<<幼馴染みに10の御題>> By「Tinker*

@アスキラ悪友設定 Aキラも黒けりゃアスランも黒い B各話に関連なし




01:幼馴染みと書いて腐れ縁と読む僕らの関係。(現代パラレル)02:あいつのことなら黒いトコから黒いトコ迄存知ております。(種無印)03:だって、お前のこと一番分かってるの俺だし(種無印後)





















01:幼馴染みと書いて腐れ縁と読む僕らの関係。(現代パラレル)


「アスラーン、今度の夏休み海でバイトしようよ、う・み・で♪」


終礼のチャイムが鳴った途端、教室の入り口から何を突然叫んだかと思えば。


「海ぃ!?」


幼馴染の突拍子の無い発言には慣れているつもりだが、何もそう大々的にバイトとか叫ばないで欲しい。

とりあえず自分達が通っている高校は、バイト禁止なのだから。

しかしキラの横をすれ違った科学の教師は、神経質そうな顔に呆れだけを浮かべて、何を言うでもなく去っていってしまった。


あぁ先生たちももう、こいつの突拍子の無さと(ちょっと人工的な)天然さには慣れてしまったらしい、とか同じような心境で思う。


「キラ・・・」
「ん?」
「いいから何時までも入り口にいないで、教室に入って来い。それから大声でバイトとか言うな」


やはり違うクラスの身だからと、遠慮しているのかそうでないのか。むしろすでに自分のクラスメート達はキラもまたこのクラスの一員と認知しているから、そんな物は必要なさそうだが。


「失礼します」


本人もそれをわかっているだろうに礼儀を忘れないのは、偏にカリダ小母さんの教育の賜物だろう。

そんなこんなで「ようこそ〜」だの「よく来たねぇ、キラ君」だの進行途中にいるクラスメート達に声を掛けられては返しながら、キラはどこかうきうきした様子でアスランの机の前に陣取った。


「で、海?」
「そう、海。ライフセイバー募集中、日給はきっと僕らなら2万いく。これ以上良いバイトがある?」


求人情報誌を突きつけ、夏休みまでまだ一月近くあるにも関わらず、すでにやる気満々の様子で言う。

その様子に呆れながらも、突きつけられた求人情報誌にはしっかり目を通すアスランであった。

都合のいい事に去年の夏休みにライフセイバーの資格はとってある。仕事場となる海もそう遠くは無い。給料は、言わずもがな。


「乗った!」


にっと笑って求人情報誌を叩けば、キラも同じように笑って「よし!」と言う。

ならば早速連絡をつけなくては・・・! と携帯を取り出したアスランに、通りかかったクラスメートのミゲルが呆れたように口を挟んだ。


「キラもキラだけど、アスラン、お前もいい性格してるよな・・・・」


その言葉に、流石に学校からバイトの件で電話を掛けるのは拙かったか・・・と考え直す。一方キラはミゲルと暢気に挨拶をしていた。


「やぁミゲル」
「よぉキラ。しかしお前ら、ホント何をするにも一緒だよなぁ・・・・」


バイトとか、登下校とか、休日の過ごし方とか。

アスランも色々と思い当たる節はあるが、コレばっかりは仕方が無いのだ。

「だってなぁ」
「ねぇ」


キラと一端顔を見合わせて、最早諦めの境地でミゲルを見る。


「「もう一緒にいないと違和感がありまくりで」」


親同士が仲の良い幼馴染の特権と言うのか、物心つく前から何をするでも一緒だったから。

そう声を合わせて言うと、ミゲルは更に苦笑を深めただけだった。そうだろう、既に何度も言っているセリフだから、驚く物でもないのだ。


















02:あいつのことなら黒いトコから黒いトコ迄存知ております。(種無印)


