戦後、初めてもらった休日。

 エドはカイルを連れてリゼンブールに帰郷していた。


のどかな風景。何処までも広がる緑。

先日まで荒野にいたから余計に、この風景が掛け替えの無い物に見える。


 カイルはアルに預けてきた。

今ごろ、昼食の準備を仲良くやっているだろう。


そして、エドは。


 母の墓前の前に、弟と息子が迎えにくるまで何時間も立ち尽くしていたのだった。



活躍16





遺恨、後悔・・・・・・・切り離したつもりの感情が、ここにくるとなぜか蘇ってくる。

 それは、二度目の人体練成をする前も、後も同じ事。


何も言わずにそこに立ち尽くしていると、いきなり大粒の雨が降り出した。


 ――――――この雨は、浄化の水なのだろうか。それとも、母の涙だろうか・・・・・・。


錬金術師らしくないことが頭をよぎり、エドは苦笑した。


そういえば、上司は家に居るのだろうか。

もし外に出てたならば、この雨だ。行き成り襲われたら火が出ないだろう。


 そう思い、いない人物にとりあえず「無能」と呟いて、エドは自分を呼ぶ“家族”の声に振り向いたのだった。







「前回来た時から三階級昇進だ。一気にお前の上司になった。羨ましかろう。」


こちらもまた違う場所にある墓地。

ロイは親友の墓石に酒を振舞いつつ、冗談交じりにそう言った。


 この結果は、人殺しという決して綺麗な事ではないモノによって得た代価。

だが罪悪感と後味の悪さを感じようが、後悔はしていない。


今こうして、生きてここに立っていられるのも、愚かな後悔を感じずに済んだのも、金の子供の力と葛藤を目の当たりにしたお陰だ。


「あぁ、金の子供と言えば・・・・・。」

考えの途中で出てきた姿に、ロイは無意識に顔をほころばせて言った。


「鋼のが見つかったぞ。五体満足でな。・・・・・・・あの子には、随分救われたよ。」


実際、ロイとて戦時中、エドと同じように色々と悩んでいたのだ。

ただ、一度同じようなことを経験していたお陰で、それが顕著でなかっただけだ。

 だがそれも、子供の葛藤を見、アドバイスをしている間に落ち着いた。


――――――――――今度もまた、自分を見失わずに済んだのだ。


「成長していた。・・・・・・・・精神的にも成長したし、なによりも身長がな。今では平均を少し下回る程度なんだそうだ。」

 くく、と笑いながら言って、更に墓石を見て続ける。


「父親にもなった。名義上のみだがな。鋼のとも暮らすこととなったし、これからが楽しそうだ。」


そう言うや否や、ロイは顔に笑いを浮かべたまま、「今度は鋼のと来よう」と言って踵を返したのだった。


 ・・・・・今にも雨が降りそうだったので、用心するには越したことがない。

数分後、ロイが盛大なクシャミをしたのは言うまでもなかろう。







「本日0900より正式にセントラル配属になった、エドワード・エルリック大佐です。若輩ですが、よろしくお願いします。」

 そう言ってお手本のような敬礼をするのが、昨今話題の最年少錬金術師。


一日と言う短い休暇を負えると、エドの元に大総統からの任命書がまた送られてきていた。

見れば、配属についてが書いてあり、今まで大総統直属だったエドは、これでロイの下に正式に下ったのだ。

 大佐と中将が同じ部署にいると言うのは大変珍しく、上層部も抗議したのだが、それはエドの背後の力(最高権力者による権力)によって上手く丸め込まれてしまった。

こんなところで「やっぱ生かしておいてよかった・・・!」などとちょっと人道を疑われるようなことを考えつつ、エドはマスタング中将配下の仕事場で、こうして自己紹介を終えたのだった。



