―――――美しく澄んだ湖の中心に。 清らかに美しい少年が、目を閉じて一人水面に浮かんでいた。 時は明朝。 朝日が水面に反射し、彼の周りもキラキラと光っている。 その様が大変美しく、少年を探しにきた彼の友人は、動くことを忘れてただ呆然と魅入っていたのだった。 ―――それから、数分後。 今までピクリとも動かなかった少年のまぶたが、ゆっくりと開かれていった。 秀麗な顔に浮かぶのは、その少年の年齢にはそぐわぬ静寂をたたえた、美しき紫電の瞳―――・・・。 そして、彼は明るみ始めた空を見上げたまま、ゆっくりと唇を動かしたのだった。 「あぁ〜極楽娯楽。冷たくて気持ちいいよ。アスラン、君も入らない? ・・・・・・アスラン?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・キラ・・・・・・・・・・。」 僕の感動を返してくれ・・・・・・! その聖画に描かれそうな清純で美しい様子とは裏腹に出された、なんともおやぢくさい口調と言葉に、アスランは一気に気が抜け、わずかに涙を浮かべてそう呟いたのだった。 仲間「で、何? どうかしたの、態々こんな早くに。」 キラは水にぬれた体を起こし、そのまま水面に立って体を伸ばしながらそう言った。 今はまだ、朝日も昇りきらない時間なのだ。なのに態々城の外にある湖にまでキラを探しに来たのは、何故。 そう聞いたキラに、アスランは一瞬躊躇ったあとに口を開いたのだった。 「キラ、一週間ほど休暇をもらっていいか・・・・・?」 水面を歩きながらそれを聞いたキラは一瞬動きを止め、アスランをまじまじと見る。 キラがパトリックから自立(?)して早数週間。 その間キラは嫌味のように仕事に追いやられ、寝る時間も惜しむほど多忙であった。 それはまた、彼を補佐することを決めたアスランとムウも同じことで。 漸くその折り合いがついた日の次の明朝、こうして躊躇いながらも言ってきたということは、実は前々からそう言いたいのを抑えていたということなのだろう。 キラは途端に申し訳ない気持ちになって、無意識に濡れそぼった髪をかきあげた。 その顔には、自分の内心を悟らせないように困ったような笑顔を浮かべている。 アスランはその一連の動作を頬を染めて見ながら、キラの返答を待ったのだった。 正直言えば、まだアスランには傍にいて欲しい。 だが、どうやら自分は甘えすぎていたようだ。 アスランやムウのことを考える余裕が無かったというか・・・。漸く出来た“仲間”だから、手伝うことを了承したのだからと彼らを気遣うと言うことを無意識に頭から除外していたらしい。 キラは内心で苦々しく思いながら自分への侮蔑を吐き、漸く口を開いたのだった。 「そうだね、仕事も粗方片付いたし。いいよ。」 アスランは途中、キラの内心を察したのかどうかは知らないが、慌てたように口を開きかけたけれど、キラが笑って口を開いたことで遮られてしまった。 だがそれでも今は他のことに気を取られているらしく、珍しくそれ以上は言わずに素直に休暇を喜んでいたのだった。 それが、三日前のこと―――・・・。 「なぁにぶーたれた顔してんだよ、お前は。」 「・・・ぶーたれた顔なんてしてません。」 今日も今日とて執務に励んでいた所、傍らでキラを補佐していたムウが、唐突にそう声をかけたのだった。 それに書類から顔も上げずに無表情で返したキラ。 それの何処がぶーたれてないって言うんだ、とムウは内心でため息を吐き、キラの頬を両手で掴み、強制的に顔を自分の方へ向けさせた。 キラは相変わらずの無表情のままムウを見上げ、何事かと視線だけで問う。 その様は年齢にこれ以上なくそぐわなくて、ムウは思わず眉根を寄せてしまったのだった。 「お前、自覚あるのか? ・・・・・・・表情、なくなってるぞ。」 その言葉に、キラははっと息を呑んだ。 感情を殺すことを嫌がっていたはずなのに、数十年もそれを繰り返していた内に、いつの間にか癖になっていたようだ。 キラは舌打ちをしたいのを我慢して、手に持っていたペンを置いて顔を覆った。 それから、手を離したムウが見守る中、キラは呼吸を繰り返し、数秒後に漸く顔から手を離したのだった。 そして、俯いたまま呟くように言うのだ。 