保健室から教室に戻るまでの間で、キラは本当に沢山のプレゼントを貰った。ラクスが言った言葉は、すでに女子たちの間で広まっているようだ。

面と向かって渡せる日が今日しかなく、しかもすでに夕日が傾きだした時間帯である事を考えれば、そりゃ彼女達も必死になるだろう。大抵の子が走り回っていたようで息を乱し、何だか逆に申し訳なく思えてきたほどだ。

そしてそれらが途中で手に持ちきれない量になると、気の利かせた女子が大きな紙袋をくれた。それには本当に助かったと礼を言ったら、彼女は「こうなること、予想してましたから・・・」と答えたのだった。きっと将来いいお嫁さんになれるだろうと思う。



こんな日常 2





ちなみに先ほどまで、彼は気分が悪いのを装って実は授業をサボっていたのだが。

いつも通り保健室教員も6限目の担当教員も、彼の仮病にまったく気づきもしなかった。むしろ心配されてそのまま帰る事を奨励されたくらいなのだ。

それは何故かと言うと、キラは彼らの中で“病弱な美少年”という印象に落ち着いているからだと思われる。

生憎と彼は滅多に病気にならない超健康体質なのだが、それでも“病弱”と位置付けられるのには理由があった。


それは、見えないところに大きな傷を負うことが多いせいで、顔色が優れない日が多々あるという事。


けれども彼らはそんな事を知らないから、彼の貧血を単純に虚弱から来るものなのだと思い込んでいるのだ。

もしかしたら、その華奢で少女めいた容姿もその印象を助長させているのかもしれないが、ときかく彼のポジションは常に“病弱”であった。


体育で元気に走り回るその姿の何処が病弱なんだ、と矛盾している教師陣の印象に密かに呆れつつも、キラはそれを正そうとはしない。

その方が何かと都合がいいし、ならばその顔色の悪さは何から来る物だと言われてしまえば、答える事が出来ないためである。


「実は銃弾食らっちゃったせいです、なんて言ったらこっちの神経が疑われるよねぇ・・・。」


言うつもりなんぞ毛頭ないが。

そんな事を考えている間に、漸く教室に着いた。SHRも終わっているらしく、部屋は閑散としている。

しかし本来とっとと帰りそうな友人達が残っている事に気づき、キラはそちらへとゆっくりと歩み寄ったのだった。

話に熱中している彼らは、それに気づかない。


「さっきの女生徒・・・・・」
「あぁ、せっかく来たのに珍しくすぐ帰っちゃった子?」
「初々しくていいじゃないか。長々とあいつを待たれるよりはこっちも気が休まる。」


何の話をしているのだろうか。一瞬そう思ったが、つい先ほどこの教室から飛び出してきた女子からプレゼントを受け取っていたので、その子の事だろうと判断する。

となると、「あいつ」とは自分の事だろうか。もしや彼らも自分を待っているのだろうかと思っていると、どことなく楽しそうに金髪の少年が口を開いた。


「・・・・・・けっこう可愛かったよな? 何点?」
「73。」
「・・・・・・・・・・・・・75。ディアッカは?」
「ん〜? そうだな、80点くらいあげてやろう。」


