温かい紅茶を注ぐラクスを穏やかな顔で見ながら、キラは声を潜めるように言った。

「ラクスが元第二補佐官、シーゲル・クライン氏のご息女だってことは皆もう知ってるね?」

 そう、以前キラとラクスが好々爺と化したシーゲルの話で盛り上がっていたとき、話が見えなくてアウルが「シーゲル」とは何ぞや、と聞いたから、素直に答えてやったから、覚えているはず。

 彼らは案の定しっかりと記憶しているようで、それがどうした、とでもいいたげな顔でキラを見ていた。

やっぱり頭がいいんだよね、と思いながら、キラはまたラクスに視線を戻して、確かめるように言った。

「ラクス?」

名を呼んだだけだが、その意図はしっかり伝わっていたようで、彼女も穏やかに微笑んで言った。

「よろしいですわ。もう何百年も前のことですし、今更誰が知ろうとなんら支障はありませんもの」

 と。

その問答に訝しげな視線を自分に向けていた彼らに視線を戻し、キラは人差し指を立ててそっと唇の前にかざした。
 まるで秘密の話をしようとしているようで、アウルとステラは好奇心で目が輝き始めた。

 それを面白そうにみながら、キラはおもむろに言い出した。



違い





「実はラクス、シーゲル氏の養子なんだよ。実子じゃないんだ。」

そして更に続ける。
「しかも元人間、なんだよ。」

と。それの何処が隠すべきところなのだろう。

 人間から魔族になる者は別に少なくとも無いはず。
この間聞いた話では、つい最近謀反を起こした者は、人間から魔族になり、かなり高い地位に立っていたという。

 別にそんな隠すことでもないだろう、と思ったが、キラは彼らの思っていることを正確に把握しながら、口元にあった人差し指をそのまま左右に揺らして「ちっちっち。甘い甘い。」と言った。

 それから不意にまじめな顔になり、続ける。

「ラクスが魔界に来た時は、まだ魔界の住民は種族にこだわっていたんだ。
“純潔こそ高位。混血や転生は下劣”ってね。そんな風潮だったわけ。
でも、僕はラクスを針のむしろに座らせるつもりなんて毛頭なかったから、当時結構な地位についていてそれでいて懐の深いシーゲル氏に相談してみたんだよ。
結果は二つ返事でOK。その時すでにラクスは結構な魔力を有していたし、跡取のいない事を悩んでいた彼は娘としても、優秀な跡取としても、ラクスの存在を嬉々として受け入れてくれた。
ラクスは身を守る為にも、密かにクライン家に養子入りしたんだ。」

 当時は今ほど縦社会の制度が整っていなくて。無秩序で反乱なんか当たり前だったし。
ココまで魔族の性質を変化させるの苦労したんだからね〜。と、一種自分勝手とも取れる言動に、話を聞いていたもの達(ラクス含む)は、目を見開いた。

 まさか魔族の性質―――自分より上位にあるものに惹かれ、逆らう事は本能が拒絶する、といった―――が、人為的なものだったなんて。

ラクスでさえ、今始めてその話を聞いたのだ。

 らしくなく、驚きで言葉を失っている。

そしてふと我に返ったように、言うのだ。

「まさか、そんな強行策をとったのって・・・」

わたくしの、為なのですか・・・?そういおうとした言葉は、キラの穏やかな笑みによって消されてしまった。

 それが初めて会ったときの笑顔と重なって、ラクスは嬉しくて涙がこぼれそうになるのを必死で抑えていた。

 史上最高の魔力を有していて、賢帝と名高く、今までに無いほど長く玉座に座りつづけているそんな彼が、こんな馬鹿な行動をとるなんて。・・・たまらなく、彼が愛しかった。

結果として理性ある王が一番上にいるからそれが非常に良く機能しているが、一歩間違えていたらどうなっていたことか・・・。

 だからそんな賭けまがいのことまでしてくれた目の前の仕えるべき人に一言、ラクスは消え入りそうな声で、「ありがとうございます、My lord・・・」と、言った。

その短い言葉に、言葉には言い表せないほどの感謝と、愛情を添えて。

 ステラはそっとキラから離れ、ラクスの横に座ると、コトン、と彼女の肩に頭を預け、紅茶をずずっとすすった。

 ステラなりの優しさを嬉しく思いながら、ラクスはにっこり笑って言った。

「では、出会いの話からしましょうか」

と。

 キラも穏やかに微笑んで頷き、密かに涙を浮かべていたスティングとアウルを珍しそうに見て、「・・・意外に感受性の高い子達だったんだね、君らも」などと失礼なことを思いつつ、話しはじめた。