「キラの性格?」
「そう、私達もまだ把握できてない気がするのよねぇ」


何故かマリューとフラガ、そしてアスランで暢気にお茶会をすることとなり、そんな話題になった。

アスランは「まさか態々アークエンジェルからエターナルに来たのは、そんな話をする為じゃないよな・・・」と懸念しつつも、やはり暢気に答えてみる。


「はぁ、なんと言えばいいのか」
「大人しいと思いきや気が強いし、かと思えば泣き虫だし。とか俺は思ってたんだけど、最近はまたどうも印象が違うように見えるんだよなぁ」


言いあぐねているアスランの助け舟のつもりか、先に自分が感じたキラの印象を言ったフラガに、アスランは意外な思いで聞き返した。


「キラが、大人しい?」
「「え?」」


心の底から「何言ってんだこいつ」という表情をしているアスランに、元地球軍二人は思わず疑問の声を上げていた。


「あ・・・アスラン君から見たキラ君は、大人しくないの?」
「あいつほど大人しいという形容詞が似合わない奴は居ないと思いますが」


今度はマリューとフラガの二人が、「何言ってんだこいつ」という表情に変化する。

何せ彼らにしてみれば、キラの印象と言えば――MIAになる前も後も変わらずに――「大人しい」という形容詞が一番最初につくのだ。

いくら幼馴染と言えど、彼の言葉を疑わずにはいられなかった。

そんな彼らの様子にアスランも何か気付いたらしく、はっと息を呑んで確認しだした。


「しかも泣き虫って・・・、そうか。もしかして貴方達は、キラの本性をまだ知らないんですね!?」
「「ほ、本性・・・・?」」


俄かに立ち上がったアスランは、ガシィッと少年らしからぬ握力でマリューとフラガの肩を掴むと、「なら!」と言って真剣な顔になる。


「知らない方が幸せです」
「「はぁ!?」」
「俺の知っているキラは、利益のためなら別人格を作り出してまで上手に世渡りをしますし、口調には一々毒と刺が混ざってるにも関わらず笑顔を崩さないと言う、腹黒いを通り越した黒すぎる人物です」


真剣かつ額に汗を滲ませ、どこか切羽詰ったような表情で言う彼には、流石のマリュー達も「嘘だぁ」とは言えなかった。

しかしその表情から疑っている事を察してしまったのか、アスランは身を乗り出して低い声で続けたのだ。


「オーブで俺達が再会した時、貴方達見ていましたよね? ほら、一回目のオーブ攻防戦のすぐ後です」
「あ、あぁ」


キラとアスランが親友なのに敵対していたと言う事実を知っても知らずとも、あれはなかなか感動的な場面だった、と内心でマリュー達は思ったが、余計な事を口にすると更にアスランが切羽詰りそうだったので(?)、賢明にもそれ以上は言わなかった。


「あの時、貴方達には聞こえなかったと思いますが」
「え、えぇ」
「再会した途端のあいつの第一声は、


今ここにいるってことは僕の下僕に戻るって事でいいんだよね?(真顔)


 ですよ!!!」


嘘つけぇっ!!!


そう言えたならば、どれだけよかったか。

アスランの相変わらず切羽詰ったような表情と、僅かに滲む涙を見てしまうと、内心だけでも頭ごなしに否定できなくなってしまった。


「そ、それはその・・・・」


引きつった顔でマリューがしどろもどろにでも返答をしようするが、いい言葉が見つからない。

と、そんな時。


「嘘つけ。僕はそんな事言ってないし、『俺と一緒に世界を掌握してしまおう(真顔)』って先に口を開いたのはアスランじゃないか」


という言葉と、ゲシッという音が。

声のした方へと視線を向けると、そこにはキラが・・・・・多分キラだと思われる人物が、アスランの背中を足蹴にした体勢のまま立っていたのだ。

ちなみに何故多分、と言いなおしたかと言うと、それは彼の表情がマリュー達が今まで見てきたどの表情とも違ったからだ。

なんと言うかその、背後におどろおどろしいオーラを背負った恐ろしい微笑、と言えばいいのか。

マリューとフラガが声も無く固まっていると、足蹴にされたアスランまで同じような表情をしてキラを振り返る。


「それに『もちろん、いいよ(真顔)』って返したのは誰だ」
「さぁ、誰だろう?」


初めて見るタイプの微笑を浮かべて対峙する少年たちに、マリューとフラガは得体の知れぬ恐怖に身を凍りつかせていた。


ちなみに。果たして何処までが真実で何処からが嘘だったのか、マリュー達に判断できるはずもない。


















03:だって、お前のこと一番分かってるの俺だし(種無印後)


