鋼の錬金術師がリー隊を消した隊を全滅させたと聞いて、軍内が一時明るいムードに包まれたのもつかのま、今、アメストリス軍基地では、常にない緊張に静まり返っていた。



活躍7





大総統、キング・ブラッドレイがアメストリス軍駐屯基地に突然訪問してきたというのだ。
ロイは戦闘から帰り基地についた途端呼び出され、そのまま会議に出席させられた。

ついた先、天幕の中には確かに自軍の最高権力者がいた。そしてその両隣に控えるように立つのは、すでにお馴染みといっていいアームストロング中佐と、まだ幼いともいえる小奇麗な少年。

(鋼の・・・?)

そして気付く。この場にいる多くの者が錬金術で名を残してきた人物と、そうではないが軍でかなり高い位置にいる者たちであることに。
ロイはそのことに一瞬訝しげに眉をしかめそうになったが、この場にはロイよりも上の立場の人間が常にはありえ無いほどいたのでなんとか抑え、与えられた席についた。

 ロイが席についたのを確認した大総統は、厳かに言葉を放った。

「君たちに集まって貰ったことには理由がある。私はこの戦争を長引かせるつもりはない。そこでだ、すでに気付いているものもいるだろうが、ここにいるほとんどの者は錬金術師だ。」

そこまで言って大総統は言葉を切った。
 よもやまた国家錬金術師の総動員か!?と場がざわめき出した瞬間、大総統が手を軽く上げ彼らを抑えた。
「安心したまえ。今度は有志だ。内容は大して変わらんがな。」

大総統はまたもや話を切り、やっと核心を切り出した。

「少々良い手とは言えんがな。君たちの誰かにアエルゴ軍駐屯基地に直接奇襲をかけて欲しいのだ。」

その言葉に先程の比ではないほどのざわめきが広がる。

しかしそのざわめきの中、凛とした澄んだ少年の声が不思議に響いた。

「大総統閣下。私とマスタング将軍が行きます。」

その言葉に場は一気に静まり、皆が発言者に注目した。
その無謀ともいえる発言をしたのは、金髪金目の少年。もはや彼の名を知らぬものはいなかった。

「鋼の錬金術師・・・!」

誰かの呆然とした声が聞こえたが、エドは無視して焔の将軍に笑いかけ、「よろしいですよね、将軍」と言った。
 それによって今度はロイに視線が集まったが、ロイは何も言わなかった。