 それは、キラが人間でいう12、3ほどの姿をしていた頃。
努力の結果ある程度自由を取り戻した彼は、今や第六位まで位を落としたパトリックら頭の固い頑固じじいどもの目を掻い潜っては、人間界で人間との触れ合いを楽しんでいた。

 そんなある日。やはり人間界に来ていた彼は、旅の一座に出会った。

「うわぁ、綺麗だなぁ・・・」

彼らは綺麗な、ここら辺の地方では見かけない衣装を纏い、華麗な芸を披露しては、観衆の拍手と歓声を浴びて、とても輝いて見えた。

 だから人間は目が離せないのだ。魔族にも才があり、光り輝く者達は沢山いるが、人間達の輝きには勝らない。常に進歩し続け、短い生を精一杯楽しもうという魂の輝きが、魔族のモノとは比べ物にならないのだ。

 キラは穏やかな、嬉しそうな目をして、じっと演目が終わるまで彼らを見つづけていた。

 そして、全てが終わり、観衆も散り散りになってさぁ、僕も帰ろうか、と思ったその時、何者かがキラの腕をぐいっとつかみ上げた。

 反射的に相手を灼熱の炎で包みそうになったが、なんとか抑えて自分の腕を逃がさない、とばかりに掴んでいる相手を睨みつけた。

 しかしその相手の目をみてついついたじろいでしまった。

外見的には自分より2・3年上であろう人物が、緑色の瞳を輝かせて自分を見ているのだ。

・・・・・・なんか、敵愾心を持ちにくいコだな・・・。

とひるみながらも思っていると、少年はきらきらした目のままキラに言った。

「俺、トール!君さ、ずっと嬉しそうな目で俺らのこと見てたジャン、ちょっと見てかない?」

というと、そのまま腕を引いて先程まで旅芸人一座が芸を披露していた天幕の裏に連れて行った。

 最近ではそんなことはなかったのに、なぜかなされるがままで、反抗も反論も出来ない。
それもトールと名乗る少年の人徳だろうけど、このゴーイングマイウェーどうにかしてよ・・・と思いながらも、キラはトールを冷静に観察していた。

 何十年にも渡る訓練の賜物だ。キラは、ちっとやそっとの事では動揺も驚愕もしない。周りの人に怪しまれないように顔には出すようにしてはいるが。

 話を戻すが、どうやら先程の発言といい、今トールの着ている衣装といい、彼は芸人一座の一味らしい。

 しっかし何が目的なのか・・・

そんなことを考えていると、急にトールが立ち止まり、天幕の中に促した。

薄暗い天幕の中に明るい話し声が響いている。何なんだ、と思って後ろから入ってきたトールを振り返ると、トールはキラに一つウィンクを送り、先程からこちらに気付かず談笑を続けている者たちに声をかけた。

「お〜ぃ、ミリィ、ラクス。踊り子連れて来たぞ〜。」

と。

 踊り子。

踊り子って・・・

「誰の事言ってんの・・・?」

まさか、まさかねぇ。

「もちろん、君だよ。いやぁ、一目見てびびっときちゃってさ。君運動できるだろ?頭もよさそうだし。大丈夫、上手くやれるって!」

マジで?

「マジで。」

心を読んだわけでもなさそうだが、しっかり内心の台詞に返事を返された。

その返答に頭を抱えそうになりながらも、キラは素早く回れ右をして、この場から逃げ出そうとしたが、 それは失敗に終わった。

 いつの間にか天幕の唯一の出入り口に、少女二人がとうせんぼをするかのように立ちふさがっていたのだ。

 いくらなんでも少女二人を無理やり押しのけて逃げるだなんて真似はしたくない。

しょうがないので、キラはため息をついて半眼でトールをにらめつけた。

 するとそれにひるんだように一歩後ずさったトールだが、気を取り直したように顔の前で手を合わせ、言った。

「頼むよ!!この街の近くにミリィの故郷があるんだ。俺達近いうちに婚礼の儀を上げるから、彼女のご両親に挨拶に行きたいわけ!!でもその間一座の花形を休ませるわけには行かないし・・・行ってすぐに帰ってくるから、たぶん3日もかかんないって!お願いだ、その間だけでもミリィの代役をしてくれ!!!」

と。もはや懇願に近い声だ。

 婚礼の儀。確かに花嫁の実家に挨拶に行くのが慣例だ。しかも、よく見れば目の前の少女二人は、トールの言うようにこの一座の花形、「胡蝶の舞」をやっていた人物たちだった。

 茶色の髪の少女は羽のように踊り、すっごく可憐な様子だったし、布で髪を覆っている隣の少女は、美しい歌声で観衆を魅了していた。

そんな人物の、代役をしろと?

