「なるほど。」

こいつとこいつとこいつ、それからこいつ。

キラはアスラン宅のリビングで端末を弄くりながら、先日見たラクスを狙った者たちの素性を割り出していた。

 その人物達から、予想以上に簡単に割り出せた黒幕に嘆息し、ふかふかのソファーによりかかる。

明日には、一族を通じて黒幕は逮捕されるだろう。


 ・・・・・・・そうしたら自分は、また本家に戻って暮らすのだ。


そう考えたら何故か気分が重くなり、先ほどとはまた違った意味で嘆息したのだった。


「キラ、夕飯できたぞ。」


そんな時に聞こえたその暢気な声に、キラの意識は浮上した。どうやら暫くぼーっとしていたらしい。

 いつのまにかテーブルに並べられていた食卓といい匂いに、彼は目を輝かせて立ちあがったのだった。



Bodyguards6





「わぁ、今日もすごいね。」

テーブルに並べられた食事に視線を固定して、キラは椅子に腰掛けた。

見た目もきれい、匂いもおいしそう。

結構偏食だという自覚をもつ彼は、しかしアスランの作った食事は残さず食べる。

 流石独り暮らしが長いだけある。栄養面もきっちり整えられ、ニンジンは花形、こんにゃくはひねってある。

・・・・・・・・・・・何というか、なんだかこのマメらしい男の性格がよく出ている気がする。

きっと極めるために料理本片手にキッチンで何時間も唸ってたのだ・・・と考えると、なんだかホロリと泣けてくる。


 今回はキラの味覚にあわせて、和食尽くしでやったらしい。懐かしい料理がいっぱいだ。

キラは幸せな心地になりながら、よく味の染み込んだこんにゃくを租借したのだった。


 アスランはそんなキラの幸せそうな顔を見て、なんだか自分も気分がよくなった。

やはりこうして自分が作った料理をおいしそうに食べてくれる人がいると、料理するのも食べるのも楽しくなってくる。

 アスランは逐一キラに「おいしい?」とたずねながら、自分の食を進めていったのだった。


・・・・・・・なんというか、嫁化してる。

アスランみたいなお嫁さん欲しいなぁ(ぇ)・・・・・・などと考えつつ、キラはふと料理から視線を移した。

 少し離れた所にある棚に、いくつかの写真立てが並んでいる。

その中の一つに見覚えがあり、キラは少し微笑んだ。


「キラ?」

写真を見て、やわらかく微笑んだキラを疑問に思ったアスランは、キラに疑問の声をかけた。

キラはそれで視線をアスランに移し、行儀悪くもテーブルに両肘をついて、アスランを覗き込むような体勢になった。


「な、何。」

「ふふ。アスラン、愛されてるねぇ。」

「はぁ!?」

行き成り何を言うというのだろう。微笑んでいる、というよりニヤニヤしている、といったほうが正しいキラの笑みに引きながら、アスランは視線を写真立てに戻した。

 そこには、軍事アカデミーで撮った写真、幼いころ撮った家族写真や、学校の写真が並んでいる。

 何がどう愛されているというのだ、と視線をキラに戻して問えば、キラはまだニヤニヤ笑って口を開いたのだった。


「あれ、撮ったのお父さん?」


そう言ってキラが指したのは、アスランが母・レノアと二人で撮った写真。

 だが誰が撮ったのかは覚えておらず、「さぁ、どうだったな・・・・・・・?」と答えれば、キラはやけに自身ありげに「多分そうだよ」と返したのだった。


「あれと同じやつ、パトリックさんの執務室にあったし。」
愛されてるじゃん、君。

そういって、また箸を動かす。

 だがアスランは逆に箸を止め、写真を睨むように見て答えたのだった。


「んなわけあるか。見間違いか、母上目当てで俺はおまけだろう。」

と、ここに居ない父を、写真を通して見るかのように、険しい顔で。

キラはそれを見て、静かに苦笑した。

