就寝間際、簡易ベットの中から今にも泣きそうな顔で「父さんも母さんも大丈夫だよね・・・?」と軍服を握り締めて問うた子供に、金髪の少年はやわらかく微笑み、子供の頭を撫でながら答えた。

「二人とも、早く見つかると良いな。」

と。すると子供はその微笑みに安心したように笑い返し、すぐに深い眠りに落ちていった。


 ロイは、その一連の様子をなんともいえない、複雑そうな顔で見守っていた。



活躍9





 エドの部屋ではカイルが寝ているので、エドとロイはロイの部屋で黙々と装備の点検をしていた。

 一時動けなくなっていたエドだが、まる一日寝ていたおかげで、今ではすっかりいつも通りの体力を取り戻していた。

 よってアエルゴ駐屯基地の奇襲は、先日決めたとおり今夜決行となった。

当然、当初の予定通り二人で敵軍基地にいる全ての兵士と戦わねばならないので、装備の準備を怠ってはならない。

 ナイフ、小銃、銃弾、閃光弾、手榴弾と点検していき、もしもの時のために靴裏や服の裾にも小さな針やナイフを仕込み、腰のベルトに点検した物を固定していく。

ロイは最後に銃を解体し、それを点検してからまた組み立てはじめた。

 その時、集中していたおかげで無音だった空間に、漸く音が戻った。
ロイが、エドに話しかけたのだ。

「鋼の」

 エドはナイフが曲がっていないか目に垂直に持って点検していた途中だったので、そのままの格好でちらりと横目でロイを伺ってみたが、彼はこちらを見ずに、黙々と銃を組み立てていた。

 だからエドも視線をナイフに戻し、「何」とだけ返事をした。

それに返ってきた言葉は、すでに予想されていたものだった。

「カイルをどうするつもりだ?」

点検の終わったナイフを所定の位置に付けながら、エドも銃を解体し始めた。
 返答は、まだされていない。

ロイはそれを気にせずに続けた。

「すでにカイルの両親はいないのだろう。引き取るつもりか?」

と。先程のカイルとエドの会話で気付いてしまったのだ。エドはカイルの問いに「大丈夫だ」とは答えなかった。その代わり、ただ「見つかるといいな」としか、言わなかったのだ。

彼の能力を考えれば、カイルの両親の行方はすぐにわかったはずだ。

 もし生きているならば、エドはカイルを安心させる為に、はっきり「大丈夫だ」と言っただろう。

しかし、すでに生きていなかったのならば。

 あの幼子は傍目にもわかるくらい、すでにエドに依存しているのだ。エドが「大丈夫だ」といえば、それを迷信的に信じつづけるだろう。その後いくら軍から両親の死を知らされても。

 だから言わなかったのだ。望みの無い希望を持たせ続けないために。

 そんなエドの考えに気付いた上での問いであった。


またしばらく無音の空間に戻り、エドとロイが装備の点検のために動かしていた手を下ろした時になり、漸くエドが口を開いた。

「・・・わからない。ただ、カイルの判断にまかせるつもりだ。
あいつが何も言わなかったら、親戚を探してあずける。
 もし、俺に引き取られる事を願ったならば、できる限りのことはするつもりだ。」

 と、ロイをしっかりと見て言った。

それに一つため息をつき、ロイはただ「そうか」と言い、立ち上がった。

「その時が来たら私に一言言いなさい。及ばずながら力になれることもあるだろうよ。」

 そう言って、エドに向けて苦笑して見せた。

実は、すでにカイルがどうするかなんぞ予想がついている。
 まだ一日しか接していないが、彼は自己主張がはっきりしている。そして、何よりも幼いのだ。きっと、変な遠慮などせずに共にいる事を望むだろう。

そうなれば、いくら高い地位を持っているからといって、まだ未成年でしかないエドが色々な障害にぶち当たるのは必須。

 せめてそんな時くらい力になってやりたい、そう思っての言葉だった。

 エドもそれがわかっているのか、微笑んで「さんきゅ」と言って立ち上がった。

立ち上がり顔を上げた彼は、先程の少年の雰囲気は捨て、すでに軍人の顔になっていた。

 自らの銀時計を見れば出発時間が迫っていることに気付く。

ロイとエドは点検し終えたばかりの装備を腰や背中につけ、基地の外に用意してある車へと向かっていった。





 ロイの部屋を出て数分すると、ホークアイ少佐とハボック大尉が敬礼で出迎えてくれた。

 エドとロイも敬礼を返し、無言で通りすぎようとしたが、不意にエドは立ち止まり、二人に向けて小声で言った。

「カイルのこと、頼んだ」

と、だけ。それが今生の別れのように聞こえたのだろう、わずかに眉を顰めた二人に、エドは笑って付け足した。

「俺が帰ってくる前に起きるかもしれないだろ?朝食取らしてやって」

と。
 そののんきとも言える言葉に苦笑で返し、今度こそ遠ざかっていく上司二人を見送った。

「・・・大丈夫でしょうか」

 ハボックの常に無い緊張した、どこか心配そうな声に、ホークアイはすでに見えない上司たちの後ろ姿を追うように視線を向けながら、静かに答えた。

「信じて待ちましょう。あの人たちが簡単に死ぬなんてこと、あるわけないのだから」

 そう言って漸くハボックを見、「それに、」と言いながら胸元からネームタグを取り出し、苦笑して言った。

「お守りもついていることだし」
と。そのあまり見ることのない笑い顔に見とれながらも、ハボックも胸元のプレートを握り締め、頷いた。

 この“お守り”の効き目は先日身を持って知った。どうか、同じように我らが親愛なる上司二人を守ってくれ、とハボックもホークアイも、赤い玉に向けて強く願わずにはいられなかった。





 遠い軍人達の喧騒を聞きながらも、闇にまぎれて車を出発させようとしていたエドは、不意に顔を上げてたった今出てきたばかりの基地を振り返った。

 それにロイが疑問の声を上げると、エドは微笑んでただ「良い部下持ったな、ホントに。」  とだけ言う。

それにまだ疑問を感じながらも、何故か上機嫌なエドにまぁいいか、と思い、ロイは車を発進させた。

 






(あとがき)
うむ。話が進まない・・・。
今回は随分静かな回でしたね。
裏テーマは「嵐の前の静けさ」で・・・。

嘘です。今考えました。

次は二人に暴れてもらいましょう。
久しぶりに体術を披露してもらいたいですね!!



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