「23・単独行動」の続編です。先にそちらを読まないと内容がわからないと思います。 天地、戦争・・・?何万年も前、人間界さえも巻き込んだ、100年にわたるあの大きな戦争。 それを、再びすると、そういっているのか・・・? 依存「貴様、いい加減にしろ・・・。」 もはや、王として通していた口調もどうでもいい。この男、よりにもよって・・・! 魔力を開放し、その圧倒的な力に失神しそうになる男を無理やり起こしながら、キラは言った。 「起こしてみるがいい。一世紀ともたない王位が続いたせいで能力も資源も弱質化した神界と、1000年以上続いた王位のお陰で強い能力と豊かな資源をもつ魔界。どちらが勝つかは目に見えている!!それなのに、貴様は己が私怨のためだけに多くの犠牲をだすつもりか!! 貴様なんぞに、王たる資格なんぞない!!」 その怒鳴り声とともに、すぐには死なない、だが確実に近いうちに死んでしまう大きな傷を、彼の心臓付近につけた。 いくら治癒にすぐれた神族といえど、力の弱体に加え、このような深い傷、そうそう治せるものではない。 だが、確実に譲位の時間だけは確保できる、そんな傷を。 そしてたぶんこれが、両界の未来を明るいものにしていく第一歩であると、キラはある男の存在を思い出して、そう思った。 それから一切反論できなくなった男を完全に闇に沈め、神界に送りつけてやったのだった。 それと同時に、破れる結界。 自ら解いたわけではない。外側から強引に破られた結界に、キラは眉を顰めた。 そして、勢い良く開くドア。 「キラ!!」 そこに視線をやり、珍しい状況にキラは怒りも忘れて呆然とした。 そこには、アスラン、ラクス、ムウにマリュー、ナタルやイザークとディアッカまでいる。 他にも、彼らの優秀な使い魔がざっと10人は。一つのドアに群がる、そんな珍しすぎる彼らの集合に混乱してしまいそうだった。 「な、何・・・?」 良く見れば、全員が全員、肩で息をし、顔には汗が浮かんでいる。 ぶっちゃけ初めて見るかもしれないそんな彼らの様子に、キラはますます混乱しそうになった。 「こ、この馬鹿!!!!!!」 すると、アスランが怒鳴りながらこちらに近づいてきた。そして勢いよく抱きつく。 「なんだ、どうしたんだ!何があった!?」 「キラ、大丈夫ですの!?」 安否を気遣うもの、説明を求めるものにもみくちゃにされながら、キラは今度こそ混乱した。 なんだか皆ありえないほど必死だ。焦ってるし、顔も青いし、なんか泣きそうだし。 キラは混乱を治めるため、一番手っ取り早い行動をとることにした。 「落ち着け。何があった?」 と、命令口調で言う。 同時に治まる混乱。まだ皆肩で息をしているが、段々落ち着きを取り戻したように、キラから体を離していった。 「・・・なにがあった、だと?それはこっちの台詞だ!!」 そして、アスランが泣きそうに顔をゆがめて言った。 それでも首をひねっていると、アスランが呆れたように手を額にあて、「あ〜・・・」と言った。落ち着きたいらしい。目を瞑り、そのままの体制でしばらくすると、漸く口を開いた。 「お前、外、見た?」 と。なんなんだ、と思いながらも、キラは閉めてあったカーテンを、開けようと窓辺に行こうとしたのだが・・・包囲されていたので魔力であけた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わぉ・・・。」 窓の外を見た瞬間、キラはもう、笑うしかなかった。 なんかもう、すごい。とにかく凄い。 なんと言っても外の景色が見えないのだ。 窓がくもっていたり、膜が張ってあったりしているのではない。 暴風雨で、常に叩きつけられる水滴により、窓が透明ではなくなっているのだ。 思い出すのは1000年以上前の事。過去一度、このような状況にしてしまったことがあった。 理由は簡単、“感情の爆発”。つい先程も、あまりにも愚かな男のせいで、ブチギレたのだった。 「あ〜・・・」 キラも、無意識にアスランと同じような体勢になり、意味も無くうめいたのであった。 するとラクスが、まだ心配そうな、青い顔で言ったのだった。 「こうなる直前、私たち、貴方の感情の波にさらされましたの」 怒り、嘆き、悲しみ、そして罪悪感・・・。言葉ではない、気を抜けば飲み込まれそうになったその感情の波に、“誰”のものだったのか、本能で察した者たちが、訳も無く不安に駆られてキラの元に集ったのだが・・・彼のいる部屋には結界が張られて、彼の様子をうかがうことができなかったのだ。 