否、言えなかった。

エドが能力を行使したのだ。今、ロイの頭には耳を通さずに直接、エドの声が響いていた。

それにめまいを起こしそうになりながらも、ロイは必死に平静を装ってエドの声を聞いていた。

『損はさせない。あんたが死ぬ心配もない。更なる力を示すチャンスだ。頷け、マスタング少将!』

 そう宣言されては、ロイは頷くほか無かった。
それに、少年の期待にこたえたい、などとも思ってしまったのだ。
この、死をも恐れぬ行動の、肯定を。

ロイが数秒後、重々しく頷いたので、場はまたざわめきを取り戻した。

そしてアームストロング中佐も名乗り出た。

「では、私も出ますぞ!!」

と。しかしエドはそれに首を振った。
「いえ、アームストロング中佐は大総統閣下の警護を。それに、敵に油断させるためにも、私達二人だけで行きます。」

と。命を顧みないその発言に、しかし反対意見が出る事は無かった。
大総統が、了承したためだ。

「よかろう。「アメストリスの双璧」とまで呼ばれた二人だ。君達を信用しようではないか。」

そうして、彼ら二人だけの奇襲作戦は幕を開けた。





「しかし、大総統閣下が了承するとは思っていなかったぞ。」

所変わってお馴染みのロイの部屋、エドとロイは作戦の話し合いをしていた。

「まぁ、事前にお願いしといたからな。」

ロイの言葉にケロッと答えたエドに、ロイは目を丸くした。

「何?いつの間にそんなに親密になったのだね。」
「ん〜。約二年前?俺が失踪するちょっと前くらい。まるでおじいちゃんと孫だぜ。あの人親子って言い張るけど。」

 歳がな〜などとのんきに言うエドに、ロイは軽くめまいがした。

軍の最高権力者とコネまで作っていた少年に、感心しながらも気が遠くなったのだ。

 しかしそれは目を伏せて口を軽く引きつらせるだけでやり過ごす。

そして気分を一新させて聞く。

「勝算は?」
するとすぐさま答えが返ってきた。

「ない」

それにロイは今度こそめまいを隠し切れずに、壁に手をついた。エドはそれを楽しそう見ながら、しかし瞳は獲物を狙うそれで、不意に声を発した。

「俺が俺である限り、死んだり負けたりするだなんてこと、無いんだ。だから何も心配すんな。今まで通り、こっちに銃を向けてきた奴を殺せばいいんだ。」

エドの常にない発言に、ロイは違和感を感じて「何があった?」と訊いた。
最近。この手の質問をしてばかりだな、と思いながらもエドを注意深く見る。

 エドは、どこか迷いのある、そして投げやりな思いを瞳に浮かべていた。

それにロイは確信し、もう一度「何があった?」と訊いた。

エドは眉をしかめて、「好奇心は猫をも殺すっていう諺を知らないのか、最近のあんたは。」と言った。どうやら相手も同じように感じていたらしい。

ロイはそれにさらりと「知らんな。」と答え、続けて、「私は日系だからな」と言った。

エドはそれに顔を引きつらせ、よくもぬけぬけと、と思いながら、ため息をこぼした。

 なぜ、この男は自分の異変に気付いてしまうのだろう。
 なぜ、すべてを打ち明けたくなってしまうのだろう。

エドはそう思いながら、いすに座って視線をロイからはずした。

横を向きながら、エドは言った。

「あんた、俺が見せた映像ん中に、リーフっていう名の女の子がいたの、覚えてるか?」

ロイは頷いて、「君が名を上げた娘だな」と言った。

「ああ、その子が言ったんだ。いや、先に俺が、俺のやってることは命をもてあそぶと言う事にならないのかって訊いたんだけどさ。
 そしたらあいつ、「戦争には大義名分があり、それが免罪符になるから命をもてあそんでいると言う事には繋がらない」って。そう言ったんだ。
 それって、ちがくないか?どんな理由があろうと、殺しは殺し。大義名分は免罪符なんかじゃない。ただの、人殺しの言い訳だ。」

 そもそも、よく戦争で使われる「正義」ってなんだ?自国の正義は相手国にとって侵略理由でしかなく、他国の正義は自国にとってただの自分勝手な言い分にしか聞こえない。

エドはそこまで言ってしゃべるのをやめた。

 そして眉をしかめてうめきながら髪をかき混ぜる。

「なんかもう混乱してきたぞ!!やめだ、やめ!!!あんたに言ったってしょうがないしな!!」

突然喚きだしたエドに、ロイは驚いたように目を見開いたが、冷静な口調で返した。

「確かに私に言っても意味のない事だがな、叱咤ぐらいは出来るぞ。」

と。
叱咤?とエドが訝しげにロイを見ると、ロイはエドに厳しいとも言える目をむけた。

「私は、そのリーフという娘の言った事に賛同している。でなくては軍人なんぞやっていけるか。しかしお前の言い分がわからんでもない。私も・・・いや、イシュバールの戦いを体験した者ならば、誰しももつ疑問だ。
・・・お前は何の為に銃をもつ?何かを守りたいからではないのか。その理由に納得できないと言うのなら、軍人なんぞ辞めてしまえ。強制されているわけではないのだろう?」

そう、言った。エドは反論しようとしたが、ロイが更に言葉を重ねたので口を閉ざした。

「・・・割り切れ。その疑問を忘れずに、な。忘れたら人間としておしまいだ。」


それを聞いてあることに気付いた。
さっき、この男はなんと言った?「私も疑問に思った」そんなような事を言わなかったか。
 これは、先輩からのアドバイスのようなものなのだ。ロイもきっと、同じように悩み、考えたすえにこの結論を出したのだろう。

 割り切る事が良いことだとは、決して思わない。
だが、そう考えれば気分は楽になるものだ。

 それに。

どんなに悩もうが考えようが、エドは軍人をやめる気などさらさらないのだ。

彼らにはきっとこれからも言う事はないだろうが、エドが正式な軍人になったのには、2つの理由がある。

一つは、自らの将来の生活の保障のため。

そしてもう一つは。

ロイの言う通り、守りたいものがあったからだ。

弟を、幼馴染を守りたい。旅先で出会った沢山の親切な人たちを守りたい。世話になった軍人達を死なせたくない。

そして。

自らの生まれ育ったこの国を、守りたい。

そう強く思ってしまった為に、のうのうと暮らしている事が出来なくなったのだ。

そして、戦争ではそれらを守る為には、銃を持つことが必要であるのだ。

 忘れかけていたその思いを再確認させられ、エドはため息をついた。


自分でも矛盾してる、とか単純だな、とか思わないでもない。だが、この男の言う事に、なぜか納得してしまっている自分がいた。

エドは視線をロイに戻し、情けなく笑って言った。

「ありがとう」

その言葉にロイも笑い返して、穏やかに言った。

「君一人で背負うものじゃないよ。明日の作戦だって、君は安心して私に背をまかしてみなさい。まぁ、これを着けたまま言う台詞じゃないかもしれんがな。」

そう言いながらロイはネームタグを取り出し、おどけたように言った。
 ロイが言ってくれたことが嬉しかった。そう言ってくれたものは、今まで誰もいなかったから。しかしそれをおくびにも出さず、エドはそれに「確かにな〜」といたずらっぽく笑って返し、それからまた穏やかな空気が流れ始めた。






リーフ、聞こえるか。お前を不安にさせちまって、悪かったな。だけどもう、俺迷うのやめるから。自分の行動に責任持って、後悔なんてしないようにするから。

 役目から逃げ出したい、なんてもう、思わないから。

  だから、安心してくれ。


少女の安堵したような返事が聞こえ、エドはかすかに笑った。








(あとがき)
すみませんごめんなさい。
なんかもうどうエドの悩みを解決すればいいのかわからなくなってしまい、こんな結末に。
 矛盾してるぅ!あんたなんでロイのいうことそんな丸呑みしてんのぉ!!
とか思う方も多いはず。ですがあんまりこのエドの苦悩を長引かせたくなかったですし、
 私自身若輩なもので、疑問には思ってもそれの解決策、打開策は見つからないんです。

だから楽しみに待ってくれていた方、申し訳ありません。
なら始めから書くなよ、って思われるかもですけど、エドにはただの殺人鬼になって欲しくなかったんです。
勘弁を〜・・・(泣逃
あぁ、皆様からの反応が恐い・・・Uu

あ、ちなみに文中の「好奇心は猫をも殺す」ってやつ、適当に検索してみれば意味は出るはず。
 日系がどうのこうのっていってたのは、それの発信源がアメリカ辺だからです。(たぶん)




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