ある日のこと。アカデミーへ赴き後輩達の指導をして来いという辞令が下り、キラとアスランは早速アカデミーに侵入していた。

侵入、と言ったのは、何も間違いではない。実は彼らが既にアカデミー内部に入っている事を、まだ誰にも知らせていないにも関わらず歩き回っているからだ。

というか、戦時中にどうやら改装が行われたようで、アスランがアカデミーには慣れているからと案内役を断った結果、連絡を取る前に見事迷子になってしまった訳である。


「へたれ、へたれ、へたれ、へたれ」


恨みがましいキラの声が、人気のない廊下に低く響き渡る。アスランは自己嫌悪に沈みつつも、勘を頼りに教官室へと無心に足を進めていた。

そして漸く当時教官室だったはずの位置にある部屋へたどり着き、しかしドアに貼ってあるプレートを見て愕然となった。


「アスラン」
「・・・・・・・・・・・」
「ここ、視聴覚室って書いてあるように見えるんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・素直に行き方を聞いちゃおうよ、もう。この部屋に入って教官に聞くでも、廊下にある内線を使うでも何でもいいから。変にプライド立てないで、君所詮はへたれなんだからさ」


最早宥めているのか貶しているのかよくわからない(いや、十中八九後者)のキラ言葉を受けて、アスランはがくりと肩を下ろした。


しかし彼は不意に聞こえてきた言葉に、思わず無言で目を見開いてしまったのだった。


「いいかお前達、フリーダムとジャスティスの姿をよぉく覚えておけ! 敵としてこいつらに会ったら戦うな、即逃げろ!!」


嘗てアスランにMS操縦を教えた教官の物と思われる怒鳴り声が、ドア越しにこちらにまで聞こえて来る。だが内容が自分達の機体の事だったので、反射的にアスランもキラも盗み聞きモードに入ってしまった。


「・・・・・・・・・・よくわかんないけど、あんな事言ってるよ、アスラン」
「・・・・・そもそも今俺達はザフト軍在中で、敵とかになる可能性は低いと思うんだが・・・」
「一旦僕ら離反してザフト軍も地球軍もザクザク倒して行ったからねぇ、説得力ないよ」


のほほんと突然の事にも柔軟に対応し、聞き耳を続けていると、熱中しているのか教官の怒鳴り声が更にヒートアップして聞こえてくる。


「この映像を見ればわかると思うが、もうこいつらとお前らでは次元が違う! お前達が一機倒す頃には、こいつらは十機は倒している!」


どうやら映像まで使っているらしい。しかし十機か・・・・・・ミーティアを装備していれば、普通のMSが敵機一機倒す頃には、少なくとも30機以上は倒していると思う。単機でもフリーダムなら、マルチロックオンシステムで一度に対多数の攻撃が可能だ。

そう思ってキラとアスランは同時に顔を見合わせ、思わず苦笑してしまった。客観的に見て、これでは確かに次元が違うだろう。


「ましてや一対一で戦うなんて馬鹿のする事だ! 一瞬で攻撃を無効化されて終わりだぞ!!」
「ですが教官、もしどうしても戦わなくてはいけない状況に陥ったら、どうすればよろしいのですか?」


映像を見て怖気づいたのだろうか、若干精彩に欠けた声で、誰か(訓練生である事はわかってる)がそう訊ねた。それはそうだ、敵前逃亡が許される状況なんて、そうそうあるはずがない。