 踊り子、と言っていたからには、茶色の髪の人物が「ミリィ」なのだろう。あんな可憐な演舞、出来るわけ無い。

 その三日間だけ、公演を中止する事は出来ないのか、と問うたが、返答は否。

あんなに喜んで見に来てくれたのに、休んだら申し訳ないだろう、とのこと。

まぁ、ご立派な芸人魂ですこと。

 と、どこかの夫人ヨロシクキラが内心で呟くと、ミリィが漸く口を開いた。

「お願い、次この付近を通るのは、何年、いえ、何十年後になってしまうわ。機会を逃したくないの。出来る限りお礼はするつもりだから、どうか引き受けて!」

と。全く、ココまで言われたら断れない。
 どうでもいいが、もうちょっと威圧高だったり偏屈だったりしたらもっと反抗できたのに。

なんたってこのカップルはこんなにも憎めない雰囲気をかもし出しているのさ・・・。

 はぁ、とキラがため息をつくと、トールとミリィは一気に落胆の表情を見せたので、キラはおかしくなって笑った。

 似た者夫婦だ。さぞかし相性がいいんだろうな・・・。と思いながら、キラは微笑んで言った。

「いいよ。そこまで言うなら、引き受ける。その代わり、僕だって恥を書きたくないからみっちり稽古してね?」

と。それを聞いて一気に目の前の3人の顔が明るくなったが、ふとトールが疑問に思い、聞いてみた。

「“僕”・・・?って、まさか、男じゃないよな?」


マジで首をしめて殺してやろうかと思った。


 その後、固まった雰囲気を取り持つかのように、ミリィがことさら明るい声で「さぁ、時間はないのよ!練習練習!!」といい、外見に似合わない地獄をみそうなスパルタ教育が幕を開けた。


 その間、髪を隠していた少女が「ラクス」と言う名であることを知ったが、髪の色をかたくなに明かそうとはしないのが、何故なのか知る由もなかったし、知ろうともしなかった。


 翌日、一座の者達に見送られながらも、トールとミリィは故郷へ帰っていった。

 それからしばらくはラクスと演目の打ち合わせをし、演舞の練習をしたりしながら、午前を過ごした。

 そして午後。人のもっとも集まる時間帯。昨日とは団員が一部変わった芸人一座の芸披露が、幕をあけた。

 跳躍、玉乗り、火吹きや綱渡りなど、キラ達の出番までは結構時間がある。その間、彼らは衣装を合わせ、化粧をするのだ。が、

「いい、化粧はいい!!」

「あら、なぜですの?キラのその黒い髪と黒い目には、真っ赤な紅がとっても似合いますわ。」

「全っ然!僕男だよ!?」

「あら、そんな格好とそんな顔では、全くそうは見えませんわよ?」

面白がってる、絶対面白がっている、このコ!!キラは涙目になりながらも、昨日一日で大体把握したラクスの性格には、絶対勝てない自信があった。

 さっきだって同じように、女物とも言い切れないが、男物とも言い切れない東洋の服を問答の末着せられた。

 よくこんなモノの着付け方がわかったな、と感心しながらも、同じ意匠の服を着るラクスに見とれそうになったのは、この際内緒だ。

 で、結局は折れてラクスに言われるがまま目を閉じ、化粧を施されているのだ。

 ふざけんな、こんなの絶対アスランやムウさんには見せられない・・・!当時すでに第二位と第三位に居座っていた人物の顔を思いうかべながら、キラは情けない思いを味わっていた。


