「俺は、お前に姉がいたなんて知らないぞ。」

オーブのコンサートホールへ向かう道すがら、アスランが不機嫌そうにそう呟いた。

キラは苦笑し、「そんなこと教える時間が何処にあったの」と言ったのだった。

アスランも、キラさえも時々錯覚しそうになるが、彼らが出会ったのはつい先日のことだ。

 しかしそれでも姉の存在を知らなかったのは少し面白くなかったので、アスランはやはり不機嫌そうに、「仲いいんだ?」と聞いたのだった。

 彼のそんな様子と言葉にキラはまた苦笑し、「生まれる前から一緒だったからね。」と答え、自分を呼ぶカガリの声が聞こえたので、黙っていても着いて来るアスランを従えて彼女の元へ近付いていったのだった。



Bodyguards5





「ニコル。」

 ラクスに呼ばれて(カガリが呼ぶように言った)アスランが自分から離れた隙に、キラはニコルに話しかけていた。

「あ、キラさん!どうかしたんですか?・・・それ。」

今回、ニコルはラクスの最後の歌で、ピアノを弾かせてもらうことになっている。

 だがら彼は今、正装に身を包んだ状態で、防音完備の部屋にあるピアノの前に座っていたのだ。

見れば、キラもその身を正装で包んでいる。

 とりあえず友好を示す場に軍人が紛れ込んでるのだと知られないために、クルーゼ隊は皆正装に身を包んでの護衛だけれど、キラの手元にあるそれは、今はあまり関係の無いものだ。

ニコルの視線を一心に受けるそれを持ち上げ、キラは笑いながらさりげなく言ったのだった。

「今日僕もこれ弾くから。」

そう言って取り出すのは、やけに高そうなヴァイオリン。

言葉の意味を理解できずにいるニコルに苦笑し、キラは顎でヴァイオリンを挟み、徐に曲を奏で始めたのだった。

 それは、今まさにニコルが練習しようとしていた曲で。

そこで漸く、彼はキラも自分と一緒にバックで演奏するのだと気づいたのだった。

「ぇえ!?キラさんも、なんですか!?」

「そう。ちなみに僕の姉も。ほかのオーケストラは皆休みで、ラクス様を入れて4人だけで演奏するんだよ。」

「そ、そんなの聞いてない・・・・・・・・・!」

ほのぼのと説明するキラに、ニコルは未だ信じられない様子でそう呟いた。

キラは内心「そりゃそうだ、だってさっき決めたし。」と呟きながら、「そうなの?連絡ミスかな」としれっと返したのだった。


 ぶっちゃけ、最後の曲ほど危険なものはないのだ。

観客も歌姫もついつい興奮と緊張の途切れで油断する時間。

それを、ただでさえ常よりも命を狙われる可能性の高いラクス一人(この際ニコルは除外)で迎えさせるわけにはいかなかった。

 だから事前に相談の元、本家から色々と「特注の物体」を取り寄せ、キラとカガリ二人がかりで護衛することに決めたのだった。

 ちなみに、その際アスランから護衛がいなくなるが、色々と誼のあるクルーゼが代わりに付いていることになっているから、問題はなかろう。(アスラン、憐れ・・・Uu


「大丈夫だよ、僕のヴァイオリン、ニコルのピアノ、カガリのチェロ、ラクスの歌声。十分曲になるって。」

未だ固まっているニコルにそう言ってから、キラは自分の練習に専念することにしたのだった。







「キラ?お前、今までどこにいたんだ?」

もうすぐコンサートが始まる、という時間。ホールの入り口に背を預けて立つアスランに、キラは内心主人の帰りを待つ犬ッコロを思い浮かべながらも、白い笑みを浮かべて「ちょっと。」とだけ言って、彼共々ホールへと入っていったのだった。





 やはり、と言うべきか。ラクスの歌声は非常に美しかった。

バックの壮大なオーケストラにも負けない、ラクスの凛とした歌声に、キラは満足げにため息を吐いた。

 ふと隣をみれば、なんとアスランは首をこっくりこっくりさせている。

芸術のわからないヤツめ、と思いながら思いっきり足を踏んでやると、アスランは一瞬痛そうに体を硬直くさせ、「何だ行き成り!!?」と叫びそうになるのをキラが口を押さえることによって阻んだのだった。

