先ほど、私が無自覚に彼の愛称を呼んだとき。 驚いたように振り返った彼を見て、僅かばかりその行動を後悔した。 彼の整った顔立ちに一瞬だけ浮かんだのは、切なさと懐旧、そして歓喜。 しかしそれは、“私”を認識するや否や、すぐに泣きそうに歪められたのだ。 それで気づいた。彼は私に誰かを重ねているのだと。・・・・重ねてしまうほど似、私に似たその者を思っているのだと。 再会6『エド』 (あぁ、わかってる。) 脳に直接響いた言葉に、エドは閉じていた目を開いた。 横を見ればロイ。前の助手席にはホークアイ。運転席にはハボックがいる。 エドはにやりと笑った後、ぱん、と音高く手を鳴らし合わせたのだ。 次いでその手を、すぐに車の窓ガラスに押し当てる。 すると僅かに光った練成光。ロイはそれに眉を顰め、「何をした」と問うたのだった。 「練成。」 しかしエドはそれだけしか答えず、不可解そうに眉を寄せたロイを無視して、徐に身を乗り出す。 「ってあんた、何してるんですか!?」 「気にすんなよ。それよりもハボック准尉、俺のこと信用できる?」 「・・・・は?」 「いや、信用できなくてもしろ。いいか、何があっても目を瞑るなよ?」 「え、ちょ・・・」 身を乗り出し、運転席のハボックの肩に手を乗せて。呆気に取られているホークアイとロイを尻目に、エドはそう言い募った。 そしてハボックの返事など聞こうともせず、再び手を合わせて―――なんと彼の視界を手で覆ったのだ。 「何をしているんだ!!」 走行中である車の運転手の視界を遮るなど、正気の沙汰か。そう思いロイが慌てて声を発したが、エドは気にする風もなく。 むしろ笑ってハボックに問い掛けたのだ。 「どうよ准尉、見えてる?」 「あ〜・・・その、見えてマス。」 「「は・・・・・?」」 そのハボックの言葉に、思わずホークアイとロイが同時に呆けた声を出してしまっても仕方がない事だと思う。 しかし彼の言葉は確かに嘘偽りなど無いようで、車は尚も何事もなかったかのように道をまっすぐ進んでいる。 すぐそこにあったカーブも難なくやり過ごしてしまった位だ。 しかし確かにハボックの視界はエドの片手に覆われてしまっているはず。よってこの状態は余りにも不自然でおかしいことであるのだ。 「・・・・・・・何をした・・・・・・?」 思わずロイがエドに聞くと、彼はニヤリと笑って前方からロイに視線を移し、しかしこちらの問いかけに答える気は無いらしく、別の質問をしてきたのだ。 「あんたさ、密閉空間から外へ向けて、炎の練成できるか?」 「は・・・・? そんな事、できるはずが・・・・・」 ない、そう言おうとした彼の言葉は、しかし最後まで紡がれることはなく飲み込まれてしまった。 なぜならば、目の前の視界が一気に赤く染まったから。 その、赤の正体とは。 「炎・・・・・!?」 それは、車全体を取り巻く業火。赤々と車を舐めるそれは、しかし車内の温度を上げるでもなく、車の外装を溶かすでもなく。 その異常性に気づくと同時に、ロイは思わず畏怖の念を持って目の前の麗人を凝視してしまったのだ。 そう、エドは気づいていたのである。 自分たちを見張る目があったことに、そしてその中に、炎を操る錬金術師がいたことに。 だから先手を打ち、彼は車を高熱にも耐えられるように強化し、炎に視界を遮られて、ハボックが車を横転させてしまう事を防いだのだ。 ちなみに彼の視界は確かにエドの手で覆われているが、エドは色々と使える手を活用して、たまに彼が遠くを見るときに使う「“世界”の目」を一時的にハボックが使えるようにしたのだ。 見ようによっては千里眼のようなそれは、炎で道が埋め尽くされようと、“目”の持ち主に正確な道の造りを教えてくれる。 よってハボックは視界を炎やエドの手で遮られようと、今も尚普通に車を運転できるようになっているのである。 「ま、俺は器用だからな。あんな事もできちゃうんだよ。」 相変わらず何かを企んでいるようなニヤニヤ笑いを浮かべたまま、エドは自分を見るロイにそう返した。 そして炎が視界から消えると同時にハボックから手を離し、またも手を合わせる。 それを今度は車の天井に当て、次の瞬間には彼の手に銃があり、あるべき天井は消え、オープンカー状態になってしまった車が。 「お前っ・・・・・後でちゃんと直しておけよ!?」 「・・・・・・もちろん、直すって。あ、3時の方向にいるから。」 そう言いつつも身を起こして応戦体制をとったロイに、先ほどの炎の発生場所、つまり襲撃者である錬金術師がいる方向を教え、エドは銃をホークアイへと渡した。 それを無言で受け取り、彼女も身を起こして銃を構える。 ハボックはとりあえず車を走らせ続け、後ろから聞こえた指をこする音と、隣から聞こえた銃を放った音を聞いていたのだった。 そして、エドは。 その光景を見て、「変わらない」と呟かずにはいられなかった。 エドが作った機会を利用して、当然のように反撃をするロイ。彼の練成は、相変わらず発火布を利用した指パッチンでの炎の練成。 それからエドの作った狙撃用の銃、つまりライフルを当然のように受け取って構えたホークアイ。突然ライフルを渡されたにしては、顔色ひとつ変えずに慣れたように受け取ってくれた。 ハボックもあまり動じず、エドの言った通り視界を覆われても目を閉じたりはせず、今もこうして上の二人を無言でサポートしている。 ―――――本当に、変わらない。 “現世”でもこうした奇襲に慣れているのか、そうでないのかは知らないが。記憶がないはずなのに、エドの作った活路を当然のように活用し、また彼を信頼して慣れたように反応する。 無意識なんだろう、エドの不思議な練成方法を見たって驚かなかったし、戸惑いもしなかった。 本当に、記憶が無いはずなのに。・・・・魂が覚えているのかもしれない。 そう思うと、どうしようもなく嬉しくなってしまう。 頬が弛緩してしまうのをなんとか抑えながら、エドは敵を一掃し終わったらしいホークアイから銃を受け取り、ロイと彼女が元通り腰を下ろして息を吐いたのを見届けて、車を元の形に戻したのだった。 その作業が終わり、エドも一息つくと。 不意にロイと目が合った。 「・・・・なんだ、嬉しそうだな。」 「・・・・・・・あぁ、何だかこれからが楽しくなってきそうだな、と思ってさ。」 それは、本心からの言葉。 今まであった、何に対してかもわからない不安が、エドの中から消え去った瞬間であった。 (あとがき) 襲撃者の正体は次回。・・・ギャグはまだ遠そうデスネ・・・(滝汗) |
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