だから一応ドアの前で数分待ってみることにしたが、その間に、明るかった空は尋常で無い速さで暗くなっていき、一分としないうちに暴風雨が確認できるようになった。 しかも、各使い魔までが主人の下に集まり、城下の状態の報告を始めたのだ。 曰く、「城下は城から見える状態よりもひどい。地震や山崩れ、川の氾濫も起こっている。皆住処に篭って不安がっているし。どうにかしてくれ。」 と。 今ではほとんどの者が、このような状態が何故起こるのか知らない。現に、かなり古参であるはずのラクスやマリューたちも「何事か」と怪訝そうな顔をしているばかりだった。 だが、キラの即位当時からいたフラガとアスランは、一瞬で青くなった顔を見合わせ、なおかつ声まで合わせて言ったのだった。 「「キラだ!!」」 と。 それから二人で我武者羅に結界を攻撃し始める。 それは、途中でラクスとマリューによって止められたが、早くキラの元へ行かなければ、という思いばかりが募り、説明を求められても上手く答えることが出来なかった。 そして、何とか口にした言葉は。 「昔・・・!昔も、同じことがあった!!あいつ、キラ!あの時あいつ、死にそうな顔で泣いてたんだ!!」 と、常に無いフラガの焦ったような声を聞きながらも、アスランは唇を噛みしめてうめいた。 アスランは、以前同じような現象が引き起こされた時、彼の側にはいなかったが、母から異常気象の仕組みを知らされ、後からも彼自身の口からその時の状況を聞かされていたのだ。 思い出すのは、苦笑いに隠れた暗い瞳。 そして、その瞳のまま言うのだ。 『いっそこのまま死ねればいいのに、って思った。・・・馬鹿だね、僕。』 その声が昨日のことのように鮮明に脳裏で再生されると、アスランは湧き上がる恐怖にも似た感情を必死に抑え、吐き出すように言葉を綴った。 「魔界と魔王は魂で結びついてる。魔王の感情は、そのほとんどが天候などの自然現象に反映されるらしい・・・!だから、この・・・、異常気象は!!!」 加えて先程のどう考えても“負の感情”。もはや、フラガもアスランも確信していたのだ。これが、キラの感情の爆発によって、引き起こされたことだと・・・。 ラクス達も、二人の様子と言葉、そして酷いとしか言いようの無い天候に、キラがどのような状態なのか、考えるのも恐ろしくなり、悲しくなり、顔から血の気を無くして、破壊活動を再開し始めた二人に加勢するように、魔術を練り始めたのだった。 だが、一向に結界が消えない。始め、ラクスが解除式という正攻法で解こうとしたのだが全く解除されなかったので、手っ取り早く破壊する事に決めていたのだが・・・。 吸収してしまうのだ。物理攻撃も魔術も。全てが無意味に終わってしまうのである。 それでもやはり諦めることなど出来ず、逆に更なる不安に襲われた彼らは、無意味に終わるかもしれない、けれども一番壊せる可能性の高い方法を実行したのだった。 曰く、容量オーバーになるまで、攻撃を叩き込みつづける、と。 結果、全員がほとんどの魔力を費やし、漸く結界が割れた頃には、すでに全てが終わっていた。 親愛なる王は静かだけれど怒りの形相でこちらを見るし、よく見れば床には血の池が広がってるし。 一応主が無事なのは確認したが、それでも今の外の状況を考えたら、心配で心配でしょうがなかったわけだ。 我も忘れ、陛下に抱きついてしまったのであった。 「なるほど・・・。いや、ごめん」 部下であり友人である彼らの説明を聞き、キラは納得しながら、苦笑を浮かべた。 どうやらあの短かったと思っていた時間のなかで、彼らはかなり四苦八苦していたらしい。 きっと無理やり結界を壊そうとしたから、何時の間にか結界の内と外で時間の流れ方が変わってしまっていたんだろうな・・・などと、かなりどうでもいいことを考えていると、アスランが怒ったような口調で、「で?」と聞いてきた。 思わず聞き返すと、彼は外――正確には外の見える窓――を指差して、「何があったのか正直に白状しろ」とか言い出した。 だが、キラは苦笑しただけで、その問いに答えはしなかった。 だってこれは、王同士の問題だったから。それに、たとえ忠臣だろうが、誰かに軽々しく口にしていい内容でもなかったのだから。 その笑みに何かを悟ったのか、アスランはため息をつくだけし、質問を変えた。 「なら、あの血溜まりは?」 と、今度は血に濡れた床を指差しながら。 キラは、それには素直に答えた。 「お客さんの血。