「鋼の錬金術師…?」 「ああ。君も錬金術師ならば彼の話は知っているだろう。」 「はい。ですが彼はもう300年ほど前の人物だったかと。」 「童話を思い出してみたまえ。彼は」 不老不死…だろう? 再会大総統府から出ると、階下にホークアイ少尉が立っていた。 ロイはそれに気付いてホークアイに声をかける。 「ホークアイ少尉。ご苦労」 そう言うとホークアイはロイに対して敬礼し、それをすぐに解き、「いえ。」とだけ答えた。 大総統閣下から直々の呼び出しと思って来て見れば、命令されたのはある人物の出迎えだった。 ロイはそれに軽く失望し、ため息を吐いてホークアイに命令する。 「早速だが車の用意を。行き先はイーストの辺境にあるシューブルだ。」 「はっ」 ホークアイのきびきびとした声を聞きながら、ロイは考えに耽っていた。 先日隣国のクレタから宣戦布告された。近いうちに大規模な戦争が始まるだろう。そのような大事な時期に私のような人物を辺境に押しやるとは…切れ者と名高い大総統も落ちたものだ。 不老不死など。有るわけなかろう。どうせ偽者だ。 大総統との会話では全く顔には出さなかったが、ロイの胸中は大総統への侮蔑の言葉でいっぱいだった。 そこに、ホークアイの声がかかる。 「中佐。車の用意ができました。」 少尉の声にふと我に返り、早速ハボック准尉の運転する車に乗り込んだ。 そして部下2人にこれからすることの説明を始める。 「私達がこれから迎えに行く人物の名は鋼の錬金術師…エドワード・エルリックなる錬金術師だそうだ。」 その言葉にホークアイ少尉が怪訝そうな顔をした。当然だろう。 「…彼は何百年も前の人物だと記憶しているのですが…。」 ロイはそれにうんざりとした口調で答える。 「私も大総統閣下にそう申し上げて置いたがな。彼は不老不死だという伝説を信じていらっしゃるようだ。」 「…そうですか。」 ホークアイの顔からは何を考えているのかはわからない。それを何とはなしに見ながら、ロイは話を続ける。 「ああ。不老不死などあるわけないのにな。あれはあくまでも錬金術師への戒めを童話にしただけの話だ。大総統閣下も何を考えているのやら」 するとその言葉にはホークアイ少尉ではなくハボック准尉が答えた。 「お偉いさんの考えてることなんてわかるわけ無いでしょう。それより中佐。鋼の錬金術師ってなんですか?」 と、疑問付で。最初の頃はこの言葉使いに眉をしかめたりもしていたが、最近は慣れた。そして意外なことに気付き、問い返す。 「知らないのか?」 結構有名な話なのだが。そう付け足して。 「はい。名前は聞いたことくらいはあるんですけど、内容までは知らないっすね」 ハボックの返答を聞いて、ロイは相槌を打ちながらまた、自分の考えに沈んだ。 ロイも長い間あの童話は読んでいないが、錬金術師にとっては、知っていることを常識として記憶している。 それほど有名な話しなのだ。 そしてそれを懐かしく思いながらも、セントラルからシューブルまではかなりの距離が有るので、暇つぶしとして話すことにする。 「まあ、よかろう。しかし童話の癖に長いぞ」 「はあ。お願いします」 ホークアイ少尉は何も言わない。彼女も少なからず興味があるのだろう。 ロイは頭の片隅でそう思いながら、話し始める。 「たしか始まりはこうだったな」 《これから記す話はすべてが実話である。私は幼い頃禁忌をおかした。この話を読んで,愚かな行為をしようとは思わなくなってくれるとありがたい》 そう口にした途端、ロイは、自分の口調が自然と改まったことに気付いた。 ある辺境の地に幼い兄弟と母親がいた。父親は兄弟が物心つく前にすでにいなくなっていた。 兄弟は優しく美しい母親が大好きだった。しかし、母ははやり病にかかり、死んでしまった。このとき、兄十歳、弟九歳であった。 兄弟はそれを嘆きかなしんだが、それだけではなかった。二人とも錬金術において稀有な才能をもっていたので、母を生返らせよう、などとゆう考えを持ってしまっていたのだ。 