昼を少し過ぎた頃に出て行った少年は、日が傾いてきた頃、胸と右腕を血で濡らした状態で、ロイの部屋へ帰ってきた。



活躍6





「鋼の!?」

気配も無く無言でロイの部屋に入ってきた血まみれのエドを見て、ロイは驚いたような声を上げた。
エドはそんなロイをみて笑って、ただ「ただいま」とだけ、言った。

続けて、
「ナイジェル・サイ―ブの隊は全滅させた。これでまた終戦に近づいたな。」

と、笑顔で言ったのだった。

その顔は実に晴れやかである。

 当然だ。すでに軍の脅威となりえていた敵の軍隊を、たった一人でつぶす事に成功したのだ。誇らしくもあり、軍の未来を考えれば、自然と顔は明るくなるものだ。

ただし、しらぬ者が見ればそう見える、というだけの話だが。

ロイからしてみれば、エドの今の様子は無理をしているようにしか見えない。
なにか辛いこと、悲しいことがあったのを、必死で押し隠しているような、そんな顔雰囲気をかもしだしていた。

 見た目は顔も声も生き生きした、いつも通りの強い鋼の錬金術師だが、ロイはエドの異変に気付いていたのだ。

 ロイはエドのそんな様子に眉をしかめ、「なにかあったのか」とエドをしっかり見て訊いた。

するとすぐさまエドがそれに返した。

「いんや、別に。」
「その即答具合が肯定していることに気付かんのかね、君は。」

そう言うとエドが変な顔をして、額を抑えて唸る。

ロイの様子から、 すでに彼はエドの変調を確信している、とわかってしまったのだ。

 そして、そのままの体勢で「ったくなんでこうも毎回毎回・・・」とぼやき、しばらくしてから瞑っていた目を開いた。


 しかし手は額に乗ったまま、顔はそれによりうつむき加減である。
当然ロイとは目線が合わない。

それをわかっていて、エドは言葉を発した。

 ロイと今視線があえば、きっと要らぬ事まで言ってしまいそうで、恐かったのだ。


「・・・・さっき、俺、初めて死んだ。」

その言葉にロイがわずかに目を見開いたのがわかったが、エドは気にせず、自嘲気味に言った。

「油断してた。完全に皆殺しにしたと思ってた。そしたら後ろからズキュンって。」

そこでエドは渇いた血がこびりついている右腕を上げ、人差し指と親指を立てて、それから漸くロイをみて手首を上にひねった。まるで、ロイを撃つかのように。

そんな自分の行動にエドは更に自嘲の笑みを深め、腕をおろしてまた視線を床に落とした。

「馬鹿だよな。散々他人を殺してきたのに、自分の死は馬鹿みたいに悲しかった。一度止まった心臓がまた何事も無かったように動き出したことが、やけに辛かった。
・・・・・・・もう、わかってたはずなのに。」

もう、自分が人間ではない事など承知していたはずなのに。

 そんなエドの痛々しい様子を黙ってみていたロイは、不意に訳のわからない衝動に駆られて、エドへ音も無く近づいていき、昔から見ればかなり成長した、だがまだ自分からしてみれば小柄な体を、そっと抱きしめた。

 エドはそんなロイの突飛な行動にあっけに取られ、背中にまわっている腕を剥がそうともがきかけたが、止めた。

 意外とその腕のぬくもりが気持ちよかったためだ。

普段なら、いくら気持ちよかろうが、ロイに抱きつかれるなんてことをされればがむしゃらに抵抗する。

 だが、今はいいか、と思ったのだ。幸い、部屋には2人以外誰もいないし、なぜか嬉しくも思っていたから。


 先程まであれほどざわついていたエドの心は、すでに平静を取り戻していた。

それに気付き、エドは何か更に心が温かくなっていくような気がして、ロイの背中に自ら腕を回した。

 顔には自然と穏やかな笑みが。
エドのそんな様子に、ロイは常に無くどぎまぎしながらも、エドの体を放そうとはしなかった。

突然訪れた穏やかな空気の中、エドはロイの肩口に顔をうずめながら、先程の出来事を思い出していた。 。





 エドは、ナイジェルから腕を抜くとほぼ同時に、すでに自身の一部のような少女の名を呼んだ。

「リーフ」
「はい。」

すると、いつものように背後の何もない空間から緑色の少女が現われた。

エドは少女を見ずに、顔を俯けて言った。

「お前は、俺が親父を殺した時、こう言ったよな。

 『あの男のように命をもてあそぶ事を良しとするときが来たら、貴方はあの男と同じ命運をたどる事となります。』

 ってよ。今の俺はどうだ?もう立派な大量殺人犯だぜ?これは、命をもてあそぶという事になんないのかよ。俺を、罷免させようとは思わないのかよ。」


リーフは今にも倒れそうな顔で、エドの慟哭に似た疑問を聞いていた。
この時になってようやく気付いたのだ。

目の前の少年は、決してまだ運命を受け入れていたわけではなかったのだと。

いや、納得していたはずだったが、実感は無かったのだろう。・・・自らの運命の過酷さに。やはり少年はまだ幼かったのかもしれない。一度死んだはずなのに生きている自分が、急に恐くなったのだ。

 そして少年は今、恐ろしい運命から逃げ出したい、という考えをもってしまったことに、リーフは今、やっと気付いたのだった。

 心の中だけで思う。「世界の目」となるべき人物だけは、どうしてもその心情を覗く事が出来ないということが、こんなにももどかしいと思う日が来るとは、思わなかった、と。


 エドが今、何を考えているのかがわからない。


これから数多の無残な死を他人に与えて、運命から逃れる方法を取ろうとしているのではないか、そう、かんくぐってしまいそうになる。

 だが、そんな身の引き裂かれそうな考えをリーフは必死で押し殺し、すでにエドが知っているはずの答えをもう一度、世界の総意たるリーフの口から直接展示した。


「戦争には大義名分があります。国を守るための戦いである、と。それが免罪符になるのです。だからあなたの行動は、咎める必要はありません。
 大量に人を殺したとしても、それは、命をもてあそぶという事ではないのです。命をもてあそぶと言うのは、自分の私利私欲の為に、人を実験に使ったり、無駄な殺しをすることです。あなたのは、違うでしょう?」


エドはリーフの言葉に頷くことは無かった。

その代わり、漸く彼女の方を振り向いて、笑って「もう行くな。」と行って文字通り消えてしまったのだ。

残されたリーフはただ愕然と立ち尽くし、やがて彼女も同じように消えていったのだった。



エドは、考えていた。


 違う。戦争に大義名分なんてあるもんか。ましてやそれが免罪符になるなんて、絶対に何か違う。

 自分の行動は、本当に「命をもてあそぶ」ということに繋がらないのだろうか。

と。



 エドは取り留めのない思考に巻かれながらも、ロイとのつかの間の休息を味わっていたのだった。







(あとがき)
ぬぉあ!!やっとロイエド!なれないフレンチラブv(爆

これが私の限界です。きっとこれ以上ラヴいものは書けません。
じゃれあいは沢山書きますが。

さぁ、エドが疑問を持ちましたね。彼は今後どのように動くのでしょうか。
・・・とか言ってても、実は結構さりげなくこのエドの疑問は幕を閉じます。

 ははは・・・。ど〜なるんでしょ〜ね、今後・・・。




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