心臓付近に穴開けたから、あんなに出てきちゃった。」 と、恐ろしいことこの上ないことを。 そして、ふと気付く。 ・・・客? ああ、そういえば、いたんだっけ。 客の存在など忘れ部屋に突入していたアスランとマリューが、同時に今回の訪問者を(今更に)思い出しながら、客の存在を知らないフラガは、キラに質問した。 「客?」 「うん。神王。」 「・・・・・・・・・客の血?」 「うん。神王の血。」 「心臓に・・・」 「いや、心臓付近に穴。たぶん近いうちに死ぬね〜ありゃ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っておい!!」 フラガとキラの問答を聞きながら、アスランも漸く事態の深刻さに気付き、顔を青ざめた。 同じように、(キラ以外の)ほかの面々も、皆一様に血の気を失ったような顔をしている。 「わかって、いらっしゃるのですか、陛下!!?」 いち早く、ナタルが我に返り、キラの意志を問うた。 わかっているのだろうか、それは事実上、魔王が神王を殺した事になる。 それが神界に知られたら・・・悪くて戦争、良くても魔界への更なる対立は避けられなくなる。 だがキラは微笑んで、言った。 「勿論わかってる・・・けど、大丈夫。僕も伊達に沢山人間界へ行っていたわけではないよ。」 と、意味深な言葉を残し、キラはいたずらっ子のように笑って、その場から去った。 早めに済ませないといけない用事があったのだ。 ところ変わって人間界。魔界と神界、双方をつなぐ唯一の世界で。 キラは、人間界と魔界をつなぐ門をくぐり、血のような夕焼けに目を細めた。 「今度こそ、神界の長い繁栄を祈りますよ。折角くれてやったチャンス、逃がさないでくださいね?」 デュランダル外交官長。 そう、神界へ向け、キラはささやくように言った。 きっと、彼はこの言葉を受け取り、ほくそ笑んで行動を開始するのだろう。 用事をすませ、すぐさま魔界に戻ったキラは、魔界の空に浮かびながら、地上を見ていた。 やはり、凄いことになっている。キラは自分の所業に情けない笑いを浮かべながら、暴風雨の中にいても全く濡れていない両手をかかげ、静かに呟いた。 「僕はもう、大丈夫。すごく心配してくれた人達もいたし、愚かな男も成敗した。逆に晴れやかな気分さえするよ。だから・・・鎮まって・・・」 そう、誰とはなしに、話し掛けた。 もう、即位したばかりの、幼くて勝手のきかなかった自分ではないのだ。 今ではもう、この気持ちと、異常現象の治め方も、心得ている。 キラは、穏やかに微笑みながら徐々に治まっていく天候を見守っていたのだった。 「しっかしすごかったな〜」 アウルがやけに感心したようにそう、言った。 それを聞いていたニコルは苦笑し、「そうですね・・・」と力なく答えた。 先程、上位実力者が集まり、一点に集中して攻撃を繰り返していたとき、ニコルはそれに加わらなかった。だが、彼もまた、猛攻を繰り広げていた彼らと同じように、体の大半の魔力を消費していた。 なぜなら、目の前にいる堕天使達を守るため、結界が破れるまでこちらも護法結界を張っていたから。 流石というべきか、強力な力を行使していた割に、周囲への被害は皆無といっていい状況だったが、その反動は凄まじかった。 いくら攻撃が吸い込まれるといっても、大量の魔力、術の発動、展開。直接的な被害は無かったが、その衝撃はかなりのものだったのだ。 だが、堕天使達は頑としてその場から離れようとせず、ついに折れたアスランがニコルに命じたのだ。 「衝撃からこいつらを守ってやれ」 と。結果、こんなになるまで魔力を使って守ってやっていたというのに・・・この、能天気どもめが。 ニコルが内心で毒づいていると、スティングが顔を引きつらせ、「悪かったな」と謝罪の言葉を吐いた。 それにまぁ、いいか。と思い直し、ニコルも先程の主たちの様子を思い出していた。 「俺、あんなアスラン初めて見たぞ。」 確かに。あんな必死で泣きそうなアスランは、僕でさえ初めて見ました。 「ラクスも、何時になく怖かったし?」 はい、・・・あれは、鬼の形相・・・いえ、なんでもありません。 「あんなに疲れているのも、初めて見たしさ〜。」 確かに、アスランに到っては最近一度だけ(銀と金の非常識な復活時に)見れましたが、他の方々のあんな姿は初めてです。 「あの急激な気象変化ってやっぱり魔界特有の現象なのか?」 いいえ、僕もあんなの初めて見ました・・・いつも大抵明るい曇り空です。 