そして一年後、兄弟は禁忌を侵した。人体練成を実行したのだった。 兄の考えた理論は完璧だった。しかし練成は失敗した。リバウンドとして兄は片腕と片足をもっていかれ、痛みで朦朧とする意識の中見たものは、人の形をしていない母と、服のみを残して消えていく弟だった。 そして母は、数分としないうちに二度目の生を終えた。残ったのは手足をなくした兄と、そのおびただしい血、それから人の形をしていない母の死骸だけだった。 兄はその結果に絶望し、嘆き続けた。自分のせいで弟は世界から消され、母は二度死んだ。自分が、二人を殺したのだと、自分を責め続けた。 数日が過ぎ、異変を察知した医者の家系の幼馴染に発見されたおかげで一命をとりとめた兄のもとに、若い軍人が訪ねてきた。彼は兄弟の家の惨状を見て、すぐに何があったのか理解し、兄を詰った。しかしすぐに気を取りなおし、本来の目的である国家錬金術師になるよう勧誘し、説得した。 兄は軍人の言葉に、決意した。国家錬金術師となり、その特権を使い、どのような方法を使ってでもせめて弟だけでも取り戻そう、と。 彼は自然の摂理に則って死を迎えたわけではない。練成の失敗により姿をもって行かれただけなのだから、まだ取り返す余地は有るかもしれない、と。そう思って。 それからの兄の行動は早かった。弟を取り返す方法を探す為、国家錬金術師になる為に、手足が必要だと思い、片手片足を機械鎧で補った。そして、一年でリハビリを終え、すぐに国家試験を受けることにした。そのとき、兄は12歳。見事合格し、最年少国家錬金術師、「鋼の錬金術師」が誕生した。 兄は早速弟を取り返す方法を考えた。結果、出た答えは 完全なる物質、「賢者の石」を探し出し、使う、というものだった。 伝説級のものを探すとあって、兄の旅は困難なものだった。些細な情報を頼りに、国中を渡り歩き、4年後、ようやく捜し求めていたものに出会うことができた。 しかし兄にとって、その旅続きの4年間は長いものであり、旅の中で得たものは多かった。そして各地で知識を吸収した結果、気付いてしまったのだ。例え体は作れても、魂までは作ることはでき無い、と。 それに、時間がたち過ぎてしまった。もう弟を取り返すことは、不可能であるのだ、ということに。 賢者の石を前にして、兄は唐突に悟ってしまったのだった。 そうして、兄は賢者の石の使用に意味がなくなり、使うことを諦めたのだが、このまま石を野放しにしておくわけにも行かなかった。逡巡は一瞬だった。兄は、石にたどりつくまでに、賢者の石を求める不毛で醜い争いをその目でいやと言うほどみてきた。 だから、その争いの種をなくしてしまおう、と考えたのだ。 砕くことも溶かすこともできない。ならば、分解してしまおう、と考えつき、兄は賢者の石を練成で完全にこの世から消した。欠片も残さずに。 しかしそれで終わりかと思いきや、突然兄の目の前が真っ赤に染まり、兄は意識を失った。そして目を覚ました時には、兄の体から機械鎧がはずされ、なんと失ったはずの手足がそこに生えていたのだ。賢者の石を壊したことによるリバウンドかと思ったが、特に支障は無かったのであまり問題視することはなかった。 そうして兄の旅は終結し、今までお世話になった軍人達に恩返しをする為に、軍に入ることとなった。 それから20数年後。周囲も、そして兄自身も、鋼の錬金術師の異変を感じとっていた。 成人したそのときから、姿が全く変わっていなかったのだ。それと、傷の治癒力が半端でなく上がっていた。どんな大きな傷でも、一瞬にして治ってしまうのだ。 そのことに気付いた兄は、このまま軍に、人の世にいることは無理だと思い、人知れず姿を消した。きっと今も、何処かにいるのだろう。金の賢者として、人助けをしながら。 《この話を読んだ人に知ってほしいのは、人体練成は神の領域であり、どんなに優れた錬金術師にも、決して人を作ることなどできないのだということ、それと、罪は絶対に何処かで償わねばならないということだ。