今作られるだけの黄金をそこら辺の木材から錬成して、ルグラの懐に入れておいた。 黄金はどの国へ行っても最高の価値があるモノとされているから、しばらくは食うに困らないだろう。 ―――ルグラが何処に飛ばされたのかは知らない。 ただ、リーフは「戦争の無い国」に飛ばすのだと言っていた。 そこで、あいつが幸せな家庭を作ってくれることだけを、切に願う。 活躍14意識の無いルグラがリーフによってどこかへ連れて行かれるのを見送って、エドもまた止まっていた足を動かしだした。 思いっきり両手で自分の頬を叩いて、沈みがちだった気分を引き締めなおす。 ついでに深呼吸して、準備万端。 「・・・・・・行くか。」 そう誰も居ない空間で一人呟き、エドは燃え盛る炎の中へと身を乗り出したのだった。 炎の爆ぜる音を聞きながら、ロイはその部屋のあらゆる物を溶かしていた。 部屋は全て炎で覆われているというのに、ロイが熱風にも炎にも全くのダメージを受けずに立っていられるのには、勿論理由がある。 長年の研究とエドの赤い石があったからこそ可能となった、二酸化炭素と酸素濃度の調整と保持の錬金術のお陰だ。 つまり、ロイは常に体の周りに酸素を纏い、それを二酸化炭素で覆うことによって、呼吸の確保と発火を防いでいる訳だ。 それはさて置き、燃え盛る炎の隙間から見えるのは、黒焦げの死体と、それが握っている金属である。 それを見つけられたのは、運が良かった・・・と言うべきなのだろうか。 敵兵をなぎ倒していった道すがら、ロイは「連絡室」なる部屋を発見した。 嫌な予感がしたので覗いてみれば、案の定。一人の軍人が電話機を片手にダイヤルを回していたのだ。 もしや、死を予感して家族に永遠の別れでも告げようとしているのだろうか。などと、かなりありえない事だとは思いながらも、親切心で見守ってやることにした。 しばらく経つと電話が繋がったのだろう、男が見るからに安堵した様子で体から力を抜いた。 そして、ロイの姿に気付かぬままに言葉を綴ったのだった。 「あぁ、よかった。こちら駐屯基地のスキン少佐です。至急ケルトン中将へと繋げ・・・・・・」 だが、男がその言葉を最後まで言う事は出来なかった。 ロイが一瞬で男の命を奪ったからだ。 あそこまで聞けば誰だってわかるだろう。男は家族なんぞに電話していたのではない。自軍に奇襲の知らせをしようとしていたのだ。 そして、漸くといって良いほど、今更気づく。 ・・・・・・・・・あぁ、しまった。「電話」という存在を忘れていたぞ。 なんだろう。今日はやけに頭が回らない。奇襲を受ければ本土のほうに連絡する可能性が高いのは想像に難くなかっただろうに。 連絡室はここだけなのだろうか。すでに他の者が連絡してしまわなかっただろうか。 ロイは痛む頭を抑え、周囲の炎など気にせず胸元からネームタグを取り出し、それに話し掛けた。 「おい鋼の。今すぐこちらに来れるか?」 はっきり言ってこの赤い石がこちらの声を だが、他に彼と連絡をとる方法が無かったので、他人から見れば不審極まりない行動を取ったのである。 すると幸運なことに、一瞬後には金髪の少年が何処からとも無く姿を現したのだった。 「・・・・・・何。」 鬱陶しそうに血でぬれた前髪をかき上げるエドに見とれながら、ロイはバツが悪そうに口を開いた。 「この基地に電話線は何本繋がっているかわかるか?」 と。するとエドは一瞬目を見開き、慌てたように手を合わせた。 そしてすぐにそれを床に打ち付ける。 「危ね!ちょっと今本部に繋がってたぞ!!」 つまり、まだ他に電話があり、ここではない何処かでそれを使っていた者がいた、ということだろう。 すでに過去形にされていたから、エドがすぐさまそれを断ち切ったのは明白。 ロイはまだ痛む頭を押さえながら、伏せていた目を開けてエドを見た。 するとそこには、予想だにしていなかった表情を浮かべる少年が。 思わず目をむいて名を呼ぶと、 「・・・・・・わりぃな、少将。」 自嘲に近い苦笑を浮かべながらそう言って顔を手で覆い、ため息を吐いたのだった。 しかし一瞬前に、エドの顔に浮かんでいたのは・・・・・・紛れも無い憤怒。 よもやそんな簡単なことにすら気付かなかった自分や上司に怒り狂うほど、目の前の少年が真面目だとは欠片も思ってはいない。 いったい何に怒り、何を謝っているのか。 わからなかったので素直に聞くと、エドはまた苦笑し、言った。 「あんたと俺の思考、“世界”が邪魔をしていたんだ。」 「は?」 エドが世界と交信を持っていたのは知っている。だが、言葉の意味事態が上手く理解できなかった。 「・・・どういうことだね?」 そう訊けば、エドは無言で両手を合わせ、先程と同じようにそれを床へと当てたのだった。 するとその途端、抑えられた連成光のような物が外で発生するのを、熱で歪められた窓から確認することが出来た。 