声のした方向に走っていき、草を掻き分けながら進む。しばらくすると開けた場所に出て、そこに広がる光景に我目を疑ってしまった。


「小さいアスラン!? と、何でホワイトタイガー!!?」


何で絶滅したはずの真っ白い虎がここに。ってかこれ捕まえて毛皮剥げば、どの位になるんだろう。本物っぽいから良い値で売れるよねっ!

普通に生活していれば絶対出来ない稼ぎ方を体験できるのか。ちょっとデンジャラスで楽しいかも。とか異様に縮んでる幼馴染そっち退けで暢気に思っていると、「×××!!」という悲鳴のような声が聞こえた。

しまった、トリップしてる場合じゃないよ。問題なのは子供の安全だ・・・・いや待て、何でアスラン縮んでんの(今更)。


・・・・・まぁいいか(いいのか)


あれだ、僕が女体化してるんだから、アスランが幼児化してたって別におかしくはない。○○化って言う時点でもう常識から身投げしてるような物だけど、気にしない。開き直り万歳!!


問題は飛び掛って来る白い虎だよ。小さいアスランが怪我してるところを見れば、多分「にゃぁ〜すりすりゴロゴロ〜」という飛びついて擦り寄って甘えてなんて言う動作のちょっと大げさバージョンではないだろう。


仕方が無い、倒すか。


襲って来る者は返り討ちにせよ! 何故か変質者に襲われやすいそんな僕のモットーを実行するよい機会だ。むしろ大々的にストレスを発散できる絶好のチャンスなのだ!

ちょっと舞い上がりつつ絶好調で虎の腹に素早く足を突っ込むと、虎が目をむき出してそのまま白目を向いてしまった。ぴくぴく痙攣している様は何とも憐れだが、変質者(違う)に情けは不要だ。


とにかくすっきり爽快な気分になりながら小さいアスランに近寄って、無事を確認してみる。

間近で見てもやっぱりアスランだ。めちゃくちゃ若返ってるけど。この若さでこんなに広い額を持つのは、彼しかいまい。

でも可愛い事に変わりないので、同い年のままじゃ絶対にできなかった事をしてみようと抱きついてみた。だって同い年のままだと体格的に僕が抱きつかれる方ってか、アスランはプライドが許さないらしく抱きしめることを許してくれないし。ざまぁみろ!


ついでに腕の手当てをしてあげると、しかし予想に反して小さいアスランは妙に素直にお礼を言ってきたのだ。


・・・・・・・・・僕の知らない、さっきのおっさん達と同じ言葉で。


その事に思わず言葉を失っていたら、今度は小さいアスランが自分の纏っていたマントを貸してくれた。無邪気としか言い様のない笑顔を浮かべながら。


(・・・・・・・・・・・・・・あぁそうか・・・・・・)


この子供は、あのいつも年上面をする幼馴染が縮んだものではなかったのだ。



 ―2―




アスランには目の前の少女が何と言ったのかわからなかった。けれど感謝されたことだけは何となくわかったので、にっこりと微笑んで「どういたしまして」という気持ちを示してみる。

そして何故か苦笑する彼女に好奇心を刺激され、先程から気になっていた事を一気に捲くし立てたのだった。


「貴女は何故ここにいるの? 濡れていたから、水浴びでもしてたのかな? ねぇ、さっき僕のことアスランって言ったよね? 僕のこと知ってるの?」


今度は、彼女は困った顔をしてうめいてしまった。それはそうだ、アスランだって彼女の言葉を理解できないのに、こんな矢継ぎ早に質問してしまえば相手に理解できるはずもないと、自分の行動を恥じて慌てて謝罪する。


「ごめん! わかんないよね、僕の名前は「アスラン!! 何処にいるんです!?」・・・だよ。知ってるみたいだけど」


話している途中で割り込んできた声に、アスランは思わず笑みを浮かべていた。そして心配そうな兄の声に申し訳なく思いながらも、声のした方向へ向かって叫び返したのだった。


「兄上! こっちです!!」
「アスラン!?」


するとがさがさ、という草を掻き分けて進む音が聞こえたと思った次の瞬間、すぐ近くに見慣れた兄の姿が現われたのである。


「・・・・・・・ご、ごめんなさい兄上!!」


しかし彼が何かを言うより先に、アスランは上ずった声で先手を打った。兄の背後で渦巻く不穏なオーラに気付いてしまったのだ。

兄は兄でそんな弟をしばし無言で見下した後、はぁ、とため息を付いて答える。


「いいえ。私も貴方の突飛な行動には慣れてますし、いざとなったらまた暴走するのが目に見えているので、謝らないでいいですよ」


これは相当怒っているらしい。いつに無く嫌味な兄の返事に過去の恐怖を思い出し、アスランは「誰かが呼んでる!」の一言だけ残して陣営を出、挙句虎に襲われてしまった過去の自分を崖から落としたくなった。


「ごめんなさい、本当に反省してます」


この兄は、優しく綺麗な顔をしてはいるが、その分怒ると非常に怖い。傍から見れば微笑ましくも取れる前回のえげつないお仕置きを思い出し、引きつった笑みを浮かべながら土下座する勢いで謝罪を繰り返す。

