※この話は異世界パラレルです!苦手な方は注意!!※


設定として、@この世界では魔法や魔族が存在する。Aキラとシンとレイとルナマリアは共に旅をしている、と言う事を先に頭に入れておいてください。


















「愛しきMy lord(私のご主人様)・・・。私は、貴方の代わりをこなす事が出来るのでしょうか・・・。」

 広い広い静かな空間に、闇色の髪をもつ美しい青年の声が響いた。

その青年の指には輝く紫水晶の指輪が。

青年はとてつもない力の波動を発する指輪に、恭しく口付けた。


しかしその神聖ともいえる空間は、次の瞬間、何者かによって乱暴に破られてしまった。



閉じ込める





「おんやぁ・・?」

奇怪な疑問の声を上げた少年に、赤目の少年は振り返った。

「なんだよ、キラ。変な声を上げて。」

するとキラと呼ばれた少年は、あらぬ所にあった視線を赤目の少年に戻し、困ったように笑いながら言った。

「ほら、あそこ」
と、路地裏を指差しながら。

赤目の少年―――シンがその指の指す方向を見てみると、そこには、自分達と同じ位の少年が、血にまみれた状態でぐったりとうずくまっていた。

シンは嫌な予感がして、キラの方に視線を戻すと、彼はまた困ったように笑いながら、その少年の方へゆっくりと歩いて行った。

キラは少年の目の前に膝をつくと、血で色が判断できなくなってしまった猫毛の髪を梳き、片方の手でその頬をなでた。

 そして、その行為を続けながら、一言だけ、ぼそりと口にする。

「浄化せよ。」

と。するとその途端、血にまみれた少年の体が温かな光に包まれ、一呼吸後には、血などどこにも着いていない綺麗ななりで、少年が仰向けに寝かされていた。

水の浄化魔法を使ったようだ。しかし少年の衣服はどこも濡れていないのを見ると、同時に火系の魔法もつかったらしい。

シンはそれをいつもながら素晴らしい手腕だな、と思いながら見ていた。

普通、魔法と言うものは、長々しい呪文を唱え、陣を書いて初めて発動するものらしい。
 だが、シンはキラが陣を書いたり魔法の詠唱をしたところを一度も見た事がなかった。

ここ半年ほどほとんど四六時中一緒に行動し、魔物の討伐を何度も共にしているにも関わらず、だ。
 何も、魔法を滅多に使おうとしないというわけではない。むしろ、キラは剣術よりも魔法を好んで使う。その光景を何度も見た事は、ある。

しかし、キラは詠唱をしないのだ。
ただ、短い命令文のようなものを言うだけでいい。

 それは異常なことなのだ、とキラと同じく魔法使いに分類されるルナマリアは言っていた。
同時に、きっと彼は将来高名な魔法使いになるはずだ、とも言っていた。


そんなことを思い出しながらも、シンは倒れていた少年を観察した。

少年の顔の造作は整っている。先程まで見えなかった髪の色は、若草色。
決して人間には現われない色彩である。

「魔族。」

シンがうんざりした口調で呟くと、キラが彼に背を向けて苦笑した気配がした。

 それから、妙なことに気付いた。

路地裏に魔族が血まみれで倒れているなんて事、こう言ってはなんだが、大して珍しくなどない。
 この世の中では魔族は常に迫害される運命にある。

珍しい色彩をその身にまとう者もまた。

キラは、そういった者達を拾ってきては治療し、人の世で生きるすべ―――髪や目の色を魔法で変えるなど―――を施して帰す。

 旅を続ける間に、そのような事は日常茶飯事になっていた。

それで、シンの声は自然とうんざりしたものになってしまったわけだが、そんな事よりも気になることがあった。

少年の体には、どこにも目立つ外傷が無いのだ。
髪の色がわからなくなるほど血にまみれていたにも関わらず、だ。

 それに、キラは始めから気付いていたらしい。
彼は、治療の魔法ではなく、浄化の魔法をまず始めに使ったのだから。

シンは少年に疑問を持ったが、すぐに誰かにかばわれたかしたのだ、と結論を出した。


 シンが色々と思考をめぐらしている間、キラも色々と考えながら、少年の髪を梳いていた。

この少年は知っている。何度も見た事があり、幾度か話したこともある。
忠実で、勤勉で、穏やかな性格の少年を、キラは気に入っていた。

それが、なぜここに?