その声に触発されたのだろうか、訓練生の不安げなざわめきが視聴覚室から聞こえてきた。どうでもいいがフリーダムとジャスティスの二機はもう、完全に敵扱いのようだ。

ははは、と二人で乾いた笑みを浮かべつつ(自業自得なので何も言えない)、例の二機贔屓らしい教官がなんと答えるのか興味が出た彼らは、更にドアに耳を近づけた。


「ジャスティスはどちらかと言えば接近戦重視の機体だから、不意打ちでの“超”遠距離攻撃ならなんとかなるかもしれん。が、避けられる確立は9割以上! 後は接近戦にジャスティスの数倍は強い機体でもなければ、まず勝ち目はない! 大人しくやられてとっとと帰艦しろ。命まではとられないだろうから、そこら辺は安心するがいいさ」


何だこの無責任な発言は。キラは引きつった笑いを浮かべてアスランを見るが、彼は「あの教官は本来もっと真面目で優秀な人なんだ」とため息を吐きながら言うので、「僕ら相手だし、仕方ないか」と返しておいた。

先ほどの話ではないが、自分達の力がどれほど非常識なのか、ちゃんと自覚はあるのである。


そんな彼らの会話など知る由もない教官は、更に無責任極まりない発言を重ねたのだった。


「フリーダムは、戦うならこいつ以上に速い速度を出せる機体が必要だな。ただしそんな速度を出すと間違いなく負荷に耐えられなくなって体が潰れるから、止めて置くように! こいつの速さの前では、遠距離攻撃も近距離攻撃も全部躱される。しかもその戦い方は見ての通り独特で、普通のMS操縦訓練を受けただけではまず相手にならない。MSの癖に体術は使うはクルクル回るは、マルチロックオンシステムを使いこなすは射撃は正確だは、ジャスティス以上に厄介な相手だ! 結論を言えば、こいつに勝とうなんて思うな。ジャスティス同様大人しくやられてとっとと帰艦するしかない」


そこまで聞いていたキラは、耳をドアから放してアスランに言った。


「体術使うのってそんなに変?」
「普通は武器があるんだから武器を使う。ビームが付いている訳でもない手足での蹴りやらパンチやらアッパーやら背負い投げやらは、絶対にしないさ」


むしろそこまで接近戦になること事態がないのだから、そんな事をする機会もないのである。キラの場合は速さがある故に、敵に反撃される事無く至近距離まで接近できるのだが、逆に言えば彼のような速さがない限り、体術が使えるはずもなく。しかも恐らくキラは今最も速さを出せるMS乗りだ。彼以外できる者がいなくても、仕方がない。


ふーんと、納得しているのかいないのか、むしろどうでもよさそうなキラの返事にかぶさる様に、今度は何かを操作しているような電子音が聞こえてきた。

次いで聞こえてくる教官の声。先ほどの怒鳴り声とは違い、いくらか冷静になったというか、静かな口調だった。


「この映像を見ろ。この二機が連携を計ると、一機ずつ戦う以上に手が付けられなくなる。およそ死角も隙もない、流れるような連携の連続だ。お互いの機体の長所を生かし、短所をうまく補っている。だから少しでも勝機を掴みたいと思ったら、まずこの二機を引き剥がせ。いいな?」
『は!』


あぁ、漸く教官らしい言葉が出てきた。何故かその事にほっとしつつ二人同時にドアから離れる。もうこれ以上聞く必要がないと思ったのだ。

そうして踵を返して、大人しく内線で道を尋ねようとした、その時。


「まぁ待て、二人ともそのまま行っちまう事はないだろ?」


たった今まで引っ付いていたドアが開き、そこから大男が出てきて声を掛けてきたのである。

それは先ほどまで無責任な発言をしまくっていた熱血教官の声で、間違いない。アスランは姿でも確認してしまった。


盗み聞きしていた事に後ろめたい思いもある彼らは、思わず固まってしばらく教官を見てから、数秒後ぴしっと背筋を伸ばして敬礼を送ったのだった。


「失礼いたしました。お久しぶりです、教官。本日任務の為にこちらに参りました、アスラン・ザラです」
「失礼いたしました。はじめまして、同じくキラ・ヤマトです」


とりあえず取り繕ってみたが、少し遅かったかもしれない。教官の発言からも、盗み聞きしていたことがバレバレであるようだ。

それを肯定するように教官は目が笑っていない雄々しい笑みを浮かべ、キラとアスランの肩をギリギリと掴みながら「おぅそうかよろしくな」と言って視聴覚室へ引っ張って行く。どうでもいいがかなり痛い。

