「久しぶりだな、キラ君。」

「えぇ、お久しぶりです、ラウ兄さん。」

目の前で穏やかに笑う少年を見るのは、優に2・3年ぶりだろう。

相変わらずの美しさ。なにより相変わらずの猫っかぶり

「まぁ、君なら我が際物ぞろいの隊の中でも上手くやっていけるだろう。アスランのことは聞いているし、色々融通してやるから好きにやりなさい。」

「ありがとうございます。」

そういってはにかんだように笑う彼は大変愛らしいが、クルーゼはただその猫っかぶりっぷりに感心するだけだ。

 クルーゼは机の上に置かれた小さな箱をキラに手渡し、彼がそれを胸元に装着したのを見届けると、キラの前に立って言ったのだった。


「それでは、行こうか。」

ブリーフィングルームでみんなが君を待っている。そう言うと、キラは一瞬にやりと擬音のつきそうな笑いをクルーゼに見せ、すぐさま白く穏やかな微笑を塗り替え、「はい」と答えたのだった。



Bodyguards3





「諸君、本日からクルーゼ隊に配属となった、キラ・ヤマトだ。キラ、挨拶を。」

怪しい仮面の隊長に教えられるまでもない。

アスランは目の前に立つ少年のことを知っていた。


ってゆうか、誰、これ・・・。


いや、知っているはずなのだが、知らない人物に見える。

何、この仏様の後光が見えるような穏やかなオーラは・・・。

何ですか、その穏やかな微笑・・・ってかお前性格変わりすぎだろ。もしや、二重人格?

とアスランが顔を引きつらせてそのようなことを考えているのを知っているのか否か、不意にキラがアスランに視線を向け、微笑みかけて言ったのだった。


余計なこと言うんじゃねぇぞ、コノヤロウ。


いや、一応明記しておくが、口に出しては言ってない。

ただその綺麗で穏やかな性格がにじみ出る微笑の下にひそむ悪魔からの脳内通信だ。

キラは一通り白い笑顔でアスランを恐怖に陥れた後、漸く前を見て敬礼の形をとり、挨拶をしたのだった。


「国防委員長直属特務隊から参りました、キラ・ヤマトです。しばらくお世話になります。」


国防委員長直属ほにゃらら・・・舌を噛みそうだな、と思いつつもクルーゼは意味深な笑いを浮かべ続けている。

 ぶっちゃけ癖になっているその笑いは、本人の意思とは関係なく、隊員に恐怖を与えているのだ。

(俺、こんな奴らに囲まれて大丈夫なんだろうか・・・・・・)

と、命ではない何か(主にデコら辺)を気にしつつ、アスランがため息をこぼしてしまっても、仕方のないことだっただろう。


「特務隊、で切ったが、彼はフェイスに属している。一応君たちの上司に当たるからな、失礼のないように。」

クルーゼの言葉にキラの胸元を見れば、そこには確かに“フェイス”の紋章が。

 瞠目するアスランと、納得いかなそうに口をへの字に曲げるイザークをさりげなく無視し、キラは苦笑とともに恥ずかしそうに頬を染める。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かわいい。


