェルの降板から見える空は、よく晴れていた。

今纏っている軍服と同じ色だな、なんて思って。そして。


数歩離れた所にある気配に嘆息した。


逃げられない。逃げたい。

そんな風に思う自分が情けなくなった。


いったい彼女は何を考えているのだろう。


そして僕は、いったい何をしなければいけなかったのだろうか。



*****



他の人はただでさえ少ない人員を補うため、必死に働いているというのに、キラは降板で何もせずただ寝転んでいた。

性格上“大の字”で、は無理だったらしい。

縮こまるように横を向いて寝転び、時折物憂げな仕草で仰向けになる。

そうすると太陽の光が眩しいのか、目を眇めて腕でその光を遮った。


その姿は、まるで泣いてるように見える。彼は泣き虫だから、あながち間違っていないのかもしれない。


フレイは無表情でキラを観察しながら、ゆっくりと軍服の胸元をくつろげた。

今は赤道の真上に居るせいで、かなり気温が高い。しかし暑いから服をくつろげた訳ではなく、ただ自分の魅力を高めるための行動だった。


魅力を高めて、キラを誘惑するための。


あんたは一生自分の魅力に、体に、優しさに溺れていればいい。

そして一生、自分に尽くせばいいのだ。


視線の先で寝転んでいる少年に内心でそんな言葉をかけつつ、どんどん軍服を体からはがしていく。下にはTシャツと下着しか着ていないが、気にしない。

どうせ見るのはキラだけだ。ここには今、彼しかいないのだから。


しかしふと、疑問に思う。

何故キラはこんな人気の少ない降板になんて場所にいるのだろうか。


海が物珍しかった当初はともかく、忙しい上紫外線を危険視している他の者達は、もう滅多にそこに近づかないのだ。

コーディネイターは紫外線が気にならないのだろうか。そういえば彼はよく降板にいるのに、全く日焼けしていない。

少し羨ましいな、と頭の片隅で思ったが、すぐに思考は切り替わった。

人気の無い降板にいるのは、一人になりたかったからだろうか。たしかこの前も忌々しいMSに一人篭っていた。


・・・・・・・一人になりたい? 馬鹿な考えだ。どうせ最後には自分の胸に泣いて縋って来るくせに。



彼女は気づいていない。いや、気づかないようにしていた。

その考えがすでに想像でしかないことに。

キラの心が彼女自身から離れかけていることに。

そして徐々にだが、“確立した自我”を持ち始めていることにも。

ある二人の少女によって、彼の心が変化している事を、フレイは気付かない振りをしているのだ。



漸く脱ぎ終わった服を腰に巻き、一歩踏み出した。


「キラ? またこんな所にいたの?」


我ながら媚びたような声だ、と思う。

けれど止めることは無い。もう、止められない。


「・・・・・・・・・・フレイ・・・」


もう、キラは辛そうな顔しか己に見せなくなった。笑顔なんて持っての他。いつしか泣くことも無くなり、ただ自分を辛そうな顔で見る。


今更同情しているのだろうか。それとも徐々に不恰好さを醸し出してきたこの関係を、自己憐憫の目で見ているのだろうか。

どちらにせよ向けられて気分のいい物ではない。けれど気づかない振りをして、構い倒す。


「日に焼けるわ。部屋に戻りましょうよ。」


にっこり笑って。

それがどこか空虚な笑いだと言うことを、自分で気づいて。

そしてどこかで、こうしてキラと話せる事がただ嬉しいと思う・・・そんな自分が居ることにも、気づいてはいたが。


―――――やはり最後には気づかない振りをした。




見たくないものは見ないでいれば、幸せなままだから



















英雄と人殺しの関係



「昔からよく言うよね。『一人殺せば犯罪者、千人殺せば英雄』って。そんな感じの言葉。」
「・・・・キラ・・・・?」


戦いが終って、政治的な理由で参加した連合主催のパーティー。

煌びやかな会場では誰もが、内心はともかく表面上は友好的な態度を崩さない。

第三勢力の主力であったMSのパイロットとして、表に出ないわけにはいかなかったキラは、カクテルグラスを片手にぼそっとそう呟いた。

その視線の先には、親しげな様子で話に華を咲かしている、各勢力の首脳達。

腹の中では絶対に罵り合っているだろうに、よくもまぁあそこまで誤魔化せたものだ。


「さっき、どっかの馬鹿が僕らの事を『英雄』と言っていたよ」


その言葉を聞き、途端に顔を曇らせるアスラン。キラの言いたい事が解ったのだろう、どこか遣る瀬無い面持ちで視線を巡らせた。

