それは、情報漏洩防止の為に秘密裏に進められていた作戦の、決行の朝。 エドはなぜか早くに起きてしまい、特にやる事もなかったので適当に散歩をしようと、 軍基地から出た。 数十分ほど歩くと、ふと広くて足の長い草むらに行き着いた。 まだこんな所が残っていたのか、と今までの激戦を思い出しながら感心していると、不意にそう離れていない所にある草が、小さな音を立てたのだった。 敵か、と思って素早く錬成しようとしたが、すぐに止めた。その正体が、すぐにわかってしまったから。 活躍8「おい、そこで何をしている?」 エドが音を立てたものに声をかけたが、「それ」は反応を返さず、じっと動かない。 ばれてるのに往生際が悪いな、と思いながら苦笑して、自分に刺さる視線にエドはいたずら心を刺激され、風を錬成して「それ」の視線を草で遮ってしまう。 それと同時に、真理の空間を介して瞬間移動し、「それ」の背後に音もなく舞い降りる。 「それ」は草から目をかばっていた腕をどかすと、先程までいた者がいないのに驚き、慌てたように辺りを見回した。 そしてすぐに体を強張らせる。探していたものが背後にいることに気付いたのだ。 エドはその一連の動作を笑いをこらえながら観察して、不意に「それ」と目線を合わすようにひざまずいた。 「よぉ。で、何してたんだ?」 そんなエドの様子になぜか恐慌状態になった「それ」は、悲鳴を上げながらエドから離れようとしたが、それは笑いながら肩をつかまれて失敗に終わってしまった。 「うわあああぁぁああ!!!!」 「おいおい、そんな恐がんなって。とって食いやしないよ。」 「う〜そ〜だぁぁぁああ!!!!」 「Σ 何ぃ!?俺は人食いに見えんのか!!!?」 「はぁあ!?・・・・ゴメン」 エドの心底ショックをうけたような声を聞いたそれは、不意に抵抗を止めて素直に謝った。 その変わり身の早さに軽く動揺していると、「それ」はエドをじっと見て小首をかしげた。 「あんた軍人さん?」 その様子があまりにも小動物を思いおこすくらいかわいくて、エドはなんだか和みながらゆっくり肩から手をどけてやり、質問に答えた。 「あぁ、そうだ。で、お前は?」 なぜここにいる?と言う意味で聞いたのだが、「それ」は「お前の名前は?」と聞かれたのだと取ったようで、「カイル!」と元気に答えたのだった。 そう、「それ」の正体は子供だった。まだ6・7歳であろう、幼子だ。 基地の周りは他の激戦地よりも比較的安全とはいえ、軍駐在基地に近いこんな場所に子供が一人でいるのはおかしい。戦争が開始される前に、とっくに避難命令が下されていたのだから。 エドはため息を必死に抑え、子供から情報を引き出すことを早々に諦めた。無駄な労力は使いたくないのだ。 先程から世界から提示されている情報を受け取り、エドはしばらく考えたあと、子供に「俺はエドだ」と名乗った。 カイルは嬉しそうに「エド」と口にのせ、それから「俺、母さんと離れちゃったんだ。」と悲しそうに告げたのだった。 エドはそれを承知していて、手探りで常に携帯している非常食を取り出し、カイルに差し出した。 それを嬉しそうに受け取り、カイルは座ってよくかみながら租借し始める。 エドはそれを穏やかな顔で見ながら、この先どうしようか、考え始めた。 カイルは、戦争孤児なのだ。 カイルの母親は病気で、非難勧告が出てもベットから離れる事が出来なかった。 そして漸く、昨日・・・戦争が始まって2週間強ほどたってから動けるまで回復し、それまで留まっていた父と、一人での非難を拒んできたカイルと一緒にセントラルまで非難しようと歩きで移動していた。 そして、悲劇は起きた。 彼らは知らずに激戦区に入っていたのだ。 敵軍の張っていた地雷を踏み、彼の両親は跡形もなく吹き飛んでしまったのだ。 だがカイルは無事だった。 彼の手を引いていた母親が、すんでの所で彼を押し飛ばしたのだ。病で筋肉の削げ落ちたその体のどこにそんな力があったのだ、と聞きたくなるほど思いっきり。 それによって地雷の直撃を免れたカイルは、運良く近くの草むらに着地したが、頭を打ってしばらく気を失い、両親のいた地点で大規模な爆発が起きたことを知らないのだ。 エドはそこまで回想し終わり、おとといのナイジェルの夫の行動と、同じだと思った。 