「すまない、キラ・・・・・・・・・。」

アークエンジェル艦内、ブリッジにて。

 カガリが悔しそうに顔を歪め、いきなりキラにそう謝罪した。

だがすでに一連の事情を知っていたキラは、ただ微笑んで「大丈夫だよ」と答えたのだった。



INVITE





ロード・ジブリールがオーブに逃げ込んだことにより、結果としてオーブとプラントの武力衝突が開始されてしまった。

 だがカガリの迅速で的確な行動により、彼はオーブ軍によってすぐさま捕獲され、ザフトへ引き渡された。

 それによってザフトはすぐに退却。また同時に、オーブよりプラント政府へ協和申請を申し出たのである。

 現地へと赴いていたデュランダル議長はそれにすぐさま返答した。そして、再びオーブ代表首長へと舞い戻ったカガリに、協和について二つの条件を出したのだった。


一つ、地球軍との同盟の解除。

一つ、フリーダムのパイロットと、オーブ代表首長のプラントへの公式訪問。その際両名の安全は保証すると言う。


全周波放送で出されたその二つの条件に、反対する者はほとんどいなかったと言えよう。

一度は完全に敵側に周り、またブルーコスモスの盟主を匿ったという事実があるにも関わらず、提示された拍子抜けするほど簡単な条件を、オーブ政府は一も二もなく聞き入れたのだった。


「やることはすごく好印象なのよね・・・・・・・」

コーヒーを片手にそう呟くのは、アークエンジェルの若き艦長殿だ。

全周波放送で交わされたそのカガリとデュランダルのやり取りを、彼女も例外なく見ていたのである。


 確かに、早急な返答、簡単な条件はデュランダル議長、しいてはプラントへ否応なしに好感を持たせる。

だが、その内容は彼女にとってあまり歓迎できるものではなかった。

 まぁ、議長の言いたいこともわかるのだ。


オーブの誠意を示すための、代表の訪問。

そして自軍を散々苦しめたMSのパイロットは全くの正体不明。正体を知りたいだろうし、カガリ自身の誠意もそれで測れる。


 身の安全を保証するとは言え、本当にキラに何のお咎めもしないのだろうか・・・・・・と不安になり、傍らに立つ少年を見れば、彼はただ静かに微笑むだけで、何も言おうとはしなかった。


そんな時だ、突如カガリがブリッジに入ってきたのは。

後ろにはキサカが控えていて、マリューはいつかのオーブ国境線の戦いを思い出して、密かに苦笑した。


しかしその時と違うのは、更に後ろに重症のアスランとメイリンが居ること。

彼らも放送を聞いていたのだろう。アスランの方は隠しもせずにキラに心配そうな視線を送っている。


 それから、冒頭のカガリの台詞だ。


「議長は私達の他にも何人か連れていって良いと言ってくれた。だから、アスランに・・・・・・」

「カガリ。」

キラはカガリの言葉をやんわりと、だが有無を言わさぬ口調で遮り、苦笑を浮かべながら彼女に近付いていった。

そして、俯くカガリの肩に触れながら、静かに言葉を発する。


「アスランは駄目だ、カガリ。ホントは、わかってるでしょ?」

と、優しく、幼子に言い聞かせるように。

 そう、アスランは駄目。何故ならば彼はすでに、二度も軍から逃亡を図っているから。

次は無い。それが例えカガリの護衛と言う面目でも、軍規にしたがって議長はアスランを罰するだろう。世論とて、アスランに味方するとは思えない。


 カガリはこぶしを握り締め、もう一度「すまない・・・・・・!」と呟いた。

彼女とて、本当はキラを連れていきたくないのだろう。

それほど、今のプラント・・・・・・否、議長は危険なのだ。

 そんなところにキラを連れていくのなんて、無謀としか言えない。


カガリが自分の不甲斐なさに憤りを感じていると、キラが静かに語りかけたのだった。


「大丈夫だって。・・・・・・・・・・・それに僕、議長におしおきしなきゃいけないし。いい機会だよ。」


と。さらりと、本当にさらりと言ったので、カガリは一瞬「そうか・・・・」とか返事をしそうになったが、すぐさま正気に戻って顔を上げた。


 すると目の前にはなんと、魔王様がいたのだ!!

笑っている、確かに彼は笑っているのだ。

だが何だろう、この寒気がするような笑いは。それになんだか瞳孔が開いているような・・・・・・ってか、種割れてる!? いつの間に、というか何故!?

