西にある崖の上に移動し、エドとロイは燃え盛るアエルゴ駐屯基地を無感動な表情で見下ろしていた。

 そこに到着するまで、敵と遭遇するたびにその者を殺していった。

彼らに殺されなかった者達も、文字通り炎の壁を通りすぎることはできず、基地の中で建物と運命を共にしただろう。


 ・・・・・・そこに残ったのは、「死」のみ。


唯一その「死」を確認できる死体は、ロイが完全に木炭と化し、エドがすぐに塵に返してしまった。

そして更にその上に草木を生やして、“全て”の痕跡を消したのだった。


 そこに居た、存在した、死んだ。―――――それらも含め、“全て”が始めから無かったかのように広がる草原は、朝日に照らされて今は美しく輝いている。


 エドは複雑な心境を胸に、一面に広がる草原に視線を向けたまま、静かに訊ねたのだった。


「そういやあんた、何人殺した?」

「・・・さぁな。途中で気分が悪くなったので数えるのを止めてしまった。」

それに答えるロイも、あるべき物が消えた空間に視線を固定したまま、静かな出で立ちで立っている。

 エドはそれを気配で察し、苦笑しながら「俺もだ」と答え、それから今度は朝日に視線を移し、呟くように言ったのだった。

「わかっているんだ。こんなこと、本当は無駄殺しでしか無いって。
でもこの基地を殲滅すれば、アエルゴは俺達を恐れて降伏するだろう。
・・・・・・このまま戦闘を続けた場合に予想できる犠牲者の数と比べれば、少ないだろうけど・・・。
 何と言うか、やるせないな。」


そう言って、静かに視線をロイに移した。

ロイは、朝日に照らされてキラキラと光るエドの目と髪に目を細めながら、ただ「そうだな」とだけ頷き、それから徐に彼に向けて手を差し出したのだった。


「・・・・・・・・・帰ろう、鋼の。カイルや部下達が帰りを待っている。」

 エドは差し出された手を少し躊躇いながらも取り、そのまま二人並んで、果てしなく広がる草原から去っていったのだった。



金の賢者15





「アル!」

ある日の朝のこと。
いつもの様に朝刊を取りに言ったウィンリィは、ポストに入っていたそれを取った途端、目に入った物を見て大きな声を上げた。

 そしてそのままアルの名を連呼し続け、未だ寝ぼけ眼で階段を降りてきた彼を見つけると、興奮した様子で抱き着いてきたのだ。


「え?え?な、何、どうしたのウィンリィ!?」


 行き成りのウィンリィの行動に驚きつつも、アルは彼女の手が新聞を握り締めていることに気づき、さっと体中から血の気が引いたのを感じたのだった。

 まさかついに死亡者リストに名が・・・・・・・・・?と思いつつも震えた手でウィンリィを宥め、静かに「どうしたの?」と聞くと、彼女は目に涙を浮かべてアルから離れ、聞き取れないほど小さな声で呟いたのだった。


「・・・ゎった・・ょ」

「え?」

「戦争、終わったのよ!!アエルゴが降伏宣言してきたんだって!!見て!!」

そう言って付きつけられたのは、ウィンリィが力の限り握っていたせいでぐしゃぐしゃになった今日の朝刊。

 促されるままそれに視線を移すと、紙面には大きな文字で見出しがかかれていたのだった。


『戦争、早期終結!!!』


と。かつて無いほど早い降伏宣言は、きっとアエルゴがアメストリスに勝つ見込みが無いと判断したためであろう、と更に下に書かれている。

 念のために、と昨日の死亡者リスト欄を見ると、なんとそこには死亡者0、という喜ばしい数字が書かれていたのだ。


アルは喜びと安堵で顔に笑みを浮かべると、同じように喜びの笑顔を浮かべているウィンリィを抱きしめ、思いっきり勝利と兄の無事を噛み締めたのだった。







 更に数日後、停戦調印の席にて。

国家錬金術師代表として、エドとロイもその場に参列していた。

歳寄りばかりの場に一人混じる少年に向けられる、奇異と好奇心の視線を軽く受け流し、エドはロイの隣に静かな様子で座っていたのだった。


 ・・・・・・彼にも色々と、思うところはあるのだ。

自分がアエルゴ兵士戦死者の半分近くを殺めたこと、変なあだ名で呼ばれたこと、カイルのこと、以後の職場のこと・・・・・・・・・・ぶっちゃけ、戦場のことはすでに割り切っていた。