自らの命よりも愛する者を助けようと、必死になり、思わぬ力を発揮する。 本来なら普通の人間であったナイジェルの夫に、エドの突起の錬成を察知し、それから動くなんてこと、出来るはずの無い事なのに。 肉のない体で歩くのもやっとのカイルの母親が、彼を何メートルも吹き飛ばすなんて可能なはずないのに。 そう思ったら、エドは自然と、口から言葉を発していた。 「すごい、な・・・。」 それを聞いて、非常食を食べ終わったカイルは、無邪気な顔で「何が?」と訊いてきた。 だがエドはそれには答えずに笑ってごまかし、立ち上がってカイルに告げた。 「お前の両親を見つけるためにも、一度基地に来い。もしかしたらセントラルに着いているかもしれないし、いつまでもここにいたってしょうがないだろ?」 そういうとカイルは頷いて、彼も立ち上がろうとした。 と、その時。 何十にもなる銃声が茂る草むらに響いたのだった。 「え・・・?」 カイルの呆然とした声をききながら、エドは自分の行動に驚いていた。 カイルに気を取られていてまわりに注意を向ける事を完全に忘れていた。 錬成の為に手を合わす時間も無かった。 だからエドは、 カイルを抱き込みその数十にもなる銃弾を、一身に受けたのだ。 「・・・っつ、ぁ・・・!!」 悲鳴を上げ、痛みに意識が遠のきながらも、エドは決してカイルを放そうとはしなかった。 そしてゆっくりとカイルに覆い被さるような形で、足の長い草の上に倒れこむ。 自分に覆い被さるエドの軍服を無意識に掴み、カイルは今の状況を必死に把握しようとしていた。 だが脳裏に浮かぶのは、疑問ばかり。 自分の頬を、体を濡らす、この生温かい液体はなんだろう。 今、急に現われてこちらをじっと見てくる人たちは、誰? 今の、音は何。 今、自分の上に乗っかっている人物の、心音と呼吸音が止まったのは、 ・・・何故? そんな幼子の内心など知らず、金髪の少年の死を見届けた者達は、歓喜に震えた。 その手には、未だ硝煙を放つ銃を握り締めている。 「鋼の錬金術師を倒したぞ!!」 「これで我が軍の勝利が近くなった!!」 見知らぬ軍服をまとった男達が歓声をあげる中、それによってやっと状況を理解した、子供の悲鳴のような泣き声が響いたのだった。 「いやだああぁぁああ!!!エド・・エドぉ・・やだぁああ、死ぬな、死ぬなよ・・・・!!!あ、あぁああぁあああぁぁぁぁああ!!!!!!!」 そこで漸く子供の存在を思い出したアエルゴの軍人達は、子供と錬金術師の死体に近づいて行き、子供に向けていやな笑顔を向けた。 「ありがとうよ、坊主。漸く鋼の錬金術師の隙をつくことが出来た!お前のおかげだ、礼を言うぞ!!」 その事実にカイルが泣くのすら止めて呆然としていると、男はカイルに銃を向けた。 それを見ても他の軍人達は何もいわない。 ここで死ぬのが、子供のためだと思う者もいるし、子供の命なんてどうだっていいと思う者も多々いる。 そして、男が引き金を引こうとしたその時、 何かを打ち合わせるような音がその場に響いたのだった。 その後にはまばゆいほどの練成光が。 光がやんだ後、そこにはいるはずのものがいなかった。 先程までいた十数人の軍人は、どこにも見当たらない。 カイルがその事にまたもや言葉を失っていると、自分の顔のすぐそばから搾り出すような声が聞こえた。 「子供に、余計なこと、教えんじゃねぇ・・・!」 それからすぐに自分の体から重みが消えた。 「・・・え、ど?」 カイルが漸く声を出し、自分の体からはどいたがまたすぐ隣の地面に倒れた体を凝視した。 「あ〜・・・疲れた。眠い。早くこ〜い・・・」 死んだはずの人間が生きてる。彼の呼吸と心音が止まったのは、密着していたせいでよくわかったのに。 でも、でも。 そんな異常性はどうでもよかった。 「エドぉ!!」 カイルはそう言いながらエドの血まみれの体に覆い被さり、抱きしめた。 そして大声を出しながら泣き始める。 エドはそんなカイルの背をゆっくりと撫でながら、慈しみの光をたたえる目で彼を見ていた。 自分でした行動にかなり驚いた。 ナイジェルの夫と、カイルの母親の行動を思い出していたからこその行動だったにしろ、違うにしろ、エドも彼らと同じように、何も考えずに、ただただ子供を守らねば、と思っての無意識下の行動だった。 そして思う。