 どうやら静かな口調はただ感情を押し殺していただけだったらしい。


―――紛れも無く、魔王様はお怒りなのである。


 カガリはそのキラの様子に顔を引きつらせ、肩に彼の手を乗せたまま、助けを求めるように視線を辺りに巡らした。

 キサカ、アスランと視線が合いそうになったが、二人ともカガリの顔がこちらを向いた途端に秒速の速さで顔を逸らしやがった。

 その隣でアスランを支えていたメイリンは最初っから見ない。彼女じゃ絶対にこうなったキラは手に負えないだろう。

 そして他のAAクルーも同様の理由で除外。女性クルーは目を合わせても無意味。彼女達は逆に面白がって煽るだけだ!!

 カガリは何とかこのキラのすさまじい微笑みを解除したくて、尚も諦めわるくあがいてみると、シュン、と音を立ててラクスがブリッジに入ってきた。


あぁよかった、ハウメアはまだ私のことを見捨ててはいなかったのだ・・・・・・!と、ちょっと大げさなことを考えながら安堵してしまったカガリはまだ甘い。


 気づけ。普通に気づけ!!ラクスの瞳孔も開いているんだカガリ!!そして宇宙空間でもないのに髪の毛が逆立ってるんだぞ!?

 特典であるハロの目もなんだか怪しく光ってるし・・・・・・というか俺はそんな機能つけてない!!


というアスランの内心の声もむなしく、カガリはラクスに嬉しそうに声をかけたのだった。


「ラクス!キラにちょっと落ち着くように・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

しかし、カガリとて馬鹿ではない。

ラクスが一歩ずつ近づくごとに、体感温度が比例して下がっていくことにすぐさま気づいた。


かわいそうに、目の端に見えたメイリンは、顔を真っ青にして硬直している。

 そうだよな、お前、初めてだもんな。コレ・・見るの。

などと、カガリが思っていると、不意にキラがカガリの肩から手を離した。


コレ幸いとキラから離れて、メイリンに近づき背中をなでてやると、彼女は漸く固まっていた筋肉を弛緩させたのだった。

しかし。そんなカガリの労わりは、目の前に広がる光景によってすべて無に還されてしまったのである。


「ラクス。」

「キラ。」

という、なんだか戦艦が似つかわしくない男女によって。

 これで空気が甘々だったらここまで恐怖を感じることはなかろう。

しかしひとりだって怖いのに、今は二人とも冷たい微笑でにっこり笑いあっているのだ。今やブリッジに居る当事者以外のすべての者が、二人を固唾を飲んで見守っている。

いや、刺激しないように動くのも話し掛けるのも自制しているのだ。というより、蛇に睨まれた蛙状態。本能が動くことを拒絶しているのである。


 あぁ、もう室内は氷点下だ。

こんな事態を引き起こした議長、恨むぞこの野郎

このとき、クルー達の心は一つになったのだった。


しかしそんな彼らの内心などまったく気にせず、不自然に瞳孔の開いた二人の会話は続く。


「行きますの?」

「もちろん行くよ。」

「そうですか。では、私の分もヨロシクお願いいたしますね?」

「うん、わかってる。待っててね。」


 何 が ヨ ロ シ ク ?

だなんて、怖くて聞けない。

少ない言葉で通じ合っている二人に、結局口をはさめる者は誰一人としていなかった。







 ところ変わってこちらはプラント。

オーブを撤退したミネルバも、議長からの呼び出しでこちらに戻ってきていた。

 先日の戦闘では、何故か討ったはずのフリーダムにボロ負けして、またも機体を損傷してしまったデスティニーガンダムパイロット、シン・アスカ。彼は今、真新しいスーツに袖を通していた。

同室で、レイもスーツに着替えている。

 なぜ、パイロットである彼らがそんなおめかしをしているのか。

それもまた、議長からの命令であった。


本日、オーブ代表がプラントに公式訪問へやってくるらしい。

 しかも、項目は立食パーティときた。それに彼ら二人とタリア艦長は参加せよという命令だったのだ。


なんでパーティなんだ、と内心で議長に文句をたれつつ、スーツを着終わったシン。

レイも着終わって振り向くと、まず一番最初にシンの姿が目に入った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・七五三・・・?


