今回の戦争の情報は世間に公表されていた。
それどころかどこかマスメディアの使用を奨励しているようにも思える。

 それに気付く者は皆一様に思う。

何をしようとしているのか、いったい何が目的なのか・・・と。


 しかし、それが金髪の少年の思惑なのだと気付く者は全くいなかった。



活躍4





「兄さん、大丈夫かな・・・」

茶色がかった金髪をもつ少年が唐突に呟いた。

本当に小さな声だったが、隣に座っていた少女には聞こえていたようで、少年の声にしっかり答えた。

「大丈夫よ。ほら、また載ってる。・・・なにこれ、金の賢者だって。」

そう言って笑いながら少年の前に出されるのは、先程来たばかりの新聞だ。

 少年はそれを受け取り、一面に載っている記事を目で追い出した。


最近、新聞の一面を飾るのは大抵が戦況報告だ。
 しかも、特定の人物達が必ずのっている。少年達の目的はその内の一人についての情報だった。

一通り記事を読み終わった少年は、左側ににでかでかと載っている人物の写真を見て、表情を和らげた。

 写真にその秀麗な顔をさらしているのは、彼の兄、エドワード・エルリックと、その後見人だという焔の錬金術師ロイ・マスタングの二名だ。

 作戦でも練っているのであろうか。彼らは地図を覗き込みながら真剣に何かを話し合っている様子だ。


よくこんな場面撮らせてもらえたな・・・と思いながら、少年は戦況が良好らしい事と、「アメストリスの双璧」と呼ばれる2人の活躍を伝える記事に、ほっと無意識に強張っていた体から力をぬいた。

どうやら兄はまだ、健康状態であるようだ。

安心しながら、少年は不意に兄が「戦場へ行く」と言い出した時の事を思い出していた。

が、それは少女の声によって遮られる。

「ちょっと、アル?聞いてるの?」

「え?ゴメン、ウィンリィ。聞いてなかった。」

そう言うとウィンリィは一瞬怒ったような顔をして、それから複雑そうな顔でこう言った。

「・・・エドがでて行った時のこと、思い出してた?」

と。それを聞いたアルフォンスは驚いた。
なぜわかった?そう思っていたらそれが顔に出ていたようで、ウィンリィは笑って「私も今思い出していたからよ。」と言った。

 エドがでて行ったとき・・・それは、随分と唐突なものだった。


アルに関しては、その時初めて兄が軍属の身である事を知ったのだ。
 そして急にそれを告げられて呆然としているアルを尻目に、エドは「戦場に行ってそのまま軍人となる。」と続けて言ったのだった。

 アルはもちろん反対した。命の危険にさらされ、他人の命をわざわざ奪いに行くのか、と、エドに食って掛かった。

 だが、エドは彼を安心させるかのように微笑み、こう言ったのだった。


「ああ。そうかもしれない。けれど、俺は死なないし、昔世話になった人をむざむざ死なせるような事もしたくない。あの人たちの役に立ちたいんだ。それに、俺はある人とも約束していたからな。その約束の時期が、そろそろなんだ。だから、お前がなんと言おうと行くよ。」


 それを聞いてアルはひじょうに驚いてしまった。どうやらまた自分の記憶の無いところでの出来事らしい。会話の流れから、「昔世話になった人」とは軍人のはずだ。だがアルは、軍人と関わった記憶が全く無い。

それをもどかしく感じながらも、アルは何も聞かずにただ兄をひたと見つめて言った。

「・・・必ず、帰って来てよね。」

兄さんは死なないなんていうけれど、そんな保証どこにもないんだから。そう言うと、エドはなぜか悲しそうな顔をして、「ああ」とだけ返したのだった。



 その後、ロックベル宅まで行き、またその意志を伝え、エドは次の日にはもうリゼンブールを発ってしまった。

 しかしその別れ際、エドは駅まで見送りに着ていたウィンリィとアルに、少し不思議なことを宣言したのだった。

曰く、「必ず週に一度は新聞に俺の記事を載せてやる。だから新聞ちゃんと見ろよ?」と。

 それを不思議に思いながらも2人は頷き、遠ざかる汽車の姿を、見えなくなるまでずっと見送っていた。







「通常、軍が戦況を世間に教えるなんてことは、しないのにね」

アルがそう言うと、ウィンリィが頷いた。それを見ながら、だが彼女ではなくどこか遠くを見ながら、アルは独り言のように呟きつづける。

「兄さんは、わかっていたのかな。軍が情報公開をすること。」

エドが言っていたとおり、彼は必ず週に一度は・・・いや、ほぼ毎日と言って良いほど新聞にその華々しいほどの功績を載せていた。
たまに、写真もともに載っていることもある。

―――それを見ていると、思う事がある。

それからしばらくして、漸く黙って聞いていたウィンリィ自身に視線を向けると、アルは微笑みながら言った。

「最近さ、思うんだ。もしかしたら兄さん、僕らを安心させる為だけに新聞に載るようにしてるんじゃないかって。兄さんならやりかねないでしょ?」

そう言っていたずらっぽく微笑むと、ウィンリィも微笑み返して、「そうかもね」と言った。



それは、開戦して2週間弱たった、戦火からはほど遠いリゼンブールでの朝のことだった。






(あとがき)
何故にアル&ウィンリィ視点!?
と思った方もいるでしょうが、なんとなく書きたくなったので書いてみました。
 べつにアルウィンが好きなわけではありませんよ?
ただ、アルの話ちょっと補足しといた方がいいかなぁ・・・と思いまして。
前回のあとがきで「エドが暴れる」的なことを書いたんですが、出番少な!って感じですね。
 次回こそ、暴れさせます。戦います。



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