こちらロイ・マスタング23歳。

ただ今不快指数急上昇中。

何故かって? 理由は簡単かつ至って明快なことだ。

 鋼の錬金術師がいると言う村長の家に着き、少年が徐にドアを開いた途端に自分を迎えたのが、


ぎゃははははははははははははははははははははははは(以下エンドレス)」


という馬鹿笑いの声なのだ。


これで困惑と不快を感じずに微笑んでいられる聖人君子など、すでにこの世から絶滅しているに違いない。

 しかもこの馬鹿笑いを発している人物の指は、無礼にもまっすぐ自分を指しているのだ。

むしろお前を刺してやろうか? などと物騒なことまで考えてしまっても、仕方がないことだっただろう。



再会3





「ひー、ひー、ひー・・・・・・くっ、くくくくくくくくくくく・・・・・・」


いつまでも笑い転げている金髪の青年に、ロイは不機嫌を隠すことなく質問した。


「私になにか?」


自分を指差し、ちらちらと視線を送っては爆笑の繰り返し。

いい加減焦れてそう言えば、青年は未だ笑いの余韻で頬をピクピクさせたまま、とりあえず答えたのだった。


「いや、だってあんた・・・・・・・・・・・・わ、若い・・・・・・・・・!!」

「はぁ!?」


若い? それはそうだろう。何故ならばロイはまだ23歳なのだから。

ちなみに、彼は軍内でもかなりの若手に入る方である。

だがしかし、何故若さがあの爆笑に繋がるのか。

怪訝そうに眉を顰めているロイを見て、青年は尚も完全に笑いを納めたりはせず、途切れ途切れに続けて言う。


「お、俺が初めて会ったのは11歳の時だっけ? で、ロイが25か? ・・・・・あ、あんた今幾つ?」


なにやらおかしなことを言っていたが、だが何故か彼を邪険に対応することも出来ずに、ロイは憮然としつつもちゃんと答えたのだ。


「23だ。」

「23・・・・・・そうか、こんなに年齢が近いからそう感じるのか・・・・?」

「はぁ?」


二度目の「はぁ?」という軍人らしくない言葉を吐いて、ロイは漸く我に返って言った。


「失礼だか貴方は・・・・」

「で、でも23でも29でも40でも、あんた童顔なことには変わりないんだな。」


が、ロイが言おうとした言葉は途中で遮られてしまった。

しかも青年は相変わらず笑い転げ、ロイは思わず固まってしまう。


「ど、う、が・・・・ん・・・・・?」


さりげな〜く笑いながら言われたその言葉は、ロイの最も嫌いな言葉であり、コンプレックスでもある言葉。

思わず引きつった笑いを浮かべてしまったが、金髪の青年がそんなことを気にするでもなく。

 むしろ余計に面白そうに目を細め、徐にロイに近づくと彼の肩に手を置き、少々強引な仕草で体を180度回転させて後ろを向かせたのだ。


「お前、何を・・・!?」

「いいからいいから。」


首を捻って不可解な行動ばかり繰り返す青年を見ようとすると、ロイは予想以上に近くにあったその秀麗な顔に驚き、思わずそれ以上の言葉を飲み込んでしまった。

 なんだか気まずくなって体の向きに沿って視線を前方に移すと、そこには当然、自分の後ろをついていたはずの部下二人が立っている。

しかも彼らは―――ホークアイ少尉まで―――呆然と目を見開き、呆然とロイと青年を交互に見ているではないか。

 そしてそれから、青年は固まってしまったロイの隣に立ち、ニヤニヤ笑って言ったのだ。


「ホークアイ少尉、俺とこいつ、どっちが年上に見える?」


その言葉に、ロイは思わず恐る恐る、とでも言いたげにホークアイに視線を移す。

すると彼女は数秒考え込んだ後、徐に口を開いたのだ。


「僭越ながら、貴方の方が・・・・・・。」


そう言って彼女が視線を送るのは、悲しいかな金髪の青年の方。


青年はその言葉に目に涙を溜め、「まさかこんな日が来るとは思わなかった・・・・・・・!」とか片手を何かの勝者の如く上げながら、しかも至極嬉しそうに言ったのだ。


ロイはそれを見て思わず悔し涙を流しそうになりながら、ちらりとハボックに視線を送る。

すると彼は一瞬ギクリと肩を揺らした後、さり気なくロイから視線を逸らしたのだった。

しかし、それが意図することは一つなのである。


「・・・・・・・・・ハボック・・・・・・・」

お前も少尉と同じ意見とか言わないよな・・・・・・・?


そう言外に聞いてみたが、ハボックは脂汗を滲ませながらも、決してロイと視線を合わせようとはしないのだ。

・・・・・・・・それを肯定と取るや否や、今度は沸々と怒りが湧いてさえ来た。

 思わず「お前(ハボック限定)は減給だ!!」と叫びそうになったところで、しかし実際にそれが口に出される前に、不意にロイの下の方から声が発せられたのだ。


「エド〜。こいつらにまず自己紹介するのが筋ってもんだろ?」


呆れたように言うのは、すっかり存在を忘れていた村長の息子らしき少年。

だが彼が未だそこにいたということに驚くより先に、彼が呼んだ青年の名の方が気になった。


「お、お前が・・・・・・!?」


するとエドは、ロイが何を言いたいのかすでに悟っているかのようににやりと笑い、それから少年に視線を移して言ったのだ。


「お前こそ自己紹介まだだろうが。まったく、俺のことぺらぺらしゃべりすぎ。」

「へへへ。」


青年が半眼で笑いながらこつん、と軽く少年の額を突き、少年はそれを受けて笑う。


それは、本当に自然に行われているコミュニケーション。だが、今青年は明らかに不自然なことを言ったことに、少年は気付いているのだろうか。


ロイは少々畏怖の念を抱きながら、口元を笑いにゆがめて口をはさむ。


「まるで、私たちがここまで来る際にした会話を、聞いていたかのような口ぶりだな。」


すると少年は何を今更、と言いたげにロイを見た後、青年に視線を戻して無言でロイを指差した。

青年はそんな少年の頭をくしゃりと撫で、先ほどとは打って変わったように静かな微笑を浮かべると、呟くように言ったのだった。


「聞かなくても知っている。それが“俺”だ。」


それからロイ、ホークアイ、ハボックと順に見据え、静かな口調で続ける。


「俺は電話も手紙も受け取っていないと、こいつが言っていただろ? なのに何であんた達の名前がわかったと思う?」


ロイは何も言わない。無論彼が口を開かないから、後ろの二人が口を開くことはない。

畏怖なのか恐怖なのか・・・・良く分からないが、ロイたちの額に汗が滲む。

青年はそれにちょっとだけ悲しそうに笑い、しかしそれにロイ達が目を瞠る前に、更に続けて言うのである。


「・・・・・・・まぁ、いいさ。そんなこと。それよりも自己紹介だろ?」


またもニヤリと笑って彼が続けた言葉は、ロイたちにとって予想の範囲内のことだったが、とてもじゃないが信じられるモノではなかった。



「エドワード・エルリック。“鋼の錬金術師”・・・・“金の賢者”。あんたらは知らないかもしれないが、“アメストリスの双璧”なんてだっさい名前で呼ばれていた時期もあるんだぜ?」



 未だ開け放たれたままのドアから差し込む光に反射して、きらりと光った青年の金色の長い髪と瞳が、・・・・・・・何故かやけに印象に残った。






(あとがき)
いやぁ、鋼更新するの何ヶ月ぶりでしょうかね〜。



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