「兄さ〜ん」

「おぅ、アル。久しぶりだな」

久しぶりにあった弟は、駅まで迎えにきた俺に向けてぶんぶんと手を振っていた。



とある週末





アルはエドに走り寄り、微笑んで言った。

「ゴメンね。せっかくの休みなのに。カイル君は?」

「今日は友達と遊ぶんだと」

そう言う兄の顔は、子供にかまってもらえなくて沈んでいる親ばかその物だと、思わず苦笑せずにはいられない。

しかしどうやら立派に父親を務めているようだ。たまにする電話での会話でも、よく出来たばかりの子供の話が話題に出る。アルもカイルのことは結構気にしていたので会話は楽しんでいたが、今思えばこうして顔を合わせて聞いた方が別の面でも楽しめたかもしれない、と思った。

エドはそんなアルの胸中など知りもせず、「こっちだ」と言いながらアルをいざなった。

 アルはてっきりそのままエド達の家に行くのかと思っていたがどうやら違うようだ。
エドはどんどん家がある住宅街とは逆の方向へ歩いていく。

 それを追いかけながら、アルはきいた。

「兄さん?何処に行くのさ。」

すると漸くエドが振り返り、にやりと笑って言う。

「ジュエリーショップ。お前の目的はそこだろ?」

と。アルはついつい顔の筋肉を固まらせてしまった。
それを見てエドは更ににやにや笑い、「俺をなめんなよ?なんたって賢者様だぜ?」とのたまう。

 そもそも、リゼンブールにいるはずのアルがなぜセントラルにいるのか。それは、3日ほど前の電話が始まりだった。


 いつも通りに互いの現状を報告し、カイルの話に花を咲かせたあと、アルが急に切り出したのだ。

『僕三日後にそっち行くから。一泊だけ家に泊めてくれない?」

「いいけど。ウィンリィと一緒か?」

『えぇ!?違うよ、僕一人!』

なぜかウィンリィの名に過激に反応したアルを疑問に思っても仕方ないだろう。エドは無意識に世界から提示された情報を受け取り、それから声を出さずに目を見開いて驚きをあらわにした。
そのまま勢いで「頑張れ!」とか言いそうになったが、なんとか抑えてエドは嬉しそうに言った。

「そうか。楽しみに待ってるぜ!!」

と。電話を切った後すぐにそこらへんに詳しい焔の中将にいい店を知らないか訊き、エドは弟の晴れの日の為に尽力を尽くそうと考えた。

 そう、アルはついに幼馴染の少女にプロポーズしようとしているのだ。
そして今日はその時渡す結婚指輪を買いに、はるばるセントラルまで汽車に揺られてやってきたのだった。

エドは少々二人の関係に焦れ出していたので、やっとか、と思いながらも非常に嬉しく思っていた。


 未だに固まっている弟をみて、エドはやわらかく笑った。

それを見たアルが顔から力を抜き、体の方まで抜いて力なくうなだれて言う。

「何でばれるのかなぁ・・・」

何にもヒントになるような事言ってないはずなのに・・・と言うアルに隠れて苦笑し、エドは「兄だからな。当然だ」と言った。

アルには一生、自分の秘密を言うつもりは無い。一人だけで十分なのだ・・・秘密の共有者なんぞ。

 そう思いながら、エドはアルの肩をぽんぽん叩き、「頑張れよ!」と明るく言った。


 どうでもいいが、この二人が会話をしているのは駅前、イコール店が沢山ある、イコール人通りが多い。

 かなり顔立ちの整った青年二人が、楽しそうに会話する光景は当然目立つ。しかも片方は戦時中毎日のように新聞にその顔を載せた、「鋼の錬金術師」である。道行く人の目は無意識に目立つ二人組みを追っていた。

だから顔を上げた途端沢山の好奇の視線にぶつかってしまったアルはまた顔を引きつらせる羽目になったが、エドはもう慣れてしまったのかけろりとしている。

 アルもその兄の様子を見習って、極力気にしないように努めた。
幸い記憶には無いが、自分もどうやら見られる事には慣れていたらしい。一度意識の外に追いやれば、他人の目なんぞ全く気にならなくなった。