「アスラン、僕ちょっと出るけど、ここを動かないでよ?それと、命を狙われてるってゆー自覚、ちょっと持てって。こんな薄暗いホール、格好の殺人現場になるんだから。」

 そう言って睨むと、アスランは「そういやそうだった。」とばかりに目を見開いたあと、何やら物騒な言葉は思いっきりスルーして、コクコク頷いたのだった。


数分後、キラ達の元にクルーゼが近づいて来たのを確認すると、キラはアスランに「気をつけて」と言い残し、ホールを後にしたのだった。




 舞台袖に行くと、すでにニコルが楽譜を睨みながら待機していた。

 キラは苦笑しながら、どうやら行き成りの大舞台に緊張している様子のニコルを傍目に、客間を油断なく見据えていた。

そして、勘が告げる危険人物を一人一人記憶していく。

 もしここでラクスが狙われなくても、いつか何かに役に立つだろう(そう、何かに・・・ね。ふふふ。)と思いながら、大体の位置や果ては癖までも記憶していき、そんなことをやっている間にいつの間にか曲は、残すところあとわずかになっていたのだった。



―――そして、最終曲。


 今になって登場した少年少女達を訝しむ視線を受けながら、彼らは自分の楽器や道具を素早く調整し、ラクスへと視線をやったのだった。

「それでは、これが最後の曲となりますわ。皆様、本日はありがとうございました。」

 そう言い終わると同時に、流れ出したスローテンポのチェロの音色。

そして、それに絡むように響き出したヴァイオリンの音。

ニコルはそれに更に音をかぶせながら、内心歓喜と驚愕で頭がいっぱいだった。


何せ、彼らのアンサンブルはすでに素人のそれではないのだ。

 そこら辺のプロだは足元に及ばないそれに、ニコルは体中に鳥肌が立つのを自覚しつつも、自分も頑張らねば、という一身で、それこそ魂をぶつけるつもりで、鍵盤を叩いたのだった。


 そしてそれはまた、ラクスも同じ事。

予想以上の腕前を発揮する彼らに驚きつつも歓喜し、彼らと競うように歌声をホールに響かせたのだった。



 何故、キラとカガリがそんな、ニコルに賞賛されるような腕前を持っているのか。

それは、言わずもがな幼い頃の教育の賜物なのである。

 一族柄、要人・有名人の護衛が多い中、やはりこうしてあるジャンルで有名になった人物の護衛をすることも多いのだ。

その人物をより近くで護衛するため、一族はあらゆるジャンルにおいてプロと遜色のない結果を出すよう、子供達を教育してきたのだ。

音楽関係では、キラはヴァイオリン、カガリはチェロを。

並ならぬ努力と練習を重ね、こうして今、舞台に立っているのだ。


 だが今はそれを、キラは初めて感謝したくなった。

優秀なピアニストと、プラントの歌姫、そして自分の姉のコラボレーションなんて、普通に生活していたら絶対に体験できなかっただろう。

 キラは昂揚した感情をそのままヴァイオリンに乗せて、しかし瞳だけは冷静に観客席に向けていたのだった。



そして、最後のフレーズも弾き終わり、一瞬の静寂後すぐさま割れんばかりの拍手喝采を受けて。

 キラはヴァイオリンを下ろしながら、カガリににこりと笑いかけたのだった。

そしてカガリも、それを笑顔で受け、すぐさまにこにこしたままにラクスへと駆け寄ったのである。

 そしてそのままの勢いで抱きついたことで、反動でカガリのショールが一瞬ラクスの前で大きく広げられる。


だがそんなことを気にするものは誰一人としていなくて、感動して抱き合う少女達に更に拍手が送られたのだった。


 ラクスはカガリの抱擁を喜んで(内心めちゃくちゃ萌えながら)受けつつも、わずかばかり妙な違和感を感じていた。

 カガリは、果たして音楽で感動して抱きつくような、繊細で乙女らしい女の子だっただろうか。(失礼だな、おい @カガリ)


