「7・裏切り」の続編です。先にそちらを読まないと内容がわからないと思います。






洞窟を見つけ出し、魔術を利用してアスランをそこに運び込んだ。

 毛並みも乾かしたし、増えた魔力が必然的に、低下した彼の体力をと癒すだろう。

そう思ってキラは、アスランのそばから離れて一人雨に当たっていた。


冷たい雨は、混乱したキラの頭を冷やしてくれる。

 体が冷えたからか、それとも己のした事の異様さからか、罪の意識からか・・・・。理由は本人にすらわからないが、とにかく彼の顔は血の気を無くしていた。


しかし、彼はそれを気にした風もなく、ただ呆然と雨に打たれて立っていたのだった。


そして、冷たくなった己の両手で顔を覆い、搾り出すように言葉を吐く。


「ごめん・・・・・・・・・・・・・・。」


それは、決して相手に伝わることも、言うつもりも無い―――・・・、


――――親友への、謝罪であった。







「・・・・・・き、ら・・・・・・・・・?」

キラの声が聞こえたような気がして、アスランは目を開けた。

しかし視界に映るのは岩肌と自分の体だけで、キラの姿は何処にもない。

そのことに何故か一抹の寂しさを感じながら、アスランは自分の毛並みを毛づくろいして、それが一通り終わると「ん?」と首をひねった。


「毛づくろいって・・・・・・・・あっ!」


そこで漸く己の体が獣型に戻っていることに気付いて仰天し、慌てて起き上がって人の姿をかたどる。


「いったい何が・・・・・・・」


と呟く途中で、自分が気を失った事実と経緯を思い出したのだった。


確か食事も碌に取らず、低下した体力の中雨に打たれたことによって本来の姿に戻り、挙句気を失ったのだったっけ。


 なんとも情けない・・・・。と深々とため息を吐き、アスランは近くにあった自分の衣服を身にまとったのだった。


そして、それを着終わってふと気付く。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで服が乾いてるの。しかもココ、何処。」


 普段の自分だったらすぐに気付くだろう事をまたも今更に疑問に思い、アスランは警戒しつつも洞窟らしいこの場から出るべく、足を進めたのだった。



そして、洞窟の出口から見える天候に、アスランは無意識に顔を顰めた。

 雨だから当然と言われればそれまでだが、昼なのに暗い空、冷たい空気、そして水滴が地面に打ち付けられる音しか聞こえない空間。


 どこか哀愁の漂うその風景に、彼は何故か胸騒ぎを感じたのだ。


そして、頭をよぎった可能性をそのまま口に出す。


「泣いているのか・・・・・・・? キラ・・・・。」


魔界と魔王の関係を先日聞かされたばかりのアスランは、それを口に出したら何故か真実味が増した気がして、衝動的に胸の辺りの服をぎゅっと握った。

今すぐに帰って、キラの傍に行かなくては。

 そう思った次の瞬間。


「何言ってるの。これは自然に降り出した雨だよ。」


という、呆れたような声がかけられたのだった。

 アスランはその声の主がすぐにわかり、ほっと肩の力を抜いた。

そして、声の発信源に視線を向ける。


「キラ・・・・・・。」

「・・・・・・何?」


小首を傾げてそう問い返す様は食ってしまいたいほど(※一族特有の愛情表現:蛙の子は蛙なのさっ)可愛いらしいが、アスランはすぐにキラの顔色の悪さに気付いて目を見張ったのだった。


