「エドワード・エルリック。調子はどうだね?」
「・・・・・・・・・ご覧の通りです」


良い訳ねぇだろ。とも、涼やかな顔で良好です、と嘯(うそぶ)く気にもなれなくて、いっそ自分で判断してくれと態度で示してみる。

しかし大総統は「なるほど」と言っただけで、推考は控えたようだ。


「・・・・・・しかし、見事なものだ。いったい何をやったのかな」


そう言って彼が視線を向けるのは、本来街があるはずだった辺り。今は残骸すらも残っていないせいで、事情を知らない者なら本当にそこに街があったのか疑問に思うかもしれない。

なのに大総統は的確に街があった方向を向き、ロイという国家錬金術師がいるにも関わらず、それをエドが為したのだと確信しているようだった。


この野郎、見ていやがったな、と思ったが、顔には出さない。


「別に。ただ、塵に返しただけです」


何もかもを、一瞬で。



子どもと兵器と戦争と3





特に大した事をした訳ではないような口調で、子どもは答えた。

小さいとは言え街一つを塵に返しておきながら、淡々と。


しかしそれを可笑しいとも思わないようで、大総統は不思議そうな顔で質問を重ねる。


「最初に行った街ではもっとこまめにやっていただろう。何故やり方を変えた?」
「最初の街で、血を見るのに嫌気が差したので。二つ目の街からはこの方法を取っています。」


尚も淡々と答えた子どもは、能面のような表情に変わっていた。


二人の口ぶりから察するに、子どもが壊滅させた街は一つどころではない。

しかも子どもは少なくとも始めの方で、先程とは違って直接自分のせいで人が死ぬのを見たらしい。


何故大総統はこんな子どもにそんな事をさせて平気でいられるのか。何故子どもはそんな事ができるのか、続けられるのか。それを強制されているのか、自発的に行っているのか。いやそもそも、この子どもは何なのだ。


疑問は尽きることがない。しかし大総統相手に問い詰める事も出来ず、せめて冷静さを失わないようにと、強く拳を握り締めた。

幸い大総統はロイとヒューズの方は眼中に無い様で、それに気づかれる事もなく。


色々と問答を重ねる自国の最高権力者と得体の知れない子どもに対する恐怖を、ただ膨らませることしか出来なかった。


だが不意に。

怖がるな、と自分を叱咤する声が聞こえた。

隣でロイと同じように、強張った顔をしているヒューズの声ではない。ましてや子どもの声でも、大総統の声でもない。


―――――子どもに、二度あんな顔をさせるな。


そうロイに命令するのは、紛れもなく彼自身。

何故それほど強く思うのか、ロイも解らなかった。


だがそれでも、子どもを畏怖せずにいるのなんて、不可能だった。錬金術師の頂点たる、国家錬金術師達よりも抜きん出た才能をもつ子ども。自分の知らない領域に達しているまだ幼い子どもに、本能的に恐怖してしまう。


しかし。


「失礼ですが、閣下」


その恐怖に抗わなくては、と。子どもの為にそうしてやりたいと思うのは、傲慢かもしれないが罪ではないだろう。


「彼はいったい・・・・?」


得体が知れないのは、恐怖を増す要因にしかならない。だからこそまだ下っ端でしかないのに、叱咤を覚悟で割って入った。


すると大総統は特に気にした風もなく、孫を嗜めるような顔で子どもに言う。


「なんだ、まだ言っていなかったのか」
「時計持ってないですし。信じてはもらえないだろうと思ったので。」


淡々と、と言うよりは、感情を押し殺したような声だったと気付いたのは、ちょうどその時。

割って入った自分を意外そうに見て、それから少しだけ安堵した風に微笑んで、すぐさま能面のような表情に戻したから気付いた。


―――やはりまだ、子どもなのだ、と。


それは、不思議なほど恐怖を和らげてくれた。


そんなロイの感情の変化に気付いているのかいないのか、子どもは「あぁ、遅くなってすまなかったね」という言葉と同時に渡された物を掲げて、ロイを見た。


「こういうことだ。」


目の前に突きつけられたもの、それは既に予想の範囲内のものだった。


「・・・・・・・・・・・そうか。」


竜を刻まれた銀時計。現役国家錬金術師だけが持つ事を許される物。

それは、この国でなら様々な特権を約束され、軍の恩恵を受ける証。

その一方で、軍に従い、その犬とならねばならない、首輪のようなもの。


「銘は“鋼”だ。よろしく頼むよ、焔の錬金術師。」


はっはっは、と大らかに笑ってそう言う大総統が、何故か憎たらしく思えた。





   
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