 その場にいた全員が、不覚にもそう思ってしまった瞬間であった。





レクが終わり解散となり、キラはすぐにアスランに近づいてきた。

そして、微笑んでいう。

「ということだから、アスラン、よろしくね?」

と、かわいらしく小首をかしげて。

なんだか和みそうになりながら、アスランは必死に自分を持ち直して答えたのだった。

「・・・よろしく。何、いつの間にフェイスになったの。」

「さっき。困るじゃん、新人とか言って馬鹿にされるの。君らプライド高そうだし。」


そう言って笑うキラはやはり自分の知っているキラで、アスランは喜んだらいいのか悲しんだらいいのか真剣に悩んでしまったのだった。



しばらくそうした何気ないじゃれあいを続けていると、不意に彼らに声がかけられた。

 確かめることもない、このヒステリックな声の持ち主はイザークだ。


「おい!アスラン!そいつとは知り合いなのか!?」

態々語尾に「!」をつけなくても聞こえるっつーの。とキラとアスランがほぼ同時に思ったことなど気づくはずもなく、彼はずんずんとこちらに近づいてくる。

 アスランが眉をしかめ、キラが苦笑を浮かべると、イザークのさらに後ろからも声がかけられたのだった。


「イザーク!彼は上司ですよ!?」


そう、イザークをとがめるような口調でこちらに来るのがニコル。

その後ろで、珍獣でも見るかのような視線をキラに向けて歩いているのが、ディアッカだ。

 更に後ろにはミゲルとラスティが興味深そうにこちらを見てくるが、特に問題はなさそうなのでこの際無視する。


キラは昨日覚えた顔と名前を照らし合わせながら、こりゃ前途多難だわ。と内心嘆息したのだった。


「こんにちわ、イザーク・ジュール、ニコル・アマルフィ、ディアッカ・エルスマン。キラ・ヤマトです。」


しょうがないのでとりあえずにっこり笑って挨拶すると、赤面して言葉に詰まるイザークと、これまた赤面して自分に魅入るニコル。それと、やっぱり珍獣でも見るかのようにこちらを見るディアッカ。

これはこれで扱いやすそうだ、と内心のキラの黒い微笑みと言葉を察したのかどうか知らないが、隣でアスランが一歩後ずさったが、ナチュラルに無視。

 ディアッカがそれにわずかに目を開いたが、それも無視。たぶんこの3人の中ではディアッカが一番常識人だ、と見切りをつけながら、キラはイザークに視線を向けたのだった。

「先ほどのイザークさんの問い、僕が答えても構わないでしょうか?」

とりあえず敬語。この手は最初っからタメ語だといやな第一印象をもたれる。それは多分、ニコルも同じ。

 冷静にそんな風に分析されているなんて知らず、イザークは言いにくそうに答えたのだった。

「あぁ、まぁいい。それと敬語と尊称を止めろ。鳥肌がたってくる。」

いささか落ち着いてきたのだろう、語尾に「!」をつけなくなったので、声が聞き取りやすいし、耳も痛くない。

そのことに内心安堵しながら、キラは微笑んで言ったのだった。

「わかりました。僕とアスランは幼馴染です。ね、アスラン。」

にっこり、と微笑みながらアスランの腕をとる姿は、大変かわいらしい。

だがしかし。腕を握られているアスランにとっては溜まったもんじゃなかった。

ぎりぎりぎりと・・・・すみません、骨がきしむ音がしますキラ様!!

だがそんな内心を表に出したら後が怖いので、アスランは苦笑しながら「あぁ。」とだけ答えて、根も葉もないことへの肯定をしたのだった。


 イザークはその様子に毒気を抜かれたようで、だが納得がいかない、とでも言たげな瞳でキラを見、つぶやくように言う。

「おまえ、フェイス所属なんだって?」

「・・・・そうですよ。」

変わらぬ穏やかな顔に、「だから敬語をよせと言うに。」と一言吐いてから、憮然として続ける。

「なら、俺と勝負しろ。」

「イザーク!」

また、ニコルが咎めるような声をあげたが、イザークは一向に気にした風もない。

「あなたも止めてくださいよ、アスラン!」

と言われても、アスランにしてみればキラの蹴りを反撃する間もなく食らった経験があるわけだから、キラの実力は大体予測できているのだ。

とりあえず心配するようなことでもないだろう、と思いキラを見ると、彼は困ったように微笑んで、「じゃぁ、」と切り出したのだった。

 しかし続けられた言葉は、まったく予想だにしなかったもの。


「この一撃を避けられたら、受けてたつよ。」


と。その言葉と同時に、消える姿。わずかに聞こえた、トン、という軽やかな音。

 何が、と思って目を見張った次の瞬間には。


「チェックメイト。残念だけど、この話はなかったことに。」


と言って嫣然と微笑むキラと、首筋にナイフを突きつけられたイザークが、そこに立っていたのだった。


 キラはイザークの後ろに立っている。先ほどまで前に居たというのに、だ。

姿さえ見えなかったその動きに、イザークは能力の違いを身をもって感じたのだった。    




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