 ふと、目を開けると目の前の鏡にラクスの姿が映っていた。

それをなんとはなしに見ながらも、キラはぼんやりと呟いた。

「君はなぜ、髪の色を隠そうとしているの?」

と。ラクスはそれに驚いたように目を瞠り、気まずそうに目線をそらした。

 しかしキラはかまわず続けた。

「綺麗なのに。その、桃色の髪の毛。」

と。その言葉に今度こそ言葉を失ったラクスは、ふとキラの前にあった鏡を見てみた。

 そこには、布から一房だけはみ出る桃色の髪が映っていた。

それをとっさに抑えながら、ラクスはキラから距離をとって目線をそらしたまま言いはなつ。

「嘘でしょう。本当は気味が悪いのでしょう?魔族なのだと、一瞬でも思ったのでしょう!!?」

 と、弾劾するかのように。

そう、まれにいるのだ。時空の穴に偶然入り込んでしまった魔族が、人間界にたどり着いてしまうことが。

 彼らは力をもち、人間界にいてもしばらくは老いないため、常に奇異の目でみられ、迫害される運命にある。

そして、珍しい色彩を持つ者も、たとえその身に魔界の血が一滴たりとも流れていなくても、迫害される運命にあるのだ。

 魔族もまた、ほとんどの者が人間には現われない色彩をもつ、と言うだけの理由で。

 キラは人間界に降りるたび、魔界に戻る術を無くして彷徨っていた同胞達を帰して上げていたが、まだ、全てを救うには至っていなかったようだ。 キラはラクスの様子を静かに見ながら、そう思った。

同時に、

 この子も一緒なのだ・・・自分と。周りから受け入れたくない事を強制され、それが正しいとさえ思ってしまう。

そうも、思い至る。

 魔王に感情は不要であるとされ、それが当然なのだと、必死に感情を殺そうとしていた自分。

 周りに奇異の目で見られ、いつしか自分が異形なモノだと思い込んでしまったラクス。

 力がありすぎたから。

 他とは違いすぎたから。

内容はちがくても、性質は同じなのだ。

 とても、馬鹿だった。けれど、自分は救われた。感情を表に出していいと、はっきり言ってくれた人がいたから。

でも、目の前の今にも泣きそうな少女は?

 誰にも、言わなかったのだろう。今まで、自分の髪の色のことを。その反応を見れば痛いほどよくわかった。

「魔族だなんて、思ってないよ。君からは、力が全く感じられない・・・。」

ああ、もしかしたらこれでミリィ達との約束が守れなくなってしまうかもしれない。

 でも、いいや。一人でも、僕だけでも、彼女を認めて上げたい。

キラは、人間達に奇異の目を向けられないように隠していた本来の色彩を、その身にまとった。

 黒だったはずの瞳と髪はもう跡形もなく消えうせている。

その代わり、彼が今纏うのは、紫電の瞳と明るい茶色の髪。

瞳の色が異常なだけでなく、それを“変えていた”という事にも驚きを隠せないラクス。

「何故なら僕が本物の魔族だから。だからわかるよ。君は人間だよ。だって、同じ力を感じない。
ただ純粋に、綺麗だと思うよ。桃色の髪は、魔界でも珍しいんだ。あぁ、銀髪の知り合いもいるんだよ。」

そう言いながら、ラクスに近づき、そっと髪を覆っていた布を取り除いた。

そして広がった髪を指で梳きながら、もう一度言う。

「綺麗だ・・・」


次の瞬間、ラクスはキラに抱きつき、火がついたように泣き出した。
 ずっとためていた悲しみを、やっと取り除く事が出来た事と、魔族とわかっても自分を拒絶しないラクスに、キラはほっと胸をなでおろした。