普段はこんなヘマしないのに、と二人とも心の中で涙を流しながら、最終的に状況を理解していないだろう訓練生達の前に立たされてしまった。

再び取り繕って格好よく訓練生達にも敬礼を送り、それから教官を見る。彼は大声でキラとアスランの名を紹介してから、最後にしっかりこう付け足したのだ。


「こいつらが今言った、ジャスティスとフリーダムのパイロットだ。アスランは今17だよな? ヤマトは?」
「同じく17であります」
「二人とも若いな」


ざわめきが、声にならないざわめきが聞こえる。それはそうだ、今の今まで散々フリーダムとジャスティスの脅威を見せ付けられていて、急にそのパイロットが出てきたのだから。しかも彼らはまだ歳若い少年達。これに驚かず何に驚けと言うのだ。


「よし、丁度いいから質問タイムと行くか。誰か質問のある奴は?」


しかしそんな訓練生達の驚きなんて何のその、教官はそ知らぬふりで強引に話を進めていく。非があるアスラン達には、その予定外の出来事にも異を唱える事ができなかった。自業自得である。


ところで、ここで問題が一つ浮上する。アスランとは違い野戦任官としてザフトに入っていたキラは、アカデミーの『いろは』なんて知らない。質問されても答えられない事が多々あるのだ。

なのにすぐさまに「はいっ!」と元気よく手を上げた訓練生の少年がいたので、キラが何かを言う前に、教官が迷わず彼を指差して質問の許可を下してしまった。


「お二人はよく連携を見せているようですが、コレは事前に打ち合わせとかしているのですか!?」


あぁそんな事か、と密かにキラが安堵の息を吐いた。どうやら先ほど見たらしい映像の影響だろうが、と思った所で吐いた息がピタリと止まる。んんん? と思いながらアスランを見れば、彼もキラ以外が気付かない程度に目を見開いていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・連携の打ち合わせ、か・・・・・」
「どうかしたのか?」


不意にアスランが考え込んだ事を不思議に思ったのだろう、教官が訝しげにこちらに視線を寄越してきた。それにはキラがにっこり笑って応え、一呼吸置いた後にアスランに確認を取る。


「君の記憶の中に、“連携の打ち合わせ”シーンはあった?」
「ないな」


考え込んだ素振りの割に、即答だった。当然だ、あれはただの振りである。言わばパフォーマンスと言うべきか。

そもそも、“連携の打ち合わせ”という概念すら彼らの中に存在していなかったのだ。故にそれを指摘されて、二人して少し驚いてしまったのである。

しかしそれで納得できないのがその他大勢だ。質問者の少年は当然、教官まで身を乗り出して続きを促してきた。


「じゃぁ、どうやってあの連携を成功させているんだ!? 何か合図とか、そんな事もしてないのか!!?」
「合図、でありますか? 合図・・・あぁ、『キラ!』『わかってるよ』か『アスラン!』『あぁ』って言う掛け声はあるかな?」
「あれは合図か?」
「さぁ」


言ったはいいが無責任なキラの言葉に、アスランは思わず嘆息した。しかし何かしら言わねば訓練生も教官も引いてくれそうにないから、キラの気持ちはよく分かってしまったのだ。