 そうして今度はアルがエドを促し、「行こう」と言って歩き始めた。

エドは微笑んで、一目を集めながらもアルと並んで中将オススメのジュエリーショップへと向かった。


 着いたのは大型のジュエリーショップ。流石にオススメとあって品揃えは豊富で、それでいて趣味のよろしいものばかりだ。
熱心に選んでいるアルを置いて、早々に飽きたエドは店内をぶらぶらと見回っていた。

 そして、ふと惹かれるように目をやると、そこには一つの宝石があった。

 薄い赤とオレンジを混ぜたような色をして、やはり自分が作った石とは似ても似つかないほど清廉で可憐、それでいて美しい。
そしてその隣にはピアスが置いてあった。

 何気なくそれを見ていると、年上であろう女性の店員が頬を染めながら話かけてきた。

「プレゼントですか?」

その声にはっと顔を上げ、苦笑しながら答えた。

「いや、そうゆう訳でもないんだけど・・・」

すると、店員は「そうですか」と言いながらもエドが見ていたピアスをショーケースから取り出して見せた。

 そして穏やかな顔で、そのピアスを見ながら説明を始める。

「パパラチア・サファイアです。ルビーのように気力を高めてくれると同時に、サファイアですからやすらぎを与えてくれる宝石です。」

 そう言う店員の顔は確かに安らかな感じで、エドは不思議な魅力にかられてもう一度そのピアスをしげしげと眺めた。

「なんかホークアイ中佐に似合いそう・・・」

無意識にぽつりと呟き、確かにそうかも、と自分の言葉に頷いた。
 思えばホークアイ中佐にはいつも(無能を含め)お世話になっているし、なんか色々もらっても余りお返しできて無いしな・・・などと考え、数秒後に「これください」と言った。

 すると店員は驚いたような顔をして、嬉しそうに「ありがとうございます」と言った。

 その後さまざまな手続きをして、小さなジュエリーボックスに入っているピアスを手に入れたエドは、微笑みながら同じように指輪を手に入れてそれに向けて微笑んでいるアルの方に歩いていった。


すると、その時。

 覆面をした7,8人の男達が、銃を片手に侵入してきた。

そして「手を上げて一箇所に集まれ!」と言いながらも次々にショーケースのガラスを銃の柄で破壊していき、中にあった宝石を鞄に詰めていった。
その間も2,3人の手にある銃口は店にいた30人ほどの客達と店員に向けられつづけている。

 その鮮やかなほどの慣れた動きを見ながら、エドはのんきに言った。

「いろんな悪党に会ってきたけど、宝石泥棒に遭遇すんのは初めてだな・・・」

と。それを聞いた傍らにいた大柄な客が、エドの顔を見て驚いたように目をみはり、体を動かしてさりげなくエドを強盗たちの目から隠してくれた。 

 それに感謝しながらも、エドはまだ強盗たちに全く手を加えようとはしなかった。

そして5分後には全ての宝石を回収し終わった強盗たちが、民間人に銃を向けて高々と告げた。

「我々は反政府組織「紅の鹿」!お前達には人質としてしばらくここにいてもらう!!!」

 それを聞いたエドは一人ほくそ笑んだ。「反政府組織」この言葉を待っていたのだ。

そして尚も何かを言おうとしている男の言葉を遮るように、言質をとったエドは手を打ち合わせてとっとと強盗たちを拘束した。

 いきなり床から鎖が生えて自分達を拘束したという不可解な現象に、強盗たちは口を合わせて「錬金術!!!?」と驚きの声を上げた。

そして反対にエドの正体に気付いていた民間人たちはエドに拍手を送りながら歓声をあげた。

 それから店にいた全員の視線を集めながらも、エドはテロリスト集団兼宝石泥棒の親玉らしき人物(さっきっから偉そうに他のやつらに指示を出してした奴)に近づき、言う。

「強盗すんなら銀行にしろ。宝石なんぞ両替しなきゃ使えないようなものを活動資金にしようとするなよ。
 しかもなんだ「紅の鹿」って。変な名前の上になんかあの名作「○の豚」のパクリっぽいぞ!」