するとどうだろう。分かっていた事だが、幾つもの欲にまみれた瞳と目が合った。


「・・・・・・・英雄、ね。」


そうして担ぎ上げ、自分の勢力に取り込もうとでもしているのだろうか。

戦争は終ったのに、やはり誰もが力を欲する。しかもアスランもキラもまだ若いというより幼いので、今の内に取り込んでおけば・・・と考える者は少なくない。


こうしてそんな視線にさらされるのも、英雄と呼ばれるのも全て、彼らが単体のMSにしては有り余るほどの戦果を上げ、結果的に物事が丸く収まったからこそ。

しかしその土台となったのが、自分たち自身が持つ多くの戦闘経験だという事を、彼らは十分理解していた。

戦闘経験、それは言うなれば、敵をその手で屠った回数。幾度となく人を殺し、だからこそ殺さずに済む方法を知り、殺しを厭って人々を救いたいと思ったのだ。

だが幾ら結果が良くなっても、彼らが為したのはやはり“戦闘”だけ。


「少し前まで“悪魔”と呼ばれていたのが嘘みたいだ」


キラの口元に浮かぶのは、一見苦笑にも見えるが明らかな嘲笑。

以前キラは“連合の白い悪魔”と呼ばれ、敵味方問わず恐れられる存在だった。それが今ではどうだ。


「・・・・・俺達は、核からプラントを救った。」
「少数を殺して多数を救ったのが、“英雄”と“悪魔”の違いだとでも?」


結局人を殺した事にかわりはない。ただその結果、守れたものが沢山あっただけで。

アスラン自身キラと同じように思っているだろうに、慰めようとしているのか。

今度は本物の苦笑をして、キラはアスランの肩を軽く叩いた。


「ゴメン、ただの八つ当たりだから。答えないでね。」


答えなくていいよ、ではなく、“答えないで”。

答えは聞きたくなかった。それがイエスであれノーであれ、言われてしまえば内心を吐露してしまいそうだから。


(見ず知らずの多くの者を救って英雄と言われるより、たった一人だけを助けて悪魔と呼ばれたほうがまだマシだった)


目蓋の裏に焼き付けられた、最後の戦いで守りきれなかった少女の最期が、浮かんでは消えていった。




結局はどちらも、他者の屍の上に立っている



















此の手で殺したのは誰かの大切なひとだった



何故、繋がってしまったのだろう。

キラは力なくコックピットの座席に寄りかかりながら、そんな事を思っていた。


それから何分たった頃だろうか。CICに座るミリアリアから通信が入った。

しかしそれを無視して、自分の両手を見る。

サイズの合わないパイロットスーツは、これまでの所業に反して真っ白だった。

何だかそれが可笑しくて、少し笑ってしまう。

しかしその笑みがどこか力ないのは、自分でもわかる。すると不意に、いったい自分はいつからちゃんと笑えなくなったのかと疑問に思った。


人を初めて殺した時からだろうか。

いや、違う。その頃はMSを撃破しても、人を殺したのだという感覚はなかった。


・・・そうだ。たぶん、砂漠の虎と呼ばれる男を殺したときからだと思う。


直接会話をして、疑問をぶつけられた。自分にもわからない、果てのない疑問を。

だからだろうか。彼の存在はキラの中で膨れ上がり、彼の乗ったMSを撃破したとき、漸くあの機械人形の中に人がいた事に気づいたのだ。


それはあの隊長機のみではなく、彼がこれまでに数え切れぬほど爆破してきた機械の中にも、ちゃんと人が入っていたはず。


しかしそれがわかっていても、殺すことをやめる事は適わなかった。今更、戻る訳にはいかなくて。


そうして戦闘行為を続けて。相手が間違えたボタンを押したのか、それとも自分が押してしまったのかはわからないが、敵機と通信が繋がってしまった。


それはちょうど、彼の手によって敵機のコックピットを貫いた瞬間のことで。


次の瞬間にはノイズに切り替わってしまったが、その単語はしっかりと聞き取れた。


それは、愛しさと、無念さを織り交ぜた声で呟かれた、女性の名前で。


それを聞いた途端、キラの体は急激に冷たくなった。

自分がどれほど罪深い行為をしてしまったのか、再確認して。血で濡れているはずの両手を見て、笑って。


色々なものが壊れ始めていることを悟り、また笑う。


何故か、また目から涙がこぼれてきた。


けれどそれを受け止めてくれる女性との関係もまた、壊れ始めていて。

いや、最初から壊れていたはずだけど、それに気づかない振りをしていたのだ。



――――ねぇ、フレイ。

もし僕が殺されたら、君は僕の為に泣いてくれるのかな?