キラはわからない程度に眉を顰め、少年に起こった事を何パターンか予想してみる。


 しばらく経つと、少年は穏やかな刺激に目を覚ました。

そして頭上にあるキラの顔を見て、驚いたように目を瞠り、唇が小さく「マイロード」と言うように動いた。

 それは、キラの背中に隠されてシンには見えなかったが、キラは静かに少年の唇に人差し指をあて、優しく微笑んだ。

キラは静かに、少年に訊いた。

「君はなぜ、こんなところにいたの?」

少年はそれにしどろもどろになりながらも答える。

「あ・・・僕の仕えている人が、捕らえられ・・・!やっとの思いで、こっちに・・・!!」

少年の顔が苦痛に歪んだ。

「ディアッカと、イザークが・・・」

ディアッカもイザークも、少年と同じ立場にあるものだ。
少年の口ぶりから、キラは彼らも捕らえられ、自分に主人を助けてもらうために命かながら脱走してきたことを悟った。

 シンは少年が言った意味がよく理解できなかったが、キラにはわかったようで、静かに「そう」と言うと立ち上がった。

そしてシンに向き直って言う。

「ゴメン、シン。僕そろそろ行くよ。君はレイと・・・」

そこまで言うと、シンの背後から声がかかった。

「俺が、何か?」

と。

 運悪く宿を取りに行っていたレイとルナマリアが帰ってきてきてしまったらしい。

 彼らは突然のキラの言葉に戸惑っているようだ。

シンはキラの言葉に首をかしげながら、問うた。

「どこに行くって?」

と。

なんてタイミングの悪い。
キラはそう思いながら眉をしかめて額に手を置くと、数秒後にぼそりと「げ」と言った。

シンたちがその様子に軽く違和感を感じていると、キラが唐突に言った。


「ニコル、見つかった。」

と。


わけがわからなかったが、ニコルと呼ばれた少年は、ゆっくりと立ち上がり「申し訳ありません」と言った。

すると次の瞬間、頭上からばさりと比翼の羽ばたく音がした。
 シンたちが上を向くと、上には信じられない光景が広がっていた。

「ま・・・ぞ、く?」

路地裏から見える狭い空は、武装した魔族の大群で埋まっていた。

シンたちがそれを信じられないような目で見ていると、一番近くに飛んでいた魔族が、「ニコル・アマルフィだな?」と、若草色の髪をもつ少年に向けて言った。

 ニコルはそれに気丈に頷き、

「いかにも。僕が魔界補佐官、アスラン・ザラが使い魔、ニコル・アマルフィです。」

 そう、言った。

それに事情を知らない少年達三人は、顔を引きつらせた。
少年は今確かに、「魔界補佐官」と言った。一般常識で、それは魔界の中の二番、または三番目の実力者で、魔王の補佐をする任にあたっている。
 なぜそんな人物の名前がこの場に出てくるのだ、と彼らの顔は問うていたが、キラはそれをただ面白そうに見ているだけだった。

彼らのそんな行動は予想していた。いつかこんな日が来るだろう、とは思ってはいたが、せっかく楽しんでいた所だったのに、唐突にそれを止めさせられた事が、面白くなかった。

