私達の窮地を救ってくれたのは、1年ほど前から連絡の取れなかった少年だった。



活躍





「くそ!行き止まりか!!」

 予想に反しかなりの大人数との対戦に、勝ち目がないと思い後退していたところ、気付かないうちにせまい崖に追い込まれていたようだ。

 用意周到なことに岩で道をふさぎ待ちぶせをして。


 半月ほど前のことだ。我アメストリスにアエルゴが宣戦布告してきたのは。それからしばらくしないうちに、やはり国家錬金術師であり「イシュバールの英雄」と名高い焔の錬金術師こと、ロイ・マスタング准将には、大総統紋の箔押しのしてある任命書が渡された。
 曰く、「一つ階級をあげてやるから大隊一個を率いて実際に戦場にたて」というものだった。

一階級昇進して少将となったものが前線で戦うなんてことは常ならばありえないことだが、上層部の人間はやはりロイのことを快くは思っていないらしい。
 与えられた部隊は少数精鋭ではあったが、いかせん人数が少なかったせいか、ロイの隊の状況は悪化の一途をたどっていた。


 結果として追い詰められて先ほどのような悪態をつき、気付いたときには待ち伏せしていた敵隊に無数の銃を突きつけられた状態に陥ってしまったのだ。

 崖の上からも、後方からも方位され、絶対絶命である。

 少しでも変なことをすれば即撃つ、と目が言っていたので、うかつに炎の練成を行うこともできないのだった。


 そしてついに、発泡の合図がされようと覚悟したその時、

突如として無数の鋭い突起が地面から生えたのだ。

先ほどまでロイの隊を囲んでいたものを、一人残らず突きさして。

 血のにおいが充満し、隊の者がざわめき始める。それを横目で見ながら、ロイは今あった出来事を信じられないとでも言うような顔で見ていた。


 全部で300人以上はいたはずの敵軍隊はひとり残らず串刺しにされ死んでいる。今の一瞬で、かつ体のど真ん中をつく、正確さとスピ―ドで。
 こんなことを出きる者は限られている。ロイの隊を助けたのだからアメストリスの者だろうが、このように強大な力を持っている錬金術師を、ロイは知らなかった。

 すると今度は突然、前方で進行を阻んでいた大量の岩が一瞬で消え去った。かすかに見えたのは練成光。しかし、周りに変化はない。岩を土や砂に分解したわけではなさそうだ。
 もしそうならばあの大量で大きな岩だ。地形もしくは地面の高さが変わっているはず。ならばどこに…?と思考をめぐらしていると、消えた岩の向こうに人が立っているのがみえた。
 どうやら先ほどこちらを助けた者の仲間らしい。その人物に銃をむけた部下に目線で下すよう促した。

 そしてこちらに歩いてくる人物を注意深く観察する。マントを深くかぶっているので顔は見えないが、軍服を着ている。それにどうやらかなり若い部類に入るようだ。

 その人物はついにロイの目の前まできて、マントを取って敬礼する。
現れたのはまぶしいほどの金髪と、金目。それと一年前と雰囲気の違うせいか、もともと整っていた顔はまさに「美しい」と言えようになった、端正な顔。だけどそれは、まぎれもなく、


「……鋼、の……?」


そう。1年前に通信のとぎれた、最年少国家錬金術師・鋼の錬金術師こと、エドワード・エルリックだったのだ。


「よう。大佐。いや、今は少将、でしたか?」

そう、おどけたように返すエドに、ロイは言葉を失う。

 変わらない。けれど、何かがちがう。そんな気がする。彼からは、あの時無かった威厳や穏やかな空気を感じるのだ。

 まず何を言えばいいのかと迷っているロイを尻目に、エドは一度手をたたいて片手をそっと地面にふれさせた。

 すると先ほどまで敵軍隊の体に刺さっていたとげが一瞬で消え失せた。そして立て続けにまた手を合わせ、地面に触れる。
その途端に、死んだはずの敵軍兵士の体が光り、彼らにあいていた大きな穴が一瞬でふさがったのだった。

「なっ…」

ロイも、隊にいる錬金術師も、その練成に目を剥いた。今のはまぎれもなく、


“人体練成”である。


 それを一瞬で、こんなに大勢を。彼は大量の岩と突起の消失という大変大掛かりな練成をやってのけたあとの更なる大掛かりな練成をこなしてみせたのだった。

 錬金術と関係ない兵士も、みな同様に目を見開いて修復された死体と金髪の少年を交互に見る事しか出来なかった。

しばらくし、ロイはやっとの思いでエドに声をかける。

「私達を救った最初の突起の練成は、君がやったのかね?」

 鋼の錬金術師は兵士が死んだ後岩の向こうから出てきた。見えもしないのにあんなに命中率の高い練成ができるはずはない、と思いながらもついつい訊いてしまった。すると、

「当たり前ジャン。俺一人でここにきたんだし。」

と、なんとも信じ難い返答が返ってきたのだった。

 1年前の少年はこんな力などなかったはずだ。そしてふと気付く。彼の肩には星が二つ。それが示す階級は、

「中佐…?」

「ん?ああ、まぁ。元は少佐だったけど。あんたと同じ理由で一階級上がったんだ。」

と、またも爆弾発言をする。彼はまだ17歳の誕生日は迎えていないはずだ。16歳の中佐、本当に恐ろしい子供だ、とロイはつくづく思った。

 そしてそれからは、辺り障りのない話をしながら帰還する。周りの兵士たちが皆聞き耳を立てていることはわかっていたので、エドもロイも今一番話したいことを話せなかったのだ。









 そして、ところかわってロイの私室にて。
今、その場にいるのはエドとロイの二人だけである。
コーヒーの用意が出来たところで、ロイは漸く口を開いた。

「この1年、何があった?全部、話して聞かせろ。通信をたっていた理由もな。」

 エドはロイが怒っていることに気がついて、苦笑してかたをすくめた。それを見てロイも、苦笑してエドに言う。

「君は変わったな。なんと言うか、おちついた感じだ。」

そういうとエドはまた苦笑をこぼし、ロイの言葉に返した。

「まぁな。いろんな事を知って、いろんな事をして、いろんなことを考えさせられたからな。」

そう言うエドは,ロイを見据えて話し始めた。


一年前にあった、信じられないような出来事について。



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