国主としてのマリューと、紫鬼としてのキラの用件が全て終わると、キラはムウに連れ出された。


 キラは言われるがままに長い廊下を歩み、斜め前で自分を率先する男にちらりと視線を送る。

不思議と、すでに彼に対する怒りや嫉妬は胸のうちから消えている。

もとより彼のことが嫌いではなかったので、キラはそんな自分に安堵した。



女神の国3





「・・・・・・・ムウさん、何故貴方のような人が、ブルーコスモスなんてやってたんですか?」


“ネオ”という人物がプロヴィデンスの王弟であり、アークの女王の伴侶と同一人物であることを考えれば、誰もがそう疑問に思うことだろう。

何故ならば彼はジブリールに住んでいる訳でもなく、重い重税から逃れるために忍になる必要もないのだから。

しかも王族なのだ。何故そんな人物が態々苦しい修行を経てまで他国の忍なんぞになるのか。


そう問うと、ムウは立ち止まってキラを見、頭をぽりぽりと掻いて何かを考えている様子。

 キラも同時に立ち止まり、その様子に器用に片眉を上げて見せた。ムウが誤魔化そうとしていることを直感で悟ってしまったのだ。

だから、彼が口を開く前に更に言い募る。


「・・・誤魔化しは結構ですよ? 貴方があの噂通りの・・・・ムウ・ラ・フラガ王弟殿下だったとしたら、だいたい予想がつきますし。」

「噂通りって・・・・・・・・・・・・どう言う意味だ?」


キラの何かを含む口調に引っ掛かりを感じ、ムウは自分の思考を中断して尋ねてみた。

すると彼はふ、と鼻で笑い、可愛らしい唇を皮肉げに歪ませて、歌うように言ったのだった。


「プロヴィデンスの放蕩息子、政治をサボって武道に精を出す。幼い頃より武と鍛冶に魅入られた彼は、早々に王家を飛び出して諸国を漫遊。それからは自らの肉体と鍛冶の腕を磨くことを生きがいとする。しかし詳細は不明だが数年前、アーク王国の次期女王と出会い、そのまま恋に落ちた。結婚と同時に当時王女であったマリュー・ラミアスも即位。並びにムウ・ラ・フラガ改めムウ・ラ・ラミアスとして王としての地位を得る。・・・・・・・こんな物でしたっけ?」


涼しい顔で言われたその話に、ムウは思わず言葉を失い、キラを凝視する。

そして更に続けられた言葉を聞き、彼は顔が引きつるのを抑えることが出来なかった。


「その噂が本当なら、貴方が王家の一員でありながら13・4の忍を幼いと言ったことも納得がいきます。・・・・政治、本当にかなり小さい頃からサボってたんですね?」


十も歳の離れた子供に叱られているような感覚を覚えるのは、何故なのか。

ただ単にキラは事実を確認しているだけにすぎないのに、なぜこんなにも居心地の悪い威圧感を感じなければいけないのか。

 ムウはそんな事を考えながら引きつった顔に冷や汗を流し、誤魔化すように笑った。

それを見て、キラは半眼になって更に言い募る。


「ったくどいつもこいつも・・・・・・・・・。その噂を聞いて此方がどれだけ苦労したと思ってるんですか・・・・・・・・?」


キラの顔もムウとは別の意味で引きつっている。・・・・唇を片方だけ上げて微笑む彼は、何故かとても恐ろしい。


「どうせ力試しとか何とか、もしかしたらジブリールの武器を見に行ったとか、そんなくっだらない理由で行ったんでしょう?」


断定口調で言われた疑問に、ムウは更に冷や汗の量が増し、顔の筋肉がピクピクと動き出した。


「そして、入ったら入ったで今度は監視が厳しくて抜け出せなくなり、ずるずるとそのままブルーコスモスにいた、と。・・・今思い出せば、ムウさんって僕と大して忍になった時期変わりませんでしたよね。」