そしてそんなキラの様子は気にも止めずに、未だに頭上にいる魔族兵は、威圧高に告げた。

「魔王陛下代理より命令が下っておる。命までは奪わん。おとなしく縄につけ。」

そう言うと、今度はキラが反応した。


今、魔王代理の任についているのはアスラン・ザラのはず。だがニコルはアスランは捕らえられている、と言った。

 どうやら自分のいない間に、かなり面白くないことが起こっていたようだ。

キラは一つため息をつくと、シン達の前では決して出そうとはしなかった顔で、言った。

「んじゃ、その魔王陛下からの命令。今すぐその魔王陛下代理人とやらをひっとらえて来い。」

と。

その言葉を聞いて魔族兵は驚き、魔王陛下を語る不届き者に怒りを表に出したが、キラの顔を見て表情を変えた。

 キラの瞳は紫色に妖しく光り、唇は綺麗な弧を描いていた。

次の瞬間、キラは抑えていた自らのオーラを開放した。


 シンたちが顔を恐怖に彩ったのに気付いたが、キラはもうそんな事を気にはしなかった。

どうせ、彼らの縁もここで切れるのだから。
そう、少し投げやりに思って。

それから視線で魔族兵達を動けないようにして、キラは先程の魔族兵よりも威圧高に自らの正体を告げた。

「我はそなたらが主、魔界を統べし者。さぁ、我の命を聞け。代理人からその地位を簒奪せし者を、今すぐ引きずり下ろせ。」

 そう言うと、兵士達を呪縛から解き、魔界へ強制的に道を開き、彼らを送り返した。

 魔族たちが突如現われたブラックホールに飲み込まれる様を呆然と見ていたシンは、キラを指差して恐る恐る訊いた。

「魔族を積極的に助けていたのも、その驚異的な魔法力を持っているのも、全部、魔王、だから・・・?」

と。キラは先程までの凄みのある笑みを消し去り、彼らのしる「キラ」の穏やかな顔で答えた。

「うん。魔法を実行するエレメント達は、僕の部下たちだから。命令さえすれば済むんだ。」

そう言って、ニコルと共に翼なしで浮遊した。

それから、シンたちに向けて言う。
「君達と過ごした時間、結構楽しかったよ。じゃ、またね。」

そう言ってニコルともども消えてしまった。

残ったのは、なぜか顔を赤らめる人間の少年少女たちだけだった。



所変わって、魔界。キラはニコルの案内でアスランの幽閉されている館に来ていた。

館にはたいそう頑丈な結界がはってあったが、それを解くのは魔界の最高実力者たるキラには朝飯前なことだった。

 キラは結界を一瞬で破り、アスランの元へと移動した。

「やぁ、馬鹿アスラン。」

アスランの閉じ込められていた部屋に入って開口一番がこれである。

アスランはため息をついたが、すぐにふてくされたようにそっぽを向いて「すまない」と謝罪した。

キラは、アスランが意外に代理人の立場を奪われてしまったことに落ち込んで、気に病んでいるらしいことに気付いた。
 かたわらにいるアスランの母上も同じような顔をしていたので、何故アスランほどの実力者が他人に屈服せざるおえなくなったのか、ようやく悟った。

キラはそれに困ったように笑うと、アスランに向けて言った。

「もう、代理人の証でもある僕の魔力のこもった指輪はその効力を失ってるよ。僕何もしないから。自分であの地位を取り戻してきなよ?」

と。それと同時に目の前にお茶道具一式があらわれた。キラが空間移動させたのだ。
 それをレノアの目の前のテーブルに乗せると、彼女に「レノアさん、お茶にしましょう」と誘い、隣に腰掛けた。

キラがお茶を入れようとまた腰を上げたのと、レノアの「私がやりますわ、陛下」と言う声が聞こえたのと、アスランが空間移動をしたのはほぼ同時だった。







「魔界は人間界の軍よりも戒律はゆるいが、縦社会の現象は強固だ。
力あるものに惹かれ、自らよりも力あるものを畏怖し、慕い、逆らう事を本能が拒絶する。」

 静かな冷たい空気の流れる地下牢に、硬質な靴の音が響いた。

カツ、カツ、カツ、とことさらゆっくりと、地下牢の最深部に向かいながら、キラは言葉をつむいでいた。
 目的地にいる人物がしっかりと聞いているのがわかっていたから、キラは相槌をまたずに更に言葉を重ねた。

「なのに貴方は僕の次に力のあるアスランに謀反した。貴方はラクスについで4番目の実力者なのに。」

 そして地下牢の最深部、何重にも見えない結界の張られた、ことさら厳めしいつくりの牢の前で、キラは足を止めた。

「やはり元は人間である貴方には、魔界の常識も当てはまらなかったのかな? せっかく魔族になって、異例の出世をしたと言うのに、まだ飽き足らなかったか。さすが元人間、貪欲なことだね。」

そう言って冷笑を浮かべ、牢の中に座っている者を嘲りの表情で見下ろす。

「そのままの地位に甘んじていれば貴方の望む永遠の命とやらを逸することができたろうに。なぜ貴方は代理人の地位を狙った?
答えよ、ラウ・ル・クルーゼ。」

だがクルーゼと呼ばれた男は、何も言わない。ただただキラを熱のこもった、狂気ともいえる光をたたえた目で見るだけだ。キラはそれを冷たく見やり、彼の目的を粗方悟ると、もう用はない、とばかりにきびすを返した。