「・・・・・・・・・・・・・・・物足りない・・・。」 と。ムウはその言葉に軽く目を見張った後、小さく笑って返した。 「・・・・・・俺がいるだろ?」 「ムウさんは仲間であって友達じゃないじゃないですか。」 「・・・・・・・・・・・・ここは悲しむところか?」 「さぁ?」 「・・・・・んじゃぁ、俺とも友達になってみるか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・歳を自覚してください。」 その言葉に撃沈したムウを見、キラは彼のさりげない優しさに苦笑した。 ムウとのそんな掛け合いによって、自分の調子が戻ってきたことを自覚し、キラは意識したものではない、自然な笑みをムウに送ったのだった。 それを受けたムウはふ、と安心したように笑い、キラに視線を合わせて言う。 「あいつ、悩んでいたみたいだ。どうせまだ悩んでるだろうし、お前、アドバイスしてやりに行ってみただろうだ?」 「・・・・・・悩む? てかムウさん、アスランの休暇の理由知ってるんですか?」 ムウの口ぶりがそうだと告げていたので確認してみれば、彼は苦笑しながら頷いた。 それから、キラの頭にその大きな手のひらを当てて言う。 「自分の無力さに歯噛みしていたからな。粗方修行でもしてるんだろ。」 と。なるほど、だからあんなに休暇が長かったのか。 そう思いつつキラが眉根を寄せていると、ムウがキラの頭を乱雑な仕草で撫で、それから音を立てて背中を叩いた。 なんなんだいったい、と顔を引きつらせてムウを見れば、彼は「世話がやける」とかなんとか呟いて自分の頭をかいた後、キラにニヒルな笑いを浮かべて言ったのだった。 「ここは俺とバルドフェルト隊長に任せておけ。簡単な執務はやってやるからな。」 そう言って、目を見開いてこちらを見るキラの額に、相変わらずの表情のままデコピンを食らわす。 頭をのけぞり額を抑える子供に、ムウはニヤニヤ笑って続けて言ったのだった。 「行ってこい。」 と、それだけ。 キラは痛む額と背中と頭を撫でて、しばらくしてから漸く口を開いた。 「ムウさん・・・・・・・・・」 「なんだ?」 「幼児虐待です・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 その言葉に一瞬動きを止めたムウを見、キラは耐え切れなくなって声を上げて笑うと、体を宙に浮かせながら呟くように言った。 「ありがとうございます・・・」 背中を押してくれて、ありがとう。甘やかしてくれて、ありがとう。 感謝の意を呟くと同時に、キラの体はムウの視界から消えたのだった。 ムウはそれを見送って、静かにため息をこぼした。 何気なくキラから受けた拒絶が、少し悲しかったのだ。 でも、確かに年齢差を考えれば「友達」というのは無理のような気がする。 どう頑張っても、キラがとても立派だと解ってはいても、自分はキラを甘やかすのだろう。 そしてそれは決して対等の関係ではなく、言い方を悪くすれば自分が上から見下ろすような関係なのだ。 それは、今の状態ではどうしようもない感覚。もっとキラが歳を重ねたらそれもなくなるだろうが、まだ子供にしか見えないキラを相手に対等、というのは、自分には無理なのだ。 顎を撫でてキラが先ほど見ていた紙面に視線を向け、しかし文字を追うわけでもなくただ見ながら、なんとなくアスランが羨ましいと思った。 キラにあんなに必要とされる存在。・・・そして、キラに感情を戻してやった存在。 全く嫉妬を感じないと言ったら嘘になる。だが、それも自分の不甲斐なさと、アスランの純粋な子供の感情の結果なのだ。 ムウは鼻から息を吐き出し、手頃なソファーに腰掛けて背を預けた。 ――――まぁ、今の所は“仲間”でいよう。精々足手まといにならない、優秀な仲間でいよう。 そんなことを思いながら、ムウは「俺も落ち着いたら修行ガンバロっかな。」と呟き、徐に立ち上がったのだった。 自分と同じく魔王代理の執務をこなす、 (あとがき) 久々の更新!! しかもなんかアスキラ←ムウ!? あははははははは(滝汗 次はアスキラでっす! |
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