車に乗り込んでから数分後、隣に座るロイがちらちらと自分に視線を送っていたことに気付き、エドは苦笑した。 それからにやりと笑ってロイを見、言ったのである。 「何だよ、何か言いたそうだな?」 すると彼は数秒口を閉ざして視線を何処ぞに彷徨わせた後、呟くように問うたのだった。 「・・・・・・・やはり、辛いのか。」 目的語の無いその言葉に、エドは訝しげに眉を寄せたあと、「あぁ」と一人納得して答えた。 「何、あんた俺が本物だって信じてるのか?」 ロイの言葉の意味を正しく読み取ったエドは、意地悪そうに笑ってそう言う。 「・・・・・会って突然馬鹿笑いされては、疑う気も失せるさ。」 面白くなさそうにそう返したロイに苦笑して、エドはどう答えようか逡巡した。 ところで、ロイが唐突に言ったあの言葉の意味は何だったのか。 それは、 『不老不死とは、やはり辛いものなのか?』 という疑問なのであった。 先ほどカイルに向けて言った言葉が頭から離れないのだろう。エドにだって、自分があの言葉をどれほど切実な響きを持って放ってしまったのか、よく理解していたのだから。 しかしそれを当人に行き成り聞くのか。自分が“金の賢者”本人だと信じてくれたのは良いが、何だか複雑・・・・・。 と内心で「若さってヤツか?」とジジ臭い発言をしつつ嘆息し、エドは呟くように答えたのだった。 「あれは・・・・あいつは、特別だから。・・・・・・・あいつはさ、誰よりも・・・死ぬのが早かったんだ。」 その言葉に、車内で彼の言葉を聞いていた者達が、思わず息を呑んでしまった音が響いた。 再会5「あんた、前世ってヤツ信じてるか? あるんだぜ、ホントに。」 防弾ガラス越しの風景を見ながら、エドは言葉の内容に頭が付いて来ていない様子のロイを気にせず、続ける。 「あいつ、俺の義理の息子でさ。一番若かったのに、一番最初に死んじまった。・・・・・病気だったんだ。」 ――――あの日のことは、よく覚えている。 すでに割り切っていた事だし、今カイル二世は生き、さっきまで一緒にいれたから、特に感慨は無い。 しかしせわしなく変わる風景を見る振りをしつつ、エドはその時のことを思い出していた。 怪我を治すことは容易なことであった。 だが、血肉に溶ける病原体を殺すことは、いくらエドでも難しい事だったのだ。 出来ないことはないだろう。しかし、病原体を殺そうとすれば、必ずカイルも死ぬ。それが分かっていたから、エドは何も出来なかった。 そして、病気は確実に進行していき、結局発病から数年でカイルはこの世を去ってしまった。 まだ幼い自分の子供に見送られ、彼が何を思って去っていったのかは分からない。 だが最期に呟かれた言葉は、すでに彼の元から姿を消していたエドの元にも届いていた。 『・・・・・・・エド・・・、ゴメン・・・・・・』 「謝ってなんて欲しかねぇよ・・・・」 彼は何故自分に対して謝ったのか。そんなこと、だいたい予想がついていた。 「謝るくらいなら、逝くなよ・・・・・・」 予想より早く訪れた自分の死に、親しい者の死を最も恐れていたエドが受けるショックを想定していたのだろう。 数年ぶりに間近で見たカイルは、まだ青年とも言える顔を病気のせいで青白くし、頬も痩けていた。 薬のせいなのか知らないが、その顔に苦悶の表情が見えないのが救いだろうか。 その冷たい顔を優しく撫でた後、数十年間かけられ続けたネックレスをゆっくりと外し、エドはそれをしっかり握って彼の前から姿を消した。 真理の空間を介して行き着いた先は、もはや定番となった、普通の人間が上ることはできないはずの、大総統府の屋上。 目を開けるとそこに先客が居たことに僅かに驚きながら、エドは目の前に立つ男に向けて言った。 「・・・カイルに会ってきた。」 「そうか。・・・何年ぶりだ?」 「・・・・・・・さぁ? 精々5・6年だろ・・・・・?」 彼はすでに、中年の域を過ぎようとしている年齢だった。 白髪の混ざり始めた彼を見て、不意にエドは泣き出しそうになった。 だがそれを抑え、またそんな自分を隠すように口を開く。 「成長してたな・・・・・あいつ、今年で30歳だったっけ・・・?」 「あぁ。」 「・・・・・・・・・早いな・・・・・。」 本当に、早い。 泣きそうになるのを隠す為に話題を振ったのに、今更墓穴を掘っていたことに気付いた。 