「失望したよ、クルーゼ。
貴方は僕のお気に入りのアスランを害した。殺さなかったのはえらいけど、誉められるものじゃないね。僕は生涯ずっと彼らしかそばに置かないつもりだ。
あんなことしても、僕が君をそばに置くなんてこと、ありえないんだよ。」

クルーゼの方を見ずにそう言うと、キラは歩き出し、心の中で「愚かだ」と言った。

クルーゼは中途半端に魔族のさがを受け継いでいたらしい。
彼は力のあるものに惹かれ、そのそばにありたいと思った。その方法に、そのお気に入りであるアスランを出し抜き、自分に目を向けさせようとしたのだ。
 しかし、アスランは母を人質にされ、幽閉されたにも関わらず、代理人として力を使っていたクルーゼの前に現われた。

その時、彼は自らの計画が失敗に終わったと悟ったのだ。己の全身全霊をかけて張った結界を、誰にも気付かせずに解く事ができる者など、一人しかいない事がわかっていたから。

 それに絶望し、彼が捕らえられることに抵抗しなかったのが唯一の救いだったな、と思った。

捕らえるものも捕らえられるものも、どちらも最高位に位置する力を持つものだ。彼らが力を衝突させれば、城どころか魔界全体に強大な被害を与えることとなる。

 それが無くてよかった、とキラは無表情の下で思いながら、地下牢を後にした。






 あれから数日が過ぎた。いきなり第四位たる実力者が処刑されたことにほとんどの者が疑問に思ったが、魔王陛下が自ら手を下したと聞くと、きっとなにか不興を買ったのだ、と思って誰もが納得してしまった。

 今回の事件は公開されなかったおかげで、魔界にはいつも通りの空気が流れていた。


そして、魔王城王執務室では、魔王と第一補佐官との会話が繰り広げられていた。

「あ〜ぁ。楽しかったのになぁ。人間との交流」

キラがお茶を飲みながらそう呟くと、アスランは額にしわを寄せて怒鳴った。

「もう駄目だぞ。なにが「人間界の魔族の様子を見てくるね〜」っだ!!結局人間の子供と魔獣退治を楽しんでいただけだろう!!!」

それを聞くと今度はキラが怒鳴った。
「失礼な!そっちもやってきたさ!彼らは人間界に思い入れがあるみたいだからあちらで過ごしやすいように姿を変えてやったり、怪我の治療したり!!人間界のことも知れたし、人間のために働いたし、一石四鳥だぞ!!
のうのうと捕まっていたアスランに言われたくない!!」

「なっ・・・!こっちだって捕まっていたくて捕まっていたわけではない!!しかも、なんだ一石四鳥って!!熟語は正しく使え!!どんなに複数になろうが鳥は二羽しかいないんだ!!!」

「そうゆう問題じゃないでしょ!!??大体、魔王陛下に向かってその言葉使いは何?一気に魔力奪ってほしいの?」

「実行しないくせに何を言ってる!そもそも、幼少の時に「敬語なんて使わないで〜」って泣きついてきたのはどこの誰だ!!」

「それとこれとは話が別!!」


と、さらに怒鳴りあいの痴話喧嘩がヒートアップしそうになった瞬間、部屋の入り口から鈴の転がるような声が響いた。

「あら、楽しそうですわね。私も仲間にいれてくださいますか?あぁ、陛下、気にしないでください。私の執務はすでに終わっておりますわ。隣がうるさかったのでなかなか集中できませんでしたけれど。」


その丁寧な言葉の端々に刺が含まれていたように感じたのは気のせいではないだろう。
 しかも、いつも以上にそのピンクの髪の後ろからはどす黒いオーラがにじみ出ている。

第二補佐官たる魔界の歌姫の登場により、部屋には痛いほどの静寂が戻り、数秒後にはペンを必死に動かすカリカリと言う音が虚しく響いた。



・・・・・・今日も魔界は、歌姫の活躍により、平和である。






(あとがき)
閉じ込められたのはアスランで、閉じ込めたのはクルーゼ。
閉じ込められたのはクルーゼで、閉じ込めたのはキラ。

・・・カップリングつけるのにちょっと困ったぞ。

 言うなればアスキラ?だと思うんですが。
どっちみちカプ要素めちゃめちゃ薄いからカプつけにくいんですけどね。
私の中ではアスキラで。

・・・・・・それからへたれよ、普通、王子が姫を助けるモノなのではないのか?
なぜお前は姫に助けられとるんだ・・・!?




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