 キラが笑った気配が伝わったのだろう。面白くなさそうな顔を彼に向けるアスランに、キラはまた苦笑して、箸の動きを止めた。

 口の中にあった物をよく噛んで飲み込むと、彼はアスランを見て、今度こそ優しげな微笑を浮かべて言ったのだった。

 それは、軍で見る偽りの物ではない、本当の穏やかな笑顔。

それにわずかに見とれながら、アスランはキラの言葉を信じられない面持ちで聞いていた。


「僕が軍に入るとき、直接パトリックさんのところにいったんだけど。君の護衛のこと言ったらすっごく動揺してた。
・・・すぐに、慌てたようにとり繕ってたけどね。でもちゃんと、最後に「愚息を頼みます。」って言ってたよ。
 ・・・・・・すごく、父親らしい目をしてた。子を心配する目、だったよ。間違いなくね。」

そう言って、困惑している風のアスランに笑いかける。

 それを見て、昔の自分もこんな顔してたのかな、と少し思った。

まだキラが幼いと言えるころ、彼は一族の習慣を少し恨んでいた。そしてそれを甘んじる、自分の両親も。

 だが厳しい修行の中、師範でもあった彼らが時折見せる表情に気づいた時、キラは両親に対する恨みだけはきれいさっぱり消したのだ。

それが、自分達を心から心配する顔なのだと、気づいてしまったから。

 気づいた瞬間、驚きもしたけど、それ以上に嬉しかった。

そう、そして今のアスランみたいに、驚きの表情が徐々に弛緩していったに違いない。

キラには今言った言葉に自信があった。なぜならばあの時、両親とパトリックの顔がしっかり重なったのだから。

 暖かくて、悲しい顔。自分にはどうすることもできないやるせなさを醸し出す目。

それが、息子であるアスランに向けられていたのだ。

――――そんな顔を向けられて、愛されていないなんて、考えられない。・・・そんな風に、考えていて欲しくない。


 だから今、アスランが恥ずかしそうに微笑んだのを見て、キラは嬉しくなったのだった。







――――――――その翌日、キラは消えた。

もとより私物が少なかったキラだ。

彼の為に出した、彼がたった数日間使っていた簡易ベットだけが、キラが確かに居たという証拠だった。







 「アスラン・ザラとその婚約者、または伴侶を守れ」

そのような手紙を護衛一族に出した者の正体は、なんとその当事者の母親だった。

つまり、レノア・ザラその人だったのだ。

 彼女は生前、手紙を弁護士に託し、時期を見計らって送るように言っていたのだという。

それが、つい先日きた二通目の手紙に書いてあった。

更にそれに書いてあった、息子の命が狙われた理由を要約するとこうだ。

黒幕(匿名希望)は、昔レノアにフラれ、ならばレノアに瓜二つの息子(アスラン)だけでも娘に、と思うような思考の持ち主だったらしい。

 しかしアスランに婚約者等ができたらそれもできない。

そうなると次はキレていっそのこと存在を消してしまおう、と思う、なんともはちゃめちゃな思考の持ち主であり、レノア曰く「すごく、それこそ溶けたガムテープのようにネチッコク執念深い男」だったらしい。

 それらをすでに予想していたレノアを誉めるべきか、阿呆な黒幕を貶すべきか、非常に判断が困るところ。

 しかしキラは、更に先に書いてあった言葉を読んで、レノアをまず殴るべきだと判断した。


『P.S.何故日を置いて種明かしのような真似をするのか、疑問に思ったことでしょう。

 だって、一度に全部やっちゃったら面白くないじゃない。謎解き、楽しかったでしょ?』


と。いや、P.S.ってあんた・・・とか、謎解きとかしてないって。とか、いろいろと突っ込むべきところはあるのだが。


 普通に考えて、もっと手っ取り早く体張らずに逮捕したかった・・・・・・・!!