それから、“世界”を通して見る、自分の姿と、ロイの姿、それからカイルの姿を思い浮かべ、エドは無意識にぎゅっと自分の血で出来たカイルの石を握る。 「・・・・・・おれ、は・・・・・・・・」 「・・・・・・・・エド・・・・・・・・・・・。」 不意に近づいた気配とその腕を、しかしエドは避けることなく受け入れた。 自分を力強く抱きしめるその腕は、昔と変わらないのに全然違う。 その違和感に、エドはついに耐え切れなくなり、目から雫を零して言っていた。 「あんたは老いて、カイルは成長していた。・・・・でも、俺は・・・・・!」 ある日を境に止まった成長。数年前から覚悟を決めていたくせに、それから更に数十年と立てばそれもまた揺らぐ。 「俺は、変わらない・・・・・・。」 まだまだ成長するはずの、何度も心拍を止めたくせに未だ動くこの体。 それが無性に悲しくて、エドはボロボロと涙を零す。 不意に頭に浮かんだ、カイルの青白い顔。 彼はもう、動かない。遠目で見ることも、“世界”を通じて見ることも適わなくなる。 しかも彼の子供はまだ幼いと言える年齢で。まだまだこれからだって言うのに、 ――――――彼は死んだのだ。 歳のせいでピナコが死んだ時。彼女は天寿をまっとうしたからまだショックは小さかった。 でも、カイルはまだ若かったのに。・・・・まだ、猶予はあると思っていたのに。 近しい者の中で一番最後まで生きてくれると思っていたのに。 思考がぐちゃぐちゃになって、エドは涙を止めどなく零しながら、自分を抱きしめる彼の胸をドン、と叩いて言ったのだ。 「どうせ、あんたも俺を置いていくんだ・・・・・。カイルと同じように、いつかは絶対!」 エドの言葉を受け止め、彼は更に腕に力を込める。 それにやけに安心して、エドは子供のように泣きつづけた。 しばらくして不意に上からかけられた言葉に、エドは目を見開いてから、気恥ずかしさで男の腹を殴ったのだった。 「・・・・・・そうだな、私もいつかは必ず死ぬ。」 「だが私は絶対に―――――――・・・・・・」 「・・・ド・・・おい、エド?」 エドは不意に懐かしい声で名を呼ばれ、はっと我に返って声のした方向を向いた。 「ロ・・・・・・・っ・・・!」 自分を心配そうに見る彼が、記憶の中の彼に重なり、エドは思わず彼の名を呼びそうになった。 だが、危ういところで引っ込め、本人に自覚はないが、泣きそうに顔を歪めて返したのだ。 「・・・・・行き成り愛称で呼ぶのかよ。ビックリしちまったぜ。」 「あぁ、悪い・・・・・・。あの少年がエドエド連呼するから、移ってしまったようだな。」 「そっか。」 彼は違う。違うと分かっていても、同じだから。 不意に重なる面影に泣きそうになりながら、しかしエドは笑って返した。 「いいけどな、別に。俺もロイって呼ぶし。」 「そうか、なら問題はないな。」 切り替え早いな〜。これも若さ故か? などと思いながら、エドは不意に“彼”の言葉を思い出し、ぶっ、と噴出してしまった。 「・・・・・・・今度は何だ。」 それに不機嫌そうに訊いてきたロイにまた笑い、エドは「何でもない」と笑いながら言い、視線を窓に戻したのだった。 窓を鏡代わりにして見たロイは、しばらく微妙な顔でエドを見つづけた後、はぁ、とため息を零して正面に視線を戻した。 それを見届け、また笑い出しそうになるのをなんとか抑えながら、エドは心の中で呟く。 (あんた、本当にやってくれるな。) 約束を見事果たした男に密かに感心して、エドは目を閉じた。 『・・・・・・そうだな、私もいつかは必ず死ぬ。』 『だが私は絶対に、死して尚お前の傍にいるだろう。いや、とっとと生まれ変わってまたお前とつるむんだろうさ。 そして何度死んでもその度に生まれ変わってお前と出会う。運が良かったら私の幼い頃の姿が見れるぞ。むしろ楽しみにしていたらどうだ。』 (あとがき) ・・・・・再会は、ギャグ風味で行きたかったんですけど・・・・。 え、何これ、シリアス? しかも微妙に死にネタ? いや、次回からギャグ風味時々シリアスで。 それから、カイルの病気うんぬんは聞かないで下さい。私もよく分からないし(ぉい 次回は、ロイさん視点かな〜? |
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