ちらり、と横目で見られ、ムウの体は硬直した。・・・・キラが言ったこと全てが図星であり、彼の視線が刺すように冷たかったせいだ。

しかしキラはそんなムウの様子に特に心動かされた風もなく、もう一度鼻で笑って言うのである。


バッカじゃないですか、あんた


と。もはや仕えるべき王族に対するモノだとは思えないその口調と態度。

しかしムウにとってはすべて自業自得なので、何も言えないのである。


俯いて肩を落とし、「どよ〜ん」とでもバックミュージック(?)が流れている男の姿は大変憐れだが、キラはそんなもの気にせず当時のことを思い出していた。







『キラ!! 聞いたか、噂!!』

『はいはい、聞きましたよ。ムウ・ラ・フラガ殿下の話でしょ?』

『そう、俺も・・・』

『却下。』

『・・・まだ何も言ってないぞ!!』

『はいはい。』

『武道を極めるために身分を捨て、諸国を旅する!! きっとあちこちの国に入って力試しをするんだ。そしてその国の最強になったら他の国に。大陸全ての国で最強になったら、漸く自国に戻って国のために戦う!! カッコいいとは思わないか!!?』

『はいはい、かっこいいかっこいい。』

『キラ! 俺は真剣に・・・・』

『真剣に、政治の勉強サボって城を出て命の危険を顧みず戦うって? どうせしないでしょ、君は。』

『そ、それは・・・・・・・・・・』

『何だかんだ言って君、正義感強いし。国を捨てること、出来ないでしょ?』

『ぐっ・・・・・』

『ましてやプロヴィデンスと違って、この国の後継ぎは君しかいないんだし。』

『・・・・・・・・・だからって、夢くらい持たせてくれても・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・お言葉ですが、“若殿”? ・・・・今はお勉強の時間では?』

『(ギクッ)・・・・・・た、たまには・・・・・・』

『たまには、だって・・・・・・? 君昨日も一昨日もその前も、この話をするためだけに勉強投げ出して僕のところ来たって自覚、ある?』

『怖いぞキラ!! 普段大人しい奴がキレると怖いってこれか!?』

『・・・・・・・・・・僕に聞くなよ・・・・』




あの時ばかりは、普段よりもアスランが子供っぽくてすごく記憶に残っていた。

親友と何気なく笑いあっていた幼い時期を思い出し、キラの顔が自然と緩む。


 初めて見るその柔らかい微笑。ムウは思わず口をポカンと開け、キラを凝視していた。


だから、その後彼の唇がどう動いたのか、はっきりとわかったのだった。


『・・・・・アスラン、ラクス・・・・・・・・・・・・・・・・フレイ・・・』


彼が何を思い出していたのかは分からない。だがムウは最後に呼ばれた名にはっと息を呑み、思わず口を開いていた。


「・・・・・・・・・・・お前、お嬢ちゃんが死んだこと、知ってるんだな・・・・?」


“お嬢ちゃん”・・・下手すればこの世の女性全てを指す言葉ではあるが、キラにはそれが誰のことを指すのか分かっているはずだ。

 そしてその事実は、先ほどの彼の態度と言葉を思えば、簡単にたどり着く結論で。

そうでなければ、あんなにもムウとマリューに対して憎々しげな態度を取るわけがないのだから。

 キラはその言葉にはっと我に返り、ゆっくりとムウに視線をやった。

その瞳は先ほど見たときと同じように、酷く空虚で、呑み込まれてしまいそうなほど、恐ろしい。


知らずムウの眉間に皺が寄ったが、キラは大して気にせず静かな口調で言ったのだった。


「知ってます。・・・・・・川から引き上げられた彼女、心臓を一突きにされてましたから。」




思わず、呼吸が止まった。





(あとがき)
暗いんだかギャグなんだか。

ムウさんも最近やられキャラと化してます。ただポチとちがうのは、ムウさんはやられるだけに終わらない、大人の視野を持っている、と言うことでしょうかね。(ぇ

今日中にもう一本上げられないかな〜。  



     
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