などと、レイは一瞬めちゃくちゃ強く思ったが、言ったり笑ったりしたら絶対すねるので、鉄の無表情を貫き通したのだった。







――――――今回のメインは、何を隠そうフリーダムのパイロットその人だ。

先の対戦で伝説とまで言われたMSの、正体不明のパイロット。

それを表に引っ張り出すことが、今回の訪問の目的なのである。

 そのことを、パーティに呼ばれた芳しい成績を残した軍人達と、プラントの要人達はすでに知っていた。


 きっとマスコミも殺到することだろう。・・・・・・・・・要人達が何のためにそれを呼んだのかは、まったく検討がつかないのだが。


 シンは、料理を片手に、そんなことを考えていた。

一流ホテルの食べ物は、流石においしい。

 隣ではレイが優雅にシャンペンを傾けている。畜生、何をやらせても様になる奴だ。


そんなことを考えていると、不意に会場から人の声が消え去ったのことに気づいた。

 オーケストラだけはプロの根性で未だ響いているが、すでにそれも、誰の耳にも届いていないだろう。


 その不思議な光景にシンは眉をしかめ、会場の者達の視線を追った。


そしてまた、シンもそれを視界に入れた途端、珍しくも言葉を失ってしまったのだった。



 それは、たった今、一組の男女が会場入りした光景だった。

ボーイも扉を開いた格好のまま、彼らに魅入ったように動きを止めている。


女性の方は、意志の強そうな琥珀の瞳に、複雑に編みこまれ、照明の光を反射する金の髪の持ち主。

ドレスを着た彼女は楚々として美しく、凛々しい。

まさに高根の花を思い起こす、お姫様のような存在だ。


そして、その彼女の手を取って騎士の如く先導する男性。

 紫の瞳は紫電のごとく、静かだが確固たる意思を持ち、存在を主張している。

そして髪の毛は褐色。長めのそれは綺麗に整えられて、項の髪がなんだか艶かしい。


とにかく双方、稀に見る美形であった。


 何者なのだ、と見たことのない二人を誰もが凝視していると、不意にその二人に近づく影があった。

言わずもがな、我等が議長、ギルバート・デュランダル閣下である。


「お久しぶりです、代表。そしてそちらは・・・・・・・。」

どうやら、女性のほうはカガリ・ユラ・アスハだったらしい。

言われてみればそうだとわかるが、普段と雰囲気も着ているものも違いすぎて、ぱっと見ではわからなかった。

 普段からそういう格好していればいいのに・・・・・と思いつつ男性の方へ目をやると、彼は静かに微笑んでいた。

その微笑みからやけに威圧感というのか、覇気というのか、とにかくすごい気を感じて、議長もシンも一瞬息を詰めた。


 それから数秒の空白のあと、議長は飲み込んだ言葉を続けて吐いたのだった。


「君が、キラ・ヤマト君だね?」


そう言われた時の彼の顔が忘れられない。

 一瞬儚げに微笑み、すぐさま嫣然とした笑みに変えられたその顔。

それが何を意味するのかはわからなかったが、シンは彼を何だか守ってやりたい気分になった。

そして、その次に議長から放たれた言葉に、シンの頭は真っ白になったのだった。


「そして、フリーダムのパイロットの。」


その言葉で、漸く会場からオーケストラ以外の音が戻ってきた。

 皆興味と困惑の表情を浮かべ、ひそひそと会話をしながら彼を見つづけている。

よくこれだけの視線を受けながらも微笑んでいられるな・・・・・・と、だんだん戻ってきた思考でシンは思った。


――――――キラ・ヤマト。

―――――――――伝説のMS、フリーダムのパイロット。

―――――――――――――ステラを殺した、MSの。


そうだと議長は言ったのに、シンにはそれが信じられなかった。

あんなに細い、綺麗な人があのMSを操っていたというのか。

見れば、年頃はシン達よりも少し上くらい。柔和で静かな微笑からは、軍人らしさは全く感じられない。


皆、そのせいで戸惑っているのだ。フリーダムの噂――人並み外れた強さ――は、軍に少しでも関係があるものは、よく聞かされている。

 それがあの青年の仕業だと言うのか。――――――しかし、信じがたい、と。


シンもそうだ。

ステラの仇で、何度も対戦して何度も敗れた。彼もフリーダムの強さはよく知っている。

そして、MSの操縦が、年齢や見た目で決まる物ではないと言うことも、わかっているのだ。


しかし、あんな儚げな微笑を見て、彼の軍人らしくない姿を見て。

・・・・・・見てしまったから。


多分もう、討とうと言う気には、なれないだろう。


理屈ではない。本能が嫌だと、そう叫んでいた。





 

(あとがき)

まぁ、色々と矛盾してるのは気にしないでください。
何のこのことAA離れて議長の所行ってるの、とか、
シンはキラにすでにボロ負けにされてたんか、とか。

しっかし、めちゃくちゃギャグにするつもりだったのに・・・微妙(汗

いや、多分その分次回ギャグ。お楽しみに〜  



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