「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


俺はエドワード・エルリック、現在18歳。

今まで手足をもがれるとか、世界の集合意志との会話とか、一旦死んで生き返るとか、16歳で息子を持ったりとか、普通の人間じゃぁ体験することは出来ないだろう、ありえない事ばっかりの人生を送ってきた。

御蔭で結構奇想天外な出来事にも驚かない肝っ玉を養った気もするが。


だがな、それでもだぞ!?


機械技術が機械鎧関係以外一向に発達しない、それこそ空を飛ぶ乗り物さえなかったはずの世の中で飯食ってたはずなのに、いつの間にか目の前に広がるのは青・青・青! な世界で空を飛んでる状態に陥れば、驚くを通り越して久しぶりに絶句しちゃったもんね!(もんね、ってあんた・・・)


ってか俺のシチュー!! 折角ウィンリィがアルと遊びに来たついでに“ピナコ婆ちゃん直伝のシチュー”を作っていってくれたのに!!

あぁ!! 俺のシチュー!! カイル食べてねぇだろうなってか俺、何こんな状況で意地汚いこと考えてるんだよ!?


話を戻す! その青一色をもっと詳しく区別して言い直すと、「空」と「海」しかないような空間で、どうやって塗装しているのかわからない綺麗に「青く染まった金属」にしがみつきながら、風を切って空飛んでる訳だ、俺。


あぁうん、確かに空を飛んでるよな。だって目の前の青い金属、海にも陸にも上空にも、何も支えにせずに動いてるし。


そんな事を考えている内にちょっと落ち着いて来たから、その青い金属の正体を探ろうと全体を見てみると、何ともまぁ呆れれば良いのか感嘆すれば良いのか、無駄にゴツくてデカい、金属の人形のわき腹部分に俺はいるらしいことがわかった。

そう認識して、思わず引きつった笑いを浮かべてしまう。


だってさ・・・・ここ、絶対俺のいた世界じゃないし・・・・・・・・



Crossing





いい加減手が痺れてきたので、飛ばされないように慎重に動いて少し下にある足場(たぶん人間の腰にあたる部分)に着地する。しかし当然、手は離さない。何故ならばそんなことすれば即、風圧で飛ばされていくことが目に見えてるからだ。

視界に移る金属が青から白に変わり、もはやどうやって塗装しているのか疑問に思うのも馬鹿らしくなってきた頃、エドは不意に気付いた。


「知識ぐゎ・・・・・・・・・・・・・」


・・・・多分彼は、「知識が供給されない!?」と叫びたかったのだろうが、口開けた途端口の中に風の塊が押し寄せてきたせいで、正しく発音できなかったらしい。


(あぁ、この風圧の中口を開けた俺が馬鹿だったよ、ふふふ腐腐・・・。)


学習したのか、心の中でそう呟いたエドは、どこか遠い目をしていた・・・。


・・・それはまぁともかく、彼の最後まで言葉に出来なかった微妙な叫びは、事実である。

いつもは疑問に思えば即知識を供給され、むしろ拒むのに苦労したという経緯まで持っていると言うのに、今は幾ら不思議に思っても答えが出ないのだ。


なるほど、別世界に来たのだから当然、もといた“世界”からは隔離されてしまった訳か・・・と納得すると同時に、エドは思わず息を呑んで体の動きを止めてしまった。


金属を掴む手に汗が滲み、心臓がやけにドキドキ言っている。

気付いてしまった可能性が頭を巡る中、エドは無意識にゆっくりと片手を金属から離していた。

そして抗い難い誘惑に駆られ、若干ぎこちない仕草で指を口に運ぶ。


それから彼は、親指を口に含み、一気に顎に力を入れたのだった。


途端に口内に広がる、鉄くさい液体。

そして指を口の中から引出し、言葉も無くそれを凝視する。


一秒、二秒、三秒、四秒――――・・・・・・・・・それから何秒経っただろうか。彼はそれすらもわからず、次から次へと溢れ出てくる赤い液体を、ただ見ていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・何をしているの」