「キラ!? どうしたんだ、具合が悪いのか!?」


そう言いながら駆け寄ってくるアスランに苦笑して、キラもゆっくりと彼に近づいていく。


「別に〜? ちょっと雨に降られてただけだよ。ほら、君も雨に濡れちゃうから中に・・・。」

「・・・キラ。」

洞窟から出てきたアスランを戻そうと声を上げたが、しかしそれを最後まで言い終わる前に、彼によって遮られてしまう。

 キラはアスランの行動に驚きながらも、抵抗することは無かった。


――――アスランは雨に濡れて冷たくなったキラを暖めるように、言葉の途中でぎゅっと彼を抱きしめたのだった。


「キラ。」

「・・・・・何。」


キラは額をアスランの肩に押し付けながら、呟くように返す。

実はこの問答、結構慣れていたりする。

こうして行き成りアスランが抱きついてきて自分の名前を連呼することは、そう珍しいことではないのだ。


 だからキラは、しばらく動かないだろうと思われるアスランが濡れるのを危惧し、密かに結界を作って雨を遮断した。

そしてアスランはそれに気付きながらも、やはり動こうとも、キラを離そうともしないのだった。


「キラ。」

「・・・・だから、何?」


相変わらずの体勢で、そんな問答を何度繰り返しただろうか。

アスランは漸くキラを解放し、しかし今度は彼の肩に手を置いて、じっと彼を見た。

そのまっすぐな瞳に罪悪感が蘇り、キラはわずかに動揺したが、それを表に出すことは無い。


「・・・・・・泣いてるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・は?」


そして、漸く声を発したと思ったらこの台詞。思わず間抜けな声を返してしまっても仕方の無いことだろう。

無論キラは涙を流してなどいないし、先ほどちゃんと否定したはずだ。

何を言っているんだ、と声を上げようとして、しかしアスランがあまりにも真剣な顔でキラを見ていたので、思わず口を閉ざしてしまった。


・・・・・・・・・何故ならば、まるで内心を完全に見透かされているように感じたから。


 そんなはず無いのに、妙に自分関連(だけ)で勘のよろしいアスランに、キラは内心で冷や汗をかいた。


どうしても、今だけは自分の持つこの感情を知って欲しくないのだ。


キラの持つ感情とは、大きく分けて罪悪感と、それよりも大きい歓喜の二つ。

―――――――なんて汚らしい感情なんだ。


自分の先ほどの行動を思えば、それはどちらも純粋なんかではなく、汚い感情なのである。

罪を隠すことへの罪悪感と、アスランの願いをかなえることが出来た嬉しさ。彼がより一層その地位を上げたことに対する喜び。

――――――――――――――きたない。




「・・・・・ラ、キラ?」

キラは名を呼ばれたことによって、いつの間にか思考の渦にはまっていたことに気付き、はっと顔を上げた。


 そこには案の定、心配そうな顔でこちらを見るアスランが。


「あ、ご、ごめん・・・・・・。」


アスランはそんなキラをじっと見ながら、徐にため息を吐いて苦笑したのだった。


「僕にはこの雨、君の涙に見えるんだ・・・・・・・。」


キラはその言葉を聞いて目を見開いた。

驚いたように目をぱちぱちしているキラにまた、「食っちゃいたい・・・(※だから一族特有の、愛情表現ですのよ。変な意味ではございませんからね!?)」と思いつつ、アスランはキラの髪から滴り落ちる水滴を指ですくって言う。


「ごめんね、泣きたいときには泣けって、もう言えないけど。だけど僕は、君の悲しみを軽減することは出来るよ。何でも聞いてあげるから。愚痴でも、相談でも、・・・・・何でも。」

だからキラ、一人で溜め込まないで・・・・・・?


そう、キラに言い聞かせるように言うアスランに、キラは何だか泣きたくなった。


――――――― 台詞がくさ過ぎ 優しすぎるよ、アスラン・・・・・・・。


いっそその優しさにすがり付いて暴露してしまいたい。・・・自分の、裏切りを。

けれど、やはり言う事は無いのだ。それは先ほど、固く決意したばかりなのだから。


だからキラは笑って、嘘をつく。


「ありがとう、でもどうってこと無いんだ。ただ、ちょっと魔王特有の初仕事をどうすればいいのかな・・・って考えていただけ。」

アスランはそれに怪訝そうな顔で「初仕事?」と聞き返した。


「正式には初仕事じゃないけどね。僕が実際に、直接するのは初めてだから。」


つまり、代理としてパトリックが何度か行ったことのある仕事なのだと言外に言われ、アスランは何だか気まずくなってゆっくりとキラから手を離したのだった。


「・・・へぇ。どんな?」


アスランが自分から仕事の内容へと気をそらし始めたことを感じ、キラは内心で安堵しながら何気なく続けて言う。


「宮廷人の地位変動申告。・・・・・・・・・・・・おめでとう、アスラン。」

「・・・・・・・・・・・・ぇ?」


一瞬、何を言われたのか解らなかった。

しかしキラはアスランのそんな様子にくすくす笑い、続けて言う。


「第十位アスラン・ザラ。第六位への昇格を申し渡す。」

レノアさんとムウさん、降格しちゃったねぇ、と暢気に言いながら、キラは固まっているアスランをニヤニヤしながら見ていた。


 そして、アスランの頭から完全に「キラの涙」という発想が吹っ飛んだを感じ、キラは安堵と更なる罪悪感を感じたのだった。



「しっかしココ・・・・・・。」

「・・・・・・・え?」


数分後、怪訝そうにそう呟いたキラの声で漸くアスランは我を取り戻し、小さく聞き返した。

しかしキラがそれに返す前に、あぁ、と一人納得して口を開く。


「この山一帯だけ、あんまりいい気がしないよな。なんでだか知ってるか?」

「・・・・・・・・・・・ううん。アスランは?」

「いや、僕も知らない。母上も知らないって―――・・・。どうかしたのか、キラ?」


途中から考え込むように俯いてしまったキラを怪訝に思い、アスランはそう問い返した。

するとキラはしばらく考え込んだ後、にやりと笑って答えたのだった。


「いや、呪いか何かかかってるのかな〜って思って。アスラン、探検してみる?」

「嫌だ(即答)」


即答したアスランに笑い、キラは「まだ修行を続ける」と興奮した面持ちで告げたアスランと別れて、山を見渡せる上空へと上ったのだった。


 それから、山の全貌を見渡して思案げに呟く。


「嫌な気・・・・? あまり好ましくない力・・・・・? むしろコレは―――――――・・・・・。」




その山の名はサウズチ山。またの名を“アマクダリ山”と言うらしい。


「天下り山、ね・・・・・。」


意味深な別名を持つその山をじっと見て、キラは沸き起こった感情にわずかに戸惑いながらも、その場を後にしたのだった。






―――――――――天下り山・・・・どこか心地よい・・・・懐かしい・・・・とキラに思わせたその山は、不思議な存在感を持ってそこにそびえ立っていたのである。




(あとがき)
暗暗〜。シリアス〜。悩むキラ〜。

この状態のキラは最終話かその一話前くらいまで続きます。

しかも復活の仕方が・・・・・(ぶっちゃけ無理やりくさい

 あはははは、次回カリダママン(白)登場予定。

そして今回普通にアスキラだったことに安堵しまくり。(笑



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