このタイミングならば考えるまでもない、エドの仕業だろう。 そうだ、炎の海となった基地に何時までも留まる馬鹿はそう居ないだろうに。 逃げる者が多数居たはずだ。 先程の錬成で、それをエドが始末した、と考えるのが妥当だろう。 今の今までそんなことにまで気付かなかったのか、と更に痛んできた頭に手をやると、エドが申し訳なさそうにロイを見、言ったのだった。 「気付かなかったのはあんたの過失じゃねぇよ。俺だってそんな事考えてなかったしな。言っただろ、“世界”が俺達の“思考”を邪魔していた、って。」 もう一度先程の言葉を繰り返され、ロイは漸くその意味を理解する事ができたのだった。 「つまり、人為的にそのようなことに考えが至らないようにされていた、と言うことか?」 作戦然り、電話然り、脱走兵然り。 憮然と頷くエドを見ながら、ロイはため息と共に「何故」と呟いたのだった。 そんなこと俺が聞きたい、と小さく呟きながら、エドは先程のことを思い出していた。 いくら何でも、電話の存在を忘れていたなんて、おかしすぎる。 もしや何かが作用して脳の働きが弱まっているのではないか、と思い、エドは確認のためにすぐさま世界に知識の供給を促した。 しかしいくら待っても返答が来ない。 ルグラについての混乱は既に収まっていることは確認済みだ。なのに、返答が来ないのだ。 そう、全く。 「何も作用していない。」でも、「何かが作用している。」でも無い。 無反応―――・・・・・・。 それが意味する事がわからないほど、エドは馬鹿でも能天気でもない。 嘘のつけない“世界”の無反応。 肯定でも否定でもないそれはつまり。 ―――“世界”が“何か”をした、と言うことなのだろう。 どのような意図があるのかは知らないが、エドに知られたくなかったからこその無肯定。 でも自分たちがエドたちに手を出したのは事実だからこその、無否定。 すでに確信してしまったその仮説に怒りを覚え、エドは“世界”へと糾弾した。 『何のためにこんなことをした!?』 『アエルゴの敗北を防ぎたかったのか!?』 『――――いいえ、違います。』 『ならば戦争を今更厭ったか!?つい先日大義名分だと口にした 『――――――違い、ます。』 『・・・じゃぁ、少将を、・・・・・・いや、俺を殺したかったのか?』 『!違います!!そんなこと、決して・・・!』 『なら何故!!?』 漸く返事をしてくれた だがやはり返事は返って来ない。 エドはため息をつき、とりあえずロイに謝りことの次第を説明したのだった。 一度反芻してもう一度ため息をこぼし、エドが部屋から出てようととロイへ声を掛けかけたその時。 泣きそうな声が頭に響いたのだった。 『私たちは、貴方が辛い思いをしないように・・・!人を殺す事を厭う貴方から少しでも負担を減らそうと・・・!ごめんなさいエド。もうしませんから、どうか私たちを嫌わないで・・・・・・!!』 ―――何を言っているのだろうか、私は。 エドがこんなことで役目を放棄したり、私たちを厭ったりする子ではないことくらい、わかっているはずなのに。 こんな、言い訳のようで押しつけがましいこと、態々言うなんて。 ――――――・・・でも、どうしようもなく怖くて。嫌われるのが、嫌で。 個体ではない“私たち”に名をくれた、優しくて脆いこの子に、ただ嫌われたくないという一心で言葉を綴ると、不意に愛し子が微笑んで、言ったのだった。 『馬鹿だな。俺はもう大丈夫だって言ったろ・・・? ――――――――――でも、ありがとう――――――・・・。』 その言葉と笑顔に不安は一気に吹き飛び、リーフも穏やかに笑いながら、内心で呟いたのだった。 ―――あぁ、依存しちゃったのね、私たち。 愛しい、愛しい私たちの子供に。 私たちは、貴方をもう手放す事が出来ないかもしれない―――・・・。 「・・・どうかしたのか?」 不意に微笑んで照れくさそうに顔を赤らめたエドに、ロイが声を掛けた。 しかしエドは「なんでもねぇ」とごまかし、今回は両成敗、ってことで。と内心呟いていた。 自分が言った言葉を、世界はまだ気にしていたのだろう。 結果、恐怖心を取り除くために余計な思考を奪った・・・と言うことだ。 馬鹿らしいが、自分が蒔いた種。しかもそれが自分のためだったと知れば、許さずにはいられないだろう。 苦笑と共に怒りをを吐き出し、エドはロイを促して原型をとどめていない部屋から出て行ったのだった。 (あとがき) う〜ん。難産。 エド総受け?スケールでっけー・・・世界規模だょUu そして、責任は全てリーフへと押し付け。だってなんか主要二人が間抜けになってしまったので・・・Uu 無計画ってこれだから恐ろしい(滝汗 いやはや、ホントスミマセン。 しっかし話進みませんね。 次回はもう帰還しちゃいましょう。(予告:笑 |
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