カイルに重なる悲しい思いをさせずにすんでよかった、と。 もし自分がこのまま死んでいたら、敵軍の軍人の言葉で自分のせいでエドを死なせた、と心に傷を負わしてしまっていただろう。 初めて、この特異な体でよかった、と思った。 ついでに、なんかこの先やっていけそう。とも思う。 自分の無意識下の行動に、エドは心が温かくなるような感じがした。この体の活用法・・・と言っては言い方が悪いかもしれないが、この特異体質があれば、きっと人を殺すだけではなく、何人もの人を生かす事も出来るだろうということに、今やっと気付いたから。 エドはわずかに微笑んで、心の中でリーフ・・・世界に感謝した。 「見つけたぞ」 それから数分後、息を切らしてロイが草むらに駆けつけた。 エドはカイルの体からどいてすぐ、ロイに「迎えに来い!!」と直接脳みそに言葉を送っていたのだ。 ロイの言葉にカイルは敵だと思い過剰に反応し、すぐさま立ち上がってロイの前にエドを守るように立ちふさがったが、エドが「仲間だ」と言ったことによりすぐに警戒を解いた。 ロイはそれに軽く眉を顰めたが、何事もなかったように目の周りの赤くなっている子供の頭をなで、エドの傍らに膝をついた。 「起き上がれないのか」 そう短く問うと、エドが「是」と返したので、ロイはエドをゆっくりと持ち上げた。 所謂、お姫様抱っこって奴で。 エドはそれに顔を引きつらせたが、言い返す気力もないのか、睨むだけして体から力を抜いた。 ロイはカイルに向けて、「行くぞ」と言うと、とっとと歩き出す。 そして腕の中の少年に声をかけた。 「何があった」 「襲われた」 すぐさま返って来た返答に、ロイは眉間に深いしわをつくり、「敵は」と短く問うた。 「塵に返した。子供に血まみれの死体の大群見せるわけにはいかねぇだろ。」 ロイはそれに、エドがいつも何故死体の修復をするのか知っていたから、意外そうな顔をしたが、エドはあまり気にせずに理由を言った。 「あいつらアメストリスの言葉をしゃべってた。身のこなしとか、気配もまったくなかったから、特務部隊だ。家族は当然いない。」 そう、エドがいつも死体を修復していたのは、家族が死体を見た時少しでもその悲しみを減らすため。だから良いと思ったわけでもないが、子供がいることがわかっていたのに銃を発砲した奴らに、情けをかけてやる事もないか、と思っての行動だった。 ロイは「特務部隊か・・・」と言い、「それで?」とつなげた。 エドは一瞬何が?と思ったが、なぜ動けなくなっているのか、と訊きたいのがわかり、明後日の方向を見ながら答えた。 「あぁ〜。ちょっと見りゃわかると思うんだけど、銃弾沢山受けちゃって。蘇生プラス傷の修復で体力使い切っちまったっぽい。」 といった。 そう言われて見てみれば、エドの軍服はもう空のように青いところはない。すべて、赤に染まっている。 ロイは今更ながらそれに動揺し、「大丈夫なのか!!?」と大声を出し、後ろからついてきていたカイルに半眼で「遅いし」と突っ込まれた。 それに顔を引きつらせながらも、ロイは必死で言い訳を並べた。 「いきなり頭に直接大声が響いて天幕から出てみれば衛兵達がこちらの方を見て騒いでいるので訳を訊いたら異様なほどの錬成光がしたと言うからきてみれば、子供がいてお前は普通にしゃべっていたからとりあえず命は無事だと安心して「長いよ馬鹿」 ほとんど一息に言うロイにまたもやカイルが冷静に突っ込みをいれた。 とりあえずロイが心配してくれたらしいことに喜びながら、エドは楽しそうに笑った。 (あとがき) またもやオリキャラ登場!いいかげん名前を考えるのが面倒になってきたぞ!! そしてエド、あんた死にすぎ。 しかし安心してください、もう死にませんよ〜。(たぶん) これで、エドは「人殺し」と「不死」、両方の克服をした、と言うわけです。 めでたしめでたし〜。実は何気にこの話気に入ってます。我ながら上手い!って思ってしまいました。 前回微妙でしたから尚更ね・・・。 で、無能。7歳児に突っ込まれる大人。 嗚呼、無能。悲しき無能。 BBSででたBOM(ベスト・オブ・無能の方)を達成できた感じで尚よろし。 あぁ、楽しかった。 |
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