「レイ!ルナマリア!!畜生、こんなはずじゃ、こんな・・・!!」 動かない仲間二人に必死に呼びかけたが、全く返事が返らない。 シン自身、今では立つのすらやっとだ。 それでも今だにこちらに攻撃を加えようとしている巨大な魔獣を牽制するため、剣を構えている。 だが、もう限界なのだ。所々にある深い傷のせいで半端ではない量の血が失われていた。目はかすみ、剣をもつ手にも力が入らなくなってきた。 もう駄目か・・・!そう思い意識を失いかけたところで、凛とした少年の声が聞こえてきた。 「失せろ」 と。しかし消えない魔獣の気配に、少年が舌打ちをした音を聞くのを最後に、シンは意識を完全に手放した。 呼吸背後にかばった少年が、意識を失い倒れるのを気配で感じ、キラはもう一度舌打ちをした。 「全く。人間界に降りた途端これか!もしかして今日のおうし座は最下位?家からの外出は控えましょうって?」 と、意味もなく半ばやけくそに言い、しかし視線は油断なく目の前にいる巨大な魔獣を見据えている。 本当に人間界に降りてすぐだったのだ。森の中に降りた途端、少年の切羽つまったような声を聞き、何事かと思ってきてみれば瀕死の重傷者が2人。すかさず助けに入ったら、今まで応戦していた残りの一人もあえなく重傷者の仲間入りを果たしてしまった。 結局一人で目の前の魔獣を相手にするのか・・・と思いながら、キラは冷徹とも言える瞳で魔獣を見据え、もう一度言った。 「失せろ。我が何者かはその本能でわかるはず。」 すると魔獣はおびえたように一歩後ずさったが、すぐに獰猛な鳴き声を上げながらキラに襲い掛かった。 キラはそれを冷静に見ながら諦めにも似た感覚で手を眼前に出した。 そして一言だけ、言う。 「裂けろ」 それでだけで魔獣の体と内蔵はボロボロに裂け、見る影も無く息絶えた。 キラはその姿に眉を顰め、瀕死の者達に近づいていった。 そして彼らの心臓に手を当てまた一言。 「活きよ」 するとたちまち彼らの傷は塞がっていき、正常に呼吸をするようになった。 それを見届け、今度はたった今自らが殺した魔獣に近づき、言う。 「いつになってもお前達を殺す事は慣れないよ。・・・次なる生に幸あらん事を願う。」 それと同時に浄化の炎で骨すら残さず消し去った。 魔獣も魔族、いわば同族なのだ。だが、魔獣は獣の形を主とし、凶暴で人を喰らい、人間界に生息するせいか魔族の性にとらわれないという性質をもつ。そのような人に被害しか与えないものを、この世界は許さない。無論、魔王たるキラも彼らを許す事は出来無い。 結局は殺さねばならないのだ。 そんなことを考えていると、黒髪の少年が「う〜?」と唸った。 なんだか微笑ましくて笑って彼の顔を覗き込むと、不意に少年の目が開いた。 明らかに目覚めるのが早い。回復の魔術を使った人間は大抵何時間も意識を失ったままなのに。 しばらく黙って少年を見ていると、まだ寝ぼけているらしく、ボーっとキラの目を見返していた。 その瞳は血のような赤い色をしている。 決して人間には現われない色彩だ。だが少年からは全く魔力や闇の力を感じない。 どうやらただの人間のようだが、祖先が魔族であったのだろう。ならばその血が魔術に少しでもなれているはずだから、この早い目覚めにも納得できる。 そんなことをつらつらと考えていると、不意に少年が勢いよく立ち上がり、キラを指差しながら叫び出した。 「ぇえええええ!??何、なん、なんだあんた・・・ってあれ?」 その混乱っぷりを噴出しそうになりながらも黙ってみていると、少年は疑問の声を上げると共に視線を巡らせ、何かを探す動作をする。そして数秒もしないうちに目的の物を見つけ出し、キラの存在を忘れたようにその名前を呼び、駆け寄った。 「レイ!ルナマリア!!」 その顔は今にも泣きそうに歪んでいる。 ぴくりとも動かない二人の仲間の状態を、どうやら誤解しているようだ。 キラはそれに苦笑しながら、シンの肩に手をそっと乗せて言った。 「二人とも寝ているだけだ。よく見てごらん。血まみれだけど傷は一つも無いはず。」 と。するとシンは驚いたようにキラを振り返り、すぐさまレイに視線を戻して手を顔の前にかざした。 かすかに感じる吐息。確かに正常に呼吸をしている。 シンは今度こそ脱力して、力なく笑ってキラを見て言った。 「あんたが治療してくれたのか?あんた、魔法使い?」 それに頷くと、キラは座り込んでいる少年に視線をあわすように自らもしゃがみ、自己紹介をした。 「僕はキラ。君は?」 シンは笑いながら、「俺はシン。そっちがルナマリアと、レイ。治療してくれてありがと。」と言った。 それをほほえましく見ていると、ふと疑問に感じたので聞いてみた。 