銀髪の少年は即答し、藍色の髪を持つ少年は逡巡しつつもしっかり答えた。最後に点数を言ったディアッカは、何処となく偉そうだ。

キラは眉根を寄せて何の点だ? と一瞬真剣に考え込んだが、すぐにその採点基準に気づいて腕を振り上げた。


次の瞬間、ゴッ、痛ぇ!! という音が、三度重なる。


彼らは目視できなかった攻撃を加えた者を見る為、すぐさま背後を振り返った。

するとそこには、綺麗な顔に綺麗な笑いと太い血管を浮かばせて立っている少年が。

藍色の髪を持つ少年がさっと顔を青くして口を開いたが、それより早くキラの怒号が教室に響き渡ったのだった。


「キ・・・・」
「女性は全て美しく、清らかで護るべき物なの!! 変な目で見ない!」


あろうことか彼らは、キラを尋ねてきた女子の容姿を採点していたのだ。自他共に認めるフェミニストである彼には、そんな行為が許せない。

そうして再度振り下ろされそうになる腕を慌てて避けながら、ディアッカ達は明らかに口先だけの謝罪をする。


そのちょっとした騒動に、廊下を歩いていた生徒や教室に残っていた他の生徒達の視線が集まったが、彼らは気にしない。

4人も集まればどこのアイドルグループだと聞きたくなる容姿を持つ彼らは、他者の視線を集める事に慣れているのだ。


そんなこんなで結局キラからもう一度拳を貰う事となった少年達は、キラが貰った菓子類を頬張りながら談笑し始めた。


「で? 珍しいじゃない。どうしてまだ残ってるの?」


それには、藍色の髪を持つ少年―アスランが答えた。


「お前の鞄が盗まれないように、見張っていたのさ。」


これは、冗談なんかではない。事実以前キラが保健室で放課後を迎えた際、おそらくキラのファンの子の仕業によって、彼の鞄は紛失してしまったのだ。

もしかしたらラクスのファンである男子生徒の嫌がらせだったかもしれないが、その確率はかなり低いだろう。

女の子には優しいが、野郎には何処までも厳しいキラである。それを知っている彼らが、バレたらただではすまないようなこと、するはずが無い。


それはとにかく、前例のある上今日は特に女子生徒の出入りが激しいので、友人達は気を利かせてくれたのだ。


キラは優しい彼らに苦笑して、次いで申し訳なさを感じながらも感謝した。助かったけれど、彼らは只でさえ多忙なのに、自分のために時間を割かせてしまった、と。


「ありがとう。すごく助かる。」
「・・・・・キラ、八の字眉毛。」


それに対し、そんな申し訳なさそうな顔をするな、と銀髪の少年―イザークがすぐさま指摘する。彼はキラのそんな顔も好きだが、あまりして欲しいとは思っていないのだ。

そんな彼に賛同するように、ディアッカも大らかに笑いながら口を開いた。


「そうだぜ。コレは俺達が勝手にやった事なんだし。思わぬ報酬もゲットしたしな。」


言いながら顔の前で振るのは、手作りらしいクッキー。キラに渡された物だが、「皆さんで食べてくださいね」と言って渡されたからと、好意に甘えて皆で食べていたのだ。


根っからのお兄ちゃん気質な彼らの優しさに、キラは再び苦笑する。ただし今回は、ちょっとした照れくささと大きな感謝で構成された苦笑であった。


アスランはそんな彼を暖かな目で見守っていたが、不意に時計を見て気づいたように口を開いた。


「キラ、ラクスが待ってるんじゃないか?」


いつも愛しの彼女と帰っている彼は、大抵SHRが終わるや否や、飛ぶように隣のクラスにいるラクスの元へと去っていくのだが、今回はそれがない。

不思議そうに自分を見るアスランににっこり笑って、キラは若干嬉しそうに声を弾ませながら答えたのだ。


「今日はダコスタさんの車で帰ります、って言われちゃった。」


ダコスタとは、クライン家の専属運転手の名前。ラクスの家は大きな財閥であり、本来彼女の送迎はダコスタの仕事であった。

だがキラがいる時は大抵、その仕事は彼に譲渡される。勿論彼女の父からは了承をもらい済みだ。


「なんだ、お前誕生日にふられたのか?」


そんな事はありえないとわかっていながら、ディアッカがからかうように言う。イザークは優雅にクッキーを租借しながらも、やはり怪訝そうに嬉しそうなキラを見ていた。

キラはどこかうきうきとした風で、簡素に「違うよ」と答える。

それから何処かに思いを馳せているらしく、遠くを見ながら言ったのだった。


「今朝、レイに今日の夕食は何? って聞いたんだ。」
「あぁ。」
「そしたら、『今日はラクスさんが作るから解らない』って。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一瞬、沈黙がその場を支配した。

なるほど、ラクスを乗せてダコスタが向かった先は、スーパーか。そしてその後キラの家へと直行すると見た。


レイも言うつもりが無かったらしいけど、あの子は朝弱いからね。などとキラは笑いながら言っているが、どうやら彼を驚かせたかったらしいラクスが、ちょっとだけ可愛そうになってくる。


アスランはキラの弟の寝ぼけ姿を思い出し、それからにっこり笑っているキラを見て、ちょっとだけ引きつった笑いを浮かべながら問うたのだった。


「・・・・・・・・・お前もしかして、わかってて朝レイに訊ねたのか?」
「ん? 何の事?」


ラクスの意外とおちゃめな一面を知っているキラは、相変わらずにこにこ嬉しそうに、そして楽しそうに笑っている。

さりげなく惚気られていることに面々は気づいていたが、ただ「・・・・・・そうか。」と頷くに留めたのだった。





・・・・・・・・この、策士め。


つくづく思うのだが、敵には回したくないタイプである。
・・・・・・・敵になるつもりなど毛頭ないが。





(あとがき)
未だ相手が出てこない。
その代わりなんとなくバカップル。キラは彼女にぞっこんです。そしてラクスもキラにぞっこんです(笑

ふふふ、気づいてきた方々もいると思いますが、このお話はキラを崇め奉る為のお話です。ってか少女漫画的だ〜。今回は騎士と姫以上の少女漫画ですよ〜(爆




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