 そんなことを内心考えながらも営業用スマイルを浮かべていると、不意に左横に人の気配を感じた。

 カガリを抱きしめたままそちらを見れば、キラがいつの間にか隣にいて、少し大仰な仕草でラクスにヴァイオリンを差し出したのだった。

ちなみにその動作に、ラクスが不覚にもドキリ、としてしまっただなんて恥ずかしくて誰にも言えないだろう。


しかし、彼女はヴァイオリンを弾いたことは無く、何故それを自分に渡すのか、キラに問おうとしたそのとき。

 不意にカガリが腕の力を強め、ラクスに小声で言ったのだった。


「受け取れ、ラクス。キラの行動が不自然に映る前に。」


少し驚きつつも指示通りに受け取れば、キラはにっこり笑って「ありがとうございました。」と何故か謝礼を言ったのだった。

 怪訝に思ったまま、ふと指に違和感を感じてヴァイオリンを見れば、何とそこには銃弾と思わしきモノが3つ、木に食い込んでいたのだ。


その意味を瞬時に察し、ラクスは顔から血の気が無くなった事を自覚しながらも、気丈に微笑んで「どういたしまして」と答えたのであった。



――――――後日、インタビューにて。
 キラが渡したヴァイオリンはなんだったのか、という記者の質問に、ラクスが笑顔で「私がお貸ししたのです」と答え、聡明な子だねぇ、とキラが感心したのは、余談である。







「カガリ、大丈夫?」

舞台裏に戻った途端、キラはカガリにそう声をかけた。


 カガリは苦笑しながらも、「私を誰だと思ってんだよ」と元気に言い、肘に掛けていたお陰で弛みのできたショールから、静かに何かを取り出したのだった。


 それは紛れも無く、銃弾そのものであった。

それがショールの弛みの中に合計で5つ入っていたのだ。


 実はこのショール、ヒビキ一族が編み出した特殊な加工がしてあるモノで、なんと銃弾を貫通させないという性質を持っているのだ。

またそれは、先ほどキラが持っていたヴァイオリンも同じ。

木部に銃弾が食い込むように、少し柔らかく、だが貫通しないように加工してあったのだ。

 こうしてその一族の努力の結果を見ると、いつも思うことがある。

こんなことに金を掛けるならもうちょっと僕らにお小遣いちょうだいよ、とか特許志願すれば更に金儲けできるだろうに・・・・・・とか。(ぇ



 それはそうと、曲が終わると同時に、ラクスから緊張が抜けたのを感じた。

そして、わずかに聞こえた金属音。

キラはこの拍手の雨の中わずかに聞こえたそれに、頭の片隅で自分の耳の構造ってどうなってるんだろう、と思いつつも、すぐさまカガリに合図をし、カガリはそれを受けてラクスの元に駆け寄ったのだ。

 そう、金属音は銃のセイフティロックをはずす音だった。

そして、カガリはラクスの正面と右斜めから来る銃撃を自然な動作でショールに収め、キラはヴァイオリンを渡す動作の際、それを少し大仰に動かすことによって、左斜めから来る銃撃をヴァイオリンで受け止めていたのだ。


ちなみに、キラもカガリも銃筋を目で追えるタイプだったりするのも、また結構な余談である。


 ・・・・・・演奏しながらも、大体の襲撃者に目星をつけていたことが幸いした。

すべての銃弾を受け止め、ラクスは無事。ちらりと目をやれば、アスランも無事だった。


 そのことに不本意ながらも、何よりも安堵して、それからキラはカガリの手から銃弾を受け取り、じっと見てからぼそりと呟く。


「ザフトの、だね。」

と。銃弾からどこの物なのか当たりをつけたのだ。

カガリは無言でひとつ頷き、それからキラにニッと笑いかけ、すでにわかっている質問をしたのだった。


「銃を撃った奴の顔、覚えてるか?」

「ふん、僕を誰だと思ってるのさ。」

先ほどカガリが言った言葉をそのまま使い、キラはカガリに頭を叩かれながらも、アスラン達を狙う人物に繋がるものを、早くも手に入れたのだった。
 




(あとがき)
 話凝縮しすぎて面白みがないですね〜。
しかもアスランが出てこない・・・。

ちなみに、次回がラスト。



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