「ロイ・マスタングに伝えろ! 息子を返して欲しければ、『紅の鹿』の全員を解放しろとな!!」


カイルを片手で拘束したまま、男は固まっている教師に向けてそう命令した。

彼女はもちろん、ロイ・マスタングがどのような人物か知っていたが、自分の生徒の中にその息子がいることは知らなかった。

しかし賢明にもそれについては何も言わず、男に急かされるまま、軍に連絡する為に教室を出ていったのだ。


一方、伝えるまでも無く直接聞いていたロイとエドの二人だが、予想外の二つの現象に二の足を踏めずに居た。

その予想外の出来事のうちの一つは、あろうことか愛息子カイルを人質に取られたこと。

そしてもう一つは。


(錬金術が効かないだと!?)


鋼の錬金術師と焔の錬金術師がそろっていながら、みすみすカイルを人質に取られてしまったのは、そのような理由があったのだ。



父兄参観4





錬金術を放った瞬間、エドもロイも乱入者の腰にあるポーチが光ったのを見逃さなかった。

彼らでなければ気付かないほどの微妙な光―――緑色の練成反応。


「また面倒な事になったな・・・・・・」
「そりゃこっちのセリフだぜ・・・・・・・」


『紅の鹿』に、というより事件その物に縁があるらしいエドにしてみれば、もういい加減にしてくれと嘆きたくなってくる。

それに同情するでもないロイは、小声でどうするのだと聞いた。


エドはもはや諦めの心境で一つだけ深い深いため息を吐いた後、目を瞑って情報収集に専念し始めたのだった。


まず疑問に思うのは、エドとロイ両方の錬金術を無効化したらしい、男が使った錬金術について。

『紅の鹿』と名乗った男自身は錬金術が使えないはずだが、にも関わらず練成陣が発動したのは理由があるようだ。

ポーチの中には、案の定錬金術を無効化する練成陣が彫り込まれている、赤い石が入っていた。問題はその石と練成陣だ。


(親父の血と、親父作の練成陣・・・・)


齎された情報に、無意識に眉間に皺がよってしまった。

なんと面倒な事をしてくれるのだろう、先代の“世界の目”とやらは。

世界の目たる者の血でできた石に、条件発動するようあらかじめ組み込まれていた練成陣。そうする事によって、錬金術を使えない者も錬金術に対抗できるような代物にしたのである。

どこから流出してしまったのかは後でいいとして、最終的には男が持っている石を没収しなければな・・・・・・と思考が逸れたところで、ぐいっと腕を引かれた。


「何・・・?」


訝しげに目を開けて、自分の腕を引く老紳士を見れば、彼は視線だけで「動け」と促している。

気付けば自分の周りに居た者たちも戸惑い気味に足を動かしていた。


「窓際に並べ!! 早くしろ!!」


たった一人で乗りこんできた男は、随分と頭が良いらしい。

駆け付けた軍人に狙撃されないよう、教室の窓側に保護者を並べて壁にするつもりなのだ。


(・・・・・・ふーん・・・)


あの男、先ほど自分を『紅の鹿』と言ったが、先日宝石強盗を犯した者達とは関係がないのだろうか。この男が居ながら反政府組織としての活動資金の為に、換金しなくては使えない宝石を盗むというのは少々違和感がある。

そんな風に疑問に思っていると、すぐさま知識は供給された。案の定先日の銀行強盗は、この男に相談せず実行されたらしい。

一人残った男は、何をトチ狂ったのかカイルを人質にして仲間を開放させようとこのような強硬手段を取ったようだが。

エドにしてみれば、一度自分を裏切った者達など見捨てて新しいチームでも作ればいいのに、と思わずにはいられなかった。


裏切れない理由でもあるのだろうかとも思ったが、そこまで深入りするつもりもないので、とっとと本題に入った。


「ロイ、あいつが使った錬金術を更に無効化する手なんだけど」
「あぁ」
「・・・無いわけじゃないけど、時間がかかる」


お前が!? と、目を見開いたロイがエドに視線を向ける。驚きつつも大声を出さないのは流石だが、反応が一々見た目と一致しないので、何だか妙な違和感が募った。

しかしそれを今突っ込んでる暇はないと、エドは見なかった振りをして続ける。


「しかも見てみろよ、あいつの左手」


言われてロイがそちらに視線をやると、なにやら不思議な物体が装備されていたことに気づいた。

まず手首にはぴったりフィットした皮の腕輪が巻いてあり、そこから幾筋かコードが出ている。

そしてそのコードが繋がっているのは、震える手に握られた何か。見ようによってはスイッチのようにも見える。


「爆弾か?」
「あぁ。半径1メートル位なら楽々吹っ飛ぶ」
「なっ」


つまり、カイルもろ共自爆できる状態にあるのだ。

ロイは驚きと焦燥でカイルとエドを交互に見たが、彼ら二人ともが妙に落ち着いているので、そうだった、と思い出す。

カイルは、エドの作った赤い石を持っているのだ。それさえあれば彼にまで被害が及ぶことは無い。そうとわかっているからこそ二人とも落ち着いていられるのである。


今も尚、カイルはエドに絶対的な信頼を寄せている。子供ながらこの状況で泣き出さないのは、その信頼故。

しかし、とロイはエドに視線を戻した。一見落ち着いているように見えるが、良く見ればエドの拳は見てて痛々しいほど強く握られている。


「落ち着きなさい」


自分も人の事を言えない状態だと自覚しているが、ロイはそう声を掛けずにはいられなかった。


そうこうしている内に、男がその爆弾の仕組みを説明し出したのだ。窓際にいる一人の夫人に今から言う事を駆け付けた軍人達に伝えろと言う所が、なんとも油断無い。

それから告げられた内容を要約すると、自分の脈が止まれば装置がそれを感知して体に巻きつけた爆弾が爆発、また手に持つスイッチを押しても爆発。もし5時間以内に全てが終わらなくても爆発する、と。

人質であるカイルは、全てが終わった後に開放する。つまり彼を助けるためには、みすみす『紅の鹿』一味を取り逃がさなければならない、と言うことだ。


(八方塞りか・・・・)


頼みの錬金術まで使えないとなれば、そう歯噛みするしか手は無かった。

ロイもまたエドの事を信頼しているので、カイルに危険が迫るとは思わない。けれど極力彼を危険な目に合わせたくないので、強引な手は使えないのだ。


「はぁ、正体の出し惜しみはしても意味がなさそうだな」

「・・・・・・・あんたはな」


ロイは別に今ココで正体をばらしてもいいだろうが、エドはそうはいかない。

なんたって女装を通り越して女体化しているのだ。バレたときの外聞が悪すぎる。


「・・・・・・・・・・・・・今更かもしれんが、阿呆かお前は」

「・・・・・・・・・・・・・・・言うな、俺だって後悔中だ」


やるせなさと情けなさで二人とも若干気が抜け始めたが、こそこそと小声で話していた事に流石に気付かれたらしく、男は険しい顔で彼らを睨んでカイルの首にナイフを突きつけて叫んだのだ。


「そこ! 何を話している!?」


カイルの首筋に、ナイフが少し食い込んだようだ。少量の血がそこから流れ出した。


それを見て、本気でロイは焦った。そしてそれをあえて隠しもしないまま、一歩踏み込んだのだった。<


「待ちたまえ! その子は私の子供だ。手を出すな!!」









(あとがき)
ま、まだ続くのか・・・・?(ぇ
今回はギャグから一転してシリアスな回に・・・Uu 次回は・・・未定です(ぉい。



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