 アルの「かなりどうでもいいし場にふさわしい言動じゃないよ・・・」というつっこみを聞きながらも、人質にされた者たちは誰もがエドの言葉に無言で頷いた。


 それから5分も経たないうちに、軍のものが駆けつけた。
その中にはお馴染みの中将、ロイ・マスタングもいる。

素早すぎる軍の登場に驚きながら、その場にいた誰もが戦争の英雄達がそろっている事に興奮し、歓声を上げる。

 ロイはそれを気にせずエドを見つけて一直線にずんずんと向かって来て、目前で顔を引きつらせながら止まった。

そして言う。

「つくづく思うのだが、もう少し音量を下げたまえ・・・!」

と、頭を抑えながら。例によって例のごとく、エドは事が起こってすぐにロイの頭に直接言葉を送ったのだ。もちろん、大音量で。

 周りのものには何のことかわからなかっただろうが、エドは目線をそらしながら「わりぃ」と一応誤っておいた。

 それからはエドも加わり人質にされた者たちや店の後始末をし、粗方場がおさまって来たところで、ずっと外野で兄の働きぶりを見ていたアルが、何かを話し合っている「アメストリスの双璧」たる軍人二人に近づいて行った。

 その顔は微笑んでいる。
「こんにちは、マスタング中将。」
そう言うなりもうロイの存在は無いかのように兄だけに視線を向け、「大丈夫?」「無茶しないでよ」とか「さっさと帰ろう、非番なんだから。」とか微笑みながら声をかけた。

 そう、微笑みながら。

ロイからは彼の横顔しか見れないが、紛れもなくアルの背後から黒いオーラがにじみ出ている。
エドはそんなオーラなんぞ全く気付かずに微笑みながらアルと会話していた。

そしてふと気付く。今の状況はもしや・・・、


「アウト・オブ・眼中だね」

そう、まさにその状態なのでは・・・?と、思ったところで、ロイははっとして声の出所を探った。
案の定、横には何時の間にかカイルが。関係者で無いのに容易にロイに近づいて来れたのは、軍内では結構有名なせいで顔見知りの軍人に通してもらったのだろう。

 そんなことを考えながら顔を引きつらせてカイルを見下すと、カイルは「ふふん」と鼻で笑いながらロイを一瞥し、それから顔を一変させて笑顔で「お疲れー!!」と言いながらエドの腰に抱きつき、アルにも笑顔で「久しぶりー!!」と言った。

 そうして若い三人で和気藹々な空気を作る彼らに顔を引きつらせたロイは、すぐにフっと笑ってエドに声をかけた。

「お前はこれから仕事だぞ。「紅の鹿」のおかげでやる事が増えたからな、人手が少ないんだ、休日返上したまえ。」

と、上司の顔と命令口調で。

エドはそれに敬礼で了解の意を返し、顔を引きつらせてロイを睨んでいる弟と息子に、「んじゃぁ、行くわ。夕飯には帰って来るから、俺と中将の分も用意しといてくれよ。」と言ってすでに車に向かって歩き出している上司の背を追って行った。

 それを無言で見送りながら、アルとカイルは言った。

「あの無能・・・覚えてろよ・・・!」

と。

大切な花につく虫は駆除するに限る。

 まず何からしよう・・・と黒い笑顔を浮かべながら相談する少年と青年に、その光景をみたものたちは顔を引きつらせて冷や汗をかきながら見て見ぬ振りを決め込んだ。

 






(あとがき)
少年達に対抗できるのは権力!・・・ってかそれしかないって悲しいな、無能よ。

 ささやかなアル+カイルVSロイ。エドは無自覚。愛されちゃってます系な・・・。

しかも何気にカイルはエドに引き取られてロイと同居中ですvな設定ができあがりました。
 そこらへんのくだりは本編で説明しましょうね〜。




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