そんな時だ。不意に何処からか声が聞こえ、エドははっと我に返った。

気が付けばいつの間にか巨大な金属の人形は動きを止め、金属の陸地―――いや、これは船だろうか―――に着地していた。

そして声のした方向へと視線を向けると、そこには突出している金属から身を乗り出し、眉根を寄せて自分を見ている・・・・・・(逡巡)・・・・・・・声から推測して男が。


エドは金属の人形の中に人間が入っていたことにわずかに驚きつつも、自分の不可解な行動を見ていたらしい男に、誤魔化すように笑いかけた。





********





無駄とは思わないが、有意義だったとも思えないダーダネルスでの戦闘が終了し、アークエンジェルに着艦する直前だった。

自分がけしかけたとは言え、やはり後味のよい物ではなかったと嘆息しつつ、カメラ越しにアークエンジェルの姿を確認しようとしたところ。

キラはふと別のモニターに映っていた物体に気付き、我が目を疑った。


そこには、必死にフリーダムの腰部にしがみ付く、多分自分と同世代の青年が。


「おいおいおいおい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!?」


らしくもなく顔を引きつらせてそう言って、若干パニックに陥りながらも通信機に手を伸ばす。


「・・・・・こちらキラ・ヤマト・・・・。」

『キラ君? どうかした?』


怪訝そうなマリューの声を聞いて、キラは脱力しながら続けて言ったのだった。


「・・・・・まぁ、その・・・・・。マリューさん、何かフリーダムに人間らしい物体がくっついてるので、浸水は少し待ってください。水の中に入る前に、彼をコックピットの中に入れたいので。」

『『『『はぁ!?』』』』


もはや誰の物かも判断できない返事を聞きながら、フリーダムの速度を徐々に落としていく。それは、腰部にくっ付いている人物が、止まった時に慣性によって吹っ飛ばされないようにするための対処だ。

何でこんな事に・・・・とキラはまたも嘆息して、問題の人物が映っているモニターに目をやった。

そして、彼の様子が少しおかしい事に気付く。

恐怖ではない何かに顔を強張らせ、なんと徐に自らの指を噛み切ったのである。

これには流石に、キラも驚かざるをえなかった。またも若干パニックに陥りながらもゆっくり着艦して、急いでヘルメットを取ってコックピットを開く。

それから十数メートルはある場所から躊躇い無く身を乗り出し、未だ機体の動きが止まっていることにすら気付いていない様子の青年に声を掛けたのだった。





********





「乗って。」


そう言って手を差し出したキラに、エドは戸惑いつつも応じた。行為はありがたく受け取るが、何だかあんたちょっと怖いぞ、と思いながら。

しかしまぁキラのその態度も仕方のない物と言えよう。何と言っても、エドは何処からどう見ても不審者でしかないのだから。

むしろ少々怖いが警戒はされていない様子に、もうちょっと警戒してもいいんじゃないか? と心配してしまうほど。

身軽に金属の突起を使ってキラのいる場所の少し下までよじ登ったエドに、キラは少し驚きながら問う。


「・・・・・・・・君、ザフト?」

「・・・・・・・・・・・・・何だって?」


ザフト、と聞きなれない言葉に戸惑いつつも差し出された手を取り、見た目に反した腕力で軽々と持ち上げられる。

そうしてエドはキラとほぼ同じ位の視線になり、彼が己と歳も大して変わらないらしい事に気付いたが、今は関係ない。

ついでに言うと、怪訝そうに自分を見るキラの顔は、中性的と言われている自分よりも更に女顔で、小さい頃それが理由で(主に大人の女性に)色々弄られた記憶があるエドは、微妙に彼に自分を重ねて同情してしまったが、それもまた関係がないので置いておく。


しかしそんなエドの様子を見ていたキラは、不意に怖い顔を少し困ったような微笑に変え、言ったのである。


「えっと、その・・・・君もしかして、ザフトって単語、知らない?」


相変わらず困ったように笑っているキラに、本当のことなのでエドは正直に頷いた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、とりあえず中に入って。」


嘘はついていないみたいだね、と今度は苦笑を浮かべて自分の腕を引っ張ったキラに、エドは「・・・・・なんだその長い沈黙は・・・」と心の中で呟きつつも、大人しく従ったのだった。





********





「すっげぇ・・・・・・・・・。」


コックピットを見てのエドの第一声。やけに驚いてまくって絶句してしまっている彼に、キラはやはり困ったように笑った。


「そんなに珍しいかな・・・・?」


確かにコックピットと言う物は結構迫力がある物だが、日ごろから機械に慣れ親しみ、リアルなバーチャルゲームも普及している現代では、エドほど感銘を受ける者はかなり珍しい。