しかし不意に、恐怖に駆られた自分を宥めるように、優しく頭を撫でてくれる手に気がついた。

その細く白い手の先にあるのは、苦笑を顔に浮かべている女性の顔。

励まされている事に気付き、アスランは一気に嬉しくなって頬を上気させながら、小さな声で「ありがとう」と呟く。

すると今度は、優しげな微笑を向けられたのだった。


「・・・・・・・・アスラン、彼女は?」


まるで亡き母の側に居るみたいだ、と恐ろしくも兄の存在を忘れつつ密かに思っていると、急にその兄が口を開いた。むしろ今まで聞かれなかったのが不思議なくらいか。

だがアスランにだって彼女の説明などできるはずもない。唐突に現われ虎を退治し、手当てをしてくれて自分の名を連呼していたが、どうやら異国の言葉しか話せないらしい事しか知らないのである。

だからそれをそのまま言うと、兄は一度昏倒している虎に視線を移してから、女性を見、再び虎を見て一言。


「嘘おっしゃい」



+++++



アスランの言った事は、しかし一概に嘘と決め付けられる話でもなかった。

何故ならば確かに少し離れた所には虎が昏倒していて、この場には少女と弟の二人しかいないのだから。

今年8歳になるアスランにそのような事をできるはずもなく、ならば必然的に少女がやった、と言うことになるが、かなり信じがたい。

見れば自分とそう年の変わらぬ少女は、身体を覆うマント越しに見ても華奢で儚げで、到底そのような事ができるようには見えなかったのだ。

しかしその視線をどう思ったのか、急に少女が顔を険しくして纏っていたマントを広げて見せた。


「武器なんて持ってませんよ」


言っていることの意味はわからないが、両手を上げているところを見ると恐らくは武器を所持していない事を示したいのだろう。


が、


「・・・・・・・・・・・・・・・・間諜の類だとは思ってませんから、早くマントを身につけてください」


断じて不可抗力ではあるが、しっかりばっちりはっきり少女の裸体(に近い格好)を見てしまった彼は、薄い紗越しにも分かるほど赤面して目線を泳がせる羽目になったのである。

少女もその反応で自分の格好を思い出したのか、頬を染めて引きつった笑いを浮かべている。その隣に居る弟が、「兄上が赤面してる姿なんて初めて見た・・・!」と感動していたが、綺麗に無視した。自分でもこんな初心な反応をしてしまうなどとは思っていなかったのだ。


「・・・私の名はラクス。貴女の名前は?」


とりあえずそんな自分を誤魔化すように問うてみれが、思ったような反応は返ってこない。

どうやら本当に全く此方の言葉はわからないらしい、と判断し、仕方が無いので自分を指差して「ラクス」と単語のみ言ってみた。

そして今度はアスランを指し、「アスラン」と。更に少女を指差して首を傾げてみれば、嬉しい事に此方の意図が伝わったのか、少女はふ、と微笑みながら答えたのだ。


「・・・・・・キラ」


キラ。不思議と心地よい響きを齎す言葉。

ラクスが何度か口の中で繰り返すと、何故か少女が嬉しそうに笑う。


(ぁ・・・・・・・・)


何故気付かなかったのだろうか、良く見れば少女は随分と綺麗な容姿をしていた。微笑みは無邪気で、思わず引き込まれそうなほど可愛らしい。

しかしその顔は少しだけ青ざめ、小刻みに震えているではないか。


すぐに彼女の濡れた髪と先程見た服を思い出し、ラクスは自分のマントを脱ぎながら一歩近づいた。

そして警戒もせず接近を許した少女の肩にそっと手を置き、片手で脱いだマントを手渡して言ったのだ。


「脱ぎなさい」


「・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!?」
「・・・・・・・・・・何で貴方が反応するんですか、アスラン」


振り返れば弟が呆然と、身を乗り出した格好で固まっている。その顔は真っ赤で、内心で「何を期待してるんだこのマセ餓鬼」と思わず罵倒してしまった。

その間、少女は何も言わない。というか、言っても仕方が無い事を悟っているのだろう。随分と賢い娘のようだ。


ラクスは顔を隠すために頭から被った紗を少しだけずらしてから、少女を安心させるように微笑む。

そしてじっと見上げてくる紫の瞳に引き込まれそうになりながらも、自分の腕に巻いていた紐を解き、それで彼女の濡れた髪を結い上げようと亜麻色の髪を一束掬ったのだった。


正面からやっているせいで、随分と顔が近い。ちなみに妙に心臓がドキドキ言っているが、何故か普通に後ろを向かせてからやり直そうとは思わなかった。

しかしそれを悟らせないように平静を装いながら結い終わり、今度はアスランの小さなマントで包まれた肩をそっと肌蹴たのである。


「ああああああああ兄上ーーーーーー!!!?」
「お黙りなさい。別に、やましい事はしませんよ!」


若干言い訳がましい言い方になっていることを自覚しながらも、戸惑いつつも自分の手を感受している少女に安堵する。

そして吸い付くような象牙の肌を無意識になぞってから、彼は少女が一番下に纏っているらしい服の肩紐を、するりと解いたのだった。





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