「シン、君達なんでこんなところにいたの?」 そう、シンたちがいたのは一般的にも巨大で凶暴な魔物が多く住むと知られている魔の森の中。 だからこそ人はいないだろうとキラは森の中で起こっている事を確認せずに上から降りてきたのだ。 そんな所にわざわざ入ってくる物好きはいないだろう、と思ったから。 しかし実際にいるのだ。目の前に。 一瞬自殺願望者?と思ったが、彼の様子を見ればそれだけは無いと言い切れる。 仲間を案じ、その死を恐れているのだから。 だからこそその意図が気になったのだ。 そう考えながらも、キラは冷静にシンを観察していた。 先程の疑問に、彼はまだ答えようとしていない。 言いにくそうに視線をそらし、どういい逃れようか考えているのが手にとるようにわかる。 そんな行動をとられれば余計に気になるではないか。 でももう一度聞いても素直に答えてはくれなさそうだ。 そこまで考えて、シンが次に出そうな行動に備えて、彼が自らの思考に沈んでいる事をいいことにまじまじとレイとルナマリアの観察も始める。ついでに彼らの持ち物にも目を通してみる。 剣、杖、薬草、あれは・・・発掘道具?それに大きな布・・・と封印用の札。それもかなり強力なモノだ。 そこから考えられる彼らがしようとしていること。 ・・・トレジャーハント・・・?しかも曰く付きなモノの。 その仮説に行き着いたところで、漸くシンが顔を上げてキラに言った。 「俺達は、ちょっとした事情で・・・。で、あんたこそなんでこんなところにいるんだよ。」 しかも一人でさぁ。 そう、キラが予想していた行動をそのまま実行するシンに苦笑しながら、先程の観察から導き出したシンから情報を聞き出す方法を早速実行にうつしてみることにする。 「いや、実はここら辺に妙なお宝があるって噂聞いてね。ちょっと興味があったから来てみたんだ」 と。真っ赤な嘘だが、なんとなくシンの性格ならこれでついうっかりしゃべってくれそうな気がする。 それに彼らがこんな危険な場所にくるほどのお宝というモノに興味がある、と言うのもあながち嘘ではないのだ。 すると、やっぱり予想通りシンは慌てて「あんたも‘豊穣の女神’狙いか!!?」と返してきた。 キラは内心ほくそえみながらも「豊穣の女神」とやらがなんなのか聞き出そうとしたが、やめた。 聞くまでもない、知っていたから。 「‘豊穣の女神’・・・!?なんで今更そんなモノが!!?どこでその存在を知った!!?」 それは完全な魔石だ。何代も前の魔王が何千、何万年も前に人間界で使ってそのまま行方不明だという、恐ろしい代物。 今となっては王位継承の時に魔界の歴史を受け継いだキラと、古い書物に書いてある物を見た者しか知らないような、それほど大昔の代物なのだ。 それを、なぜ人間であるシンが知っている?きっと書物だって残っているはず無いのに。 そう思っていると、キラの剣幕に負けたようにシンが焦って口を開いた。 「あんた知らなかったのにここまで来たのか!?あ、いや。俺はじいちゃんから小さい頃その話聞いて、それで・・・」 「おじいさんの名前は・・・!?」 「え、ぇと、アデス・・・」 (あ、アデスさん・・・・!?) アデスは150年ほど前にキラが人間界に送った魔族だ。 彼は所謂本の虫と言うやつで、魔界の本を読み尽くしたとかで人間界にまで他の本を読みに赴いたのだ。 確かに、彼なら「豊穣の女神」の話を知っているだろう。 ちなみにシンは随分と魔族の血が濃い事にそれで気付いたが、今ははっきり言ってどうでもいい。 人間に教えていい知識じゃない事はわかっていただろうに、なんて事を教えてしまったんだ。 しかも彼らは「豊穣の女神」を持っていこうとしているのは持ち物を見れば明らかだ。 ただ同じ名前で違うモノを探しているのかも、とかもしかしたらこの森にあるモノは全くの別物かも、という可能性もあるが、もしこの森にあるのが本物なら? ありえない話ではないのだ。 魔石は人間界では魔獣を引き寄せる性質をもつ。 強い力を秘める魔石は強い魔獣を。もし、この森に住む魔獣が自然と集まったモノでないとしたら? シンたちの探す「豊穣の女神」が、本物である確率は極めて高くなる。 思い出すのは「豊穣の女神」に関わる昔話だ。 初代魔王、ジョージ・グレンは心優しい魔王だったが、先を考えない魔族でもあった。 天地戦争で荒廃してしまった人間界の大地を憂いた彼は、それを元の緑豊かなものに戻そうと画策した。 そして彼は、その方法として一つの魔石を作り出した。曰く「なんでも願い事を叶える石」を。 それは、確かにジョージの願いを聞き入れ、人間界の大地を潤した。 