 掴みは上々。東方司令部からの者以外の数十名は戸惑っているものの、“金の賢者”“アメストリスの双璧”という噂が物を言っているらしく、嘲るような反応は見えない。

エドの年齢を考えれば、確かに上々と言える状態なのだ。


ロイ以下東方司令部メンバーはそれに隠れて安堵のため息を吐いて、通常任務へと入っていったのだった。



―――ちなみに、以下はエドが部屋から出て行った後の軍人達の会話である。


「あれが、鋼の錬金術師・・・・・・・」

「予想以上に・・・・・・・、その・・・・・。」

「・・・・・・綺麗、でしたねぇ。・・・・・・・16歳でしたっけ?」

「16歳・・・・・・・・・・・・・・・・・・。(破顔)」


「あ〜・・・・・・そこのお馬鹿諸君。」


「「「「(お馬鹿だと!?:怒)ハボック大尉!!」」」」

「・・・・・・一応言っておくが、エドに手を出したら上司達に殺されるぞ・・・?」

「(ゴクッ)マ、マスタング中将にですか・・・・・?」

「(ニヤリ)それだけじゃねぇよ。鷹の目と隻眼もエド贔屓だからな。」

「「「「(鷹の目・・・・・・隻眼・・・・・・・・・・・・・!? ってまさか!)」」」」

「(ニヤニヤ)まぁ、精々がんばれよ。蜂の巣(銃)か細切れ(剣)か炭化(焔)する勇気があるんならな。」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ガクッ:泣)」」」」



以上、ハボックによる脅し忠告と部下のお馬鹿な思惑でした・・・・。







「あ〜ぁ。ついに定職についちまった。」

普段誰も足を踏み入れる事の無い、大総統府の屋上で。

エドは大の字に寝転びながら果ての無い青空を何とはなしに見ていた。


今までは野戦任官として軍服をまとっていたが、これからは正規の軍人として軍本部に勤めることとなる。

 ロイの下にいる限りそうそう移転もないだろうし、必然的に一箇所の定住を余儀なくされるのだ。


「期限は、せいぜい20年くらいか・・・・・・・・。」


それが姿の変わらぬ自分の限度―――ごまかしの限界だ。

その頃までにはロイは野望を果たし、カイルは一人立ちして、アル達は子を育てているだろう。



 そしてその後に待つのは、離別のみ―――――・・・・・・。



「辛いかね」

「・・・・・・・・・・当たり前だ。」


傍らには、いつの間にかこの国の最高責任者が立っていた。

普通の人間では足を踏み入れることの出来ないこの場所にどうやってきたのか、と思う以前に、「あんたまたサボってきたな・・・・・・?」という疑問・・・というか呆れが頭に浮かんで来る。