そして粗方涙が収まってきたのを感じ、ラクスの頭を撫でながら、キラは言った。

「そろそろ出番だよ、ラクス。どうする?今回だけ止めにしてもらう?」と。

するとラクスはキラの腕の中で首を横にふり、すぐに顔を上げた。

先程とは打って変わって、その瞳には決意が秘められているように感じた。

「いいえ、キラ。出ますわ。しっかり、三日間。でも、その後は貴方にお願いがあるのです。聞いていただけますか?」

そのラクスの毅然とした様子に安堵したキラは、穏やかに微笑んで言った。

「もちろんだよ、ラクス。僕に出来ることなら何でも言って。」

と。

 それからは、大変だった。赤く泣き腫らした目を隠すために、ラクスは真っ赤な紅を目の周りに塗り、唇にも塗った。

 キラも同じ目にあった。

それから涙で濡れた服を大慌てで(途中魔術も使って)乾かし、無事舞台に立つことが出来た。

 キラは化粧の関係上、黒髪の方が良いだろう、と思ったので髪は黒にまた戻したが、瞳は紫のままでいた。

 なぜなら、ラクスが髪を高い位置で結い、かんざしを付けたが、布で髪を覆う様子が一切無い事に気付いたから。

彼女の決意に敬意を示し、そのままで舞台に立ったのだ。

当然、彼らが観衆の前に立ったときは、反応が凄まじかった。

 罵声を浴びせる者、石を投げてくる者、大勢いた。

それにひるみそうになるラクスをそっと抱きしめてから、キラは手首足首につく鈴を軽やかに鳴らし、前に進み出た。

 その身から漂う威圧感に、周囲は動けなくなる。

キラはそんな様子を一瞥しただけで、ラクスに視線を送った。

 同時に頷き、響く歌声。

それに乗る踊り子の鳴らす鈴の音。

それから始める演舞「胡蝶の舞」は、今までとはまったく違うものであった。

 東洋の真っ白な袴のようなモノを纏い、更に帯や腕にまく羽衣のいたるところで、ガラスで出来た雫型のビーズがゆれている。

 目元と口元の紅が、本人達のもつ色彩と絶妙な調和を持って、妖艶な雰囲気をかもし出してした。

 歌い手の歌う歌は清廉で可憐。透き通るような声に、わずかに哀愁が漂っていて、歌の魅力を最大限引き出しているのがわかる。

 そして、踊り手。

昨日までの可憐な少女はどうしたのだろうとか、そんなことはどうでもいい。

 歌の変化に相まって、まだ幼い少女は、妖艶な美女にも、夜叉にも、可憐な乙女にも見える。動く度になる鈴の音が観衆を違う世界に導いているかのようだった。

 時に凛々しく、時に恐ろしく。

踏み込む足は軽やかかつ大胆。うごめく手は誘っているかのよう。優雅で、可憐で、・・・・・・・目が、離せない。



 歌い手の声が途切れるのと、鈴の音が鳴らなくなるのはほぼ同時だった。

 そして数瞬後、今までに無いほどの拍手と歓声がその場を満たした。

 キラはラクスへとかけより、涙でにじんだ顔に歓喜の表情が浮かんでいるのを見て、穏やかに微笑み、ラクスを抱きしめた。

 そして背中をぽんぽんと叩いて言う。

「お疲れ様。とても、素晴らしかった。」

と。そしてラクスの頬にそっと唇を落とし、穏やかに微笑みかけた。

 ラクスは、その慈愛に満ちた笑顔を一生忘れる事は出来ないだろう、と悟ったのだった。



3日。あっという間だった。意外にも全くこない嫌がらせに、いつも通りの公演を続ける事が出来た。

 一座の人たちも、キラとラクスの本当の姿を見ても、微笑んで容認してくれた。聞けば、ラクスの髪の色はもうとっくにばれていたらしい。

 それの事実にまた嬉し涙を流すラクスの背をなで、キラは戻ってきたトール達と一通り話をしたあと、「またいつか」と言って別れようとした。

 一座の者達に残るように進められたが、自分にはやらねばならない事があるから、と言って。

しかし別れ際、ラクスに引き止められた。
 彼女の髪は、もう布で覆われてなどいない。

また、髪に指を絡ませながら、キラは「また会おう」と言ったが、ラクスはそれでも引き下がらなかった。

 疑問に思って聞けば、「約束を聞いてくれると、おっしゃいましたわ。」と言う。

 確かに言ったので快く訊ねてみると、彼女は驚くべき事を言い出したのだ。



「わたくしを、魔界に連れて行ってください、と。キラの役に立ちたかったのですわ。幸い、転生したあとは随分と素質があったようなので、このような席につくことが出来たのです。」

 そう言って、ラクスは紅茶を一口口に含んだ。

やはり冷めてしまった紅茶はあまりおいしくない。

それにちょっとむっとしながら、ラクスはキラに視線を置いた。

 彼も穏やかにラクスを見ている。

見渡せば、また涙ぐんでいるスティングとアウル。
そばに寄り添うステラ。

 今はこの場にいない、長年生きていたからこそ出会えた友人、仲間達。

 本当に、キラにはいくら感謝しても飽き足らないきがする。

せめてもの恩返しになればと、キラのためになら何でもするつもりだ。
 きっと、今この部屋に向かっている同僚も、同じ思いのはず。

視線を戻せば、キラはドアを見て微笑んでいた。

 その微笑みをみて、ラクスも胸が温まったきがする。

貴方の幸せが、わたくしの幸せなのです、My Lord・・・。




(あとがき)
キ・ラ・ラ・クvなんかやっとって感じっス。
例によって長いっすね〜。すんません、ホント。



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