深夜。

舗装など全くされていない、道ともいえない道を、少年と青年の乗った車が静かに走っていた。



活躍10





「今更だとは思うのだがね。」

ライフルを抱えながら眠そうに助手席に座っていたエドは、その声にやはり眠そうに返した。

「んあ?」
と。

そんな返事に気を悪くするでもなく、ロイはハンドルを持ち、前方を見据えながら続けた。

「どうゆう風に要塞攻略するつもりなんだね」


「・・・・・・・・・・あ。」


 そう、日が昇ってから落ちるまで、エドはベットの住人になっていたし、ロイも昼頃からエドが起きたという知らせを聞くまで、深夜の作戦のために睡眠をとっていた。しかも起きたら起きたでカイルがエドのそばを離れようとしなかったし、カイルが寝てからもやる事が山積みだったおかげで、何と言うか・・・その。


 全くと言って今夜の奇襲の作戦を立てていなかったのだ。


「・・・・・・あぁ〜・・・」

意味の無いうめき声を上げつづけるエドをちらりと見て、ロイはため息をついた。

エドはそれを見て顔を引きつらせ、それからフッと笑って言った。

「将軍、中佐たる私が作戦を立てるなど、役者不足も良いところです。ここはやはり将軍が・・・」

しかし皆まで言わせず、ロイもにこやかに笑って言い返した。

「いやいや、金の賢者と名高い中佐だ。君の作戦を当用しようではないか」

と。もはや体のいい責任の擦り付け合い、もといメンドイからお前が考えろよな状態である。
 その軍人にあるまじき短い会話を早々に打ち切り、エドは素に戻り言った。

「普通あんたが考えることだって。あんた将軍だろ?何俺に任せようとしちゃってんだよ」

 もっともな意見だ。ロイも顔を引きつらせて、最近の自分を冷静に解析し始めた。


 どうもこう、アバウトになっていたのだ。有り余る力を得、単独で行動する事の多くなったせいで、作戦の必要性を感じなくなっていた今日この頃。
 ついつい“作戦を考える”という事さえ忘れてしまっていたのだ。

 自己嫌悪に浸りながら、ロイは気分を変えるためにあまり考えず「ただ片っ端からやってみるか」と冗談半分で言ってみた。

 すると傍らの少年から思いもよらない反応が返ってきた。

「お、それいい。そうしようぜ。おれ南から行くから、あんた北からな。」

と。そののんきな言葉に頭を抱えそうになりながらも、ロイは自ら出した提案を即却下する。

「そんな事できるわけなかろう。冗談だ、冗談。」

まったく。そうため息とともに続く言葉に、エドは朗らかに笑いながら言った。

「出来るって。そもそも作戦なんて必要ないんじゃん?二人しかいなくて、目的は敵の殲滅。んで、俺らは広範囲・高威力の錬成を得意として、流れ弾でも死ぬ確率はゼロ。」

 そう言いながらロイの胸元・・・ネームタグのある場所を的確に手の甲で叩いた。

「俺らが一緒に行動していたり、下手な小細工していたらそれこそ時間の無駄だ。なんたってタイムリミットは夜明けまでの・・・あと6時間くらいか?しかないんだし。」

 そう言って座席に深く座り込み、一度両手を叩いておもむろにその開いた両手を空中に突き出した。

 ロイはその行動の意図を、半ば確信しているが問いただす。

「見張りか?」
「ああ。」

そう言ってエドは長めの前髪を掻きあげ、それからロイを覗き込むように言った。

「ほら、もう作戦立てる時間なんてありゃしねぇんだ。ピンチになったら助けてやるし、俺は誤ってあんたを殺すような真似もしないし?」

 少年の顔に浮かぶ不敵な笑い顔にまたもため息をつきながら、ロイは敵軍基地から一キロほど離れた茂みに車をとめた。

 そして、言う。

「どの道、君への負担は馬鹿にならんぞ。いいのか?」

と。エドは「今更だろ。」と笑いながら言い、続けて
「いいさ。俺が決めたんだ」
と言った。

 それに苦笑で返しながらも、ロイはエドにただ「ありがとう」と言った。
エドがロイも同行させたのが、ロイの野望のためだと知っていたから。

 それに驚いたように動きを止め、エドははにかんだように笑い、「似合わねぇの」と照れ隠しのように言った。

 そして、そこで会話が終わり、次の瞬間には双方軍人の顔になり、自らの足で目的地に一直線に向かっていった。





 敵軍に、更なる恐怖と死をもたらすために。






(あとがき)
短い上にちょっとロイの扱いが酷くなってしまった今日この頃。
決して彼をけなしたいわけではありません。
 それもまた笑いの要素ととってくれたならばこれ幸い。



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