だが、その代償は大きなものだった。 生き残った何万という人間と、ジョージ自身を飲み込み、石は大地を元に戻したのだ。 それは製作者のジョージには全く想像だにしなかった出来事で、何も予防策をとっていなかった彼自身を完全に飲み込み、支える者のいなくなった魔石は、そのまま人間界に落ち、行方不明となった。 当時の必死の捜索も虚しく、長いときが経った今でも「豊穣の女神」は見つかっていない。 見つかっては困るのだ。 あのような強大で代償の大きすぎる魔石、封印するに限る。王たるキラがそう思っているのだから、魔族全員も同意するはず。 だが存在をしった人間はどう出る?魔族のような性質の縛られず、愚かにも分不相応な大きすぎる力を欲する権力者達は特に。 間違いなくその力を使おうとするだろう。 それが人間なのだ。 だからこそ、キラは「豊穣の女神」がそのままの状態で人間の手に渡る事を、おめおめと見逃す事はできないのだ。人間界のためにも、魔界のためにも。 よって、来てそうそう人間界でのこれからが決まってしまった。 シン達に同行し、隙あらば「豊穣の女神」の破壊又は封印。 そうと決まれば即行動。 キラはすぐに顔に笑顔を貼り付け、言った。 「シン、どうせなら僕も同行していい?お宝は見たいだけ(のように見せて密かに封印するつもり)だし、僕戦闘能力(魔界一)高いし、君達に損は無いと思うよ?」 と。祖父の名前を聞いた途端急に黙り込んで考え出した上にまたもや急に顔を上げたと思ったら笑顔になる等、キラが少し怪しい行動をとったにも関わらず、(ついでに隠れた言葉にも気付かず、)シンは笑顔で頷いた。 「あぁ、もちろん!あんた確かに強いみたいだし、心強いよ」 とまで言う。 キラは内心(こんな単純・・・いやいや、人を疑わない性格で、よく今まで生きてこれたな・・・)と変なところで感心ながらも、全くそれを表に出さずに同じように笑って話を続けた。 目の前の少年と大して変わらないように見えても、キラは彼の何十倍と長く生きているのだ。面の皮はどんな老獪な人物よりも厚い。 よって、キラはシンに全く疑いなど持たせずに人間界でよく使う「素直で、心優しい少年A」を演じつづけ、会話を続けながら彼の仲間達の目覚めを待った。 途中素直なシンに罪悪感を刺激されながらも、漸くレイとルナマリアも覚醒し、キラもトレジャーハントに同行するむねを伝えると、当然二人にはキラに怪訝な、疑うような視線を向けたが、傷の完璧な治療と体力の完全回復の恩もあるし、キラのその百年単位で培ってきた面の皮、もとい「素直で、心優しい少年A」という人格の本性を見破れるはずも無く、話しているうちに段々と打ち解けていき、同行の了承を得た。 (ちょろい・・・!) 内心でそう思いながら、その場を出発しようと立ち上がったその時、キラは獣の息遣いを聞いた。 普通の人間には聞こえない、超音波にも似ているその音。 それを聞いた途端、キラは素早く息遣いの聞こえた方向に3人をかばえるような巨大な防護壁を張った。 その数瞬後に唸る巨大な「なにか」。 それは的確に3人のいた場所を狙っていたが、キラの張った防護壁に阻まれ、すぐさま暗く茂る木々の狭間に消えていった。 「何だったの?!」 ルナマリアの厳しい問いに意外な思いを抱きながらも、キラは冷静に答えた。 「・・・オメガドラゴン・・・君達も名前くらいは聞いたことがあるはず。今のは尻尾だね。」 そう言うと、シンとルナマリアはただ驚愕しただけだったが、レイは冷静に返した。 「魔獣最強の種族、か。なぜわかった?」 オメガドラゴンを見たモノは生きて帰れないという程の強さなのだ。なのにキラは尻尾を見ただけでその種族がわかった上に、しっかりと防御までしたのだ。不思議に思ってもしかたないだろう。 キラはそれに苦笑しながらも、彼が自分を不信には思っていないことを密かに確認し、答えた。 「色々なところを旅して来たからね。なぜ、攻撃に気付いたかっていうなら、それこそ勘だよ、勘。」 と、微笑みながら言った。 だが、本当は違う。 あの、超音波のような呼吸音。あれはオメガドラゴン特有なモノだ。あの種族は非常に凶暴で、獲物を見つけると興奮してまた音を変える。その音が聞こえたからこそすぐさま防御に移ったし、種族もわかった。 それだけなのだ。レイもとりあえずはそれで納得してくれたらしい。頷いて、他の二人を促そうとした。 だがそれはキラによって止められる。 (あとがき) いやはや。長すぎたのでここでいったん切らせていただきます。続きは「15・宝物」っス。 |
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