「リー隊全滅!!」

その報告がアメストリス軍基地に響いたのは、開戦から半月がたった昼のことだった。



活躍5





 もちろん、それは「アメストリスの双璧」と呼ばれる2人の錬金術師の耳にも入っていた。
「リー隊がやられるとは・・・」

ロイの呆然とした声に、エドが眉根を寄せて答えた。

「ずいぶん手ごわい相手らしいな。」

リー隊とは、「砂嚢(さのう)の錬金術師」と呼ばれる、砂を使った大変殺傷能力の高い練成を得意とするライアン・リーの組織する隊の事だ。

 彼の隊は、ロイの率いていた隊が解散した今、もっとも強いとされていた隊だった。

それが全滅したと言う。軍人達に走った衝撃はすさまじいものだっただろう。

 エドは意識しリー隊を倒したとされる敵軍隊の情報を集め始める。

目を瞑ってじっとしているエドに、何をしているのか悟ったロイは静かな目でエドを見守っていた。

 そして焔の宿る金の目が開かれ、エドはロイを見据えてたった今得たばかりの情報を言葉にした。

「相手の隊は錬金術師だけで構成されてるみたいだな。ああ、隊長が強いな・・・俺の師匠と同じかそれ以上ってとこだ。」

 そこまで言ってにやりと笑う。そして更に続けて言う。

「そいつの名前はナイジェル・サイーブ。錬成陣なしの練成が可能な女性だ。」

と。

それを聞いてロイは目を見開いた。

「女性!?・・・いや、違うそっちではなく、錬成陣なしの錬成ということは・・・」

 ロイの予想通りの行動にエドは一通り笑った後、冷たい光を宿した瞳を敵軍基地のある方向へ向けた。


「ああ、人体錬成をしたみたいだな。・・・10年くらい前の出来事だから、俺は会った事無いけど。」


 そう言ってエドはロイの天幕から出ようとする。

それを慌ててロイが止めた。

「鋼の!?」

エドは一度振り返り、ロイに「俺の出番だ」と言ってシニカルな笑みを送り、今度こそ天幕を出て行ってしまった。

 エドはロイが聞きたかった事に全く答えていなかったが、ロイにはエドがどこへ何をしに行ったのかわかっていた。

 ロイは一つため息をつくと、隊が解散させられたせいで、暇になった時間をどう使おうか考え始めたのだった。







 現在、エドとロイは隊を持っていない。上層部の人間が彼らの戦い振りに、彼らに兵士はいらないだろう、と判断したためだ。確かに、エドもロイも、相手に反撃の隙を与える前に敵を全滅させることが出来たから、兵力の節約のためにもその判断は正しかったと言えよう。

 ロイはそれに不服そうだったが、エドは面倒なことを押し付けられなくて済んでよかった、と内心かなり安堵していた。

 それに、とも思う。


この場に自分以外の者がいたらそいつは間違いなくすでに死んでいるだろうしな、と。


エドは今、リー隊を倒したとされる、錬金術師によって形成される敵軍隊と交戦中だ。

 彼はロイの天幕を出た後、すぐにその場の最高司令官に許可をとり、かの隊の討伐に向かったのだった。

 そして早速戦いの火蓋が切って落とされたわけだが、はっきり言って今のエドの状況は、良好とは言いがたいものだ。

 30人程しかいない隊ではあるが、その全てのものが錬金術に秀でていて、エドに攻撃を集中させている。戦いが始まってからまだ5分もたっていないが、すでにエドの周りの空間はどこの砂漠だ、とでも聞きたくなる状態になっているのだ。


 水分を奪うもの、火をだすもの、砂を操るもの、物の分解に長けているものなど、多種多様な錬金術の集中攻撃を受けているので、空気はかわき、草木はとっくにかれ、ただの平原だったはずの大地は枯渇して、砂漠状態と化している。

その状態は、エドだから生きていられるものであって、他のものがいたらひとたまりも無いだろう、と容易に考え付くことが出来た。


 だからこのとき、本当に自分が隊をもっていなくて―――ついて来る者が誰もいなくてよかったと心から思ったのだった。


「リー隊が全滅したのもわかるな・・・。だがまだ、甘い!!!」

エドはそう言うと、先程から攻撃を避けるために動きつづけていた体を停止し、両手を広げて見せた。

 それに敵軍隊はどきもを抜かれたようだが、すぐに攻撃をエドに集中させる。

 先程からサルのように動き回って、たまにあたりそうになる錬金術をさらに錬金術を使って相殺させるなど、はっきり言っていままで会った事の無いほどしぶとく、ずば抜けて戦闘能力の強い少年に、ナイジェルの隊の者たちはかなり焦れていた。

 よって、自然と意識のほとんどがエドへの攻撃へ向かっていて、その他のことに意識を向けることが出来なかった。


 少年に攻撃が集中したせいで、先程まで少年のいた空間には、小規模な爆発が起こったのだった。


それによってしばらく少年の姿が見えなくなったが、ナイジェルの隊の者たちはあれでは生きていないだろう、と思い、気を抜いてしまったのだ。


 それが、いけなかった。意識がずっと前方にむいていたこともあり、後方への配慮がまったく無かったのだ。


 そこを、エドは突いた。


彼は、攻撃があたる寸前、真理の門がある空間を介して、敵軍隊の後方へ瞬間移動していたのだ。

 そして迷わずに敵の後ろ姿に向けて突起を錬成する。

それだけで敵は全滅した。

意外なほどあっけない終わりに、エドはつまらなそうに呟いたのだった。

「・・・帰るか。」

そう言って歩き出し、そのまま死体の体の修復をしようと両手を合わせたその時、エドは何かに気付いたようにすばやく死体の大群の中央らへんに視線を向けた。

 だが、その時すでに遅かった。

中央で倒れていた腕がもつ銃から、硝煙がたっていたのだ。


そこから出た銃弾は、エドの心臓を的確に突いていた。


 少年が倒れる様を見届けて、銃を放った人物は、突き飛ばされたせいで離れてしまった男の気配を探る。

 銃を撃ったのは、この隊の隊長・・・ナイジェル・サイ―ブだった。彼女は、エドの突起があたる寸前、自分の第六感と、同じ隊に属し傍らに控えていた夫によってその命を助けられていたのだ。

 ナイジェルは10年ほど前の錬成の失敗によって、視覚を失っていたが、その代わり、それ以外の感覚が異常なほど発達していた。

 血のにおいとかすかに残るコロンのにおいを頼りに、ナイジェルは夫の死体に近づき、もう動かない血まみれの体にしがみついて泣いた。



 しかし何を思ったのか急に顔を上げ、信じられないとでも言いたげな顔で背後を振り向いたのだった。

そこには、いるはずの無い人物の気配が。

ナイジェル思わず叫んでいた。

「なぜ!!?あ、あなたは・・・私が殺したはず・・・!!!」

それに答える声は、感情を押し殺したような静かな声だったが、まだ若い。

「確かにな。一回死んだ。あんたすげぇな。目ぇ見えないのにあんなに銃の腕がいいなんて・・・」




そう言いながら、エドの右手は、ナイジェルの心臓を完全に貫いていたのだった。

 






(あとがき)
戦闘は沢山あるけどグロくはないんではなかったのか?
そう言いたい方もいるかも知れません。

ぶっちゃけ、戦争ものを書くのに、グロさは必要不可欠なのです。
だから勘弁してください。

これもこの戦争がおわるまで・・・!後3,4話です!
それが終わったらほのぼのな話が始まりますから、もう少し我慢していてください。
 どうかまだ見限らないで・・・!(泣



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