 自分のしたことが正しいことだったとは言えないが、いつまでも悔やんでいてもしょうがないのだから。

それよりも、今は以後のことの方が気になったのである。

 エド達の奇襲から約一週間。その間に彼はカイルに真実を話していた。

カイルは両親の死に多大なショックを受け、自閉気味になりながらも、数日後には復帰してエドに向けてはっきりと言ったのだった。


「俺、エドと暮らしたい。」


と、ただそれだけ。だがそれでも彼の決意が伝わり、エドは自分が軍人であるから大して相手をできない、と告げても了承したカイルを連れて、ロイの元に参上したのだった。


 もちろん、エドはまだ未成年だ。当初の言葉通りロイに相談したところ、彼は特に悩んだ風も無く飄々と言ったのだった。

「なら、私が名義上の義父となろう。あくまで名義上のみで、世話は鋼の、お前がしろよ。」

と、犬や猫を扱うような言葉で。

それに憤慨したのはカイルだ。ちなみにエドは、その言葉がただのからかいだとわかっているため、軽く流していたりする。

「やだよ!あんたが義父なんて!!」

そう言うカイルをエドは自分の歳うんぬんを出して黙らせ、ロイに「じゃぁ頼んだ」と言って、さっさと決めてしまったのだった。


 その際、色々とこぼした言葉(セントラルに家が無い etc・・・)からロイと同居することなり、本日から少ない荷物を持って彼の家でカイルと共に住まうことになっている。

まさに棚からぼた餅。と内心で呟きながら、エドは自国とアエルゴの最高権力者が固く手を握り合うのを無感動に見ていたのだった。





「鋼の」

 堅苦しい調印式が終わり、友好関係をまず権力者達から示していこう、ということで、式のすぐ後に立食パーティが行われた。


これが正装で出なくてはいけない、とか言われなくてよかった。エドは最近漸く慣れてきた軍服を纏い、一人黙々と出された食事を食べていたのだった。

 そんな時に、ロイが声を掛けて来たのだ。


「いかがなさいましたか、中将閣下。」


実は調印式の前に、ロイは大総統閣下直々に辞令を受け賜っていた。

意外に厚めの紙面に書かれていたのは、先の戦争で芳しい功績を残し、それを称えて何たらかんたら。・・・・・・まぁつまり、結果的に言えば「よくやった、ご褒美にもう一個階級をあげてやろう」的なものだったのだ。

 よって今のロイの階級は中将。三十路で中将とは、また随分と優秀なことだ。

そんなことを思いながらエドはからかい半分でロイを階級付きで呼び、ついでに真顔で敬礼も送ってやったのだった。


ロイはそれに面白くなさそうな顔をし、次いでふ、と笑ってから威圧高に口を開いたのだった。

「あぁ、楽にしてくれたまえ。エルリック大佐。」

と。まぁ、たぶん皆さんすでに予想済みだとは思うが、もちろんロイとペアのあだ名をつけられたエドも昇進し、わずか16歳の大佐が出来上がったわけだ。


 しばしその調子で無意味なじゃれ合いをした後、不意に誰かがこちらに近付いてきた気配を感じ、エドとロイはほぼ同時にそちらに視線を向けたのだった。


視線の先には隻眼で壮齢の男が。言わずもがな、アメストリス大総統、キング・ブラッドレイ閣下である。

 またも二人同時に敬礼をするのを愉快そうに見ながら、ブラッドレイはまずはロイに、それからエドに労いの言葉を掛けたのだった。


ちなみに、周囲の視線はこの奇妙な組み合わせの三人に釘付けである。

何せ一人は大総統、一人は英雄と呼ばれる青年(童顔)、一人は年齢に似合わぬ肩書きを多々持つ少年だ。

 好奇心に負け、結構じろじろと見ていたのだった。


だがしかし。日ごろから注目されることに慣れている三人が何処吹く風、とばかりに受け流し、会話を続けていたのだった。


「ご苦労様、マスタング中将、エルリック大佐。楽しんでるかね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、クソつまんないデス。食事は美味しいけど。」

「おい鋼の!?」

「まぁ気にするでないよ、マスタング君。ところでエドワード。今度うちに遊びに来ないかね?セリムが君に逢いたがっているのだよ。」

「まぁ、気が向いたらな。そのときが来たら、ついでにカイルも連れてっていい?」

そんな、どこかアットホーム的な会話を、彼らは周囲に声が聞こえなよう声を小さくして交わしていたのだった。

 ちなみに、今現在ロイの頭の中に「何故鋼のはこんなに大総統と親しいんだ」とか「大総統はカイルのことをすでに知ってるのか?」とか「ってゆーより何で呼び捨て!?」とかとか、色々な言葉が渦を巻いていたが、二人とも気づかない、というか言うつもりもないので軽く無視をしていたのだった。


 ちなみに会話に出てきたカイルといえば、ホークアイ少佐から預かったブラックハヤテ号とほのぼのと戯れていたりした。


「それはそうと、二人とも。君達戦後処理に追われて最近碌に休んでいないだろう?ということで君らは明日一日休日だ!家族に会いに行くなりなんなりしたまえ!」

はっはっはっはっはっはっはっはっは・・・・・・と高笑いなのかよくわからない笑い付きで告げられ、一瞬すぐさま断ろうとしたのだが、なんだか勿体無い気もしたので二人ともそれを甘受したのだった

 






(あとがき)
まぁ、なんというか、一年で3階級昇進したロイ。
あ り え ね ぇ !

もっとありえないのはエドを士官軍人にしちゃう国政府。
16歳の少年にそんな大役を渡すなっつーの!!(そうしたのは私ですUu



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