私は、人体練成の罪として、不老不死となった。不老不死をうらやむ人間もいるかもしれない。だが考えてみてくれ。周りの親しいひとが老いて死んでいく中、自分だけが若く変わらないまま死を見取る虚しさを。周りから奇異のめで見られる悲しさを。決して愛する人と結ばれることが無いと言う寂しさを。 私は死を許されない身となった。故に、これからも何処かで生きつづけるだろう。私の知恵が必要となったら私を探すがいい。私は逃げも隠れもしないから。》 それを聞き終えると、ハボックが言葉を発した。 「…なんというか…壮絶な上にマジで長いですね。本当に童話っすか」 そうおどけたように言ってはいるが、途中から聞き込んでいたことに、ロイは気付いていた。 「そうだな。私も初めて読んだときは怪訝に思ったものだが。なかなか為になるだろう?」 それに、不思議と引き込まれる話しでもある。しかしそれを口には出さなかった。 「ええ、まあ。しかしこれって実話っすか?」 「さぁな。」 と、答えをはぐらかしてみると、今までずっとだまって聞いていたホークアイ少尉が、横から口を挟んだ。 「…中佐、かなり前ですが鋼の錬金術師について調べていたことがありましたよね?」 「う!」 覚えていたのか。流石としか言い様がないな。 「まだもう少々目的地まではあります。調べてわかったことを、教えて下さると嬉しいのですが」 そういってちらりとロイを見る。 なぜかそのちらみ具合にたじろぎ、ロイは顔を引きつらして、答えた。 「・・・わかった。まず鋼の錬金術師・エドワード・エルリックは実在した。300年以上前、当時至高とまでいわれた最強の国家錬金術師で、不可能はないとされ、・・・話の最後でちらりとでたが、「金の賢者」と呼ばれていたそうだ。 鋼の錬金術師の容姿が金目金髪だったらしいから、そこからとったのだろう。 そして、この話を書いた人物だが、前文と最後の文はその筆跡から鋼の錬金術師本人だとはわかっていたらしいのだがな。本文を書いた者は別人で、だれかは結局わからなかったらしい。なにせ何百年も前のはなしだからな。私も詳しくは調べられんかったのだよ。」 ロイがそこまで一気にしゃべると、ハボックがまたおどけたように言った。 「なるほど。しかしわざわざ調べるということは、ずいぶんと鋼の錬金術師がお気に入りだったんすね。」 バカにされたような気がしたが、ハボックをミラー越しににらむだけして、言い返した。 「彼は錬金術師なら誰でも一度は憧れる存在なんだ。なんたって賢者とまで呼ばれてたんだぞ」 ずいぶんとふてくされたようないい方になってしまったが、事実だ。実際、彼の持つ複数の最年少記録は、いまだに誰も破ることが出来ていないし、賢者とまで呼ばれて実在した人物は、あのニコラ・フラメル以外は彼しかいない。だがしかし・・・ 「下せんな。」 「「え?」」 ホークアイ少尉とハボックの声が重なった。そんなに唐突だっただろうか。すると、 「なにがですか?」 と、ホークアイ少尉の声が聞こえたので,答えようかと思ったが、くだらないことなので止めておく。 なぜ、大総統閣下はあの話を信じようとしておられるのだろう。などと。かなりどうでも言い疑問だ。 「いや、なんでもないさ。・・それより、やっとついたな。」 窓の外を見れば、豊かな緑と不似合いなほど立派な防水堤。 ここに、大総統が鋼の錬金術師だと信じる人物がいる。 例え偽者だろうが興味があった。 (あとがき) かなり前に書いたものなので、ちょっと文章構成が おかしいですね。 三話あたりからは訂正しながらではなく、白紙から 書くつもりです。 童話の内容が「誕生」と違うのでは?と思った方も いるでしょうが、これでいいんです。 この文章書いた人が捏造したんですよ。 |
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