この赤い石はエドワードの血。世界の眼であり、手足となった末、莫大な能力を得た者の血。

その血の持ち主によって結晶化された力の塊は、練成能力を高めそれを媒介として持ち主を守る。エドの、力によって。

そう立てた仮説を確認したところ、是と返って来たのでロイはエドに忠告した。

そのようなことは無用だ。無駄な労力を使う必要はない、といって返そうとしたが、それはエドの言葉によって止められる。


「俺にはそれができる力があるのだから、するだけだ。それに、これはエゴなんだ。俺はこの先たくさんの、数えきれないほどの死に直面するだろうよ。
 だけど、いや…だからこそ、できるだけ親しい人の死は見たくない。それが殺されるものならなおさらだ。
・・・世話になった礼だと思って、おとなしく受けとってくれ。」

と、一年前には見れなかった、彼らしくないと言える、・・・どこか大人びいた苦笑で。

 ああ、やはりわかっていたんだな、と思いながらも、エドのそんな顔をみたら、反論が出来なくなってしまったのだった。



金の賢者3





その日、ハボックの隊は奇跡に遭遇する。

敵国の錬金術師が放った巨大な火の玉に飲みこまれようとした寸前、その火の玉が突如として消え、次の瞬間には敵国の錬金術師を含む軍隊が、全滅していたのだ。

敵兵はロイが先日崖でみたように、全員が串刺しにされて事切れていた。


 周りの者が何がなんだかわからない、という顔をしている中、ハボックだけは気付いていた。

火の玉が消えた瞬間、胸元のネームタグが赤く光ったことと、今もなお熱を持ちネームタグの裏側の玉が弱く輝いていることを。
 これがいったい、だれの仕業なのかと、言う事を。





ホークアイもまた、銃撃戦が長引き、銃弾が底をつき命が奪われると思ったその瞬間。急に敵軍と自軍との間に壁が現れ、その後その場からの脱出に成功したのだった。

ホークアイの隊が完全にその場を発ったあと、突如として壁が消え、その場に残ったのは特に外傷も無いのに事切れた、兵士の大群であった。


彼女もまた、気がついていた。エドからもらった赤い玉が淡く輝いていたことに。

「エド…君…?」

少年の信じられないほど大きな力を肌で感じ、初めて彼を恐ろしいと思った瞬間だった。





 そしてロイは。

「まったく・・・信じられんな・・・」

戦地にて一人そう呟いていた。

 彼は今日もまた前線に立ち錬金術によって敵軍兵士の討伐をしていた。

そこまではいい。ここ最近で見慣れた風景だった。だが、彼の持つ部隊の者は、今日一日でさっぱりロイに近寄らなくなっていた。

 なぜか。理由は至極簡単なものだ。

恐ろしいのだ。昨日までと違い今日は打って変わって一発目から、ロイはすさまじいほどの練成をしてのけたから。
そこに何かが存在したという証拠を少しも残さずに、高温の炎で跡形もなく敵軍を一掃したのだ。

その威力たるや、ロイ達がいた一角を残して、あとの野原を一瞬で草木一本も残さない焼け野原にしてしまったほどだ。

しかしこの事実に一番驚いていたのは、何を隠そうその炎を放った本人だった。
彼はいつも通り練成したにすぎなかった。だが結果はこれだ。
 ロイもまた、この異常な事態を巻き起こしたものが何なのかすぐに思いついた。

エドワードからもらった赤い石だ。
 これが、ロイの予想の範疇を越えてその効果をあげさせたのだ。

しばらくの間、ロイのため息が、その場にむなしく響いたのだった。





その後、ロイの予想外の活躍によりいち早く帰還した兵士は、更に予想外の話を聞くこととなる。

鋼の錬金術師がたった一人で敵軍の大隊2つを壊滅させたというのだ。

到底信じられるものではない。だが、それを確認してきた兵士によると、確かに敵軍と思われる死体の何百という大群が平野に広がっていたそうだ。
 しかも、それらは血みどろの服に大きな穴を開けているというのに、体には外傷ひとつないという、奇妙な死体だったらしい。

 それを聞いたロイの部下達はすぐにピンときた。その光景は、彼らもつい昨日見たのだ。
 突然来た鋼の錬金術師が即死するほどの穴を敵軍全員に開け、その後すぐに体の傷だけを再生したさまを。

 そして、大隊だったせいでその光景を見た多くのロイの部下達によって、その話は瞬く間に軍中に広がったのだった。

 しかも、ちゃっかりロイの話も付け加えて。

翌日には軍の中でその話を知らぬものなどいなくなっていた。

 それに困ったのはロイだ。どこへ行っても常に好奇と恐怖と尊敬までいりまじった視線にさらされ、大変居心地の悪い思いをしていた。

 だが、彼は決してネームタグをはずそうとはしなかった。かの少年の悲しげな笑みを思い出すと、その気が失せてしまうのだ。


 そんなこんなで数日が過ぎ、鋼の錬金術師と焔の錬金術師の噂は収まることを知らず、むしろどんどん膨らんでいった。
 その強大な力と情けを知らぬ彼ら2人を、軍人も新聞で彼らの功績をしった民間人も、こう呼ぶ。


 『アメストリスの双璧』、と。





「・・・・・・・・って何だよこのネーミングセンスの悪さ。」

エドは片手に持った新聞をもう片方の手でぺしぺし叩き、嫌そうな顔で言った。
ロイもコーヒーを片手に持ち、嫌そうな顔で言う。

「まったくだ。こんな名一体だれが呼び始めたんだ」

と。すると、彼らにはさまれるような形で座っていたハボックが、それに飄々と答える。
「あ〜、確かどっかの新聞社ですよ、それ。『その強さも歎美さも含め、まるでアメストリスを守護する双璧のようだ』・・・って。結構うまいこと言ってると思いますけどね、絶対それ書いたの女っスよ。」

 そう言って目玉焼きを口に放り込む。ちなみに今彼らはロイに与えられた大きな部屋で朝食を取っている最中だ。

 エドもサラダを口に運んでなおも続ける。
「けっ。双璧とはな。んな綺麗なもんじゃねぇのにさ。結局やってんのは人殺しだぜ?」
そう言うエドをハボックは「まあまあ」と言って宥めて、「そういえば」と続けた。

「エドに限ってもうひとつ名前があるんだが・・・お前知ってるか?」

それを聞いたエドは一瞬怪訝そうな顔をして、すぐに「げ」と言って顔をしかめた。例によって例のごとく疑問に思ったとたんに知識を供給されたのだ。

 今度はそれをみたロイが発言した。
「なんだ?」 

その問いに、エドは嫌そうな顔をしてそっぽを向き、「確かにそうだけどなんかやだ・・・。」とかぶつぶつ言っている。それを面白そうに見ながらハボックは告げた。


「『何もかもを見透かしたような顔をして、その力は強大。そして信じられないほどの知識を抱えている。まるで賢者のようではないか』って・・・大総統が言ったらしいんスよ。」
それを聞いて面白がった新聞社が、金髪金目のエドにちなんでつけちまったらしいっスよ。




「『金の賢者』ってね。」






(あとがき)
変な終わり方〜。
どっかでこの「金の賢者」って名づけられたストーリー入れようと思っていたら、こんなことに・・・・。

ああ、一応明記しておきますがまだ「活躍」自体は終わってないですよ。

次はエド君が暴れまわります。



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