一方一MS乗りとして許せない何かがあったのだろうか、熱血教官が目を血走らせて更に詰め寄ってくる。


「それで何故、あれほど完璧な連携ができたんだ!!」


完璧、確かに完璧だ。先ほど教官が言った通り、キラとアスランの連携には隙などどこにもなく、お互いの力を最大限生かしている事が傍目にもわかるほどだった。

しかし本当に、打ち合わせの経験など皆無で。さぁどう答えれば納得してくれるだろうかと、キラとアスランは顔を見合わせてから口を開いた。


「打ち合わせとかがなくても、わかるんだよね。相手が何を考えているのか、どういう流れに持って行こうとしているのか、自分が攻守どちらに回ればいいのか、とか」
「あぁ。そもそも戦闘中に打ち合わせする時間などありませんので。もう直感に近い感じで相手の次の行動を予測し、本能のまま動いているだけです」


その言葉に、誰もが信じられない、と言いたげな瞳でアスランとキラを凝視していた。驚愕の裏に隠れる感情は畏怖か、それとも憧憬か。戦闘の映像を実際に見た影響だろう、ここでは前者の方が多いようだ。

しかしそれすら慣れている。戦時中、戦いから戻ると出迎える者の中に、必ず何人かはその瞳に恐怖を宿した者がいる。味方である事が幸いしてか、殆どは憧憬と敬愛だったが。

だから更に重ねられた教官の質問にも、特に取り成そうともせずにありのままを伝え続けたのだ。


「それで、その予測が外れたことはないのか? 外れたらどうしようという、不安は?」
「不安なんてありません。逆に、絶対的な自信があるんです。俺は本人以上にこいつの事をわかっている、っていう。だからこそ迷わず判断して動くことができる」


先に答えたのはアスランだった。その自信満々な宣言に、おぉ、という訓練生のますます気圧されたような声が視聴覚室に響き渡る。キラはキラでただ一人やる気のない拍手を送っていた。

しかし彼もまた徐に自信ありげな笑みを浮かべ、幼馴染兼親友を見て言い返すのだ。


「その言葉、そっくりそのまま返すよ、アスラン。僕は君がどう取り繕うが、結局ヘタレで流されやすくて器用貧乏でその割にゴーイングマイウェーだって事をよぉく知っている」


・・・・・・・・って、ちょっとそれはこの場で言っていいのか。という訓練生達による視線での突っ込みを無視し、キラは引きつった笑みを浮かべているアスランが反撃に出る前に教官に視線を移した。

ここでアスランが言い返してきたら、最早収集が付かなくなる。自分が蒔いた種だろうが気にしない、所詮はキラもゴーイングマイウェー(=“強引”に“我道を行く”)。


喧嘩を売っているとしか思えない発言(日常茶飯事だ)を相棒にした直後、突如向けられた満面の笑みに怯えた教官は、何故か逃げ腰になってしまいながら「何だ?」と聞く。ちなみに既に彼の怒りは驚愕に消え、驚愕は恐怖に塗り返られていた。


「僕らは幼い頃から何をするでも一緒だったので、性格や行動パターンが大体わかっているから、というのもあるかもしれません。・・・ところで僕ら、教官室に行かなくてはならないのですが、ここからの道のりを教えていただけますか?」


前半は説明の続き。しかし後半は明らかに命令だった。懇願の形を取っていたが、彼の笑みがもうこれ以上ここに繋ぎ止めるんじゃねぇと物語っている。実は年の功があろうとも階級的にはキラ達と同じか下に当たる(キラとアスランは戦後特務隊へ移籍していた。特務隊は通常の階級・命令系統から外れている)教官に、それ以上文句など言えるはずもなく。

大人しく、しかし対面を気にして鷹揚に(そして従順に)その教官は教官室までの道のりを教えてくれたのだった。


+++


そうして、人気の無い教官室までの廊下を、今度は迷いなく進みながら。

キラは隣を歩むアスランの秀麗な顔を覗き込むように見て、少しだけ嬉しそうに口を開く。


「しっかし、恥ずかしい事を言うねぇ君も」
「事実だからな」


一方、答えるアスランは飄々としたもの。しかしその顔には微笑が浮かんでいて、キラと同じくどこか嬉しそうだった。


今まで意識していなかったが、予想以上に強い事がわかった自分達のつながりに、キラとアスランが何を思ったのか。それを知るのは本人達のみである。






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