「ってか話すとちょっとややこしいんだよな。」
 だからちょっと額を拝借。そう言ってエドはロイの額に触れた。



活躍2





エドの指がロイにふれた途端、ロイの脳裏に一年前の出来事が再生された。

一年前、ちょうど今のエドとロイのような格好でリーフがエドに知識の断片を与えたこと、
その後エドは「世界の目」となり、父を殺しホムンクルスも塵に返したこと、ロイにはこの2点だけを「知識」ではなく「映像」として見せた。

 大総統の正体も、交わした契約も見せてはいない。
ただロイが欲しがっていた情報だけを見せたのだった。

 ロイに映像を見せ終わったエドは、いすに座りなおしてコーヒーをすすり、言葉で映像を締めくくることにする。

「つまり俺は、偶然に偶然が重なって「世界」が求める存在とやらになってたんだよ。そして役目を果たすことを義務づけられた。
 俺は思うがままの力を得るかわりに、「世界」の手足となって働くことになる。…この先何百、何千年間の、長期契約だ。
 それが今から丁度一年前。16になる、ちょっと前くらいだったな。」

少年が淡々とする話を、ロイはただ驚いて聞くしかなかった。

そしてそれからようやく一年前の出来事に納得することができたのだった。

「君があの時すべてを知ったようなことを言っていたのは、こういうことだったのか。 ・・・姿が消えたのも。
 結局あの後も少し、おびき出し作戦を続けたのだがね、全く引っかからなかった。君の言ったとおりマリア・ロス大尉も一週間弱で軍に復帰したしな。
 ずっと、疑問に思っていたのだよ。あのときの君の言動と行動を。」

昔を思い出すようなロイの顔を見ながら、エドは苦笑した。

 あの後故意に情報を操作してロイ――軍からの捜索の手を逃れていたから、彼がエドに連絡する手段は無かった。
 自分のエゴのせいで結局、一年間も疑問を持ちつづける結果となってしまったらしい。

「悪かったな。一年間も連絡しないでさ。これからの波乱万丈予定の生活をするのにちょっと心の準備期間が欲しかったんだ。」

そういうエドの顔は困ったように笑ってはいるが、明るい。

 そのことにロイは我知らず安堵した。

 彼は気付いているのだろうか。不老不死になった、言う事は、周りが老いるなか自分だけが若いまま、親しい人の死を見取ることとなるのだということに。

…きっと、気付いているのだと、思う。彼は、幼いころから聡明であったから。

それがどんなにつらい事なのかも・・・きっと。
けれど、少なくとも表面から見る限りは、彼はそのことをあまり悲観視してはいないようだ。
そのことに、彼のこれからを思うと安心したのだった。

 それからロイは思考を切り替えるために一度首を振り、不老不死のことを頭から離して先ほどから気になっていたことを訊いてみることにした。

「アルフォンス君は?彼はどうしたのかね?」

そう訊くと、エドの表情が一瞬翳ったが、すぐに微笑みにかえて「リゼンブールで元気にしてる」と言った。

しかしロイがそのエドの翳りを見逃すことはない。
「・・・どうかしたのか?」

ロイがそう訊くと、エドは瞳を伏せ、しばし逡巡した後、ためらうように言った。

「・・・人体練成の少し前から一年前まで記憶がない。・・・俺が、消した。」

その内容に目を開いたが、ロイは「なぜだ?」とは訊かなかった。その代わり、
「後悔しているのか?」

と、訊いた。

エドはその問いに驚き、「かなわないなぁ・・・。」とか言いながら首を横にふった。

「後悔なんかするかっての。今あいつ幸せそうだから・・・きっとこれでよかったんだ。」

そう言い、「この話ほかの奴に言うなよ?知ってんのあんただけだからな?」

と続けたのだった。

 それに驚いたのはロイだ。なぜ自分にだけ?そう思って口にすると、エドははたと動きを止めて「あ〜・・・。なんか、言いたかったから?」と言って首をかしげ、無邪気に笑った。

 そのような笑い方は初めて見るもので、ロイは思わず硬直してしまった。

出会ってからこの方、今までエドの年相応な姿を見たことが無かったのだ。
 それがこの不意打ち。不覚にもドキリとしてしまったロイなのであった。


驚いたように固まっているロイを見て、エドは胡乱げな視線を彼に向け、「あんだよ」と喧嘩腰で言う。
 そんなところはかわらないな、とロイは変なところで安堵して、おかげで自然と笑いがこぼれたのだった。

エドはしばらくロイの笑いを不機嫌に見つめたあと、不意に視線を外しぼそりとつぶやいた。

「ああ、あんたの腹心たちが帰ってきたぜ」

と。

「何?」

なぜわかる、と問いかけると、

「これも世界の手足となった特権だ。」

とだけ言い、腰についていたナイフを取りだした。

そして。


「何をしている!」


いきなりエド自身の手のひらを深く切りつけたので、ロイはつい大声をあげてしまった。
その声に、こちらまでゆっくりと近づいてきていた二対の足音が加速したのに気がついたが、エドは気にせず、

「まぁ見てろって。」

と言うとすぐさま血のあふれる手をたたいて何かを練成した。

それから、
「ほら、おまじない」

といってあわせていた手をひろげてみせようとしたところで、

「少将!!!」

と叫んでドアをあけた部下二人が闖入してきたのだった。

 すぐさまロイ以外の人物に向けて銃を向ける。が、その人物をみて柄にもなく固まってしまった。

「……大将!?」

 そう声をあげて先に銃を下ろしたのはハボックだった。ロイに目で合図され、すぐにホークアイも銃をおろす。

そんな二人を楽しそうに見ていたエドは、肩をすくめておどけたように挨拶する。

「よう。ハボック大尉、ホークアイ少佐。久しぶり」

そう言いながらエドはロイに向けて改めて手を広げ、先ほどの行動の意味を示した。

「で、これ。」
というエドの手の平には赤い5ミリ程度の玉が3つ。

 ロイはエドの手の何処にも傷がないことに驚いた。先ほどあんなに深く切りつけていたというのに。

なるほど、不死身…か。と、一人納得するしか術はなかった。

 そんな様子のロイをハボックとホークアイは疑問に思ったが、ロイが「大声をあげてしまったがね、なんでもないんだ。」といったことで思考を遮られてしまった。

そしてすぐさま視線をエドに向けて問う。

「なんだね、それは。」

それに間髪いれずにエドが答える。

「だから、おまじない。」

 そう言うとエドはロイにネームタグを貸してくれと頼んだ。特に支障はないので渡すと、エドは練成をしてネームタグの裏に小さな赤い玉をつけたのだった。

部下二人も同じように言われて上司にならう。

 ロイは玉の成分がなんなのか気付いたが、まずはそれに触れずにこの行動の意図を尋ねることにする。

「これが、かね?どうゆうご利益があるんだい?」

するとエドはにやりと笑い、自慢げにその質問に答えてやったのだった。

「そこらへんのお守りよかよほど効果はあると思うぞ。それが割れない限り絶対に殺される事はないからな。そいつが守ってくれるから。大佐についてはもれなく練成能力増幅効果つき。」

と。それをきいた部下たちは驚きを露にした。そのような機能をもつ赤い石がどのような存在かという事くらい、彼らも知っているのだから。

そんな二人の様子を見ながら、しかしエドは苦笑しながら言ったのだった。

「ちがうよ」 

と。そして続けて、
「それは賢者の石ではない。ただの媒介だ。」

と。言っている意味はわからなかったが、とりあえず二人とも頷き、礼を言った。


それを横目で見ながらも、ロイは一人、一つの仮説にいきついていたのだった。



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