 だから半眼で睨みつけながらそう返せば、ブラッドレイは飄々と笑い、徐にエドの隣に腰をおろしたのだった。


「・・・・・・ならば私だけでも、君と運命を共にしようか」

「・・・・・・・・・・・・・は?」

何を言っているんだ、と呆れて言えば、しかしブラッドレイは意外なほど真剣な顔で、エドをじっと見ていた。


 数秒か、数分か・・・・・。見詰め合ったまま作られた静寂は、不意にエドによって破られる。


「馬鹿言ってんじゃねぇよ、おっさん。」


そう言うと同時にその顔に浮かぶのは、苦笑と、優しい目。

ブラッドレイはその笑みに一瞬息を詰め、自身もまた苦笑した。


「それに、不老不死は俺だけじゃねぇんだ。運が良かったらそいつとまた会うだろうよ。」

・・・・・・あんたがこのままで居たって別に、何も変わらないんだ。

それは、どこか労わるような響きを持っていて。

ブラッドレイはなんだかやるせなくなりながらも、ただ「そうかね」と返したのだった。







 仕事が終わって。居候先であるマスタング宅の前に立ち、エドはその大きな家をしばらく見上げていた。


――――ここには何年いられるのだろうか。

――――――いつまで、彼らと共にいられるのだろうか。


途方も無い・・・・今考えても意味の無い、そんな疑問がどうしても浮かんでくる。

いや、疑問ではない。・・・・・・・正確には不安、だ。


 戦争というゴタゴタが終わったからこそ産まれた不安。待ち受ける未来への恐怖。


いつまでそんな物に苛まれればいいのかと、また一つ不安が生また。

考えれば考えるほど不安になることに気づいたので、エドは思考を切り替えて一歩踏み出たのだった。



 そして、ドアの取っ手に手をかけた、そのとき。


「エド!!」


そう言って、引いていないのにドアがあけられたのだ。

案の定、家の内側から顔を出したのは、義理の息子となったカイル。


 カイルは蔓延の笑顔でエドの腰に抱きつくと、元気な声で「おかえり!!!」と言った。


“おかえり”・・・・・・。


その言葉に、妙に心が温かくなって、エドは微笑んで、カイルを抱きしめ返しながら「ただいま」と返した。


「おかえり。遅かったな・・・・・・・・エド」


玄関口でカイルの頭をなでていると、不意にそう声をかけられた。

 目線を移せば、そこにはシンプルな黒のエプロンをしたロイが。

微妙な組み合わせのそれに思わず吹き出すと、ロイは憮然として腕を組み、「とっととあがって手伝え」と言ってきた。



これがきっと、これから数十年の自分の日常となるのだろう。

それは、あたたかな、家族の風景。

 きっと自分はこの風景に、何度も救われることとなるだろう。


切なさと嬉しさを感じながら、エドは顔に微笑を浮かべて、カイルを伴って家に入っていったのだった。







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってあれ?」


 野菜を炒めながら、エドはわずかに感じた違和感に首をかしげた。

何だ? と思った途端に供給された知識により、エドはその違和感の正体を知り赤面した。



 ・・・・・・・先ほど、ロイは自分のことを何と呼んでいた?



 耳まで赤くなっているのを自覚して、エドは菜箸を持っていないほうの手で顔を覆った。


「は、恥ずい・・・・・・・・・・・!!!」


そう呟きつつも、湧き上がる感情は照れと、何よりも歓喜。

 親しみを込めてそう呼ばれたことが、何故か無性に嬉しかった。


そんな時に、皿を出していたロイがキッチンに戻ってきたのだった。


そして、耳まで赤面しているエドに気づき、訝しげに声をかけた。


「おい、エド?」


それにまた顔の熱が上がったのを感じながらも、エドは必死に冷静を取り戻そうと四苦八苦していたのである。

せめてカイルがこの場にいればまだ違うのに、あいつは今居間のテーブルを拭いていてこの場にはいない。


 それから数秒後、エドはなんとか表面上だけでも平静を取り戻し、顔を上げて睨むようにロイを見て言ったのだった。


「何だよ、ろ、ロイ・・・・・・・・・・・。」

意趣返しのつもりだったのに、しかし最後のほう恥ずかし過ぎて声が小さくなってしまった。しかも、また顔を真っ赤にして俯いてしまったのだ。


 何故かそれから沈黙が漂い、耐え切れなくなってちらりとロイを見れば、彼はなんととろけるような笑みを浮かべてこちらを見ていたのである。


エドはまた一気に顔を赤に染めて、彼から視線を野菜に戻したのだった。






「わ〜・・・・・・初々しいなぁ。」

実はそんな二人を物陰から見ていた子供が一人。

 その、めっちゃ棒読みの口調と内容に、お前はいったい幾つだ、と質問する者はいない。


カイルは半眼で(ロイだけを)睨みながら、ふぅ、とため息をついた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふふふ、邪魔してやる・・・・・・・・。」


いや、だからお前マジで幾つ!?

と、背後に怪しいオーラを撒き散らす子供にツッコミをいれる者は、やっぱりいないのだった。







活躍・完







(あとがき)
終わった・・・・・・・。

しっかし初々しいなぁ(砂吐

あぁそうだ。大総統の人間化、ロイたちとのその後、マスタング大総統等は番外編で書きます。

 ルグラは再会で。

あ〜・・・・・長かったなぁ・・・ここまで。

まだまだ番外編という形で続きますが、ここまでお付き合いしていただきありがとうございました!!



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