そう思うキラはおかしいのだろうか。いや、絶対にそれが普通である。


どうやらアスランは外見はともかく中身は父親似であったらしい、と妙なところで納得して安堵しながら、キラはその手紙を力いっぱい握り締めたのだった。



 しかし、と思う。

今回は馬鹿な男の考えと、レノアのお茶目な思考に感謝するべきなのだろうか。


 キラはわずかに微笑んで、頭に浮かんだ顔に、決意をしたのだった。







夜。軍務を終えて帰ってきて。

今日、キラは基地に来なかった。クルーゼは単独任務が入った、と言っていたが、きっともう軍に戻ることはないだろう。

そしてアスランは、玄関でしばらく立ち尽くしていた。

「ただいま」と口からでた言葉が空しかった。

自分以外の人の気配がしないのが寂しかった。

少し前まではこんなではなかったのに。

 そう、思ったのだった。


なんだかご飯を作る気にもなれず、アスランは軍服を脱ぎながら、自室に向かうことにする。

 今日はもう寝てしまいたい。それで、明日からは何もなかったように振舞うのだ。


自室に向かう道すがら、自分の脱いだ軍服を見て、先日それと同じ物を着ていたキラの姿を思い出す。

するとなんだか本当に悲しくなって、アスランは少し足を速めた。


 自室についても明かりをつける気になれず、勘を頼りに歩いてベットにダイブする。


「ぐぎゃ・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


しかし驚いたことに、ベットが鳴いた。

そしてなんだか歪に硬かった。せっかく金をかけて寝心地のいいベットを買ったというのに。 壊れたのか?

 壊れているのはお前だ、と言いたくなるようなことを考えながら、アスランは不意に体を起こしてシーツをめくったのだった。


すると、そこには・・・・・・・・・


「キラ・・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お帰り、アスラン。」

 青筋を立てながら、心なしか息苦しそうにそう言ったキラの様子は、今のアスランの目には入っていなかった。

そして何故ここに、と思うよりも前に、彼の体は動いたのだった。


「き〜ら〜・・・・・・・・。」

そう言いながら、未だ寝転んでいるキラを抱きしめる。

 アスランは本能で悟っていた。キラは、まだ、自分と一緒にいてくれるらしい、と。

 そう思うと、嬉しくてたまらなかったのだ。


もうどこにも行かせない、とばかりに強く抱きしめるアスランに、キラにも限界がきたのだった。


「アスラン・・・・・・・・。」

「キラ・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・貴様、僕を殺す気かあほんだらぁ!!!


そう言うと同時に繰り出されたのは、きれいに顎に決まったアッパーカット。

 幼いころから鍛え上げられていたキラのこぶしは、アスランの脳天によく響いたのだった。


 実はアスランが落ちてきたあたりからずっと、彼の足が腹に食い込んでいたせいで、ぶっちゃけキラは呼吸困難をおこしていたのだ。

よくここまで持ったものだと、誉めて欲しいくらいには苦しかった。


その上力いっぱい抱きしめられたら、苦しいにもほどがある。


キラは息を整えながら体を起こし、「畜生、爆睡してたせいで受身が取れなかった・・・・・・・」などと悔しそうに呟きながら、脳震盪を起こしているアスランに近づいていったのだった。


「悪いけど、僕もうしばらくお世話になるから。」

と、近くにしゃがみこんでそれだけ言う。

すると、また抱きしめられた。

 学習したのだろう、今度はあまり力が入っていない。

キラは苦笑して、静かにアスランを抱きしめ返したのだった。



  ―――――Fin―――――




(あとがき)
お、終わりっす。くだらないまま終わりました。
いいのかこれが10万HITで!?と思いつつもやっぱり終わり。

短くしようとするとどうしても味気ないものになってしまうのさ・・・(滝汗

このあと、キラは軍生活と護衛一族の二束のわらじ生活を送るはめになりまする。

まぁ、ガンバレ。  



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