彼らのいう言葉にいちいちに心の中だけで返答しながら、ニコルはさっきからずっと陛下の執務室のドアを見ているステラに気付いた。 「ステラ?」 思わず名を呼ぶと、ステラはゆるゆると視線をニコルに向け、何を考えているのかわからない瞳で言った。 「なんで、あの人たちあんなに急に集まってこれたの?」 と。ニコルはそれに、反射的に「何故、そんなことを訊くんですか?」と質問でかえした。 ステラはそれに気を悪くするでもなく、答えた。 「・・・羨ましいと、思った・・・」 私はキラの異変に気付けなかったのに、と。 傍目から見ても、堕天使の子供たちは我等が陛下に依存している。それは、雛が初めて見たものを親と思い込むような、そんな感じに似ていた。 ニコルは、そのステラの面白くなさそうな顔に苦笑し、それから昔を思い出すような口調で話しはじめた。 「僕ね、初めてアスランの歳を聞いたとき、すっごく驚きました。」 突然何を言い出すのか、と三人の視線が自分に集まったのを感じながら、ニコルは話を続けた。 「その時すでに千歳を越してましたから。これは、いくら不老長寿の高位魔族でも、長すぎなんです。」 すると、それに三人が声をそろえてある単語を聞き返した。 「「「千歳!!?」」」 と。ラクスから「四桁近いそうですわ」と聞いていたので、きっとまだ千歳越して無いんだな、とか思っていたのだが・・・。 ニコルは三人の様子に不思議そうな顔をしながらも、答えた。 「?そうですよ、陛下なんてさらに一年早くお生まれになってるんですよ。確か今年で・・・1200くらい?」 途方も無い数字に、引きつった笑顔を浮かべるアウルとスティングは無視し、ステラに視線を合わせて話を戻した。 「で、ついつい言ったんです。『凄く長命なんですね、流石です』って。魔族の寿命は魔力の強さに比例しますから。 でも、アスランはそれに『俺の力じゃない』って答えたんです。 『陛下の恩寵だ』と。 ココからは僕の憶測に過ぎないのですが・・・。あそこに集まった人たち、皆位が高くて、魔力も凄く強くて、そして皆400年以上今の地位から下がった事がありません。 本来魔界の順位は結構頻繁に変わっていたんですけど、400年ほど前に第七位にナタルさんがついてから、第一位から第七位までまったく変動がなくなりました。そして彼ら全員、凄く陛下と懇意にしてらっしゃいます。 あ、最近第四位から落ちたクルーゼ(呼び捨て)は例外です。彼はよく陛下に付きまとってましたけど、決して仲が良いとはいえませんでした。 話を戻して・・・それとアスランの言葉を組み合わせると・・・、もしかしたら、陛下は、意識的にか無意識にか、その魔力を彼らに分け与えていたのかもしれません。 君たちも知っていると思いますけど、陛下は異常なほど魔力が強いんです。そんな人と、長い時間一緒にいれば、きっと力の一部が移っても不思議ではないと、そう思うんです。 そして、何時の間にか自分と同化していた陛下の力が、本体である陛下の異変に反応し、アスラン達に陛下の異変を知らせたのでは・・・と、考えています。」 これで答えになったでしょうか、とステラに聞くと、彼女はただコクン、と頷いたのだった。 「私、頑張る。キラともっと沢山一緒にいて、力をもらうの。そうすればずっと一緒にいられる。」 「へ?」 「あ、僕も。ずっとキラと一緒にいたいしね〜。」 ちらり、とスティングを見ると、彼は苦笑していただけだったが、他の二人と同じようなことを考えているにちがいない。 そういうことが言いたかったわけじゃないんだけどな〜と思いながらも、ニコルは優しく微笑んで「せいぜい頑張ってください」と言った。 その日のうちに、神界では神王の代替わりが行われた。新神王の名はギルバート・デュランダル。名実ともに、神界最強の力をもつ、神族であった。 そして。 前神王がどうなったのかは、全く公表されることがなかった。 (あとがき) 結局皆して依存しまくってるんです。 キラもそう、アスラン達もそう、ステラ達もそう。 そしてこれからまた、ほのぼのとした日々が再開されていくのです。 はい、ギルさんでました。多分味方。そして何気なく死ネタ(ジブ君)。 そして今更に気付く。アウルの一人称って「僕」だったよね。 前回まで「俺」にしてたから、直さなきゃ。 そしてニコル。彼は灰色で毒舌がいい・・・! |
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