「あぁ。あっちじゃ機械技術が発達してないからな。この金属の人形を見たときも驚いた。」

「・・・・・・・そ、う・・・。」


“あっち”に、“金属の人形”ね・・・・・。何故か数年前に見た漫画のストーリーを思い出しながら、キラは問うてみる事にした。


「“そっち”では、何が発達してるの・・・・・・・・・・?」


すると彼は一瞬驚いたような顔をし、それから突如ニヤリと笑って言う。


「錬金術。」


と。彼のその態度からは、冗談なのかそうでないのかはよく分からない。しかし再度漫画の内容を思い出しながら、キラも少し冗談めかして言ってみたのだった。


「なるほど。君は“錬金術”の発達した世界からこの世界にきたんだね。」


錬金術と言った単語は、知ってはいる。たしか、昔の科学技術の事を指していた。

だがエドの言う錬金術とは、何か違う気がする。


そんな事を考えていると、エドは頷きつつも、僅かに居心地が悪そうに身じろぎしていた。・・・ぶっちゃけこの空間は、確かにキラにとっても居心地が悪い。

会話が微妙な腹の探り合いになっているのは、きっと彼も気付いているのだろう。この狭い密室でそんな会話を続けるのは、精神的にあまりよろしくない。


そう思い、キラは深々と息を吐き出した後、フリーダムを着艦させながら言う。


「・・・・・・・・・・自己紹介が遅れたね。僕はキラ・ヤマト。君は?」

「エドワード・エルリック。」


手短に自己紹介を済まし、握手を交わす。だが相変わらずコックピットに流れる空気は険悪なままだ。

キラはその状態に、軽く・・・・・・





キレた。





握手したままエドの手を離さず、キラはにっこり笑って言う。


「ところで君さっき、僕のこと女顔だとか思ったでしょ。」

「は!?」

「しかも同情の目で見たね? ・・・・・・・・・君も人のこと言えないくせに。」

「ヒドっ!!」

「むしろ君も僕と同じく母さんたちに女の子の格好をさせられていたと見た。」

「いでででででででででで」

「なのに同情されちゃうって、めっちゃく・つ・じょ・くv」


最後は握手した手をぎりぎりと力一杯握り、一音一音区切りながら、しかし笑顔のままで歌うように言う。

これの迫力は幼馴染で実証済み。案の定顔をヒクヒクさせて反論もしないし敵意もむき出してこないエドに、キラはトドメとばかりにうっとりと笑って言ったのだった。


「僕もさぁ、やられてばっかじゃ無くて、やり返したいな。こういう考えを持つようになってから、回りに女装をして見苦しくない男がいなくなっちゃってね。君、やらせ「ごめんなさい勘弁してください!!!」


この人なんだかキレた時のアルに似ている、と思いながら、エドは必死に言葉を遮る。


つまらないなぁ・・・・と言いながらも渋々と言った感じで手を放すキラに、エドは心から安堵して肩を落とした。

そして一転してそれをくすくす笑って見ながら、キラは言ったのだった。


「うんじゃぁ、腹割って話そう。ぶっちゃけ君、この世界の人間?」

「・・・・・・・・・・・・・チガイマス。」

「あぁ、やっぱり。じゃぁ頑張ってこの世界に慣れないとね。どれ位ここに滞在するつもり?」

「や、突然飛ばされたから帰り方さえもわかんねぇし・・・・・ってか軽くねぇ!? 俺、別世界の人間だぞ!?」


あんた信じてるのかよ、それともこの世界ではこういう事って良くあるのか!? とでも言いたげな視線を向けられ、キラはにっこり笑う。


「普通は信じないだろうね。でも嘘ついてるように見えないし。」


その言葉にはもう、「あぁ、そう・・・・・」と力なく頷くしか出来ないエドワードなのだった。


しかし、ふと気付く。

いつの間にか先ほどまであった険悪とも言える空気が払拭されていた。あるのは何となく、和やかというかほのぼのとした空気だけだ。


その事をちょっと意外に思いながらも、エドは「ひん曲がった方法だけど、こういう風な場のとりなし方もあるんだな・・・・」と学習してみたり。果たして彼の世界でそれが活かされることはあるのだろうか? あるとしたら、周りの人は大変だ。むしろ可哀相だからやらないで上げてやれ。


そんな誰かさんの願いなんぞ知る由も無く、「今度実践してみたいな・・・」などと思ってしまった彼は、不意に気付いて問うてみた。


「あんた、最初とちょっと性格かわってねぇか・・・・・?」

「アレは対客用。こっちが本性。」


本性って・・・・・と呟くエドには、もはや脱力するしか手はなかった。




(あとがき)
ついに始めたクロスオーバー。主役はどちらかと言えばエド寄りでしょうかね〜?

まぁ、でも多分交互。どっちもどっち(?)になるかと。

 



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