こんな自分でも、誰かの大切な人になりたくて



















もう止めることも出来ない侭、機械のように引き金を引き続ける



いったい何処で止めればよかったのかと、何度目かも分からない疑問を浮かべる。

視界には沢山のMSとMAが漂っていた。

果ての無い宇宙を埋め尽くさんばかりの、それらの残骸が。


キラは自分に向かってきたMSもMAも、容赦なく戦闘不能に陥らせた。

そこに、最早意志は無い。

ただ護らなくてはならないと言われたから、そのとおり護っているだけで。

・・・・何を護っているのかも、わからずに。


最初は、核からプラントを護るという明確な目的があった。

けれど今はもう、既に何のために戦っているのかも分からなくなっている。

プラントは死守した。核を持って突っ込んでくる部隊はもういない。

ならば敵はいないはずだ。なのに銃を撃つ手は止まらない。


「何で、僕は」


こんなことをしているのだろう。


いったい何処で戦うのをやめていれば、今自分はこの場で銃を撃ち続けずに済んだのか。


そんな風に、気を抜いてはいけないはずの戦場の真っ只中で、考えていたからなのか。

あと一歩のところで、一番護りたかったはずの存在を奪われてしまった。


言われるがままに戦って。護るべき存在を忘れてて。


その結果が、コレだ。


「本当は、最初から君だけを護るべきだったのにね・・・」


憎しみという戦う理由に染まる前の、一瞬。

炎に包まれて儚く散っていく彼女に、懺悔するように呟いた。




全ては、何かを放棄してしまった自分のせい



















薄れゆく意識の中でひたすらに想うのは、穏やかなあなたの笑顔



気付いていましたか。


まだカレッジに通っていた頃の話です。

私はいつも一緒にいるミリアリアとトールという恋人達が、羨ましくてたまりませんでした。

きっと誰も彼らの間に入る事など出来ないのだろうと、漠然とそう思っていました。

けれど何時からでしょうか、そんな二人と当然のように一緒にいる、貴方の存在に気付いたのです。

私はあの二人の間でよくもまぁ平気でいられると、正直貴方の図太い精神に呆れました。


始めはそんな感情だったのです。

でも気付いたら、呆れは興味に変わり、興味は好感に変わっていました。

それでもどうしてでしょうか、私はあなたにどうしても関わりたくありませんでした。


もしかしたら、その穏やかでどこまでも透明な笑顔が気に食わなかったのかもしれません。

貴方を見ていると自分の汚いところまで見えてしまう気がして、怖かったのかもしれません。

嫌いという訳ではないはずなのに、どうしても近寄ろうとは思わなかったのです。


でも気付いたら、私は貴方の姿を目で追っていました。

その穏やかで透明な笑顔が見たくて、気付いたら姿を探していました。


そんな風になあなあに過ごしている内に、日常は崩壊しました。

気付けば私は、貴方のことを恨むようになりました。


そしていつの間にか、貴方の顔に私の見たかった笑顔は浮かばなくなりました。


「・・・・・・・・・自業自得、ってやつよね・・・・」


何故もっと素直になれなかったのだとか、何故もっと勇気をださなかったのだとか。今更後悔してみても本当にもう、遅い。

そもそも気に食わないんじゃなくて、彼が好きでどうしようもなくて。なのに積極的に動かなかったせいで接点がまるでなくて。その接点を作ろうとしても拒絶されるのが怖くて。

結局何も出来ないまま、関係がこれ以上ないほどこじれた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・でもやっぱり、好き、だったのよね・・・・」


目から零れた途端じゅっと蒸発していく涙は、まるで自分達の悲しい関係を表しているよう。

念願が叶ったのに正しくも綺麗でもなかった、排他的な関係を。


そしてその結果消えていった、彼の笑顔のように。


「もう一度、見たかった・・・」


あの穏やかで透明な、彼の笑顔を。


けれど願いに反して、自分を包む炎の先では、彼が泣いているような気がした。




笑っていて欲しいと願うのは、ワガママですか







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